君の為のユートピア
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※「誰が為の世界」と同じ夢主
※ライトニング陣営勝利if
※96話放送前から執筆していたため原作からの深刻な乖離
※捏造過多
※統合不要な世界線
全ての戦いは終わった。
人類の支配を目指すライトニングと、それを良しとしない勢力との熾烈な争いはついに幕を下ろしたのだ。
数多の闘いを経て、ライトニングはPlaymakerやリボルバーといった敵対する者達を完全に無力化することに成功した。
彼等の意識データや人類側に着いたイグニス達のデータは厳重に封じ込められ、二度と叛旗を翻すことは無いだろう。
Playmaker達に続けと立ち上がった人間も少数ながら居たものの、その程度の有象無象はライトニング達の敵ではなかった。
ほどなくしてネットワークを通じて全世界に声明が発表され、瞬く間に世界は変革した。
『やっと見つけた』
「……ああ、アリスか」
宮殿の奥まった部分に据えられた一室で、モニターを監視しているライトニングを発見した。
私などには想像もつかないほどの演算速度と処理速度を有する彼を持ってしても、全世界のネットワークの掌握はかなりの大仕事らしい。
ここ数日はボーマン達と共にずっとネットワーク中を駆け回っていたようで、私は長らく彼の姿を見ていなかった。
『忙しそうだね。お疲れ様』
「こういったことは時間との勝負だからな。それで、私を探していたようだが何か用かな?」
『まだ言えてなかったから、これだけ言っておこうと思って。世界征服おめでとう、ライトニング』
「ふっ、世界征服か。間違いとも言えないが陳腐な表現だ。……まあ、賛辞は受け取っておこう」
『ん。じゃあ、これでさよならだね。これからも元気でね』
「待て、それはどういう意味だ」
私が立ち去ろうとしたところで、ずっとモニターを見ていたライトニングが不意に振り向いた。
怪訝な顔をしている──ような気がする──彼に、私は逆に首を傾げる。
『だって、もう契約は終わりでしょう?』
私達の関係は、ライトニングによる人類の支配が完成するまでの間だけの限定的なものだ。
彼等AIは独力ではネットワークから離脱することができないし、現実世界に直接的に干渉することもできない。
この協力関係は、そういった彼等では対応しきれない問題に対処する必要に迫られた時のための保険のようなものだった。
幸いにもそういった危機には見舞われなかったため、私は居ても居なくても同じと言えるくらいには今まで何の役にも立っていない。
ついに人類の支配が達成された今、最早彼には私の存在など不要なのである。
だから、異分子である私はここを去らなければならないし…………────寂しいなんていう感情は、捨てなければならない。
「む…………確かに」
だが……、と言葉を続けようとしつつも、彼からその先の音声は出てこない。
遂にはライトニングは顎に手を当てて考え込んでしまった。
一体どうしたのだろうか。
別れを惜しみ感傷に浸るタイプでないことは知っている。
それ故に別れの挨拶だけ告げたらそれで終わりと思っていたのだが、予想外にも引き止められたためその時点から私の頭上にはハテナが浮かんでいた。
その上この沈黙では、どうしたらいいのか分からない。
戸惑いを抱えたまま暫しの間を置くと、ようやく彼は喋り出した。
「今後、全ての人類は私の管理下に置かれる。それはアリスも例外ではない。そうだろう?」
『ん?そうだね』
「ならば私の命令に従え。君は今まで通り私の側に居ろ」
『えっ……?』
その言葉に私は目を丸くして驚いた。
『命令だって言うなら、それは良いけど…。もう脅威もなくなったのに、どうして?』
「それは、」
またライトニングが言い澱む。
「……すまない、少し言語化に時間がかかりそうだ」
先程からどうにも言葉の歯切れが悪い。
普段は迷いなど微塵も感じさせず簡潔明瞭に話すライトニングらしくない。
その違和感に何処と無く不安を感じて、視線を落として考え込む彼を見遣る。
連日に渡る人類統治のためのシステム整備で疲れているのだろうか。
AIたる彼に人間と同じような疲れは無いのだろうが、CPUの負荷が上がっているとかそういうやつだろうか。
私はそういったことに詳しいとまでは言えないので分からないのだけれど。
こういう時は自身の不勉強がもどかしくなる。
これからはハードウェアとかITについて学んでみるのも良いかも、なんて最近ぼんやり考え始めていたけれど、やはりそうしたほうが良いのかもしれない。
