MainStory 12
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※デュエル回
※執筆当時の筆者はOCG未プレイだったためプレイングミスなどしている可能性有り
※ルールは9期(ARC-V期)準拠
※ユーリの使用カードはアニメ準拠(未OCG化カードも含む)、夢主の使用カードはオリジナルカード
※カードテキストなどオリジナルカードの詳細は「オリジナルカード」参照
「そういえばボク、澪織がデュエルしてるとこ見たことないなぁ」
だからボクとデュエルしない?とこちらに話を向けたデニス君に、思わず苦い表情を返してしまった。
デュエル。
私にとってあまり良い思い出の無いそれは、できることならば避けて通りたいものなのだけれど。
「無駄だよ、澪織さんそう簡単にはデュエル受けてくれないから。っていうよりデニスとデュエルするくらいなら僕としてほしいんだけど」
ユーリ君まで話に食い付いてきて、ますます嫌な予感が加速する。
アカデミアの生徒達はどうしてこうデュエルが好きなのだろう。
……デュエル学校だからか。
そんなあまりに当たり前の答えを自問自答して嘆息する。
そういえば、弟もデュエルが好きだった。
どうして世の中にはこうもデュエル好きが多いのか。
私も、もう少し何かが違っていたら彼等のようにデュエルを好きになれていたのだろうか。
次々にそんな適当な疑問を思い浮かべるのは、期待に満ちた眼差しを送ってくる二人の少年から視線と共に意識を逸らして現実逃避するためである。
「じゃあこうしよう!この三枚をそれぞれ引いて、ジョーカーを引き当てた人が澪織とデュエルできる!」
デニス君がどこからともなくトランプの束を取り出して、そこから慣れた手付きでカードを選び出した。
ハートのクイーン、クラブのキング、そしてジョーカーの三枚を掲げて見せた後、机に伏せてシャッフルしていく。
イカサマはしないでよねと釘を刺すユーリ君とそれに対しておどけて笑ってみせるデニス君に、私は慌てて声を上げた。
『ちょ、ちょっと待って!私にメリットが無いじゃない…!!そもそも私、デュエルするなんて言ってないし……』
こんな話を勝手に進められてはたまったものではない。
「大丈夫、澪織がジョーカーを引けばデュエルは成立しないよ」
『それが無理難題だって言ってるのよ!!』
「そうかな?確率は三分の一だし、そんなに低くないと思うよ」
「あははっ、澪織さんの引きは絶望的だから」
私の駄目さ加減を全く分かっていないらしいデニス君の説得も難しそうだが、分かっていながら面白がっているユーリ君もまた厄介だ。
『貴方はそれを知っててどうして私なんかとデュエルしたがるの……』
「んー、相手が弱いなら弱いで瞬殺するなりじわじわいたぶるなり、楽しみ方は色々あるから」
『えぇ…………』
「ハイ引いて!公平に澪織から!」
会話を遮るようにデニス君が手を叩いてそう言った。
「早く早く」
隣からユーリ君が煽ってくる。
……どうやら逃げ道は無いらしい。
私はとうとう観念して、仕方なく、渋々、嫌々ながら伏せられた三枚のカードのうちの一つを手に取った。
続いてユーリ君、最後にデニス君が机の上のカードを引いていく。
そして、一斉に各々のカードを確認した。
『………………こうなると思ってたよ……』
「当然」
「あちゃー」
ただ一人ユーリ君だけが得意げにトランプカードを掲げているように、私との対戦権たるジョーカーのカードは彼の手に握られていた。
……正直、このような運命力が試される決定方法をしたらどうせこうなると思っていた。
笑えるほど順当な結果である。
「ま、澪織のデュエルは見れるんだからいっか。ボクはまったり観戦させてもらうよ」
「そうと決まれば早く行こう、ほら早く」
手元のクイーンの札に苦笑いしていた私を急かすユーリ君が、手を引いて歩き出そうとする。
『行くって、何処に…?』
「訓練場」
『えっ、そんな所勝手に使っちゃ駄目なんじゃ』
「大丈夫。僕が良いって言ったら良いんだから」
「わぁー職権濫用だー」
『えぇ……』
色々な面で不安しかないのだが、私の困惑など気にも留めないユーリ君に連れられて私達は訓練場へと向かったのだった。
* * *
『本当にここでやらないと駄目…?』
「もちろん。ほらほら、さっさと構えなよ」
