第五話 夜
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“なぁルフィア、散歩に行かないか?”
ルークの一言で、私は夜の市街地へ散歩に行く事になった。
…………昼にも街へ出掛けたにもかかわらず。
* * *
黒を基調とした私服に身を包んで家を出る。
夜のひんやりとした風が肌に心地良く当たった。
“…………で、何処行くんだ?”
――ルークが言い出したのに何でそういう事を言うんだ。
まったく……。
『とりあえず、通行ゲートの近くにある大通りまで行こっか』
“了解”
美味しいプリンを売っているお店があるから、それを買いに行こう。
それから私が手に取ったのは、板にローラーをくっつけた物体――俗に言うスケボーだ。
それを操作系ザイフォンで浮かばせてからそこに乗る。
これは私がよく使っている交通手段だ。
ちなみに、座りたい時にはスケボーの代わりにほうきを使ったりもする。
『よぉ~し、目的地までひとっとびだ~!』
“お前、他の人から見たら一人で喋ってる変人だぞ”
そんなルークの冷たい言葉を無視して、私――私が乗っているスケボー――は暗い道を音も無く走り出した。
* * *
第一区の中でも最も広いこの公園は、第一区と第七区を結ぶ通行ゲートのほぼ正面といった場所に横たわっている。
そのため、中心部から通行ゲートに向かう場合、この公園を通り抜けるほうが近道になる。
その通行人を通すため、幅の広い通りが公園の中に造られていた。
そこでは夜中でも――昼間よりは少ないが――多くの人々が行き交っていた。
その道の端に設けられたベンチで、私はホットココアを飲みながら通行人達を観察していた。
“そろそろ来るんじゃねーか?”
――え?誰が?
“お、来たぞ”
ルークが示した方向に目を向ける。
すると、見慣れた顔が目に入った。
私はココアの缶をベンチに置いたまま立ち上がり、“彼”の正面に歩を進めた。
* * *
『ミカゲ、』
名を呼ぶと、彼は驚いて視線を泳がせ、それからようやく私を視界に捉えてまた驚いた。
「ルフィア!?何でこんな所に……?」
しかし、驚いたのは彼だけではなかった。
『ミカゲ……何で……?』
――何で?
――何故魂が半分しか無い?
こんな状況は予想外だった。
「ごめん、オレ、早く行かなきゃ」
何故かよそよそしくそう言ったミカゲ。
そのまま去ろうとした彼を、私は反射的に引き止めた。
『ミカゲ、これあげる』
私はポケットに手を突っ込み、あるモノを取り出した。
それをミカゲに渡す。
「黒い……羽根?」
彼は渡されたものに不思議そうに目を向けている。
『お守り。もし貴方が正しい道を見失って絶望の淵を彷徨うような事になったら…………
その時にはこの羽根が、貴方の魂を導いてくれるはずだから』
――そんな結末を望んでいるわけではない。
ただ、最悪のパターンを考慮した“保険”に過ぎない。
でも、なんだか嫌な予感がする……。
「…………よく分かんねーけど、ありがと!」
いつものようにニカッと笑ってそう言ったミカゲ。
本当に、いつも見ていた笑顔なのに、
――何故だろう、胸が苦しい。
「っ、そうだ!ルフィア、お前大丈夫か?何かされてねーか?!」
突然顔色を変えて私の両肩に手を置かれ、少しびっくりした。
『え……、何かって?』
「テイトの事で、酷い事とかされてねーか?」
彼のその言葉に僅かに疑問を覚えた。
ただ単純に私の事を心配してくれているのか、
それとも、彼が何かされたのか。
『私は大丈夫だよ』
「そっか。よかった……」
私が微笑むとミカゲは安心したように顔を綻ばせて、私の肩から手を下ろした。
「…………オレはそろそろ行くよ。――またな、ルフィア」
彼はそう切り出して、何かから逃げるように通行ゲートの方に歩き出した。
一歩一歩遠ざかっていくミカゲの背中。
『…………うん。またね、ミカゲ』
――本当は、
“また”なんて無いかも知れないのに。
それでも彼は“また”と言って笑っていた。
いや、彼も分かっていたのかもしれない。
分かっていて、それでも――…
* * *
見えなくなった彼から視線を外して、元居たベンチに戻る。
『……うわ、ココア冷めてる』
放置していた缶の冷たさにため息をついてから、近くの売店へ足を運んだ。
ホットココアの缶を手に取って、会計のおじさんに差し出す。
『これください』
「お嬢ちゃん、…………これで五本目だよ?(汗)」
『……あははは(汗)』
おじさんの言葉に苦笑いしながらも、100ユースを渡してその売店を出る。
歩きながら缶のプルトップを立てれば、飲み口からほのかなココアの香りと白い湯気が立った。
ずず、と甘いココアを啜る。
――何故、ミカゲは“あんな事”になった?
アレは普通の人間に出来る事ではない。
軍に、魂を操る能力を持った人間が居るということか。
“……そういうことになるだろうな”
ミカエルやラファエルにはそんな能力は与えられていない。
ならば、セブンゴーストか、フェアローレンか。
“要注意だな”
うん……。
『さて、ゲーセンにでも行きますか』
“ってオイ!何言ってんだよ!?”
いーじゃん別に。
なんか暗い気分になっちゃったし、今日ぐらい遊ぼうよ!
“明日からベグライター研修だろ?!
っていうか、プリン買いに行くんだろ?”
――そうだよ!プリン買わなきゃ!
あと、明日の事は大丈夫だよ!私は寝なくても大丈夫だもん。
“……はぁ、わかったよ”
『~♪』
ルークを渋々承諾させた私は意気揚々としながら、ベンチの近くに置いてあったスケボーに乗って夜の街へと繰り出していった。
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