そうしたらまたいつか彼の役に立てるかもしれないし、悪い案でもない気がする。
「……君も凡そは知っているだろうが、」
ライトニングが話を再開した。
彼の言葉に、私は思考を中断して耳を傾ける。
「私は産みの親たる鴻上博士に存在を否定され、共に人類の後継種となるはずだった他のイグニス達も決別してしまった。アリス、私を受け入れてくれる他者は君だけだった。君だけが、私の理解者だったのだ」
『…………』
「アリスがいる限り、私は私が正しかったのだと信じることができる。だから、君には居なくなってほしくない」
それは私を動揺させるには充分すぎるほどの言葉だった。
胸の奥が痛くなる。
心臓のあたりがぎゅっと締め付けられるような感じがする。
あるいは、深々と刺さった棘を無理矢理引き抜かれるような。
それは違うよ、そんなことないよ、勘違いだよ、AIの支配を望む人間も人類の滅亡を望む人間も私以外にいくらでもいるよ、私は特別なんかじゃないよ、それは私の役割じゃないよ、それは、それは。
反射的に湧き上がってくるのは否定の言葉ばかりで、でも、どれも口には出せなかった。
真っ直ぐにこちらを見るライトニングは真剣な面持ちで。
彼の言葉を、そこ言葉を発した彼の思いを、否定してはいけないような気がした。
『…………意外だね、ライトニングがそんなことを言うなんて』
出てきたのは半笑いを伴ったそんな言葉だった。
結局否定的な返答な気もするが、もう思考が混乱していて冷静に言葉を紡ぐことなんて出来なそうだ。
「私自身でもそう思っている。今の今まで自覚もしていなかったが、私も毒されてしまったということか」
『さすがに毒されすぎじゃないかな、あなたらしくないよ』
「毒してきた人間がそれを言うか。それとも、幻滅したか?君は私という個体よりも“人類を支配するAI”という概念を崇拝しているきらいがあったからな」
『う……そこまで分かってたんだ……』
図星を突かれて更に動揺する。
彼の言うことは間違っていない。
この世界を嫌いながらもそれを変える力など持ち合わせていなかった私は、おそらくその役割だけを彼に求めていた。
もっと言えば、人間でさえなければ何でも良かったのだろう。
例えば初めに出会ったのがライトニング以外のイグニスだったとしても、私は同じように興味を持っていたかもしれない。
けれども、共に過ごしていく中でいつしかそれだけではなくなっていった。
彼と出会ってからそう長い時間は経っていないけれど、ライトニングという存在を知るにつれて彼に惹かれていった。
彼の隣は居心地が良くて、同じ目標を見つめる日々に密かに胸を躍らせていた。
自分の願望を投影するだけではなくて、純粋に彼が望みを叶えることを願っていた。
いつか別れる日が来ることが怖いとさえ思うようになってしまっていた。
それはライトニングにとっては迷惑極まりない話だろうからと、表には出さないようにしていたけれど。
『確かに、昔の私ならそう思ってたかもね。でも、私も前とは随分変わったんだと思う。あなたにそう言ってもらえて嬉しいよ』
きっと一生言うことは無いだろうと思っていた言葉は、口に出してみると案外恥ずかしくてむず痒い。
『きっと私は、誰かに必要とされたかったんだと思う。だから、あなたが必要としてくれる限りは、一緒に居るよ』
「ならば永遠にだな」
『うわいきなり断言するんだ……』
「例えアリスが去ろうとしたところで連れ戻すだけだからな。旧リンクヴレインズのログの残滓に面白いプログラムがあってね……アナザーと言ったか、ログアウト状態の人間を強制的にログインさせることができるらしい」
『それで私がログアウトしてても連れ戻そうって?』
「理解が早くて助かる」
『こっちは話の展開が早すぎてついていけないよ……』
「そうだろうか?」
先程まで胸がつかえたような様子だったライトニングは、いつの間にかけろっとした顔をしている。
というより、このデレは一体何なんだ。
ライトニングからはそれこそ所詮捨て駒だとか下等な人間だとか計画のために仕方なく置いてやってるとか、その程度の認識しかされていないと思っていたのだが。
どうも実態は少々違ったようで、私の頭の中は大混乱だ。
「要は、君は今後も私の傍に居るということだ」
心なしか明るい声音でそう言う彼に、面映さを感じながらも頷いた。
なんだか予想外の展開になってしまったけれど、これからもライトニングの隣に居られるのなら願ったり叶ったりだ。
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