MainStory 08
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『これはケーブルが中で断線しちゃってますね…。応急処置はしますけれど、このまま使い続けるのは危ないですから今日の授業が終わったら新しいものに取り替えてくださいね』
機材の不具合とのことで呼び出された教室の一角。
モニターが映らなくなってしまったと狼狽える先生方に事情を聞きながら原因を探ってみると、どうやら繋がっている機器の電源ケーブルに問題があるようだった。
傷んでしまったと思われる部分を切り取って内部の銅線を新たに繋ぎ合わせ、再び電源を入れる。
予想通り正常に動くようになったモニターを見て、周囲からは歓喜の声が上がった。
「いやあ助かるよ澪織君。最近は設備課や技術班の連中がプロフェッサーからの仕事で忙しいとか言って全然人を寄越さないから困っていたんだ…」
「俺達はデュエルの講師として雇われてるだけだからこういう専門外の事はさっぱりで」
「いつも悪いね、本当は君の仕事じゃないのに」
『いえいえ、私でお役に立てるならいつでもお手伝いしますよ』
大した作業ではないのだけれど、こうして喜んでもらえることはとても嬉しかった。
昔学ばされた時には嫌々聞いていたような知識だったが、その経験が思わぬ所で役に立っている。
それは少し複雑な気持ちもあるもののとても喜ばしい事だし、これまで歩んできた道程にも意味はあったのかもしれないと、少しだけ自信のようなものも生まれてくるのだった。
修理が終わると先生方はすぐに各々の仕事に戻りテキパキと機材の準備を始める。
無事に講義が再開されたのを見届けて、私はそこを後にした。
持ち場へ戻るべく廊下を歩きながらその時間を使って色々と確認していると、ディスクにメッセージが届いているのに気付く。
通信用にと支給された必要最小限の機能しか持ち合わせていないデュエルディスク。
生徒や教職員が扱う最先端の技術が詰まった物とは見た目が同じでも性能には天と地ほどの差があるそうだが、デュエルディスクとしての最低限の機能すらほとんど使っていない私からすれば充分すぎる代物だった。
一通だけ届いていた新着メールの送信者欄にはデニス君の名前が記されていた。
タッチパネルを操作してメッセージを開いてみる。
“今日のユーリは眠そうだよ”
本文はその一文のみで至ってシンプル。
そして、欠伸をしているユーリ君の写真が添付されていた。
『あら、かわいい』
思わず頬が緩む。
ユーリ君の無防備というか隙のある姿は珍しい。
これは滅多にお目にかかれない貴重な一面だ。
不機嫌な時以外はニコニコとかニヤニヤといった擬音が似合いそうな余裕の笑みを絶やさない彼にもこんな顔ができるとは…。
先程もつい口に出てしまったけれど、とても可愛らしい。
迷うことなく画像を保存して、デニス君にもお礼のメッセージを手早く返信し再び歩き出す。
今日は朝から嬉しい事が多くて足取りも自然と軽くなってしまう。
お仕事もいつも以上に頑張れそうだ。
* * *
パシャリ。
耳に付くシャッター音がして、霧散しかけていた意識が引き戻された。
見ると僕にデュエルディスクの内蔵カメラを向けてニッコリ笑うデニスの姿。
昨日の夜、僕はついデッキ調整に夢中になって夜更かししてしまっていた。
それによる眠気と、任務がどうのとかでこうして朝から呼び出されたせいでただでさえ機嫌が悪いのに……。
どうしてこいつはこう平気で人の神経を逆撫ですることをしてくるんだろう。
今日ばかりは他の人間のように僕を避けていってくれればいいのにと思わずにはいられない。
「何してるの」
「ふふーん、澪織に送ろうと思って!」
「…………は?」
予想外の返答に、自分でもびっくりするくらい素っ頓狂な声が出た。
どうしてここで澪織さんの名前が出てくるんだろう。
当惑する僕を他所に、バッチリ撮れてるでしょ!とデニスが画面を見せてくる。
写っているのは先程僕が丁度欠伸をしていた所だ。
自分で自分のこんな姿を見る機会はほとんど無いからか、何とも見慣れない間の抜けた顔をしていると感じた。
「女の子はこういうちょっとしたコトにきゅーんってなるんだよ。ギャップってやつ?これならユーリはもちろん、このベストショットを収めたボクも好感度アップ間違い無しだね」
「何言ってんの?」
意味がわからない。
前々から他の人間とは違って僕に馴れ馴れしく接してくるおかしな奴だとは思っていたが、今日はいつも以上に何を考えてるのかわからなかった。
「さーて、送信送信っと」
まずい。
あんな写真をばら撒かれたら困る。
何が困るのかって言われたら、多分僕のプライドとかイメージとかそういうものがズタボロになると思う。
兎にも角にも、奴の行動は全力で阻止しなければならないと直感した。
「ちょっと、今すぐ消しなよ!」
「やだね!」
「そのディスク貸して。消す」
「出来るものならやってみせてよ!」
そう言って彼はディスクを右手に持って高く掲げた。
届くわけないだろうと言わんばかりに上から見下す目付きが腹立たしい事この上無い。
でも、甘いね。
「ぐはっ…!!?」
「腹がガラ空きだよ」
鳩尾に思いっきり拳を叩き込んでやった。
うっかり手加減するのを忘れたけど、まあデニスなら大丈夫だろう。
蹲った彼の手からデュエルディスクを取り上げる。
すぐさま写真を消そうとしたが、その手は画面に目を向けた瞬間に固まった。
そこにあったのは、メッセージの送信が完了しました、という無慈悲な定型文。
「…………」
目眩がしそうだった。
今のメールを見ずに消すようにというメールを送るべきか、それともすぐ彼女の所に行って自分で消すほうが良いか、どうしようかと思考がぐるぐるする。
そんな中で、送受信の履歴が目に留まった。
どうやらデニスと澪織さんは既に何度もメールのやり取りをしているようで。
遡っていくと随分と楽しそうな様子の会話が繰り返されていて、形容し難い感情が沸き上がってくるのを感じた。
僕のほうが付き合いは長いはずなんだけど、僕は彼女のアドレスなんて知らない。
二人は一体いつの間にこんなに親しい間柄になったというのか。
「どういうことなの、これ」
さっきの写真も一大事だけど、これもこれで見過ごすわけにはいかない。
「な……何が…?」
顔を上げたデニスにディスクを突き付ける。
しかし彼の反応は、あぁそれがどうしたの?というような平然としたものだった。
それが余計に僕を苛立たせる。
「ねえデニス。アカデミアに伝わる闇のゲームって知ってるかい?」
「え?……ストップストップちょっと待ってユーリ、とりあえずそのデュエルディスク下ろそう?ね?」
そんなことを言われても素直に聞き入れる人間なんて居るはずがない。
さあ、これだけ僕の機嫌を損ねたんだから責任を取ってもらわないとね。
ついでに僕の方が上だってことを改めて分からせてやらないと。
奪い取っていた彼のデュエルディスクを押し付けて、僕はデュエル開始の宣言をした。
その後澪織さんからやけに嬉しそうな返信がデニス宛に届いて、僕は更に頭を抱えることになる。
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