Episode-8
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一つの物語の終幕。
そして続いていく新しい風景は、
アナタが隣に居る、愛おしい日々――
Epilogue
「やはりお前の淹れるコーヒーは美味しいな、アリス」
『ありがとうございます♪』
青空が清々しく晴れ渡った、とある春の日。
店に姿を現したアヤナミさんに私はコーヒーを振る舞って、そのまま二人で談笑していた。
店内は残念ながらいつも通り閑散としているので、こうしていても怒られたりすることもない。
アヤナミさんの話から推察するに、今日彼は昼休みに職場を抜け出してわざわざここへ来てくれたらしかった。
本来ならば戻るよう言うべきなのだろうが……会いに来てくれた事が嬉しくて、その事については何も言わなくてもいいかな、なんて思ってしまう。
二人で過ごす穏やかな時間は、すごく心地好かった。
そんな中、カランカラン、と来客を告げる鐘が軽快な音を奏でた。
私は慌てて店の入口へ視線を向ける。
『あ、いらっしゃいませ!……って、ヒュウガさん!』
「やっほー、アリスちゃん☆」
そこに居たのはヒュウガさんだった。
彼は私の方を向いてひらひらと手を振る。
そして私の向かいの席に座るアヤナミさんの姿を認めると、
「やっぱりアヤたんここに居たんだねー。サボりはいけないんだぞっ☆」
「貴様が言うな」
「えー、それどういう意味?」
アヤナミさんに冷たい言葉を返されているが、ヒュウガさんはいつものように全くめげない。
「あ。アリスちゃん、オレにもコーヒー頂戴!」
ヒュウガさんからそう注文が入った。
『はいはい、わかりました』
「……私にももう一杯頼む」
と、アヤナミさんからもおかわりの注文が入る。
『はい!すぐに淹れてきますね!』
私は笑顔で返事をする。
何かオレの時と扱いが違くない!?などとヒュウガさんが言っているが、それは放っておいて。
私は軽い足取りでカウンターへ向かった。
その途中。
物陰でガサゴソと何かが動くのが視界に入った。
私は足を止めて、気になった場所をじっと見つめる。
――もしかして…?
そして、店内に幾つか置かれている大きな観葉植物の鉢植えの陰に隠れていた人影の背後にゆっくりと近付いて、声を掛けた。
『……エリザさん?』
「わぁっ!?……な、何ですのアリスさん!急に現れて……驚かさないでくださらない?!」
『え……ご、ごめんなさい…?』
突然の叱責に思わず謝ってしまったが、人影はやはりエリザさんだった。
普段の彼女からは想像もつかないような地味な褐色の外套を纏って、同色の帽子を目深に被ってはいるけれど。
『えっと……エリザさん、何でこんな所に…?』
とりあえず、今一番の疑問をぶつけてみる。
「何でって、アヤナミ様のお姿を見に来たに決まっているではありませんか!……貴女たちが縒りを戻したって聞いたものだから、その偵察も兼ねてね…」
一瞬彼女はストーカーなのかと思ってしまうような返答が帰ってきた。
が、彼女の性格上、それを指摘したところで意味は無いだろうと思ったので突っ込むのはやめておくことにする。
「……ま、まあ、見つかってしまったからには仕方ありませんわね。今日のところはこれで退散することにしましょう。けれど、覚えていなさいアリスさん!いつか必ずアヤナミ様を私のモノにしてみせますわ!!」
悪役然とした台詞の後、エリザさんは私をビシッと指差して宣戦布告してきた。
こんなに堂々と喋っていたら、変装した意味も先程まで隠れていた意味もなくなってしまいそうだが、彼女は全く気にしていない様子だ。
――私は……。
彼女にこんな事を言われるのはよくあることだった。
前からエリザさんは私を目の敵にしていて。
今までは彼女の言葉に適当に返していたけれど、あれこれ言われているうちに心のどこかで不安を感じることもあった。
でも、今なら胸を張って言える。
『――臨む所です、エリザさん!』
すると、彼女にはそれが予想外だったのか、
「なっ…………い、いいですわ!貴女がその気なら、私だって負けませんから!せいぜい首を洗って待っていることね!!」
彼女はそう吐き捨ててから踵を返し、勢いよく店を飛び出して行ってしまった。
「ねぇアリスちゃーん、コーヒーまだー?」
ヒュウガさんの声で、私は忘れかけていた当初の目的を思い出した。
『あ、す、すみません!!すぐにお持ちしますね、アヤナミさん!』
「ああ」
「え、何でアヤたんなの!?オレは!?」
そう不平を漏らすヒュウガさんのことはいつものように放置して、私は急いでカウンターへ向かった。
『お待たせしました』
トレイに乗せて運んできた二人分のコーヒーを各々の手元に置く。
顔を上げると、ちょうど正面にある窓から四角に切り取られた青い青い空が見えた。
そこから差し込む眩しい陽光に思わず目を細める。
あの出来事を忘れたわけではない。
あの時感じた全てを、私は忘れてはいけないと思う。
けれど今は、自分が幸せだと思えるようになれた。
たとえ目には見えなくても、この空のように私を優しく包んでくれる、彼の愛があることを知ったから――…
fin.
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