第四話 街へ
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「君には少将のベグライターになってもらうつもりだったのだが、色々とあってね。
急で申し訳無いのだが、参謀長官のベグライターになってもらえないかね?」
今朝、理事長室に呼び出された私は唐突にそう言われた。
その場では、
『…はい、わかりました』
と二つ返事で承諾したものの、冷静に考えてみると失敗したような気がしてならない。
参謀長官といえば、“冷血”“超怖い”“部下でも簡単に殺す”等の恐ろしい噂が絶えない人物だ。
更に、あのテイトが問題を起こした相手なのだという点も忘れてはならない。
そんな人のベグライターなんてこちらから願い下げだ。
だが、了承してしまったからには、これからベグライターとして働かなくてはいけない。
『(なんか、前途多難だなぁ……)』
これからの事を考えると憂鬱な気分になる。
そして、そんな気分を晴らすために、私は街に来ていた。
様々な店が立ち並ぶそこは活気に溢れていた。
「お嬢ちゃん、このネックレス買っていかないかい?」
「君、ぜひ私達の店に寄っていってよ」
街に立つ人は声をかけてくる。
そして、
「君、可愛いね」
「お嬢ちゃん、金出せや」
絡まれた。
二人組の若い男が私に詰め寄る。
――正直、面倒臭い。ウザい。
こういうのはさっさと追い払う方が良いだろう。
――良い言い訳が思い付かないが…。
『…………すいません、私、急いでいるので……』
「そんな事言うなよ」
「ゆっくり話そうぜ」
『いや…でも…。早く帰らないと……』
「だいじょーぶだよ」
「そんなに時間は掛かんないからさ」
しつこいな、こいつら。
適当に言いくるめられればよかったのだが…………世の中、そう上手くは行かないようだ。
こうなったら仕方ない。
『……こんな所で話しているのもアレですから、その辺の路地裏にでも行きませんか?』
“おい、止めとけよルフィア!”
ルークはそう言っているが、
「おっ、いいのか?」
「よし。行こうぜ」
二人は簡単に引っ掛かってくれた。
そのまま路地裏に入る。
“……オレは忠告したからな。どうなっても知らないぞ”
――いや、私はどうにもならないよ。
「さて、どーするんだい、お嬢ちゃん?」
下品な笑みを浮かべて男が言う。
『どうするって、ウザい輩は退治しようと思いまして』
それに私も笑顔で返す。
「あぁ?ナメてんのか?」
『まあ、雑魚が相手ですから』
「んだとこのアマァ!!」
相手はキレて拳を振り上げた。
しかし、それが振り下ろされる事は無かった。
「「!!?」」
彼等の手や足、首には真っ黒な闇徒が巻き付いていた。
顔には恐怖の形相が浮かんでいる。
「まさか……黒法術師……!?」
『当たり♪じゃ、これ以上話してても時間の無駄だから。さよなら』
その言葉を合図に、巨大な闇徒が彼等を覆った。
“……殺したのか?”
――いや、気絶させるだけ。
“じゃあ、その後はどうするんだよ?黒法術師だってバレてんだぞ”
――あー、そっかぁ。じゃあ記憶でも消しとく?
“出来るのか?お前に”
――器用じゃないから消すなら全部すっからかんになっちゃうけど。
“…………駄目じゃねーか”
――……一応“消す”という本来の目的は達成できるからいいの!
“で、本当に消すのか?”
――んー、正直面倒臭いんだよねー。
疲れるし。
二人分ならなおさら。
――殺しちゃうのが一番手っ取り早いんだけど、バレた時が困るんだよね……。
“じゃあ、ネレに頼めばいいんじゃね?”
――おぉ、なるほど!
…………ところで、ネレ起きてる?
“…………さあ?”
