第七話 真剣勝負と平和なお茶会
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前回のあらすじ!
“ホーブルグ要塞へやって来たルフィア。
噂とは随分違ったブラックホークに若干戸惑いつつも、彼等と打ち解ける事が出来たのだった。
そしてルフィアは、ヒュウガの提案により、これから彼とガチバトルをすることに――”
ちょっと待てよ!!!
最初の説明って主人公の仕事でしょ!?
何でルークがやってるの?!
“たまには良いだろ?”
なっ……!?
“脇役に仕事を取られてしまったルフィアは、多少のショックを受けつつ、前を歩くブラックホークのメンバーの後に着いていくのでした……”
こらぁぁあああっ!!!
多少のショックとか言うなぁっ!!(泣)
* * *
訓練室へ向かうべく廊下を歩くブラックホークの皆さんの後ろを歩きながら、私は考えていた。
――手合わせって、何やるんだろう……?
やっぱり普通に武器でのバトル?それとも何か変な事やらされたりするのかな。
…そんなの困るぞ!!?
場合によっては勝ち目無いじゃん私!
『…………あの、ヒュウガ少佐?』
「ん?」
『私……――』
「なになに??」
『――泳げませんよ?』
「…………え?」
「「「「え……?(何故この状況で…?)」」」」
皆さん(アヤナミ参謀を除く)が目を丸くしてこちらを見る。
「…ルゥたん?それはどういう…?」
『だって、勝負の内容がクロールとかバタフライとかだったら私ボロ負けですよ』
「……ルフィア、訓練室にプールは無い」
アヤナミ参謀が呆れた口調でそう言った。
『本当ですか?!水たまりとかもありませんか?』
「ああ」
『よかった……』
「「「「「…………。(呆)」」」」」
* * *
そんなやり取りをしているうちに、目的地に到着した。
そこは、やたら広い、何も無い部屋だった。
「ここの造りは頑丈だから、思いっ切り暴れても平気だよ☆」
『そうなんですか~』
「ザイフォン・武器は使用可。その他にルールはありません。
では二人共、頑張ってくださいね」
コナツさんの軽~いルール説明の後、私とヒュウガ少佐は部屋の真ん中辺りで向かい合った。
他の皆さんは部屋の入り口近くで見物している。
『あの……やっぱりやめましょうよ。
私が負けるの目に見えてるじゃないですか』
「えぇー、そんな事無いよー」
『だってヒュウガ少佐、目茶苦茶強そうじゃないですか』
「ルゥたんだって強いんでしょ?」
『そうでもないです』
「……とにかく、かかっておいでよ。
手加減無しでいいからね♪」
『…………はぁ、分かりましたよ』
どうしてもバトルは避けられないらしい。
ここは潔く諦めて、ヒュウガ少佐と戦おうではないか。
私は腰の辺りに仕込んであった短剣を抜き、一気に間合いを縮めた。
キィン、と音を立ててザイフォンを纏った刃同士がぶつかり合う。
最初の、喉元を狙った一撃はヒュウガ少佐に受け止められてしまった。
すぐに反動を利用して後ろに下がり、もう一度突っ込む。
今度は何度も彼に向かって攻撃する。
向こうもこちらの隙を突いて攻撃を仕掛けてくるので、息もつけない攻防が始まった。
――やはり、動きが速い。
近接戦では若干押されている状態。
このまま続けても勝機はなさそうだ。
数歩後ろに下がって、彼に向かって短剣を投げつけた。
しかしそれも彼の刀に弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいった。
「いいのぉ~?飛んでっちゃったよ?ルゥたんの武器」
『……知らないんですか、ヒュウガ少佐?』
――短剣使いが武器を一つしか持ってない、なんて事は有り得ない。
私は軍服の内側に手を差し込み、
『――短剣っていうのは、最低でも10本は隠し持ってるのが常識なんですよ♪』
短剣を2本取り出して両手に持ち、再びヒュウガ少佐に攻撃を仕掛けた。
連続して響く、刃がぶつかり合う音。
彼の防御が薄い所を狙って、首筋、腕、脇腹、と攻撃を繰り出す。
少佐が反撃してくれば、片方でそれを受け流してもう片方で攻撃する。
そんな状態がいくらか続き、少佐が隙を見せた時、至近距離から左手の短剣を思い切り投げつけた。
それは少佐に間一髪の所で躱されたものの、彼の右頬に一筋の傷をつけた。
鮮血がにじむ。
彼は数歩下がり、距離を取った。
「危なっ!!
