MainStory 07
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「…………ねえ」
『なーに?』
「こんなことしてて楽しいわけ?」
そう言うユーリ君は、酷く不機嫌そうな表情でこちらを睨み付けていた。
一方の私はというと、目の前に居るユーリ君の頭からぴょこんと飛び出た髪をつまんでみたり引っ張ってみたり、あれこれ弄って遊んでいるわけである。
これがなかなか楽しいのだ。
『ああ、ごめんね、もうやめるから』
目線の高さに近い場所で揺れ動いているためどうしても気になってしまうのだが、この行動をユーリ君はお気に召さないらしい。
彼の機嫌を損ねてしまっては大変なので、後ろ髪を引かれる思いはあるものの手を離す。
「素直にやめるなら最初からしなければいいのに」
『そう言われてもね……何だか気になるじゃない、これ』
もう一度手を伸ばそうとして、ユーリ君の視線に阻まれて手を引っ込める。
中性的とも言える端正な顔立ちの彼だが、その分睨まれると怖くもある。
けれど、駄目と言われたことほどやりたくなってしまうのが人間の性ではないだろうか。
『どうしても触っちゃ駄目…?』
「駄目」
『むー…………じゃあこっちならいい?』
「駄目」
顔の横に垂れる髪に触れようとすると、やはり鋭い視線が突き刺さってきた。
これは今日のところは諦めるしかないだろうか。
残念だなあと肩を落とすと、彼もまた呆れたと言わんばかりに息を吐いた。
「大体、僕だけこんなに好き勝手されて不公平じゃないかな」
『きゃっ、痛い痛い痛いっ』
急に彼の腕が伸びてきたかと思うと、むんずと髪の毛束を掴まれて思いっ切り引っ張られた。
流石ユーリ君、容赦が無いというか何というか。
これは割と本気で痛い。
「澪織さんも同じことしてたんだけど」
『わ、私こんな強く引っ張ってな、いたたたた』
グイグイと下に向けて引かれ、抵抗するわけにもいかずに屈み込む。
涙目になる私と愉快そうに口角を上げるユーリ君。
あっという間に形勢は逆転してしまっていた。
ギブアップギブアップ、と訴え続けてどうにか解放してもらえたけれど、腫れるような痛みの残る頭を押さえる。
私の父親はつるつる頭なのに……これで万が一にも頭皮にダメージが残ってしまったらどう責任を取ってくれるんだ。
「良い気味だね」
嘲笑う彼の姿に、胸の内で対抗心が頭をもたげた。
デュエルで勝てないのは承知の上だが、こんな所でもやられっぱなしではいられない。
『このー…!よくもやってくれたわね…!!』
「君こそ、この僕に向かって良い度胸だね…!」
そこからは、傍から見れば子供同士の戯れ合いのような様相だった。
初めは私もそれなりには手加減していたつもりだったけれど、そのうちに二人してムキになって相手の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱したり引っ張ったり。
自分も散々にやられていたけれど、気にしていたら負けだという妙な意地で防御を捨てて少しでも酷い有様にしてやろうと手を伸ばす。
しかし、その諍いはそう長くは続かなかった。
「あははっ、澪織さん変な頭…っ」
『ユーリ君こそ……っふふ』
お互いの姿を見ていると何だか笑えてきてしまって、二人共だんだん手が止まっていく。
既に気が済むまでやり尽くした感じもあるし、それは彼も似たような思いだったのだろう。
結局は戦意喪失で休戦というような形に落ち着いたようだった。
ひとしきり笑ってようやく落ち着いてきたところで、あちこちがぴょこぴょこ跳ねている彼の髪を直してあげることにした。
……まあ、私がやったわけだけれど。
先程まではあんなに頑なに触らせてくれなかったのに今度は特に抵抗も無く、現在では彼の髪を梳く手櫛に擽ったそうに目を細めている。
少しだけ、距離が近くなれただろうか。
目の前の彼のその姿に仄かに心が温かくなる感覚がした。
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