二人で紡ぐファンタジア
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※ロンリーサーカスの続き
※アニメ144話後
次元戦争の爪痕が残るエクシーズ次元。
見渡す限りの建物が廃墟と化し、荒廃してしまったその世界の復興を支援する活動に志願して、私はこの次元へと来ていた。
これは私達アカデミアがしてしまったことへのせめてもの罪滅ぼしだ。
けれども私には、正直に言ってしまえば、こちらに想い人が居るからという不純な動機も少なからず存在していた。
私が来るよりも前からここで支援活動をしている人達は口を揃えて、少し前まではエクシーズ次元の住民達に受け入れてもらえずに活動が難航していたのだと語る。
それが変わったのは、二人の少年──榊遊矢とデニス・マックフィールドのデュエルがあった時からなのだと。
昼の炊き出しの後片付けを終えた私は、拠点として使用させてもらっている建物を出て街の中心部へ向かって歩き出した。
じきに夜の炊き出しの準備が始まるが、それまでは少し時間がある。
瓦礫が端に寄せられ平坦に歩けるようになった道を進んでいくと、目的地の広場から響く賑やかな声が届いてきた。
幼い子供達の甲高い歓声や、楽しそうな笑い声。
この景色の中ではある意味異質なものだろう。
しかし、それこそがこの次元の人々にとっての希望にもなっているようだった。
近くにある手頃な廃墟の塀の裏に回り、広場の様子を伺う。
そこがここ最近の私の定位置であった。
広場で行われているのはエンタメデュエルの教室だ。
先述の二人の少年の内の一人、デニス・マックフィールドがデュエリストにも観客にも笑顔をもたらすというエンタメデュエルを教えている。
その精神は確かに周りにも伝わっているようで、彼のショーに目を輝かせ一生懸命に真似ようとしている子供達にも、それを遠巻きに見守る保護者の人達にも笑顔が咲いていた。
そして何より、子供達にエンタメデュエルを教える彼が今までに見たこともないくらいに楽しそうで。
やっと彼の在るべき居場所を見付けられたのだと、かつてのアカデミアでの日々を思うととても嬉しくなる。
その観客の中に入れないことにはほんの少し胸のあたりが痛むけれど。
今の貴方の笑顔がこんなにも輝いているから。
だから、私はとても幸せだ。
今日の教室が終わり、生徒達が大きく手を振って帰っていく。
先程までとは打って変わって活気がなくなった広場に最後まで残っていた後ろ姿に向けて、私は足を踏み出した。
『お疲れ様、デニスくん』
普段はこのままそっと帰るのだが、たまには声を掛けてみたっていいだろう。
「アリス!見に来てくれたのかい?」
『今たまたま通りかかったから、ちょっとね』
嘘である。
けれどもこの大変な時期にこのようなことに現を抜かしているのを知られてしまってはいけないから、私は平静を装ってそう言った。
差し入れ、と先程拝借してきた余りのペットボトル飲料を掲げる。
彼は大袈裟に御礼を言いながらそれを受け取った。
『調子は良さそうだね。生徒もいっぱいで、すっかり良い先生って感じ』
「そうかな…?そう見えてるなら嬉しいな」
私の言葉に、彼ははにかみながら微笑う。
「昔のボクを叱ってくれた榊センセイにも、今のボクに導いてくれた遊矢にも感謝しないとね。やっと見付けられたんだ。誰かのためだけじゃない、ボク自身のエンタメを」
遠くを見つめながら、彼がぽつぽつを語り出す。
次元戦争が始まってから彼が経験してきたこと。
私が知らない彼の話。
自嘲気味に話してはいても、彼の表情の端々から彼が抱えていた懊悩が感じ取れてこちらまで胸が苦しくなる。
「……って、こんな話あんまり面白くないかな。エンターテイナー失格かも」
『ううん!全然そんなことないよ!!』
後頭部を掻く彼に、私は勢いよく首を横に振った。
『……私、デニスくんが今こうして楽しそうにしてくれてて、本当に嬉しい。色々なことがあったけど、デニスくんのエンタメが色々な人に見てもらえるようになって本当によかった』
私の貧相な語彙でこの想いが全て伝わるかは分からないけれど、ほんの少しでも彼の気持ちが晴れてほしいと願った。
だって私は、あのアカデミアの片隅での日々からずっと彼を応援してきたのだから。
「ありがとうアリス。フフ、やっぱりアリスは不思議な子だね」
『えっ』
思わぬ発言に私はきょとんとする。
「昔から思ってたけど、全然アカデミアの生徒らしくないよねキミ。ま、ボクも人の事言えないけど」
『そ、それは……』
「それとも……自惚れてもいいのかな」
『?』
「侵略に参加したわけでもないキミがエクシーズ次元に来たのは、ボクのためだって」
『えっ…!?バレてたの!?』
突然そんなことを言われて、私は素っ頓狂な声を上げた。
そして、少し遅れて自分がやらかしてしまったことに気付いて両手で口を思いっきり塞いだ。
……今更塞いでももう遅いけれど。
そんな私の様子を見て、彼はどこか嬉しそうに目を細めた。
「ボクはいつまでも女の子の視線に気付かないほどニブい男じゃないからね。いつもそこの塀の陰に来てたでしょ?」
『それもバレてたの!?』
隠し事が全てバレていたことが発覚して、私は顔を覆ってしゃがみ込むしかなかった。
顔が火照って仕方がない。
穴があったら入りたいし、今すぐ消えて無くなりたい。
ひとしきり悶えてから、恐る恐る指の隙間から様子を伺う。
もしもただ揶揄われただけだったらどうしようと思ったが、垣間見えた彼の表情はそういった嘲笑のようなものとは程遠いように思えた。
これは…………憎からず思われていると受け取ってしまっても、良いものなのだろうか。
思考と心臓の音だけは五月蝿いのに、何も言えないまま時間が過ぎていく。
そんな沈黙が続きそうになった時、不意に彼が話し掛けてきた。
「実は、ショーのアシスタントが欲しいなって思ってたところなんだ。もし良かったら、アシスタントになってくれないかな?」
『えっ、ア、アシスタント……?』
「うん」
『私が…?そんなこと私に出来るかな……』
「もちろん出来るさ!何て言ったって、アリスはボクのショーをずっと見続けてきてくれた一番のオーディエンスなんだから!ボクのことはキミが一番良く分かってくれてる、そうでしょ?」
真剣な眼差しで彼が言う。
確かに、その自負はあった。
改めて言葉にされると何だか照れ臭いけれど。
ずっと彼のショーを見続けてきたこと、彼がそれを認めてくれていただなんて、こんなに嬉しいことは無い。
ただの観客だった私にアシスタントという大役が務まるかは分からないけれど、精一杯頑張ってみようと、そう思えた。
決意して、改めて彼の目を見つめ返す。
彼もまた力強く頷き返してくれた。
『ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします…!』
彼が差し伸べた手に、私はそっと自分の手を重ねた。
「もちろん、ボクはパフォーマーとアシスタントっていう関係だけで終わらせるつもりは無いからね。ここの復興が全部終わったその時には、覚悟しておいてほしいな」
私が重ねた手を両手でしっかりと握り込み、パチン☆とウインクをしてきたデニスくんに、私の顔はまたしても絵に描いたような真っ赤な色になった。
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