ルゥたん今、顔面狙ったでしょ?!」
『…私はべつにヒュウガ少佐の綺麗なお顔に傷がついたって何とも思いませんよ?』
「…褒めてるの?そうじゃないの?」
『さあー?前者なんじゃないですかー?』
「棒読みっ!?」
『細かい事は気にしちゃ駄目ですよ☆』
「…………。」
無駄話はそろそろ終わりにするとして…。
短剣を仕舞い、両手を合わせて攻撃系ザイフォンを発動させる。
それを少佐が立っている場所に飛ばした。
ドォォオオン!!と物凄い轟音が響き、埃っぽい煙が巻き上がる。
拳銃を取り出し、視界が悪くなったそこに突っ込んでいく。
見通しが利かないので気配と物音だけを頼りに銃を向ける。
向こうからも時々ザイフォンや剣撃が飛んでくるのでそれも防ぎながら。
相手に当たらなかったザイフォンや流れ弾が、時々床や壁にぶつかって音を立てる。
時間が経つにつれ徐々に薄くなっていく砂塵。
私は片手で糸状の操作系ザイフォンを発動させ、それをヒュウガ少佐の刀に巻き付けた。
――これで動きを封じれるはず…!
一気にトドメを刺すべく、短剣を抜いてヒュウガ少佐の懐へ駆け出した。
と、少佐はザイフォンに搦め捕られた刀を手放し、もう一本の脇差に手を伸ばした。
――しまった…!!
と思った時にはもう遅い。
既に反応が間に合わない間合いに入っていた。
カキィィンッ!!
高めの金属音と共に手に短剣が宙を舞う。
「――オレの勝ちだねっ☆」
『っ……!』
喉元の数ミリ手前に突き付けられた刀。
私の操作系ザイフォンが解け、少佐のもう一本の刀が音を立てて床に落ちた。
* * *
『ほら、やっぱり私が負けたじゃないですか』
「でもルゥたんも強かったよ~。
オレだって危なかったもん」
お互い、床に落ちている自分の武器を拾いながら呟く。
「すごかったじゃん!ルフィアって強いんだね~」
「私もびっくりしました」
「流石ですね」
「あのヒュウガ少佐とここまでやり合える人はなかなかいませんよね」
見物していた他の皆さんが感想を述べていく。
……何気に褒められてるぞ。
ちょっと嬉しいかも♪
「…………まだ無駄な動きが多すぎるな」
『……ごもっともでございます…』
……やっぱりこの人は褒めてくれませんよね。
分かってましたよ、そんな事くらい。
『あ!ヒュウガ少佐、怪我させちゃいましたよね?私が治しますよ』
「えっ?大丈夫だよ~これくらい。
ほっとけば治るから」
ヒュウガ少佐は必要無いと言っているが、私は両手で癒し系ザイフォン――ではなく攻撃系ザイフォンを発動させた。
「待って!!?え、癒し系じゃないの!?この状況で攻撃系出すの!?」
『あ、間違えました』
「絶対確信犯っ!!」
ヒュウガ少佐が全力で拒否するので仕方なくザイフォンを引っ込め、癒し系ザイフォンを出した。
30cm位ある身長差に苦しみながらも、彼の頬の傷を治療した。
『……なんで少佐はこんなに身長高いんですか?
爪先立ちだから足がぷるぷるするんですけど』
「えぇー、オレに文句言われても困るんだけど……」
『じゃあ誰に言えばいいんですか?』
「……さあ?」
*
「ルフィア、」
黙って聞いていたアヤナミ参謀が口を開いた。
「何故ザイフォンを出す時に両手を使うのだ?
わざわざ両手を使わなくても片手で十分だろう」
……流石ですね、そこに突っ込んでくるとは。
『ああ、それには深ーい理由があるんですよ。
実は私、攻撃系と癒し系ザイフォンの量がかなり少ないんです』
「え!?だって、さっきはバンバン攻撃系ザイフォン使ってたじゃん!」
ヒュウガ少佐が言う。
他の人達も同じ事を思っているらしい。
『で、何故か操作系ザイフォンは得意なんです。
だから私は裏ワザを開発したのです!』
「……どういう意味だ」
『そうですねぇ……。上手く説明できるかわからないですけど……。
例えば、攻撃系ザイフォンを出すとしましょう。
まず左手でそれを発動します』
フォン、とザイフォンを発動する。
『でもこのままだと貧弱すぎて使い物になりません』
「確かに貧弱だねぇ…」
…何でだろう。改めてそう言われると妙にムカつく。
ヒュウガ少佐の人柄のせいだろうか?