ちゃんとした設備で、デュエルディスクを使ってのデュエルは久しぶりだ。
もう何年も卓上でのデュエルくらいしかしていなかった私には、ここに立つだけで緊張感と、そして薄っすらと体温が下がっていくような恐怖感が襲って来る。
痛いかな…………痛いだろうな、きっと……。
そう思うだけで気が滅入るけれど、それを訴えたところで今日はいつにも増して強引な彼は解放してはくれないだろう。
観念して、言われた通りにデュエルディスクを装着して起動する。
対戦相手としてユーリ君が認識され、画面に互いのフィールドと初期ライフポイントが表示されると共に、モンスターゾーンとなる剣型のプレートがリアルソリッドビジョンで形成されて展開される。
「『デュエル!』」
その掛け声で、デュエルが始まった。
「澪織さん、先攻後攻どっちがいい?ハンデとして好きな方を選ばせてあげる」
にこりと笑みを浮かべてユーリ君が言う。
ナメられている…。
物悲しさは否めないけれど、実力差を考えれば仕方のないことなのでハンデは有難く頂戴することにした。
『……じゃあ、後攻で』
「いいの?先攻のほうが展開しやすいと思うけど」
『手札、多い方が良いから』
「成る程ね。なら僕から行くよ。僕のターン!……………と言っても、先攻で出来る事ってあんまり無いんだよねえ」
どうしようかなあ、とユーリ君はわざとらしく小首を傾げながら手札を眺める。
数秒と経たぬうちに彼は方針を決めたらしく、小さく頷くと右手をカードへ伸ばした。
「僕はモンスターをセット。更にカードを一枚伏せてターンエンド。さあ、君のターンだよ!」
彼は布陣を整えてターンエンドを宣言し、挑発的にこちらを見る。
派手にモンスターを何体も並べたりこそしていないものの、ユーリ君のことだから伏せられたカードは厄介なもののような気がしてならない。
何より、ユーリ君のエースモンスターの特徴を考えれば次の彼のターンからが本番のはずだ。
これまでに幾度か相手をさせられたり、偶々見かけたりした彼のデュエルでの傾向から推測するに、きっとそのための仕込みをしてきているに違いない。
『……私のターン、ドロー!』
デッキからカードを一枚ドローし、六枚になった手札を確認する。
魔法、魔法、魔法、モンスター、モンスター、罠。
今日は珍しく引きが良いな、と相手に悟られないよう安堵した。
三枚ある魔法カードは三枚とも融合なのだが、悲しいほどにドロー運の悪い私にとってはデッキに三枚積んでいるカードが三枚とも手札に来るのは日常茶飯事のため、今更突っ込みはしない。
モンスターカード二枚と融合カードが揃っていて、しかもこのモンスターが来てくれているならそれなりに動くことが出来そうだ。
気が進まないことに変わりは無いが、こうなったからには全力で相手をするしかないと覚悟を決めて、私はこのターンのメインフェイズに突入した。
『私は魔法カード《融合》を発動!手札の《AA(アルターアリス)-ドロシー》と《AA-グレーテル》を融合する!──傀儡無垢たる偶像の少女たちよ、その虚ろなる身に力宿し、新たな姿へと生まれ変わらん!融合召喚!!現れよ、レベル6!《AAA(アナザーアルターアリス)-銀靴のドロシー》!!』
ソリッドビジョン上に《AAA-銀靴のドロシー》が現れる。
レベル6、攻撃力2000、守備力2000の風属性天使族モンスターだ。
見た目は、のっぺらぼうのような抽象化された白磁の素体に可愛らしいエメラルドグリーンのドレスを纏った人形のよう。
これが私の操る、童話のヒロインと着せ替え人形をモチーフとした造形が特徴のAAデッキのモンスターである。
『銀靴のドロシーの効果発動!このモンスターが特殊召喚に成功した時、墓地のAAモンスター一体を特殊召喚する!蘇れ、グレーテル!!』
融合素材の一体として墓地に送られていた《AA-グレーテル》がフィールドに特殊召喚された。
白磁の素体のデザインは隣に並ぶドロシーと双子のように瓜二つだが、グレーテルは真紅のシンプルなドレスに身を包んでいる。
『更にグレーテルの効果!墓地からの特殊召喚に成功したこのモンスターを融合素材にする場合、融合カード無しで融合召喚を行うことが出来る!』
場には《AAA-銀靴のドロシー》と《AA-グレーテル》の二体のモンスター。
