第六話 ホーブルグ要塞
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“次の角を右だ”
――えーっと、ここを右……。
“ここを左”
――左……。
“あと15m”
――15m……って、何m進んだかなんてわかんないよ。
“ここの右側のドアだ”
――………………………………絶対違うよね!?
いよいよ今日からベグライターとしての生活が始まる。
という訳で、ホーブルグ要塞にやって来た。
必要なのかそうでないのかよく分からない手続きを終えて、勤務先へ向かおうとしたのだが……
近くに居た案内役の人はものすごく不親切だった。
『ブラックホークという部署の執務室に行きたいのですが、案内してもらえませんか?』
「え……………………。
………………………………………………。
生憎今は忙しいので、一人で行ってもらえます?」
『(何故沈黙するんだっ!)』
そんなやり取りの後、その人に道順が書かれた紙を渡されて、後は自力(ルークの助けもあったけど)でここまでやって来た。
そして、今、私の目の前にあるドアには……
『“第13倉庫”……?』
と書かれていた。
――ルーク、道間違えたでしょ?!
“いや、紙に書いてあるとおりに来たはずだ”
――……ですよねー。
私もしっかり確認していたから間違えたはずはないのだが……。
まさかブラックホークの皆様は倉庫で活動していらっしゃるのですか?
“……さすがにそれは無いだろ。多分”
まさかね。そんな訳無いよね。
という事は、
『……あの案内役め、とことん使えない奴だな』
“で、どうするんだ?”
――う~ん……通りすがりの人にでも聞きますか。
“まぁ、それしか無いだろうな”
そんな訳で、私は誰かが通り掛かるのを待った。
5分くらい経ったころ、足音が聞こえた。
――よし!誰か来たぞ!
曲がり角から覗くと、一人の軍人が歩いて来るのが見えた。
駆け寄って声をかける。
『すみませーん、道案内をお願いしたいんですけど、いいでしょうか?』
「……他の奴に聞け」
低い声で無愛想にそう言われた。
――この人も不親切だっ!!
再び人選ミス!!
昨日の二の舞か!?
(注:第五話参照)
『あの、ちょっとだけでもいいんです!ブラックホークという部署への道だけでも教えてください!』
「………………お前がか?」
『へ?私が何ですか?』
「いや。……着いて来い」
意味深な言葉を呟いてから、軍人さんはすぐに歩きだしてしまった。
どうやら案内してくれる気になったらしい。
私もあわててその後を追った。
『ありがとうございます』
「…………。」
『……。』
「……」
沈黙のまま、歩く。
「…………」
『…………。』
無言で歩く軍人さんの後ろ姿を眺めながら、何となく観察してみる。
銀色の髪、整った顔、ぴんと伸びた背筋、きっちり着込んだ軍服。
雰囲気から察するに、実力も相当なものだ。
――……なかなか格好良い人だなぁ。
“…………ルフィア、気づいてるか?”
ルークが呟く。
――うん。
この人……
この魂の色は……
フェアローレンだよ!!!?
わ~い、何か珍獣に出会ったような気分でテンション上がる~。
いや、珍獣というより天然記念物?絶滅危惧種か?
“……お前、そんな素直に喜んでていいのか?”
――いいんだよ~。
ネレももう恨んでないって言ってたし、この人も封印されてて何も覚えてないんでしょ?
“まぁ、そうだろうけど…”
――なら良いじゃないか♪
“いや、それはどうかな?
もしかしたらとっくに全部思い出してて、ルフィアなんかあっという間に喰われちまうかも知れないぞ?”
――ちょ、怖い事言わないでよ!しかも喰われるって何!?
大体、そんな事はありえないし、もしそうだったとしてもこっちの事はバレないはずだから!
“ふーん……”
「…………お前、さっきから何を考えているのだ?」
『ふぇ?!
ななな、何も考えてなんかいませんよ?』
いきなり顔を覗き込まれ、発した声が無意識に裏返る。
――突然話し掛けられたらびっくりするじゃないか!!
「ならば、何故そのような奇妙な表情をしていたのだ?」
『え!?そんな変な顔してましたか?』
「…………さあな」
――その返答が一番怖い!!
「ほら、貴様が慌てふためいているうちに着いたぞ」
その言葉に視線を転じると、視界に入ったのは大きな扉。
おそらくここがブラックホークの執務室なのだろう。
豪華そうな所だなー、などと考えていると、軍人さんは何のためらいも無くその扉を開けて部屋の中へ入っていってしまった。
『え!?良いんですか、そんな堂々と入っちゃって――』
「あ。おかえり~アヤたん☆ずいぶん遅かったねー」
部屋の中から、別の人間の声がした。
ブラックホークの人だろうか。
「あぁ、話が少し長引いてな。
あと、拾ってきたぞ」
軍人さんもそれに普通に返す。
――仲が良いのだろうか。
ブラックホークの人達は、他の人から怖がられてると聞いていたのだが……。
というか、“拾った”って、何を?
