SS 晩秋
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「寒い……」
『寒いねー……』
二人居並び、そう零す。
秋も深まってきた今日この頃。
海に囲まれ一年中温暖な気候だと言われるアカデミアでも、冬が近付くにつれて気温が下がってきていた。
冷たさを増してきた風に私達は揃って身を縮こまらせる。
『…………』
「…………」
『………………えいっ』
「!?」
ユーリ君の肩が驚いたように僅かに飛び上がる。
こちらに振り返り、ぱちくりと目を丸くする様はちょっと可愛らしい。
「君、何してるの」
『ユーリ君の赤いマントの下あったかそうだなぁって』
実際に、両手を滑り込ませたそこは寒風の影響など無いかのように温かかった。
彼の背中に手を沿わせればその温もりがじんわりと冷えた指先に染み入る。
優しい温度に、少し穏やかな心持ちになる気がした。
「僕の体温を奪おうだなんて良い度胸だね」
『だって寒いんだもの』
「じゃあ僕も」
『ひゃっ!?つめたっ……首はダメだって!』
「あーもう、逃げないでよ」
『逃げるよ!っていうかやめて!?』
容赦無く首筋を狙ってくるユーリ君との攻防が始まった。
冷たい手が触れると心臓から震え上がるような心地がして、寿命まで縮んでしまいそうだ。
寒いのはお互い同じであることは分かっているのだが、だからと言っておいそれと首を差し出すわけにはいかない。
『……じ、じゃあ、これならどう?!』
ぎゅ、と彼の両手を捕まえて握る。
先程のマントには及ばないが、仄かな温度が感じられて充分に寒さは凌げそうだった。
これならば両者共に温もりが得られるはずだ。
「……澪織さんの手冷たい」
『あ……』
ユーリ君の手が温かいということは、私の手が冷たいということだった。
『ごめんね、さっきまでずっとお仕事してたから……』
ゴム手袋や軍手などはあるが、長時間屋外に居てはそれらも防寒の役割は果たしきれなかったらしい。
妙案だと思ったものが功を奏さなかったことを残念に思いながらもすごすごと手を引っ込める。
しかし、今度は逆に彼からその手を掴まれたため何故か同じような状況に逆戻りした。
その行動に今度は私が目を丸くする。
私としては温かくて有り難いけれど、彼は大丈夫なのだろうか。
「ねえ」
『な、何?』
「思うんだけど、僕達わざわざ外に居る必要無くない?」
『あぁ、確かに……』
春や夏はこうして外で会うのが普通だったからその調子のままだったが、言われてみれば寒い日にまでそうする必要性なんて全く無いのだった。
「帰ろうよ」
『うん』
片手は握られたまま、ユーリ君に手を引かれるようにして歩き出す。
繋がった指先が、温度が、擽ったくて嬉しいけれど。
この時間が終わってしまうのが寂しくて口を開く。
『購買部寄りたいなー』
「はいはい、どうせ冬の新作スイーツが食べたいとか言うんでしょ」
『えっ!何で分かったの!?』
「アカデミアで君のことを一番知ってるのは僕だからね、当然だよ」
『さすがユーリ君……見事に見透かされてる…』
「僕も寄ろうと思ってたから丁度良かった」
『あ、もしかして今日入荷するっていう新パック?』
「そ。予約はしたからいつ行ってもいいんだけど、やっぱり早く手に入れたいよね」
そんな話をしながら、数歩駆けて彼の横に並ぶ。
寒いのは苦手だけれど、この季節も悪いことばかりではない。
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