ここから融合召喚でアクセスできるモンスターは私のエクストラデッキに三種類存在している。
有用なモンスターを次ターン以降に温存することも考えつつ、今この場面で出すべきなのは──。
『私は銀靴のドロシーとグレーテルで融合召喚!現れよ、レベル9!《AAA-業火のグレーテル》!!』
思考の末に融合したのはレベル9、攻撃力3000、守備力2000の炎属性天使族モンスターだ。
やはり同じ素体ではあるが、こちらは先程のグレーテルよりも豪奢な装飾の施された真紅のドレスを身に纏っていた。
並べて見比べればより顕著に分かるが、彼女達のデザインには属性やレベルといったステータスが反映されている。
それぞれのモンスター達は属性を想起させる色の衣装を身に付け、レベル3の下級モンスターはシンプルなもの、レベル6、レベル9と続く融合モンスター達はレベルが高いほどその服装は見目麗しく華美になっていくのだ。
『業火のグレーテルの効果!このモンスターをリリースすることで、墓地のAAモンスター一体を特殊召喚する!蘇れ、銀靴のドロシー!』
「ええっ、わざわざレベル9のモンスターを出したのにリリースしちゃうのかい!?」
静観していたデニス君から声が上がった。
確かにこの場面のみで考えれば、おかしなプレイングに見えるかもしれない。
だが。
「まあ見てなって。ここからが澪織さんのデッキの面白いところだから」
既に幾度か対戦したことがありこのデッキのことを知っているユーリ君は、そう不敵に笑む。
そう、ここからが私のデッキの最大の見せ所だ。
『銀靴のドロシーの効果!特殊召喚されたことで、墓地のAAモンスター一体を特殊召喚する!蘇れ、グレーテル!グレーテルの効果!このモンスターが墓地からの特殊召喚に成功した時、自分フィールドのAAモンスター一体の攻撃力をターン終了時まで800アップさせる!私は銀靴のドロシーの攻撃力をアップ!更にグレーテルの効果!このモンスターをリリースして、墓地のAAモンスター一体を特殊召喚する!蘇れ、業火のグレーテル!!』
「なるほど、自身をリリースして墓地のAAモンスターを特殊召喚する効果と、墓地から特殊召喚された時に得る効果で戦っていくのか。変わった動き方をするデッキだね」
少し見ただけなのに早くもAAデッキの基本戦術を理解したらしく、デニス君がふむふむと頷く。
着せ替え人形のように代わる代わる墓地からモンスターを呼び出し、最終的には攻撃力が2800になった銀靴のドロシーと、攻撃力3000の業火のグレーテルがフィールドに並んだ。
おそらくこれが、今作り得る最高の盤面だ。
「へえ~、今日は絶好調じゃない。澪織さんにしては珍しいね」
『そうだね、今日こそユーリ君をぎゃふんと言わせられるかもしれない…!』
「ふふっ、それは楽しみだなぁ」
『余裕そうにしてられるのも今のうちかもしれないよ?』
何と言っても、今日の私は調子が良いのだ。
初めの手札にモンスターが一枚も来なかったりして為す術もなく負けることも多い中で、今回はフィールドに融合モンスターを二体も並べられたのだ。
対するユーリ君の場のモンスターは一体のみ。
こんなチャンスは滅多に無い。
『バトル!私は銀靴のドロシーで、その伏せカードを攻撃!!』
私は意気揚々と攻撃宣言をした。
この攻撃力なら十中八九破壊できるはずだ。
銀靴のドロシーが、旋風と共に相手フィールドの裏守備表示モンスターを攻撃する。
伏せられていたモンスターは。
「この瞬間、破壊された《捕食植物(プレデター・プランツ)スキッド・ドロセーラ》の効果発動!!相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全てに捕食カウンターを乗せる!!」
『う……厄介そうなものを……』
破壊されたのは《捕食植物スキッド・ドロセーラ》だった。
その効果で、私のフィールドのモンスター全てにカウンターが乗せられる。
あまり良い予感はしないが、対処する術が無い今は放置するより他はない。
AAモンスターは、効果を濫用できないよう同名モンスターを墓地から特殊召喚できるのは一ターンに一度と制限されている。
バトルフェイズ後のメインフェイズ2で墓地のモンスターと入れ替えられればカウンターを消すことも出来たのだが、生憎今墓地にあるモンスター達は全て一度ずつ墓地から特殊召喚してしまっているのだ。