ネレというのは、私の心の中で会話出来るという点ではルークと同じような感じの存在である。
しかし、ルークと違って、彼女は私の代わりに身体を動かしたりすることが出来る。
私が疲れている時には彼女に代わり活動してもらって、私は引っ込んで眠るといった事も可能なのだ。
……可能ではあるのだが、滅多にそんな事は出来ない。
なぜなら、彼女はほぼ常に寝ているからだ。
何故そんなに寝ていられるのか不思議なくらいに寝ているのだ。
でも、彼女は物凄い力を秘めている。
強大な闇の力を操ったり、普通の人間には出来ないような事をいとも簡単にやってのける。
そんな訳で、記憶の消去をネレに依頼しようと思ったのだが……。
――おーい、ネレさーん。起きてますかー?
……。
返答無し。
――ネレさーん。超絶美人なネレさーん。若作りな2000歳超えのネレさーん。実はショタコンのネレさーん。
“…………有る事無い事言わないでください”
“お、起きた”
――何を言えば起きるかなんて大体把握してるんだからね!
“……で、何で私を起こしたのですか?”
――こいつらの記憶を消去してもらえない?
“つまりは雑用という事ですか”
はい。そうです。
“…………わかりました”
――よし、入れ代わるぞ!
私はゆっくり目を閉じる。
フッ、と身体の感覚が消えれば入れ代わり完了。
『……この二人の記憶を消せばいいのですか?』
――そうだよー。
その後、ネレは彼等の記憶を消した。
一分とかからない早業。憧れる……。
『これでよろしいでしょうか?』
――うん、上出来だよ。
『では、戻りますね』
――了解~
少しすると、身体の感覚が戻ってきた。
目を開ける。
『よし、これで一件落着だね!』
地面に寝ている二人を放置して、その場を後にしようと――
「こっ、この気配は…!姫様ですか!?」
『……へ?』
――後にしようとしたところ、誰かに呼び止められた。
振り返った先にいたのは、骨だけの翼を持った奇妙なモノ――いわゆる“使い魔(コール)”だ。
「お久しぶりです、姫様!!」
『久しぶり、アリア』
このコールの名前はアリア。
昔からの友達だ。
普通の人には、コールの言葉は『三つの願いを……』云々というものしか聞こえないらしいのだが、それはとても不思議だ。
なぜなら、私は彼等と普通に話す事が出来るのだから。
「お元気でしたか?」
『見てのとおり、元気だよ』
「よかったです~。姫様が学校でイジメられたりしてたらどうしようかと思ってました」
『大丈夫、やられたらやり返すから!』
「流石です!」
“どこがだよ”
――ルークは黙ってろ。
「ところで姫様、どうしてこんな所に――」
「見つけたぞ!!」
アリアの言葉を、聞き覚えの無い声が遮った。
『(だ、誰……!?)』
「あ、そういえば私、司教に追われてたんだっけ」
『そういう事はもっと早く言いなさいアリア!!』
「そこのコール、早く成仏しやがれっ!!」
“いや、成仏って、違くない?”
近くの物陰から、法具(バクルス)を持った人間が飛び出してきた。
見た目どおり、司教のようだ。
「そこのお嬢ちゃん、危ないからそいつのそばに寄っちゃ駄目だぞ!」
「えぇっ!?どうするんですか、姫様!」
『そうだねぇ……。
選択肢① 司教と戦う
選択肢② アリアを見捨てて逃げる
選択肢③ 皆で逃げる
さあどれだ!!』
「②は嫌っ!」
“①はまずいだろ”
『よし、消去法で③だね!』
あっという間に答えは決まった。
司教さんに背を向けて、全力でダッシュ!!
「あ、こら!待ちなさい!!」
――待てと言われて待つ馬鹿は居ないんだよ!