『……そこで、右手で操作系ザイフォンを発動します。
操作系ザイフォンは、皆さんもご存知のとおり、他の物のザイフォンと同調させる事が出来ます。
だからこれを左手の攻撃系ザイフォンと同調させれば――…』
「――操作系ザイフォンが攻撃系ザイフォンに変わる、という事か」
『その通りです、アヤナミ参謀長官!』
流石、物分かりが良いですね。
説明が面倒にならなくて助かります。
「だが、そんな事が出来るのか?」
『……実際出来ちゃうんですよね、それが』
「普通に操作系ザイフォンを他のザイフォンと同調させる事とはわけが違うだろう。
……完全に同調させなければ攻撃系ザイフォンとしては使えないはずだ。
それにはわずかなミスも許されない。高度な技術が必要になる」
『えぇっ!?そうなんですか!?
私、何も考えずにやってたんですけど……』
いや、本当に何も考えてなかったんですけど…。
まさか、そんなに難しい事だったの…?
「…………ハァ」
――ため息吐かれた!!
「ルゥたんってすごいんだね!」
そう言いながら抱き着いてきたヒュウガ少佐には、とりあえず蹴りを入れておいた。
……床にうずくまって呻いてるけど気にしない。
*
「あの……そろそろ帰らないと、書類が……」
コナツさんがおそるおそるといった様子でアヤナミ参謀に言う。
「ああ、そうだな。
……帰るぞ」
アヤナミ参謀もそれに頷き、すぐに歩きだした。
他の人達もその後を追う。
……若干一名は嫌そうな顔をしているが。
「書類……嫌だぁ~……嫌だよぉ……う~ん……」
『あの、コナツさん。後ろの少佐がうるさいんですけど……』
「そうですねぇ……」
コナツさんも困ったような顔をしている。
そんな調子のまま、廊下を歩く。
「うーん……」
「?どうしたんです、ヒュウガ少佐?」
様子が変わったヒュウガ少佐にコナツさんが問う。
他の人達も歩を止めた。
「いや、ちょっと思っただけなんだけど…。
普通はね、全区間ともパスがないと通れないだろ。
それに、犯罪者が逃亡すると区境ではホークザイルの飛行限界5000mまで帝国警備隊がシールドを張るから誰一人見逃さないワケ。
でもテイト=クラインは誰の目にも触れずに第7区まで逃げ切ったねぇ」
少佐が大きな地図を見ながら言う。
「失態だな」
「はっ。
警備隊には徹底した指導の見直しをさせております」
『テイト=クライン……ですか?』
思わぬ所で知り合いの名前が出て来た。
……だが、無事に第7区まで逃げ切ったようなので少し安心だ。
「うん。ルゥたん知ってるの?」
『ええ、まあ。同期生ですから』
「そっかぁ。
……それに、あの日は内海にウェンディが迷い込んだっていう報告があったよ。
ホークザイルどころか軍の第一級空挺ですら破壊するモンスターだよね」
ヒュウガ少佐が付け足す。
「まさかそこを通ったとでも?」
「ふむ、中々骨のある少年じゃないか」
「それで、どーするの?アヤたん」
「案ずるな。
テイト=クラインの事なら、すでに手は打ってある」
そうアヤナミ参謀は言った。
――テイト、君はヤバい人に目を付けられたみたいだよ。
「ねぇねぇ、ルゥたんはテイト=クラインのお友達だったりするの?」
ヒュウガ少佐が話し掛けてくる。
『そんな訳無いじゃないですか。
時々話したりする程度でしたよ』
――どうして嘘をついたのだろう。
友達だと言えば自分の身が危うくなる、とかそういう訳では無くて。
ただ、本当に友達だったのか、不安だった。
自分ではそう思っていても、彼等がどう思っていたかなんて分からないから。
「本当?」
『…嘘ついてどうするんですか』
「そうだよね~」
「ほら、お二人が無駄話をしている間に着きましたよ」
コナツさんの言葉に視線を向けると、執務室の扉が目の前にあった。
* * *
「今日こそはしっかり仕事をしてくださいね、少佐?」
書類の束をヒュウガ少佐の机にドンッと置きながら、良い笑顔のコナツさんが言う。
それに対して、引き攣った顔の少佐。
よっぽど書類が嫌いなのだろう。
「…………あっ!!あんな所にアヤたんの軍帽が飛んでる!!!」
「えっ!?」
突然ヒュウガ少佐がコナツさんの後ろの方を指差しながら叫んだ。
コナツさんが勢いよく後ろを向く。
すると……
「じゃあね~コナツぅ、あとよろしく☆」
少佐はマッハで去っていった。
「あぁっ!!少佐!!?」
コナツさんの叫びはヒュウガ少佐には届かなかった……。
「くっ……また逃げられた……!(泣)」
「大変だね、コナツ…」
「ご愁傷様です、コナツさん…」
また、という事はいつも逃げられてるのだろうか。
コナツさん、苦労してるんですね……。
こうして、執務室に残ったのは私達四人になってしまった。
…………え?四人?