ともあれ、目論見通り伏せモンスターは破壊したのだからユーリ君のモンスターゾーンはガラ空きだ。
次に取るべき行動は決まっている。
『続けて、業火のグレーテルでユーリ君にダイレクトアタック!!』
「これが通れば大ダメージだ…!」
「その攻撃を受けるわけにはいかないね!トラップ発動!《捕食発芽(プレデター・ガーミネーション)》!!捕食植物トークン3体を特殊召喚する!!」
『くっ…!やっぱり防がれた…!』
予想はしていたが、やはりそう簡単には攻撃を通させてはくれないユーリ君に苦虫を噛み潰す。
『ならば私は、その捕食植物トークンに攻撃!』
フィールドに並んだ若干の可愛らしさと不気味さの同居した絶妙なデザインのトークン達の中から一体を選んで攻撃する。
そのトークンは破壊されたが、守備表示だったためダメージは発生しない。
『私はカードを一枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズに、銀靴のドロシーの攻撃力は元に戻る』
ターンを終了し、私の場には攻撃力3000の業火のグレーテル、攻撃力2000の銀靴のドロシー、そして伏せカードが一枚。
めぼしい戦果の無いままこのターンが終わってしまったが、この布陣なら次のターンで即死させられるようなことは無いはずだ。
次の自分のターンに挽回を狙おう、と意気込んで、続いてデュエルを展開していくユーリ君に視線を向けた。
「僕のターン!ドロー!」
デッキからカードを引くと、四枚になった手札を一瞥だけしてすぐさまその内の一枚に手を伸ばす。
既に彼の頭の中ではここからの展開が組み上がっているらしい。
「僕は《捕食植物オフリス・スコーピオ》を通常召喚する!オフリス・スコーピオの効果発動!手札の《捕食植物コーディセップス》を墓地へ送り、デッキから《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚する!そして、ダーリング・コブラの効果でデッキから魔法カード《融合》を手札に加える!更に手札から魔法カード《ヴァイオレット・フラッシュ》を発動!このターンの間、“融合”および“フュージョン”カードの発動に対して相手は魔法・罠を発動できない!」
着々と彼のデュエルが進んでいくのを私は静かに見守る。
無駄の無いその動きには尊敬を通り越して畏怖さえ覚えるほどだ。
一体何をどうすればあんなに手札に恵まれるんだろう…、と何度抱いたか分からない感想を心の中で呟く。
対するユーリ君は、満を持して、といった面持ちで二枚残った手札の内の一枚を掲げた。
「僕は魔法カード《融合》を発動!フィールドの捕食植物トークン二体を融合する!!魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から新たな脅威を生み出せ!融合召喚!!現れろ!飢えた牙持つ毒龍!レベル8!《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!」
『やっぱり出てきた…!スターヴ・ヴェノム……!!』
フィールドに降り立ったスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンが咆哮を上げる。
その名に違わぬ禍々しく毒々しい姿の龍は、幾度となく目にしてきたユーリ君のエースモンスターだ。
「ここでヴァイオレット・フラッシュのもう一つの効果発動!融合召喚に成功したことで、デッキからカードを一枚ドローする!更にスターヴ・ヴェノムの効果!フィールドのモンスターのみで融合召喚されたこのモンスターの攻撃力は、このターンのエンドフェイズまで相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力の合計分アップする!澪織さんのフィールドには攻撃力3000の業火のグレーテルと攻撃力2000の銀靴のドロシー、よってスターヴ・ヴェノムの攻撃力は5000アップする!!」
元々2800だった攻撃力は、その効果で7800にまでアップした。
心なしか威圧感も増したような気がする。
私のAAデッキは特殊召喚を繰り返すデッキのため、スターヴ・ヴェノムからすれば良い餌だ。
