SS 過去拍手(旧サイト)-2
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※一応清掃員夢主?
※2018/11/20~2024/8/27
『さあおいでユーリ君!お姉さんがぎゅーってしてあげる!』
「……は?」
両手を広げてそう言うと、目の前に居るユーリ君からは困惑の視線が返ってきた。
おかしいな、と私は首を傾げる。
こうやったら男の子は喜んで飛び込んで来るものだ、とデニス君は言っていたのだけれど。
『ぎゅーってして、よしよししてあげる!あ、膝枕もできるよ!ほら、だからおいで』
「君、突然どうしたの」
早くも思い描いていた展開からは外れてしまっているが、それにもめげずにあれこれアピールしているとユーリ君からはそんな言葉が発された。
どうやら、私が普段あまりこういうことをしてこなかったがために逆に彼を不審がらせてしまったらしい。
少々自省しつつ、弁明のために口を開く。
『あのね、ユーリ君っていつも大変そうな任務を任されて一人で頑張ってたり、他の次元に戦いに行ったりしててとても大変そうだなって思ってたの。だから今日は久々のお休みだし、少しでも癒しを提供できればなって…』
本当は暫く会えなかった分私が癒しを充電したかったという下心も無くはないのだが、その点については敢えて言及しないでおく。
他にもつい最近彼の生い立ちを耳にしたりといった理由もあり、機会があればユーリという少年のことを存分に甘やかしてあげたい、と思い立ったわけであった。
とは言え私も家庭の事情が色々あったため、甘やかし慣れているわけでも甘やかされ慣れているわけでもない。
そのため今回の行動はデニス君にアドバイスしてもらった事や本で読んだ事を参考にしているのだが。
どうにも想定通りに行かない彼の反応を見ていると、何か間違えてしまったのかと心配になってきた。
「別に、そんな余計な気を回さなくてもいいのに」
『そう…?も、もしかして嫌だった…?』
「……嫌っていうわけじゃないけど」
ユーリ君はふいと目を逸らしてしまったが、私はそこで彼の頬が仄かに赤らんでいることに気付いた。
私の願望の混じった希望的観測である可能性も否定できないが、もしかしたら今までの言動は照れているだけだったのかもしれない。
そう思うとついつい口角が上がってしまいそうになる。
『それなら!ほら、おいでおいで!』
一転して元気を取り戻した私は再び両腕を目一杯広げて彼を招いた。
暫しの睨み合いの末。
とうとう観念したらしいユーリ君が、おずおずと腕の中に収まった。
よしよしと頭を撫でたり、えらいねーと背中をぽんぽんしたり。
思い付く限りの労いの言葉やら何やらを掛けては撫で回してみたり、ネタが無くなってまた同じような行動を繰り返したり。
途中で子供扱いはやめてという抗議の声がユーリ君から上がったが、それ以外には特段の抵抗も無く大人しくされるがままになっている。
嫌な事を我慢して受け入れるような質ではない彼がそうしているあたり満更でもないということだろうか。
そうだとしたら、とても嬉しいのだけれど。
『あっそうだ、夕飯食べていかない?ユーリ君の好きなものを作ってあげるから!』
「本当?それじゃあ何作ってもらおうかな…」
長期に亘るような他次元への遠征にはあまり行ってほしくないな、なんて我儘は口には出せないから。
今はもう少しだけ久しぶりの人肌の温もりを感じていたいと思った。
『つかれたー……今日のお仕事大変だったよーユーリ君ー……』
「ふーん、ご苦労様」
ぐったりとソファに倒れ込みながらそう言うと、先客のユーリ君から返ってきたのは大して感情の篭っていない相槌だった。
もしも彼が「大丈夫?そんなに疲れたの…?温かいお茶でも飲む?」と心配げに言ってきたらそれはそれで珍しい行動にこちらが驚いてしまうだろうけれど。
それにしてももう少し何かしらのリアクションが欲しかったので、少々寂しくなる。
『ユーリ君が甘やかしてくれたら元気が出るかもしれないのになー……』
「……は?」
彼の様子を伺いながら言うと、今度は怪訝に眉を顰められた。
何となく逃げられそうな気がしたので、そっと彼のマントの端を握る。
『よく頑張ったねって頭を撫でてくれるだけでもいいから……』
「君ね……そういうのは僕の柄じゃないんだけど」
『それでもどうか……なにとぞ……』
「ちょっと何処引っ張ってんの」
案の定ソファーを離れようとしたユーリ君に、私の手はあっさり振り解かれてしまった。
彼の機嫌が良い時ならば、多少のお願いなら冗談めかして叶えてくれただろうに…。
これ以上絡んでいても余計に厄介がられるだけになりそうなので、今日は運が無かったと諦めてソファーに置いてあるクッションを抱き抱えて横になった。
立派な不貞寝の完成である。
これではただただ面倒臭い奴だと思われてしまいそうな気もするが、今更起き上がるのも何だか可笑しい気がするので仕方ない。
ユーリ君なら容赦無くこのまま放置してくれるだろう。
疲れているのは事実だし、このままここで寝てしまうのも一つの手だなと目を閉じていると。
「…………まったくもう……。ほら、今日だけだからね」
不意の言葉と共に掌が伸びてきて、わしゃわしゃと髪を掻き乱された。
こ、これは……もしや……!?
この部屋には私とユーリ君しか居ないのだから、この手の主に該当する人物は確認するまでもなく一人しかいないのだが。
それでも恐る恐るクッションをずらして見上げると、意外にもと言うべきか予想通りと言うべきか、先程までは頭を撫でてほしいというささやかな要望すらも拒否していたはずのユーリ君が居た。
私の視線に気付くと、すぐさま目を逸らされる。
しかし、頭上の手はそのままだ。
えっ、可愛い……。
思わずそう口から溢れかけた言葉を飲み込む。
余計なことは言わないように口を噤み、視線を落として大人しくされるがままになっていると、彼もまたしばらくの間静かに頭を撫でてくれていた。
「ハァ……。ほんと、こういうのは柄じゃないんだけど」
『……それでもやってくれるんだから、ユーリ君って優しいよね』
「ただの気紛れだよ。君にいつまでも阿呆みたいな間抜け面でソファー占領されてても困るしね」
そうやって憎まれ口を叩くところも、彼の行動を思えばかえって微笑ましく感じられる。
「ほら、この僕がわざわざ元気付けてあげたんだからもう満足したでしょ」
『うん!!もうめちゃくちゃ元気になった!!これで明日も頑張れるよ!!』
そう意気込むと彼はいかにも五月蝿いと言いたげな顰めっ面を返してきたけれど。
そんな所もやっぱり可愛く見えてしまうから、惚れた弱みというのは何にも勝るものなのだろう。
もう先程までの疲れなんて綺麗サッパリ忘れ去ってしまっていた。
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