箱入り少女とずるいひと
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※蛇桃騒乱読了前提
※主人公はナンバーズ
『あの子だけずるい!』
私がそう声を張り上げると、目の前のフォウは細い眼を僅かに見開いた。
『一緒に肉まん食べたり、手を繋いだり、頭撫で撫でしたりしてたでしょ!』
しかしそれはほんの一瞬の出来事で、次の瞬間には彼の顔にはいつもの薄ら笑いが戻ってくる。
「そんなことしてましたっけ?」
『してた!何なら今ここで監視カメラの映像を大画面でプレイバックしてあげてもいいのよ?!』
「はいはい分かりました、そんなこともありましたね。ですが説明したでしょう?彼女は計画の重要なピースですから、良好な関係を築くことも必要なんですよ」
『それは知ってるけど!あんなにチヤホヤする必要は無いでしょ!それに比べて私はここで地下労働者……』
私はわざとらしく辺りに視線を巡らせる。
この場所は、幾つかの照明と未完成な巨大な機械と幾重にも入り組んだ配線があるだけの地下施設だった。
他にも数多くの仕事があるフォウの代わりにこの機械の組み上げを行うのが今の私の任務である。
中核となるシステムはフォウの知識頼りではある、が、実働部隊として手を動かしているのはもっぱら私なのであった。
この神域にはゼロやスリーも来ているらしいというのに、外出禁止令を出された私は旧友に会うことも許されず黙々と作業を続ける日々。
早く完成させなければならないことは重々承知していたので甘んじて受け入れてはいたが、そんな中で彼が女の子と楽しげにしている姿がカメラに映っていたとなれば、私が怒るのも当然というものだろう。
だというのに、目の前の軽薄な男には微塵も反省の色が見えなかった。
『もういい!イレヴン!サンドバッグになって!』
「断る」
「付き合ってあげなさいイレヴン」
「分かった」
『ちょっと!勝手に許可出さないでよ!断られる前提で言ったのに!』
「だそうですよ、イレヴン」
「…………」
イレヴンが薄っすら困り顔をしている……ような気がする。
──ごめんなさいイレヴン。でも今のはフォウが悪いの。
ハァー、とこれまたわざとらしく溜め息を吐いて、私は持ち場に戻ることにした。
怒ってはみたものの、実のところは変化を期待しているわけではないのだ。
彼とももう短い付き合いではないのだから、彼の人となりはよく理解していて、今更それが変わりはしないということも知っていた。
あくまでもパフォーマンスであって、八つ当たりであって、ストレス発散である。
ただ、もしも、あわよくばこの五月蝿く喚くガキを大人しくさせておくためにフォウが肉まんでも買ってきてくれれば万々歳である。それ以上を望みはしない。
……あるいは、今度こそ本当に捨てられるかもしれない。
名実共にフォウの右腕であるイレヴンとは違い、私は所詮は後期ロットの粗造品だ。
雑用係が関の山だというのに、それがこんなふうに面倒を掛けていれば愛想を尽かされても仕方がない。
分かっていても改めることが出来ないのは私自身も同じだった。
…………捨てられたなら潔く、荒れ果ててしまった地上を徘徊する生ける屍にでもなろう。
「待ってください、」
すると、何の用かと身構える間も無く、彼の手の平が私の頭の上に置かれる。
ぴゃっ、と奇声を発して私は固まってしまった。
「これで機嫌を直してもらえませんか?」
背の高い彼が私の顔を覗き込むように屈み込む。
しおらしさを演出するかのように僅かに眉尻を下げた表情をしながら、頭上の手の平はまるで幼い子供を宥めるかのように優しい手付きでゆっくりと私を撫でていた。
──分かっている、彼の手口はよく分かっている。
表面上ではこうして、こんなにも反省する素振りを装いながら、内心では簡単に絆されるチョロい小娘だと嘲笑っているに違いない!
違いない、…………けれど、分かっていてもどうにもできないことだって、この魔界にはある。
『…………ああああ、もう!わかった!わかったからその手をどけて!!』
彼の魔の手を押し除けて逃げ出し、私は機械の山の中に逃げ込んだ。
顔を覆った手の平に、じんわりと熱が伝わってくる。
フォウに勝てたことなど一度も無いが、今回もまた私の負けだった。
* * *
「あの子だけずるいっ、ですって。可愛らしいですねえ、私達のお姫様は」
蛇桃会本部への帰路の途中、それはそれは楽しそうにフォウが笑っていた。
普段から笑みを絶やさない男ではあるが、これは普段のただ貼り付けただけの笑みではないことをイレヴンは知っている。
「……そういうことはオレじゃなく本人に言ってやったらいいんじゃないか」
「えー、私がそんな浮ついたセリフを言う男に見えます?」
「…………」
現に今言っていただろう、と思ったが、イレヴンはそれを言葉にはしなかった。
「長く生きていると言えなくなることもあるものですよ。変化は不可逆でも、時間は無限ですからね」
何処か遠くを見ながらフォウが言う。
「次来る時は肉まんでも買ってきましょう。彼女が食べたがっていましたからね。本当はスリーのコーヒーもあればもっと喜んでくれるのでしょうが…………生憎私はそう心が広くはないのでそちらは我慢してもらう他ありません」
「…………スリーやゼロに余計な詮索をされかねないことはしないほうがいい」
「ええ、そうですね。これは仕方がないこと。彼女も分かってくれるでしょう」
そんな会話をしながら、二人は雑踏の中へと消えていくのだった。
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