「で、スターヴ・ヴェノムには1ターンの間相手モンスターの効果を奪う効果もあるんだけど……グレーテルもドロシーも効果を奪ってもあんまり意味が無いからなぁ…。今は使わないでおくよ」
少々残念そうに目を伏せながらユーリ君が言う。
その様子はちょっと可愛らしい。
確かに今私のフィールドにいるモンスター達は特殊召喚時に発動する効果やAAモンスターがいないと意味を成さない効果しか持っていないので、効果を奪ったとしてもそれを活用することもできないし、ターン終了と共にその効果は切れるのでこちらの動きの妨害にもならない。
まあ、だからと言って大局に変わりは無いのだが。
「バトル!僕はスターヴ・ヴェノムで銀靴のドロシーを攻撃!!」
スターヴ・ヴェノムが鋭い牙の生え揃った触腕のようなものを関節から伸ばしてドロシーに襲い掛かる。
この攻撃が通ればひとたまりもない。
──けれど。
『そうはいかないよ!トラップ発動!!《可換治癒(アルターゲイン)》!!自分または相手プレイヤーが戦闘ダメージを受ける時、それを無効にし、その数値分自分または相手プレイヤーのライフを回復する!私は私へのダメージを0にして、その数値分私のライフを回復する!!』
戦闘により銀靴のドロシーは破壊されたが、受けるべきだったダメージ分の5800ポイントのライフが回復される。
残るグレーテルの攻撃力は3000。
ユーリ君の場の他のモンスター達はそこには及ばないから、これ以上攻撃できずにこのターンのバトルフェイズは終わるはずだ。
「あれ、これで決まると思ったんだけど…。良いね、やっぱりデュエルはこうでなくっちゃ!!」
こちらの対処を見たユーリ君は、身を乗り出してそう声を弾ませた。
……あ、なんだか嫌な予感がする。
「僕は手札のスキッド・ドロセーラを捨て、スターヴ・ヴェノムを対象に効果発動!対象のモンスターは、捕食カウンターの置かれたモンスター全てに一度ずつ攻撃しなければならない!!」
『ええっ!?嘘でしょ!?』
ああ、やっぱり。
こういう時のユーリ君は、壁を前にしてなおそれを打ち破る更なる戦術を展開してくるのだ。
せっかくこのターンを凌ぎ切ったと安堵していたのに、一転して再びやって来たピンチに青ざめる。
『そもそもどうして都合良くスキッド・ドロセーラを握ってるの…!?』
「運命力ってやつじゃない?」
『その運命力をほんの少しだけでも分けてほしい……』
無い物ねだりをしても仕方ないのだが、私としてはこの不平等を嘆かずにはいられない。
「さあ行くよ!スターヴ・ヴェノムで業火のグレーテルを攻撃!!」
『きゃああああっ!?』
捕食カウンターが乗せられていたグレーテルがスターヴ・ヴェノムの尻尾に勢いよく弾き飛ばされ破壊される。
可換治癒で9800まで回復したライフは、4800のダメージを受けて5000になった。
本来ならば一撃でライフを全て削り取られるほどのダメージだ。
その衝撃は凄まじく、リアルソリッドビジョンの爆風と衝撃波に思いっきり吹き飛ばされる。
「続けて、オフリス・スコーピオとダーリング・コブラでダイレクトアタック!!」
『ぐっ…!』
自分フィールドはモンスターも伏せカードも無いがら空きの状態のため、成す術も無くその攻撃を受ける。
それぞれ1200と1000のダメージが直接私自身に降りかかってきた。
身体中が痛くて、もう既に挫けてしまいそうだ。
その痛みに、否が応にも過去の記憶が呼び覚まされる。
出自に恥じぬ強いデュエリストでなくては困ると、デュエルの訓練を強制された幼き日々。
何度もダメージを受けて何度もこの痛みを味わった。
あまりに上達しない私が到頭見捨てられたことでその訓練が終わってからも、出来の良い弟と比べられ続けて苦しんだ。
家出もしたくなるというものだ。
そんな思い出が蘇ってしまうから、デュエルは嫌いなのだ。
特に、リアルソリッドビジョンでのデュエルは。
「僕はカードを一枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにスターヴ・ヴェノムの攻撃力は元に戻る」
攻撃を終えてターン終了を宣言する声に、気を取り直して集中しなければ、と雑念を振り払って意識をこちらへ戻す。
私のライフは残り2800。
モンスターも伏せカードも無く、手札は融合二枚。
絵に描いたような大ピンチだ。
