Episode-1
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「…………これで、お前と会うのは最後だ」
――どうして?
「別れよう」
――どうして貴方は、そんな事を言ったの?
冷たい雨が降る
“彼”に呼び出されてやって来た喫茶店。
既に誰も居ない向かい側の席を、私はただ見つめていた。
確かに、こうなることは今まで考えたこともなかったと言えば嘘になってしまう。
それでも、私達の気持ちは同じだと……少なくとも私はそう信じていたのに。
私は両親の営む小さなレストランで働いている。
あの日――
いつの間にかその店の常連になっていた彼に突然告白されて。
それから私達の関係は始まった。
私も彼も仕事が忙しくてなかなか会う機会が無かったりもしたけれど、時間を見つけては会いに来てくれたし、デートに誘ってくれたりもした。
二人で居る時の彼はとても優しくて、私のことをちゃんと愛してくれているんだととても嬉しく思っていた。
なのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
もう冷めてしまったコーヒーの暗く沈んだ水面が小さな溜息で揺れた。
でも、最初から分かっていた。
私はただの一般人。
一方の彼は軍人で、しかもかなり上の地位に就いていて。その上、今は落ちぶれてしまったとは言っていたものの、彼は貴族の血を引いている。
当然彼に似合うのはどこかの貴族の令嬢や高い身分の人の娘で、私のような平民など話にもならないはずだ。
もしかしたら、私との交際はただの気まぐれで始めたお遊びのようなものだったのかも知れない。
そこまで考えて、自分の思考で余計に心が押し潰されていっているのに気がついた。
――考えるのはもうやめよう。
――考えたってつらくなるだけ。
――全部忘れちゃえばいいんだ。
私はふらふらと席を立ち、そのまま店を出た。
彼が既に支払いを済ませていたのだろう、店員に咎められることは無かった。
そんなところにまで彼の思いやりを感じてまた悲しくなる。
外は寒かった。
季節は冬。いつの間にか、今にも雪に変わりそうな雨が降り始めていた。
傘は持ってきていない。
しかし、雨に濡れることをいちいち気にしていられるような心境ではなかった。
私はしとしとと降る雨の中を歩き始めた。
冷たさが服から身体に染み込んできて、心まで凍てついていくような感覚がする。
頬を伝い落ちる液体が雨なのか涙なのか、そんな事はもう分からない。
ふと少しだけ見上げた空は、鉛のように重苦しい色をして淀んでいた。
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