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神楽坂アリスはとある筋から手に入れた映像を眺めていた。
現在各所で話題となっているデュエリスト・Playmakerと、LINK VRAINSを運営するSOLテクノロジー社のセキュリティ部長・財前晃が激しく火花をぶつけ合うデュエル。
SOL社のマザーコンピュータの中枢で行われたそれは当然中継などあるはずも無く、本来ならばアリスが目にすることはできなかったであろう戦いだった。
対立する彼等が語るのは、十年前に起きたとある事件の事。
その内容に彼女はじっと耳を傾けていた。
「あんたに俺の何が分かるというんだ!!」
対峙する財前晃に向けて発せられたPlaymakerの言葉は、アリスの心を深く抉っていた。
ロスト事件。
十年前に、幼い子供達七人が誘拐され監禁された事件である。
彼女はかつてその事件の被害者として保護された。
世間も、そしてロスト事件の被害者や関係者である遊作や草薙達もアリスのことを“同じロスト事件の被害者”として扱った。
確かにそこには被害者とそうでない人間との間に深い溝があった。
けれどもそれと同じように、事件の記憶を持たない彼女は、他のロスト事件の被害者との間にも深い溝を感じていた。
アリスは彼等の、遊作や草薙の抱く想いを完全には理解しきれてはいなかった。
それまでは薄っすらと無意識下に存在しているものにすぎなかった、その隔たり。
長い年月を共にしながら、アリスが遊作という少年に深く踏み込めずにいた理由もそこにあった。
しかしPlaymakerの──否、Playmakerとして活動する藤木遊作の言葉で、その溝は決定的なものとして彼女の前に現れた。
普段事件についてあまり多くを語りたがらない彼等からはごく僅かな話しか聞かされていなかったこともあり、たった今動画を見て初めて知った彼等の体験や心情さえあった。
それでも、その内容はやはりどこまでも他人事で。
語られた事件の詳細に恐怖感や嫌悪感、憐憫や同情を抱くことはできても、それが自らの身にも起きた事だという実感はどうしても薄いままだった。
彼女が立っている場所は遊作の側ではなく、財前晃の側だった。
『…………私には、遊作の苦しみを理解してあげることができない……』
たとえどれほど願おうとも、今のアリスでは彼の心に寄り添うことはできないという現実。
そのことが、ただ酷く悲しかった。
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