「拾ったの?どこ?」
その声と共にひょこっと顔を出したのは、四角いレンズのサングラスを掛けた軍人。
私の姿を認めると、彼はパッと笑顔になってこちらに駆け寄ってきた。
「わーっ!!アヤたんのベグライターになったっていうのはこの子だよね?」
「あぁ」
「やったー!女の子だー!!」
やたらとはしゃぎまくるサングラスさん(仮)。
女はそんなに珍しいですか?
っていうか……
『えっ!?私がベグライターっていう事は……
あ、貴方がアヤナミ参謀長官様なんですか!?』
「……言ってなかったか?」
『初耳ですよ!』
ただの通りすがりの軍人さんだと思っていたのに……。
私は今まで何も知らずに話していたのか?!
珍獣呼ばわりしてすみませんでしたっ!!
“そこを謝るのか”
「ほら、そんな事はどうでもいいから!早く入りなよ」
サングラスさん(仮)に腕を引かれて部屋の中に入る。
そこで目に映ったのは、彼等二人を除いた四人の軍人さん達。
優しそうなおじさん、真面目そうな人が二人、そして軍人というには幼いような気がする子。
……噂から想像していた“ブラックホーク”とは随分違った光景がそこにはあった。
「わーっ、女の子だー!!」
「そうですね、クロユリ様」
「また賑やかになりそうですね」
「まともそうな人でよかったです……」
皆さん、思い思いの発言をしていく。
……最後の人、どうしたんだろう…。
そんなにまともな人に来てほしかったのだろうか?
「よし、まずは自己紹介から始めよう!」
サングラスさん(仮)の発言により、皆で自己紹介をする事になった。
それによると、サングラスさん(仮)の名前はヒュウガ。
こう見えても階級は少佐なのだそうだ。
そして、彼のベグライターのコナツさん。
綺麗な蜂蜜色の髪が特徴の、真面目そうな人だ。
子供にしか見えないと思った、ピンクの髪のあの幼い人物はクロユリさん。
あの若さで中佐とは驚きだ。
そんなクロユリ中佐のベグライターがハルセさん。
中佐を抱いている姿はまるで兄か父親のよう。
優しそうなおじさんはカツラギ大佐。
まさに理想の父親!といった感じの人だ。
私も適当に自己紹介をした。
――それにしても、
ここに居る人間達は皆――正確にはカツラギ大佐以外――黒法術師の気配がする。
それにも増して気になるのは、アヤナミ参謀とカツラギ大佐以外の人達の魂が半分しか無い事。
――何故だろう?
「ほら、アヤたんも自己紹介しなよ!」
ヒュウガ少佐がアヤナミ参謀に話を振る。
……参謀はかなり嫌そうな顔をしているが。
「………………必要無いだろう」
「えぇー、必要でしょー?
常に鞭を持ち歩いてるとか、趣味は拷問だとか、実はその軍帽は頭から生え……痛い痛い!!やめてアヤたん!!」
アヤナミ参謀に鞭を振るわれ、踏み付けられるヒュウガ少佐。
……こういう関係なのか。
「痛いよぉ~…(泣)」
泣きながら私に抱きついてくる少佐。
『離れてください!せっかくの新品の軍服が汚れます!!』
「やだ~……ぐすん……オレを慰めてよルゥたん……」
『変なとこ触るな変態!』
呼び方も何故か“たん”付けだし……。
「何やってるんですか少佐!!」
コナツさんが無理矢理少佐を引きはがす。
助かった……。
それにしてもムカつくな、この少佐は。
「すみません。少佐が迷惑をかけてしまって……」
『いえ、大丈夫ですよ。
幸い軍服も無事なようですし。
悪いのはヒュウガ少佐なんですから、コナツさんが謝らないでください』
「そうだよ。悪いのはヒュウガなんだし」
クロユリ中佐が会話に加わる。
『コナツさんって、良い人ですね』
「そ、そうですか…?」
『はい』
「そういえばさ、何でルフィアはブラックホークに来たの?」
クロユリ中佐が不思議そうな顔でこちらを見る。
「確かに気になりますね。
私達の事を快く思っていない人は多いですし」
『そうですねー。
私、最初は別の人のベグライターになるはずだったんですけど、昨日急に変更になっちゃったんです。
その場のノリでついOKしてしまって…。
怖い噂ばっかり聞いていたのでどんな所なのか内心ドキドキしてたんですけど、想像していたような恐ろしい場所じゃなくてよかったです」
本当によかったよ。
恐ろしい場所だったら、私、どうしようかと……。
「ちなみに、ルフィアはどんな想像をしてたの?」
『どんなって……
皆いかつい顔してて、古傷とかあって、目つきが目茶苦茶怖くて、
常に恐ろしい武器とか持ってて、
ちょっとでも失敗とかしたら恐ろしい目に逢わされて、
時々殺し合いとかしてて、
やっぱり竹刀は欠かせないかな。
それから…………』
「ルフィアさん、もういいです……。
どんな想像をしていたのか大体分かりましたから……」
「うん……」
苦笑いでそう言う二人。
*
「……ところでさ、」
コナツさんに投げ捨てられていたはずのヒュウガ少佐が、じろじろと私を見ながら言った。
「ルゥたんって、何かこう…………小さいよね」
『なっ……!?
