やくそくをしてほしい
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※ゲームシステム捏造(フルダイブゲーム風)
※暗い描写あり
コンパスにログインする、ログボを貰って無料ガチャを回し、今日のデイリーミッションを確認する。
それは私の下校後の日課だった。
今日も嫌なことはあったけど、好きなゲームは私の心を多少なりとも癒してくれる。
バトアリ行くよー、と相棒の零夜に声を掛けるが、今日の零夜は何処となくいつもの様子ではなさそうだった。
チャネリング中なのだろうか。
上の空で私のことは目に入っていなさそうだ。
以前にチャネリング中に話し掛けたのを咎められたこともあったし、邪魔はしないほうがいいかもしれないと思って私はそのまま口を噤んだ。
私がコンパスで一番好きなヒーローは零夜だ。
格好良くて、強くて、ミステリアス。
無表情に見えて意外と色々な感情を出しているところは目が離せなくて、無関心に見えて時折私というプレイヤーへの関心を覗かせられると鼓動を狂わされる。
ほとんどいつも零夜と出撃しているから他のヒーローの練度は残念なものだけれど、こういう時ばかりは仕方がない。
他の誰かに声を掛けようと思ってホームを後にしようとしたところで。
「アリス」
ちょうど用事が終わったのか、彼に名前を呼ばれて私は振り向いた。
「君は、居なくなったりしないよね?」
こちらが口を開く前に二の句が継がれる。
その言葉に、私は固まった。
じっとこちらに注がれている視線がいつになく痛い。
『…………何でそんなこと聞くの?』
気付けば、あからさまに目を泳がせながら質問を返していた。
普段なら──それこそ昨日などであれば、居なくなるわけないじゃん、などと気軽に答えることができていただろうに。
聡い零夜にはすぐに私の挙動不審さに気付かれそうだが、今は取り繕う余裕も無かった。
「別の世界線の【君】が、居なくなってしまったから」
じっとこちらを見つめたまま、温度の無い声で彼が言う。
その答えは、すとんと私の腑に落ちた。
今日の帰り道。駅のホーム。
通過を示すがらんどうの電光掲示板を眺めて、
ホームの白線の向こう側に並ぶレールを眺めて、
アナウンスの声を聴いて、
少し離れた所にある遮断機の警報音を聴いて、
ぼんやりと考えていた。
結局、私はその暫く後に来た普通電車に乗り込んだけれど──。
別の世界線の【私】は、あの時一歩を踏み出せたんだなと理解した。
そのことを、私はとても、羨ましく思う。
『…………約束は、できないかも』
「どうして」
『えっと……、ほら、人生何が起こるか分からないし?それにもしもの時は他の世界線の【私】のところにでも行けばいいじゃん?たぶん【私】なら零夜のこと無碍にはしないだろうし』
「君は君という存在の価値をまるで理解していない。君はまだ世界樹の根の底に堕すべきでも第七層へ行くべきでもないんだ」
微かな怒気を孕んだ言葉と共に、彼はゆらりとエイワズから降り立った。
いつにも増して彼の真意が読めなくて、読み解く余裕も無くて私はたじろぐ。
──自分の価値なんて自分が一番良く分かってる。
そんなありきたりな言葉が喉から出掛かったが、とても口を挟める雰囲気ではなく、それが声になることは無かった。
「勝手に居なくなったりしないと約束してくれ。でないと【我々】は君を“保護”しないといけなくなる」
すぐ近くまで来た零夜が更に一歩、一歩とこちらへにじり寄る。
普段はエイワズに腰掛けていて私とそう変わらない高さだった目線が、今はほとんど真上から注がれている。
陰がかかって、彼の表情がよく見えない。
威圧感に潰されそうになる中、その暗がりの奥からビビッドグリーンが煌々と煌めいていて、私は息を呑んだ。
『ど、どうしたの、ほんとに』
彼は答えない。
『……ちょっと、怖いんだけど……』
彼は答えない。
『う……』
彼は答えない。
『…………わかった、約束、するから』
そう言うと、ふっと彼の表情が和らいだ。
「うん、約束だよ、アリス」
すっ、と小指が目の前に差し出される。
先程までの威圧感は何処へやら、幼子のような仕草に私は目をぱちくりさせた。
おずおずと私も小指を差し出すと、彼の小指でそっと絡め取られる。
──ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
指切りをするのなんて、それこそ子供の頃以来かもしれない。
仮想空間の3Dモデルに体温なんてあるはずないのに、指先に仄かな温かさを感じて何だか擽ったくなる。
先の見えない暗闇の中に沈んで藻搔いていたけれど、今この時に私は仄かなよすがを見付けた気がした。
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