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「七人目、か……」
ハノイの騎士と名乗るハッカー集団のリーダーであるリボルバーは小さくそう呟いた。
滅多に公衆の面前に現れることのない彼は、今も人目や監視の目の少ないLINK VRAINSの辺境エリアに立っていた。
ビルの屋上に佇み、アバターの白い外套を風に靡かせながらもう一人の人物から示された画像に目を落とす。
ロスト事件で攫われた子供達は六人。
そして、匿名の通報を受けて乗り込んだ救護隊に保護された子供達は“七人”だった。
『やっぱり七人目のことは分からないか……』
「ああ。私も七人目のことについては昔から気掛かりだったが、何せあの時保護された子供達に関しての情報は国家からSランクの保護プログラムが適用されている。六人の身元は当然こちらは把握していたが、我々が関与していない七人目に関しては私もお手上げだった」
彼は伏せていた目線を上げて、この場に居るもう一人の人間に向き直る。
「ノーネーム、私はこの少女を見た覚えは無い。だが君がこれを私に見せてきたということは、この少女が“七人目”なのか?」
リボルバーが問う。
リボルバーが彼と出会った切っ掛けは、ノーネームがハノイのハッカーとしての腕を見込んで某所の機密サーバーへのハッキングを依頼してきたことだった。
その後、彼の依頼に関連したやり取りを行なっているうちにリボルバーは彼がロスト事件について調べていることを知った。
ノーネームは当初ハノイの騎士の中心メンバーがロスト事件の関係者によって構成されているとは知らずに接触してきたようだったが、結果的にはこの奇妙な縁で出会った二人は時折メッセージや会話を交わす間柄になっていた。
「君の知人だと言ったな。君は彼女のために色々調べ回っていると」
『そうだよ』
「……君自身は、関係者ではないのか?」
『ははは、そんなわけないじゃないですか。僕は何の関係も無い……そう、事件のことなんて何も知らない、部外者ですよ』
困ったように、しかし何処か切なげにノーネームが笑う。
確かに彼は、ロスト事件に関しては調べれば出てきそうな知識程度しか持っていないようだった。
その事自体は彼が“ロスト事件被害者の知人”というポジションなのであれば当然のことであろう。
その被害者とそれなりに深い仲なのであれば、ロスト事件について熱心に調べていることも頷ける。
だが。
あくまでも根拠の無い直感のようなものではあったが、リボルバーはノーネームの行動の理由がそれだけではないのではないかという小さな疑念を抱いていた。
被害者の関係者ならば、ハノイの騎士が事件の首謀者だと知ればそれこそ他のロスト被害者であるPlaymakerのように怒りを露わにするのが自然な反応だろうが、彼にはほとんどそんな素振りが無かったこともその一因だろう。
「……まあ良い。この少女については私から父さん──鴻上博士にも聞いてみよう」
『うん、よろしく頼むよ』
現時点では考えても答えの出る問いでは無いし、ノーネームに尋ねたところで納得の行く答えは返ってこないことは承知しているため、彼はこの思考を中断することにした。
ノーネームにはリボルバーの側でも調べる旨を伝えて、目の前に表示されていた画像を保存する。
画像の中心に居たのは彼にとって見覚えの無い、幼稚園児か小学校低学年くらいの幼い少女だった。
背景には数人の子供がおり、子供用の遊具らしきものもある施設の中でぬいぐるみを抱いてカメラに笑顔を向ける彼女。
…………長らく正体を知りたいと思っていた“七人目”かもしれない人物。
果たして、父はこの少女について何か知っているだろうか。
自身の疑問と、そしてノーネームの調査依頼に決着が付くことを淡く期待しながらリボルバーは操作を終えた画面を非表示にした。
話は一区切り付いたが、実はリボルバーにとってはここからが本題と言っても過言ではない。
「ところでノーネーム、ハノイの騎士に入る気はないか?」
『えっ?』
そう切り出すと、ノーネームは目を点にして間の抜けた声を出した。
どうやら彼にとっては予想外の提案だったらしい。
『一体どうして…?』
「近頃のハノイの騎士の動きについては君の耳にも入っているのではないか?ちょうど戦力が欲しいところなのだが、有象無象ばかりでは心許なくてね」
『ああ、そういえば何か新しいメンバー大量に集めて派手に暴れ回ってるよね最近…。僕も酷い目に遭ったよ、君には悪いと思いつつ返り討ちにしちゃったけど』
「それはこちらこそ悪いことをした。……しかし、彼等は旧型デュエルディスクの使用者のみを狙っているはずだが何故君を……」
『旧型ディスク?…………ああ、なるほど、あれはそういう魂胆か……いやそれなら余計にどうして僕まで巻き込まれたんだ?』
「さあな。大方、君の人気を妬んだ者によるどさくさ紛れの憂さ晴らしといったところか」
『えぇー……良い迷惑だよ……』
ノーネームが大層不満気にぼやく。
彼のデュエルの実力とその容姿による人気、そしてその裏返しである妬み嫉みには鈍感な点が彼の悪いところでもあった。
「兎にも角にも、私は君の実力を高く評価している。君なら歓迎するよ。…………それに、君がハノイに加わってくれるなら色々と手伝えることもあるだろう」
含みを持たせた言い方に、予想通りノーネームは僅かに目を細めた。
彼は沈黙して暫し逡巡し、やがて再び口を開く。
『君ほどの人にそう言ってもらえることは素直に嬉しいよ。ありがとう。でも知っての通り僕も忙しい身だし、あと、色々事情もあってね…………申し訳ないけど、もう少し考えさせてほしい』
「構わない、どのような決断を下すも君の自由だ。無論私は承諾してくれることを望んでいるが」
『あはは、期待に沿えるかどうかは保証しかねるけどね』
この場で頷いてくれなかったことは少々残念だったが、想定の範囲内ではあった。
返事は早めに欲しいとだけ最後に告げて、リボルバーはログアウトする。
別れの挨拶代わりに手を振ったノーネームが、この誘いを断ることは決して無いだろうという確信めいたものを、リボルバーは密かに抱いていた。
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