Episode-3
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『いらっしゃいませ』
あれから数日が過ぎ……
私は浮かない気分を引きずりながらも、それを隠して店に出ていた。
たゆたう心の行く先は
「あれ?アリスちゃん、今日は何だか顔色が悪いんじゃない?」
コーヒーを運んでいると、その席に座っていた一人のお客さんに声を掛けられた。
穏和そうな顔をした20代後半に見える彼――シムは、この店の数年来の常連客だ。
この喫茶店はそれほど大きくないので、常連さんとは友人同士のような関係になることも少なくない。
シムさんも例外ではなく、互いによく色々な話をする間柄であった。
「何か悩みでもあるのかい?僕で良ければ相談に乗るけど」
こんな心境だからだろうか、シムさんの優しさがとても嬉しい。
ちょうど今の時間帯は客も少ないので、私は向かいの席に腰を下ろして、彼に話を聞いてもらう事にした。
「…………辛かっただろうね、アリスちゃん」
私が事のあらましを話し終わると、シムさんは優しく頭を撫でてくれた。
しかも、まるで自分の事のように悲しそうな顔をしていて――
『……すみません。迷惑掛けてしまって…』
「いやいや、アリスちゃんが謝ることはないよ。ほら、困った時はお互い様ってやつ?」
『そうですか?…………ありがとうございます』
何だか少し申し訳無い。
けれど、そう言ってもらえることはとても有り難くて。
冷え切っていた心が少しだけ温かくなったような気がした。
それだけでなく、辛い心情を吐露することが出来たためか、気持ちも少し軽くなったような気がする。
――今日、シムさんと会えてよかったな…。
そう思った。
「一人で悩んでるとあまり良くないからね。僕ならいつでも話し相手になってあげるから」
『はい』
「……僕だったら、こんなふうにアリスちゃんを悲しませたりなんかしないのにね」
シムさんはそんな事を言うと、肩をすくめて笑った。
* * *
「あらっ…!アヤナミ様、お久しぶりです!こんな所で出会えるなんて、私達の間には運命の糸が――」
失敗した。
そう思って、アヤナミは頭を抱えた。
こうなると分かっていたらこの廊下を通ったりはしなかったのに……。
そんなふうに考えても、後悔先に立たず、だ。現実は変えられない。
……ただでさえ色々あって精神的疲労が嵩んでいるというのに、何故放っておいてくれないのか…。
突如降りかかってきた災いに、ただ溜息を吐く事しかできなかった。
「あのぉ、それで……もしお時間がありましたら、今度わたくしとお食事でもどうですかぁ?」
わざとらしい上目遣いでこちらを見つめてくる女。名は確か……エリザ、だっただろうか。
これだから貴族の女は嫌なのだ。
鬱陶しい事この上ない。にもかかわらず、奴等には“貴族”という肩書きがあるものだから無下にも出来ない。
そんな彼女達は頭痛の種にしかならなかった。
「すみません。お誘い頂いて大変恐縮なのですが、生憎、仕事が忙しいものでして……」
「そうですか……それは仕方ないですわね。では、お仕事頑張ってくださいね!」
適当に断ると、珍しくあっさりと引き下がってくれた。
そしてそのまま去っていく。
……何の気まぐれなのかは分からないが、とりあえずは助かった。
しつこく迫られればまたストレスが溜まるだけ。
彼女の姿が見えなくなると、アヤナミは今度は安堵の溜息を吐いた。
…………だが、
――こういう女の方が、傍に置くには良いのだろうか。
――愛など無い方が、良いのだろうか。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
――「お前の愛を選ぶか、愛するカノジョの命を選ぶか……。どうする?アヤナミさん♪」――
少し前に聞いた不快な言葉が、“奴”の忌ま忌ましい笑みと共に脳裏に浮かぶ。
あのような奴の言いなりになるのは、言葉に出来無いほど癪に障る。
しかし、
――これで、良いのだ。
彼女は、私と居ない方が幸せなはずなのだから……。
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