他人が気にしてる事をさらっと言わないでください!!』
この人、やっぱり酷い人だ。
上司じゃなかったら絶対に制裁を下してやる。
「気にしてたんだー」
『してましたよ!
で、でも、ほら、クロユリ中佐よりは大きいじゃないですか!』
「クロユリ中佐と比べたらダメだよ~」
――やっぱり駄目か…。
『………………でも、まだ成長期ですから!
これから大きくなります!!』
「そっかぁ、楽しみだね~」
『待っててくださいね!きっと一年経てばヒュウガ少佐と同じ位に……!』
「…………え?
ルゥたん、今、何の話してるの?」
困惑した表情のヒュウガ少佐。
一体どうしたというのだろう。
『何って、私の身長の話じゃないんですか?』
「オレはルゥたんの胸の話をしてたんだけど……」
『なっ……!?///』
――コイツ…………たとえ上司であろうとも、制裁を下してやる!!
『……………………ヒュウガ少佐、試しに死んでみませんか?』
「えぇっ!?
お、落ち着いてルゥたん!!目が据わってるから!!
あと、その鉄砲どこから出したの?!」
私が突き付けた拳銃を指差しながら少佐が叫ぶ。
『鉄砲ではありません、拳銃です』
「そこ訂正するの?!」
『とにかく死ねやぁっ!!』
「やめてぇっ!!」
「………………………………五月蝿い(怒)」
「『…………はい、すみませんでした(泣)』」
地の底から響くような恐ろしい声。
+αで鋭い視線。
背筋が寒くなるようなそれに、反射的に謝ってしまった。
――だって無茶苦茶怖いじゃん!!
「ルフィア、それを仕舞え」
『あ、はい』
手に持っていた拳銃を、腰のホルスターにしまう。
「アヤたんを怒らせるとスッゴく怖いから気をつけた方がいいよ」
ヒュウガ少佐がヒソヒソと話し掛けてくる。
『確かに怖いですね(汗)これからは怒らせないように頑張ります』
「何を話している?」
「『何でもありませんっ!!』」
――やっぱり怖いよこの人!!
*
「あ、そうだ!
アヤたん、オレ、ルゥたんと手合わせしたい!」
「「「「「『え……?』」」」」」
ヒュウガ少佐が、突然妙な事を言い出した。
「……ふむ、面白そうではないか」
――参謀、賛成しちゃうんですか!?
『わ、私は遠慮しておきます』
「ルゥたんが遠慮したらダメだよー!」
『いいじゃないですか…』
「ルフィア、お前に拒否権は無い」
『なんて横暴なっ!!』
――チッ、こうなったら……
拒否権はあるものじゃない、作るものだ!!
“意味分かんねぇよ”
私はブラックホークの皆さんに背を向け、ドアに向かって全力でダッシュ!!
『……うぎゃっ!!?』
しかし、右足が何かに引っ掛かり、私は思いっ切り転んでしまった。
床に打ち付けた額をさすりながら足を見ると、黒い物体――鞭が絡み付いていた。
それの端を握っているのは、当然、あの人で。
『あ…アヤナミ参謀長官…?』
「言っただろう?お前に拒否権は無い」
黒い笑みを浮かべながらそう言い放った参謀長官様。
――嫌だぁぁああっ!!!
私、こんな上司の下で働くなんて事出来ない!!
“……………………ドンマイ☆”
――ルークのバカヤロー!
「アヤた~ん、訓練用の部屋で空いてるトコあるって~」
「よし、行くか」
「「「「はい」」」」
『えぇー……』
「…………。」
『すみませんでしたっ!!』
アヤナミ参謀、無言で睨まないでください!(汗)
怖いですから!!
こうして、何故か私はヒュウガ少佐と手合わせするはめになってしまった。
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