MainStory 13.5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※「13」の続き
その日私の目の前に現れたのは、もう何年も見ていなかった、此処には居るはずのない少女の姿だった。
「どうして此処に居る?」
『……私にも、色々と事情があるので。それよりその質問をそっくりそのまま返したいのですが』
眉を顰め、他人行儀な口調で話す彼女の名は澪織。
“今の世界”では、私とは親子という間柄になっている人間だった。
澪織の質問は無視し、彼女を連れて来たユーリにここに至る経緯を聞いてから、彼のことは一旦広間から退出させた。
この先の話は、あれが知る必要も無いことだろう。
扉が閉まったことを確認し、澪織に向き直る。
「どうやって此処へ来た?そう簡単に来られる場所ではないはずだ」
『とある装置を見付けました。あれは貴方の研究していたものでしょう?』
「向こう側の装置は使い物にならない状態にしたはずだが?」
『設計書を見つけたのでそれを参考にしつつ復元させてもらいました。……私としても他の人間に使われるのは困るので、自壊システム等も付けて』
「復元だと?お前にそんなことが出来るのか」
『苦労はしましたが、何とか』
その返答を聞いて、流石の私も舌を巻いた。
彼女は頭が良い。
幼少の頃は自身の後継者候補として育てられていたこともあり、あらゆる教養を身に付けているのは私の知るところでもあった。
とは言え、次元転移装置は私や研究者達があれほど苦労して作り上げた代物だ。
設計書があったところで並の人間が実用に足るものを作ることなど不可能に等しい。
以前から気付いてはいたが、やはり彼女の頭脳は脅威たり得るものであった。
ただ一つ、たった一つの才能だけが欠如していたのを除いて。
「何故此処に来た?此処はお前の居場所ではない。すぐにスタンダード次元に帰りなさい」
『それは…………嫌です』
「何故」
『そんなこと、訊かなくてもお分かりでしょう。あの場所に…………あの家に帰るつもりはありません』
明確な意思を持って宣う彼女に、やれやれと溜息を吐いた。
こんな我儘を言う子供ではなかったと記憶しているのだが、私がスタンダード次元に居たのはもう何年も前のことなのだから多少の変化は致し方ないことなのだろう。
話に聞く反抗期というものかも知れない。
『これ以上話すことはありません、私はこれで失礼します』
「待て」
勝手に広間を出て行こうとする彼女を引き留めると、何ですか、とまたも嫌そうに眉を顰めながら振り返った。
「……お前に行く宛など無いはずだ。最早縁は切れたも同然だが、路頭に迷っているのを放置するのも寝覚めが悪い。そうだな、雑用係としてならこのアカデミアで雇うことが出来るだろうが、どうかね」
今の彼女は、次元転移装置についての知識を得ている。
これが万が一にも他の勢力の手に渡るのはあまり好ましくはない。
ならば、大事をとって手元に置いておくのも悪くない選択だろう。
もしかしたら何かの局面で役に立つこともあるかもしれない。
そんな打算も頭の隅に抱えながら、私は彼女の返答を待った。
* * *
「あれは、私の娘のようなものだ」
ユーリとの会話の中で、私はそう吐き捨てた。
そう。
彼女は娘“のようなもの”だ。
本来ならばレイの居るべき場所に何食わぬ顔で存在している異物。
かつて存在した世界についての記憶を取り戻してから、澪織の存在は許容し難いものとなっていた。
愛しい愛娘に似ても似つかぬ少女。
アカデミアに来て、まるでレイの生き写しのようなセレナと出会ってから確信した。
やはり彼女は──澪織は、レイではあり得ない。
…………それでもどこかで情を捨てきれずにいるのは、まだ記憶を取り戻していなかった頃にはあれを本物の娘だと、愚かにも信じていたからだろうか。
何も無い静寂は思考を鬱々とさせる。
人気の無くなった大広間から研究室に戻ろうと、私は立ち上がって足を踏み出した。
いずれ世界が一つになれば、そこで私は全てを取り戻すことができる。
そうすればもう何の憂いも抱く必要は無いのだ。
この虚構を終わらせるためにも、私は一刻も早く必要なピースを揃えて研究を完成させなければならない。
彼女も、新たなる世界の礎になれるのならば本望だろう。
.