だが、何でもいいからモンスターカードか墓地のモンスターを蘇生できる魔法カードを引くことができればこの状況は打破できるはずだ。
必要なものは既に墓地に揃っている。
一体でもモンスターを場に呼び出すことが、できればその後は自ずと繋がっていくだろう。
墓地の銀冠のドロシーとAAモンスター一体で呼び出せる金冠のドロシーには、融合召喚時のに相手モンスター一体をデッキに戻す効果がある。
最大の難関であるスターヴ・ヴェノムは、その攻撃力を上回るモンスターで戦闘破壊してしまっては破壊された時の効果ダメージによってこちらのライフが根こそぎ持っていかれてしまう。
しかしながら、デッキに戻してしまえばそれは何の脅威にもならないのである。
場にモンスターが一体でも残っていればこのドローに頼るなどという賭けにはならなかったはずなのだが、今更泣き言を言っても仕方がない。
確率はそう低くはないのだ。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら自分のデッキに手を乗せた。
『私のターン、ドロー!!』
力いっぱいにデッキからドローし、祈るような思いでそのカードを見る。
ごくりと唾を飲む。
たった今ドローしたカード。
それは……──。
『……………………サレンダーするね』
「えっ!?」
「ええっ!?」
デュエルディスクを操作すると、展開されていたリアルソリッドビジョンが消失し、私達が佇むだけの殺風景な訓練場の景色が戻ってくる。
それが二人にとっては予想外だったのか、驚いた声が同時に飛んできた。
ユーリ君に至っては、こちらの胸倉に掴みかかる勢いで駆け寄ってくる。
「もう終わり?冗談でしょ?最終的にはもちろん僕が勝つに決まってるけどさ、そんなに手札あるんだからもう少し足掻いてみたらどうなの?」
『君はこの手札を見ても同じことを言えるのかな?』
「……………………どうしてそうなるの?」
「うわぁ~事故ってるね~!融合はねぇ……僕もたまにあるよ…」
『たまに、だったら良いんだけどね…』
一足遅れてこちらへ来たデニス君が、私が示した残りの手札を覗き込んで言う。
前述の通りの融合二枚に、最後にドローした罠カード《可換依代(アルターオブジェクト)》。
AAモンスターの戦闘・効果による破壊を防ぐ効果と、墓地から除外してデッキと墓地のAAモンスターを入れ替える効果を持った罠なのだが……如何せん来るのが遅かったというか、フィールドにモンスターが居ないのでは何の役にも立ってくれない代物なのであった。
「僕こんな手札見たことないよ。超常現象の類じゃないの?」
『逆にユーリ君のドロー運のほうが私からしたら超常現象なんだけど』
「そうかなぁ?」
『で、でも、私にしては今回は珍しく結構善戦したほうだと思うの!さっきモンスターが引けてたら今日こそユーリ君にダメージ与えられたかもしれなかったんだから!』
「僕としてももうちょっと粘ってほしかったなあ。せっかく夜爆花とか伏せてたのに」
『……追い討ちかけるのやめてくれるかな…』
どうやらモンスターを引けていても攻撃は通らなかったらしい。
調子が良いように見えても、所詮私なんてこの程度なのだ。
はあ……と溜息を吐いて肩を落とす。
元から勝てるなどとは思っていなかったのだけれど、どうしても負けた後は落胆してしまう自分が居て。
そんなところもデュエルを厭う原因の一つなのかもしれない。
まあ、何はともあれ手合わせは終わったのだ。
じゃあそろそろ帰ろうか、とデュエルディスクを外しながら二人に向けて言いかけた時。
「じゃあ次はボクとデュエルしよう、澪織!」
「ならその次は僕と二戦目を」
『え、いや、あの、一回だけっていう約束じゃ……』
「そんなこと言ったっけ?」
『えっ』
思い返すと確かに一回だけとは言っていなかったような気もする。
またしても期待の眼差しを二人から向けられて、冷や汗が伝う感覚がした。
『と、とにかく今日はおしまい!もうデュエルはしないから!!』
じゃあね!と言い捨てて私は脱兎の如く逃げ出した。
一瞬遅れて、彼等が追いかけてくる。
待てー!とお決まりの台詞を叫びながら走る彼等は想像以上に足が速く、私は二人から逃げおおせるのに途轍もなく苦労したのだった。
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