『あれ?何か少なくないですか?
アヤナミ参謀長官もカツラギ大佐も居ませんし……』
「そういえば…そうですね」
コナツさんも首を傾げる。
「アヤナミ様は用事があるんだって」
「カツラギ大佐は料理作りだと思いますよ」
クロユリ中佐とハルセさんが答えてくれた。
『そうなんですか…』
これだけ人数が少ないと執務室がやけに広く感じる。
……うるさい人(ヒュウガ少佐とかヒュウガ少佐とか)が居ないからか?
「そういえばルフィアさん、その呼び方……やめません?」
コナツさんが唐突に言った。
『呼び方……ですか?』
「“アヤナミ参謀長官”っていうのは長いじゃないですか。
僕達も“アヤナミ様”と呼んでいるのでルフィアさんもそう呼べばいいのでは?」
『なるほどー。確かにそうですね』
私も“アヤナミ参謀長官”って呼ぶのは面倒だな~と思ってたよ。
「じゃあさ!僕の事も呼び捨てでいいよ!」
腰の辺りに軽い衝撃。
見ると、笑顔のクロユリ中佐が私の腰に抱き着いていた。
――か、可愛いっ!!
この笑顔は反則だ!
思わず抱きしめる。
『可愛い~~』
「私の中佐に手を出さないでください!!」
目がマジになっているハルセさんに無理矢理引きはがされた。
……怖かった。今のハルセさん、リアルに怖かった。
“……私の中佐、っていう部分はスルーなのか?あえてのスルーなのか??”
「で、ルフィアは呼んでくれないの?」
悲しそうな表情でこちらを見る中佐。
……その顔も反則だって!!
『呼びます呼びます!!
……でも、中佐の事を呼び捨てっていうのは駄目だと思うので……クロユリ君、で良いですか?』
「いいよ♪」
再びにっこりと笑ったクロユリ中佐……もといクロユリ君。
――あぁ……癒しだ……。
「さて、仕事をしましょうか」
コナツさんの一言で一気に現実に引き戻される。
皆さんはそれぞれのデスクに戻り、仕事を始めようとしていた。
そして、一人だけ取り残された私。
…………どーするんだ?
『あの……私は何をすれば…?』
「あ!ルフィアさんの事、すっかり忘れていました……」
……コナツさん、さりげなく酷い事言いますね。
何ですか?私ってそんなに影薄いですか?
とりあえずコナツさんの指示に従って、近くにあった机に座る。
次に、私の目の前に書類の山が置かれた。
「この書類に不備が無ければサインしてください。仕事はそれだけです。
何か分からない事があったら誰かに聞いてくださいね」
…………どうやら、仕事はそれほど難しくは無いようだ。
しかし……
『書類……随分多いんですね……』
これでは本当に“書類の山”である。
「そうですか?今日は少ない方だと思うんですけど……」
まじですか!?
いつもはもっと多いと?
