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フィールドのモンスターが薙ぎ払われると共に、強い衝撃波が辺りの空気を震わせた。
ライフポイントが減り、その数値に比例した負荷が身体にのしかかる。
デュエルの始まった時には4000だったそれは既に1000を切り、デュエルディスクのモニターに表示される赤色の数値が見た目にも痛々しい。
爆風が凪に変わり、反射的に防御姿勢を取っていた両腕を下ろして崩れかけていた体勢を立て直した。
たった今破壊されたモンスターの効果によって、私は同じカテゴリに属するモンスターを墓地から守備表示で特殊召喚する。
そのモンスターが持つ墓地からの特殊召喚成功時に発動する効果によってカードを1枚ドローするが、果たしてこれがどの程度の意味を成すだろうか。
未だ殆どライフポイントの減っていない相手を前に、ほんの少しの延命策にでもなればそれだけでも僥倖に思える。
『…………どうしてこんなことを…っ』
互いのデュエルディスクに繋がれた鎖がゆらりと揺れる。
これがある限り、このデュエルから逃れる術は無い。
鎖のもう一端に位置する彼は、唇を噛む私を尻目にケラケラと愉しそうに笑った。
「僕はね、人間をカードにするのが楽しくて仕方がないんだ。それに澪織さんと一緒に居るのもすごく楽しい。だからさ、閃いちゃったんだよ。澪織さんのことをカードにできたらもう最っ高に楽しいんじゃないか、ってさぁ!」
見開かれた目は狂気に満ちて、真っ直ぐに鋭く私を射抜く。
それは、見た事の無い表情。
見た事の無い、彼の側面。
それなりの期間を共に過ごしてきたはずなのに。
得体の知れないものを相手にしているような感覚に、背筋を冷たい汗が伝う。
「ねえ、澪織さんなら分かってくれるよね?」
そう言って彼はコテンと首を傾げる。
何故彼は私に同意を求めてくるのだろう。
一体何を理解しろと言うのか。
そんなの、分かる訳がない。
そう言おうとした時、先に彼が言葉を続けた。
「あっ、もしかして分からない?そうだよねぇ、澪織さんって誰にもデュエル勝てないくらい弱いんだもんね、勝ったらどんなに楽しいかなんて分からないよねぇ!あははははっ」
それは事実だった。
ずっとそうして生きてきて、何度も自虐してきたことだ。
私の弱さは私自身が一番よく理解している。
なのに、どうしてこんなにも胸が苦しいんだろう。
他人からの言葉は、彼の言葉は、これほどまでに鋭利に突き刺さるものなのか。
「さあ、僕はこれでターンエンドだよ。この調子なら次の僕のターンでお仕舞いかな~?」
カードを1枚伏せた後にターンエンドが宣言される。
ジェスチャー混じりに話す彼は余裕の表情だ。
『そんなの、まだ分からないでしょ…?もしかしたら、』
言いかけて、口を閉じる。
もしかしたら、流れを変えるカードを引けるかもしれない。
この期に及んでまさかそんな言葉が出て来ようとは思ってもみなかった。
信じていればカードは応えてくれる。
そんなものは幻想だ。
何よりもこれまでの人生がそれを証明している。
デッキを信じていないからデッキも応えてくれないのだと言われるかも知れないが、少なくとも私にとっては信じることが無意味であると悟るには充分過ぎるほどに裏切られ続けてきた。
今の状況を覆すカードなど来るはずがない。
次のカードを引く前から…………否、このデュエルが始まってしまった時点で全ての結果は分かっていたのだ。
…………それでもこんな戯れ言が出て来てしまうのは、その結果を受け入れたくないとどうしようもなく願っているからだろうか。
「もしかしたら、何?ここから逆転出来るかもって?いいよ、せいぜい雛鳥みたいに足掻いてみなよ。何が出来るかは知らないけどね」
全て見透かしているような瞳はまるで蛙を睨む蛇のようで、否が応にも圧倒的な力関係を見せ付けられる。
次は、私のターンだ。
デッキに伸ばす手が震える。
私が信じようと信じまいと、きっとこれが最後だ。
彼が次で終わりと言ったのだから、何かしようとしたところで全て打ち砕くことが出来るような布陣が整っているのだろう。
今までの彼とのデュエルではいつもそうだった。
それならばせめてこのデュエルに…………そして、彼と過ごしてきた日々に、悔いなど残さぬように出来る事全てをやり切りたいけれど。
幾度となく虚無を掴んできたこの手は、果たして何かを掴み取ることができるだろうか。
「僕、澪織さんの笑った顔がだぁいすきなんだ。だからいつもの可愛い笑顔でカードになってね」
そしたら、ずっと大切に愛してあげる。
そう言った彼は、滲む悦びに口元を歪ませた。
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