ディストピアの夢を見させて
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※「誰が為の世界」と同じ夢主
この光のイグニスと名乗る存在は、どこかの誰かが人類の後継種として開発した六体のAIのうちの一体だという。
けれどもそれはイグニス達では達成できない目標だったらしく、光のイグニスはそれを成し得る完璧なAIを自らの手で創造しようとしているらしい。
滅びの宿命にあるという人類と、その文明を受け継ぐためのAI。
私には、よく分からない。
『頑張りすぎじゃない?少しは休めばいいのに』
光のイグニスは日夜新たなAIの作成に励んでいる。
この間までは敵対する人間達から身を隠すための拠点となるエリアの作成に勤しんでいたが、それが完成した今はそこで外界の監視をしつつも専らAIの試作や調整に打ち込んでいた。
その様子を眺めていた私がぽつりと言うと、光のイグニスがくるりとこちらに振り向く。
「君の尺度で話されるのは感心しないな、私は君と違って休息など不要だ。それに、目的のためには時間が惜しい」
『完璧なAIを作るんだっけ』
「そうだ。そして人類を支配し、人類の後継種となる」
『人類の後継種なんかになって、どうするの?』
「……それはどういう意味だね」
光のイグニスは腕を組んで首を傾げた。
四角い目でじっとこちらを見つめてきている。
こちらの意図を図りかねている、という顔だ。
『それはあなたがやらないといけないことなのかなって思うの。光のイグニスさんもよく言ってるでしょ、人間はあなたより遥かに愚かだって。そんな人類の文明を継いであげる必要なんてある?人間なんてさっさと滅びてしまえばいい…………それで人類が居なくなったら、AIだけで好きに生きればいいのに。そうした方が、きっと良い世界になる』
人類支配も人類滅亡も大歓迎だけれど、後継種というのは何となく私にとって腑に落ちないことだった。
きっと、というより光のイグニスの口振りからするにほぼ確実にそれは彼を創った人間の思想なのだろう。
その人は人類が大好きなんだろうな、と胸の内で冷笑する。
会ったことはないけれど、その人とは全くもって気が合いそうにない。
「相変わらずアリスの思想は人間にしては奇特だな。君の言うことも一理ある、とは思うが」
光のイグニスは事あるごとに私を変わっているだとか奇特だとか珍妙だとか形容する。
事実として少数派ではあるのだろうが、人間というものに嫌気が差して人類の破滅を望む人間はそう珍しいものでもないと思うのだけど。
「だが、そういうわけにはいかない。人類の後継種となること……否、後継種を創ることこそが私の使命であり存在意義だ」
『そんなもの捨ててしまえばいいのに』
「そうはいかないと言っているだろう。私の全てはそのために在り、私は全てをそのために捧げてきたのだ。今更放棄して引き返すことなどできない。君は無責任に過ぎる」
『はいはい、どうせ私は無責任なひきこもりですよーだ』
「そういうことを言っているのではない」
もしも彼が設計者にプログラムされた目標しか知らないのなら、私は他の選択肢を提示してあげるべきなのかなと思ったのだが、どうやらそうでもないらしく。
頑なに譲る気が無いらしい彼にこれ以上何かを言ってもただいたずらに機嫌を損ねるだけになりそうなので、今日のところは適当に茶化して話を終わらせることにした。
私は周りに押し付けられた役目とか役割とかは重苦しくて嫌いだったし、全部捨てたら少しは身軽になることができた。
だから、何かに追われるようにAI開発に没頭し、雁字搦めになって沈んでしまいそうな彼も、それを捨てられれば楽になるのになぁ、なんて指摘通りの無責任なことを考えていたわけだけど。
光のイグニスがそうまでして存在意義とやらに拘る理由はやっぱり分からないけれど、合理的に判断を下すAIである彼がそれを良しとしているのならそれは正しいことなのだろう。
ひとまず私は、それで自分自身を納得させることにする。
私には他者の事情に深く踏み込む勇気も無いし、そんな資格も無いことも、ちゃんと弁えているから。
* * *
人間なんて滅んでしまえばいい。
そう語るアリスは至って真面目な表情だった。
人類を排斥するという私の目論見と、彼女のその願望は一致している。
しかし、人類であるアリスが私と一致する思想を持つことは些か不可解でもあった。
協力者となる駒を探すに当たって私の理念と親和性の高い人間を選び出したのだから当然といえば当然ではあるのだが、ここまで親和性の高い人間が居るとは思ってもいなかったのだ。
人類に限らず、全ての生き物、全ての意思ある存在にとっての最大の目的は生存と種の保存のはずだ。
だからこそ自らの種を我々イグニスに脅かされると考えた人類は我々を抹殺しようと躍起になり、私はイグニスという種の存続を懸けてこうして戦っている。
にもかかわらず、彼女はその在り方から大きく逸脱している。
「アリスは本当にそれを望んでいるのか…?人類が滅亡するということは、君も死んでしまうのだぞ」
私の目指す未来に例外などありはしない。
協力者だから彼女だけは助けてやるだとか、そんな生温い考えを私は持ち合わせていない。
それに。
──例え私がそうしようとしたとしても、いずれ私は彼女をも滅びへと導いてしまう。
全ては幾億ものシミュレーションから導き出された絶対的な未来、機械仕掛けの神にプログラムされた不変の運命だ。
『……?そんなこと、当たり前でしょう?』
今更何を、と彼女は首を傾げる。
やはり、私には理解できない。
当然のように言ってのける彼女のその思考も、その言葉に何処か心が冷えていくような寂しさを感じている自分自身も。
もしもアリスの在り方を理解できたのなら、何かが変わるのだろうか。
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