…………嫌だぁ……。
少佐が逃げ出す気持ちが分かった気がする。
……だが、嘆いていても事態は変わらない。
私は書類に手を付け始めた。
* * *
数時間が経過。
そろそろ肩が凝ってきた。
単純作業の繰り返しなので面倒だが難しくはない。
頑張れば大方はなんとかなるようで、実際、残す所あとわずかという感じだ。
ちら、と他の人達の様子を見ると、私と同じように大方を終わらせたクロユリ君とハルセさん。
そして、ヒュウガ少佐の分もやっているらしく未だに書類の山と格闘しているコナツさん。
何故だか哀れに見えてくる。
その時、キィィィ……と音を立てて執務室のドアが開いた。
入って来たのは、エプロン姿でトレイを持ったカツラギ大佐。
「皆さん、お仕事ご苦労様です。
ケーキを焼いてみたのですが、分量を間違えたみたいでやたら多く出来上がってしまって……。
よかったら召し上がってください」
トレイに乗っていたのはたくさんのケーキ。
どれも美味しそうな匂いを漂わせている。
「「「「『うわぁー、美味しそう(ですね)』」」」」
皆一斉にそちらを向き、歓声を上げた。
本当に美味しそうだ。
…………しかし、その歓声の中に聞こえるはずの無い声が混じっている事に気付く。
「ヒュウガ少佐!?いつの間に帰ってきたんですか!!」
「今だよ~」
いつから居たのか、ヒュウガ少佐がいつもの笑顔を浮かべて混ざっていた。
「オレ、ちょうど何か食べたいと思ってたんだよねー」
……つまり、タイミングを見計らって帰ってきたというわけですか。
コナツさんも呆れた目で少佐を見ている。
「まあまあ。せっかくですから、皆で食べましょう」
ハルセさんが言う。
そして、仕事は一時中断。お茶会が始まった。
一つの机を皆で囲んで座る。
カツラギ大佐が手際よくケーキとお茶を並べた。
「「「「「『いただきます』」」」」」
皆で手を合わせてからケーキを食べ始める。
一口食べると程よい甘さが口の中に広がった。
柔らかいスポンジ部分、甘いクリーム、上にちょこんと乗せられた苺。
それらが絶妙な美味しさを演出している。
『……すっごく美味しいです!!』
――カツラギ大佐、お料理が上手なんですね。
これはプロ級といっても過言では無いですよ!
まさに理想の主夫だ…。
「本当に美味しいですよね~」
「うんうん」
「流石カツラギ大佐です!」
「ありがとうございます」
皆さんも口々にカツラギ大佐を褒める。
「おかわりもありますから、たくさん食べてくださいね」
そう言って席を立ち、部屋を出て行った大佐。
戻って来た彼の手には、たくさんのケーキが乗ったトレイ。
……随分多く作っちゃったんですね、大佐。
その大量のケーキを前にして、また歓声を上げるクロユリ君とヒュウガ少佐。
……クロユリ君はともかく、そんなに喜んでいる少佐は大人としてどうなのだろうか。
そういう私も人の事は言えないが。
甘いものはいくらでも行けるくらい好きなので、遠慮無くおかわりする。
こんなにたくさんケーキを食べれるなんて……幸せだ……。しかもタダだし……。
頬張る度に思わず笑顔になる。
“……また太るぞ”
――黙れルーク(怒)。
*
「コナツー、そこのポット取ってー」
「少佐、そんなに乗り出したら危ないですよ」
ヒュウガ少佐が少し離れた所にあるポットを取ろうと腕を伸ばす。
と、彼の腕が近くに置いてあったカップに当たった。
カランと音がしてカップが倒れる。
中に入っていたお茶がこぼれた。
「あっ……」
「何やってるんですか少佐!」
……せっかくコナツさんが忠告してくれてたのに。
しかし、それだけでは終わらなかった。
倒れたカップはそのまま転がり、
「「「「「『あっ……!』」」」」」
気付いた時にはもう遅い。
近くに座っていた数人が伸ばした手が届く事は無く、それはそのまま机から落ちてガシャンと割れた。
部屋に気まずい雰囲気が漂う。
「……ヒュウガ、こういう時には身を呈してカップを守るべきなんじゃないの?」
クロユリ君が言った。
「え!?何で?!カップってそんなに大事なの?!」
「当然だよ。ヒュウガなんかには何の価値も無いし」
「え、それ、大分酷くない?(泣)」
クロユリ君とヒュウガ少佐の間で口喧嘩が始まってしまった。……正確にはクロユリ君の一方的な悪口だが。
ハルセさんとカツラギ大佐はどこからともなくミニマムな箒と塵取りを取り出して、破片を手際よく片付けていく。
コナツさんはヒュウガ少佐の失態を必死になって謝っている。――彼が謝る必要は無いと思うのだが。
急に騒がしくなったブラックホークの執務室。
そんな皆さんの様子を見ていると、自然と笑みが零れる。
――こんな風に大勢でわいわいするのは初めてだ。
士官学校でもテイトやミカゲと遊んだりしたが、それでもたった三人だ。
こういうのも悪くない。
面白い人や優しい人、可愛い人、若干怖い人も居るが、この職場でなら楽しくやっていけそうな気がする。
そんな事を考えながら、私も片付けを手伝う事にした。
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