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Playmakerはある人物を探していた。
ロスト事件について嗅ぎ回っている者が居るという情報を協力者である草薙が掴んだためだ。
相手はPlaymaker達が活動を始めるよりも前、それこそLINK VRAINS黎明期の頃からそうした動きを見せていたようだった。
その人物のアカウント名は“ノーネーム”。
初期にはぱっとしないデュエリストだったようだが、めきめきと実力を付け、現在ではカリスマデュエリストの一人としてかなり有名らしい。
草薙が今回の調査対象者としてノーネームの情報を表示した時、確かにそれはパブリックビューイングの画面でも見たような覚えのあるアバターであった。
ノーネームは表立ってロスト事件について探っていたわけではないため今までマークしていなかったが、草薙がふとした切っ掛けで耳にしたところによると、ネットの裏側で活動する情報屋の界隈ではこの事件について片っ端から情報を買い集めている人物として以前から有名だったそうだ。
世間的には既に忘れ去られているような事件を随分と熱心に探っているとなれば、十中八九何らかの形でロスト事件に関わっている者だろう。
それが被害者側なのか、あるいは加害者側なのかは定かではないが、いずれにせよノーネームがこの件について探る目的を知ることはPlaymaker達にとっても無意味なことではないはずだ。
何よりも、ノーネームというアバターの行動は何処かかつての自分達の姿を彷彿とさせるものだった。
彼の目的を見極め、敵ではないと断定された場合にはもしかしたら協力関係を築くことができるかもしれない。
そう判断して、他に優先事項も無い空いた時間を使ってノーネームとの接触を試みることにしたのだった。
「あれがノーネームっていうヤツ?へ~、なかなかやるじゃん!流石のPlaymaker様もこれは苦戦するんじゃない?」
「少し黙っていろ」
LINK VRAINS内のスタジアムで行われていたデュエルは、終始盤面の主導権を握っていたノーネームが危なげなく勝利して幕を閉じた。
たった今まで行われていた試合の内容から、彼の実力が確かであることはPlaymakerにも見て取れた。
有名デュエリストとの試合とあって当然相手プレイヤーもノーネームのデッキへの対策を練ってきていたようだったが、それすらも鮮やかに上回っていく様はカリスマと呼ばれるに遜色の無いものであろう。
「閉会式が終わったら優勝者はこのルートで会場を出る。計画通り、この地点で接触できるはずだ」
「分かった。行くぞ」
草薙からの通信に応え、Playmakerは移動を開始する。
ノーネームは賞金の出る大会にしか出場しないという評判通り、LINK VRAINSにログインしている時間は他のカリスマデュエリストに比べて随分と短いようだった。
それ故に接触する機会も限られる。
狙うべきタイミングはと言われれば、やはり彼が大会に参加する時が最も確実だった。
スタジアムの出入口へと続く関係者用の通路。
未だ興奮冷めやらぬ様子のスタジアムの喧騒が漏れ聞こえてはいるものの、薄暗く人通りの無いそこは密会するには打ってつけの場所であった。
然程時間の経たないうちに足音を響かせながら歩いてきた端正な顔立ちの少年に、計画通りに事が進んでいることを確認したPlaymakerは物陰から彼の前に歩み出た。
思わぬ闖入者の登場に、彼──ノーネームは足を止めて目を見開く。
『えっ………ま、まさか、Playmaker…!?』
以前Aiを捕獲してすぐに行ったハノイの騎士とデュエル以来、Playmakerとしての活動はネット上で散々騒がれていた。
こうして相手も自身を知っている可能性は充分にあった訳だが、我ながら随分と名前が知られたものだ。
「十年前のロスト事件について調べているそうだな。ノーネーム、貴様の目的は何だ」
「それにしても矛盾した名前だよなー。名無しの意味なのにノーネームって名前があるんだから」
「……少しはその無駄口を塞いだらどうなんだ、Ai」
ギロリと睨み付けて口数の多いAIを黙らせてからノーネームに向き直る。
彼はといえば、焦りなのか不安なのかよく分からない面持ちで眉尻を下げていた。
『参ったなぁ、君とはあんまり会いたくなかったんだけど……。でも、そのうち僕のところにも来るかもしれないって想定はしていたよ…。事件のことを調べてる目的だっけ?それ、どうしても答えないといけない?』
「ああ」
『そうは言われても、僕には君に話す義理も理由も無いし』
「ならば力ずくで聞き出すまでだ」
『強引だなぁ…。あ、僕のことを犯人だって疑ってるなら見当違いだからね。僕はただ調べ物をしているだけで別に君達と敵対するつもりは無いし。それでこの話は終わりってことじゃダメ?』
「駄目だ。それで俺が納得するとでも思うのか」
「調べ物ってー?随分頑張ってアレコレ探ってるみたいだけど、そんなに大事なことなの?」
「ただの好奇心なら、この件に首を突っ込むな」
そう言うと、今までヘラヘラとしていた彼は微かに眉根を寄せた。
『…………僕だってそれなりに正当な理由を持って行動しているつもりだよ』
その声音からは、相手もまたある程度固い信念を持っているらしいことが伺えた。
興味本位の野次馬という線は消してしまって良さそうだが、それでもノーネームの真意は未だ不明だ。
「ならその理由とやらを吐いたらどうだ」
『それはできない』
「何故だ」
『君に知られたくないことまで話すことになるから、かな』
「何を隠している?」
『言うわけないだろう?』
進展の無い問答に苛立ちが募る。
どうやら彼は真面目に答えるつもりは無いらしい。
このまま続けても収穫は得られないことは目に見えていた。
「……なるほど、意地でも口を割らないつもりか…。ならば仕方がない、デュエルだ!俺が勝ったらお前の目的を話してもらう!!」
『えぇ!?どうしてそうなるんだよ…………やっぱり今日はツイてない……』
Playmakerがデュエルディスクを向けると、ノーネームも渋々といった様子で左手首の腕輪型のデュエルディスクを操作し始めた。
刹那、ブツンと電源が落ちたようにノーネームのアバターが暗転する。
次の瞬間には、この場に立つのはPlaymakerただ一人となっていた。
「あっ!!」
「くっ、切断されたか…!草薙さん!追跡は!?」
「逆探知の妨害プログラムが動いてる、おまけに複数のサーバーを経由してLINK VRAINSに接続していたようだ。残念ながら発信元を探るのは難しそうだな」
「奴もネットに詳しい人間か…」
「いや、そうとも限らない。検索すればいくらでも出てくる手法だし、プログラムの方もクラッカー連中のコミュニティで配布されてるような代物だった。多少アレンジはされているようだったが、最低限の知識があれば使える程度の物だ」
「そうか…。だが、身元の隠蔽に気を遣っているのは確かなようだ」
「ああ。奴のリアルを探るのは骨が折れそうだよ」
「それってつまり、今日は収穫ナシ?」
「……そういうことになるな」
Aiの言葉に小さく溜息を吐く。
ノーネームの言葉を……そして自分達の推測を信じるのならば彼は敵ではないのだろうが、目的が分からない上にそれをひた隠しにしている以上は不気味な存在であることに変わりはない。
ノーネームに関しては、今後も時間を見付けて調査を続けようということで草薙とは意見が一致した。
──しかし、その後立て続けに発生したアナザー事件やハノイの塔の出現とLINK VRAINSの壊滅によってその目論見は随分後回しにされることとなる。
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