「はぁ……これほんと最高だね……」

そう溜息混じりに呟くユーリ君の表情はでれでれに緩みきった笑顔だ。

それはそれは嬉しそうな彼の様子は、普段ならば微笑ましいことこの上ない。

しかし、今は全くもってそういう状況ではないのだ。

『……あの、ユーリ君』

「ん？」

『これ、やめてくれないかな…』

「えー、どうして？」

『だって……恥ずかしいから…！』

咎める私の声に疎ましそうな様子で返事をしながら、彼は私の胸に埋めていた顔を上げる。






そう。胸に、埋めていた、顔を。






『ね、本当にやめよう？お願いだから』

肩を押し返そうとするが彼は私の背中にしっかりと回した手を離そうとしない。

「これくらい良いじゃん。誰かが見てるわけでもないし、減るものでもないし」

『それでもダメなものはダメなの…！』

「考えてもみてよ、澪織さんにこういうこと出来るのって僕だけでしょ？」

『当たり前でしょう。他の人がこんなことしてきたら警備員さん呼んでるよ』

「なら僕はこの特権を活用する他ないよね」

『どうしてそうなるの……』

悪びれる様子も諦める様子も無い彼に、つい溜息が零れる。

どうにか引き剥がす方法はないかと再度考え始めた時、それにね、とユーリ君が言葉を続けた。

「澪織さんと会って初めて、誰かの温もりがこんなにも安らぐものなんだって知ったんだ…。だから、もう少しだけでいいから、このままでいさせてよ……」

『…………』

彼もまた色々な事情を抱えていることは多少なりとも聞き及んでいた。

そのこともあり、こんなふうに言われてしまうと私も無下にはできなくなってしまう。

それに、天然なのか計算なのか、しおらしい面持ちで上目遣いに見つめるその姿は酷く私の心を揺さぶる。

…………卑怯だ。

『…………分かったよ、少しだけね…』

「やった！澪織さん大好き！」

コロッと笑顔に変わったユーリ君に、やられた、と即座に後悔する。

というより、薄々気付いてはいたのだけれど。

一度許可を出してしまえば後の祭りで、撤回するわけにもいかず再び先程までと同じ体勢に戻った彼を見ていることしかできない。






それにしても、彼は何とも思わないのだろうか。

私だってこうやって誰かに抱き着かれたり誰かを抱き締めたりすることは今まで経験が無かった。

彼に聞こえてしまいそうなくらいに心臓がドキドキしていて、それを悟られないように装うのが精一杯なのに。

普段と変わらないような調子の彼を見ると、そう不思議に思ってしまう。

私の方が意識しすぎているだけなのだろうか。

だとしたらとても恥ずかしい気がして、余計に何も言えなくなってしまいそうだ。






行き場を失くして持て余していた両手をおずおずと彼の背に回してみる。

頭を撫でてみると、少し彼の腕の力が強まった気がした。

求められるというのは嬉しいことなのに、それでもやっぱり慣れなくて。

まだ自然に受け入れるのは難しいけれど、いつかは私もそれが出来るようになれるだろうか。

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