とりあえず、全力で走った。
人混みの中、細い道、屋根の上。
時にはつまづき、時には見知らぬ人とぶつかり、時には落とし穴に落ちたりもした(何で落とし穴…?)。
他にも、木の枝が引っ掛かったり靴が脱げたりといろいろなアクシデントがあった。
そして、なんとか司教を巻く事に成功した。
『つ、疲れた……』
「大丈夫ですか?姫様」
『…………アリア、その“姫様”っていうの、やめない?』
「どうしてですか?」
『……何か、嫌だし』
――それに、“姫様”は私じゃないし。
「…………じゃあ、ルフィア様でいいですか?」
『様もいらないんだけどなー』
「そこは譲りません!!」
……何でだよ。
『……とにかく、無事でよかったね、お互い』
「そうですね。
……ところでルフィア様、聞き忘れてたんですけど、何であんな所に居たんですか?」
『それは……………………何でだっけ?』
“忘れたのかよ”
忘れたよ。綺麗さっぱり。
“…………憂さ晴らしだろ?”
『あ、そうだよ!聞いてよアリア。私、ヤバい人のベグライターになっちゃったかも知れない』
「……ベグライターって、何ですか?」
『知らないのか……。
ベグライターっていうのは幹部補佐の事で、まぁそれなりに偉い人なんだよ』
「偉いならいいじゃないですか」
『上司が問題なの!』
「ルフィア様なら大丈夫ですよ。いざとなったら殺しちゃえばいいじゃないですか」
『よくないんだよ!』
何という事を言い出すのだ。
参謀長官ともあろうお方がそう簡単に殺されてくれるはずがないだろう。
――アリアと話していても時間の無駄だ。
『………………ところで、ここは何処?』
“さぁ?オレにもさっぱり分からない”
「何処なんでしょうね~」
……え、どうするの?
無我夢中で走ったおかげで帰り道はさっぱり分からない。
これでは迷子ではないか。
なんとかして、自分が知っている場所までたどり着かなければ…………
「あっ!私、用事があるんです!なのでお先に失礼しますね~」
突然そう言い出したアリア。
それだけ言い残して、あっという間に去っていった。
――……逃げやがったな、あいつ。
それにしても……
『これからどうしよう……』
“誰かに尋ねるしか無いだろ。何処に居るのかすら分かんないんだから”
――そうだよね~
『よし、あそこに居る通りすがりの人に聞いてみよう!』
視界に入った、面白い髪型の人に話し掛ける。
……そのくるくるは一体…?
『あの、道に迷っちゃったんですけど、よかったら教えてもらえませんか?』
「ん?いいけど……
私も迷子だよっ☆」
――マジかよぉ……。
人選ミス!!
問題が増えてしまった。
「私は第一区にある教会に行きたいのだが、何処にあるのか知らないかい?」
『教会なら、確か私の家の近くにもありましたよ。
…………何処に自宅があるのか分かりませんけど』
「……では、君が知っている場所まで辿り着けばいいのか」
『え、辿り着けるんですか?』
「もちろん」
訂正。
この人目茶苦茶使えるじゃん!
よかった~、これで帰れるぞ。
彼はおもむろにバクルスを取り出して、地面に立てる。
手を離すと、それがパタンと倒れた。
「よし、こっちだよ」
バクルスが倒れた方向に歩き出す彼。
『あなた、司教だったんですか!?
っていうか、それって棒倒しですよね!?』
「大丈夫、神様が導いてくださるよ☆」
『…………。』
再び訂正。
やっぱりこの人使えない!!
“……これからどうなるんだろうな、オレ達”
ブルーな気分になったものの、他にあても無く、仕方なく彼に付いて行く事にした……。
* * *
「ここは…………」
『士官学校に…着いた……』
“マジかよ……”
現在地、士官学校前。
彼の行く方向に付いて行く事約30分。
私達は士官学校に到着した。
…………何と言う事だ。
『まさか棒倒しで本当に辿り着けるとは……』
「神のお導きだね!」
この人、本当にすごいね……。
超常現象か?
“……たまたまだろ、たまたま”
『どうすると棒倒しで目的地まで行けるんですか?』
“いや、目的地ではないだろ”
「う~ん……何でだろうねぇ」
――本人にもわからないんですね。
『そういえば、教会に行くんですよね。ここからなら案内できますよ』
「本当!?助かるよー、ありがとう!」
しばらく歩いて、彼を教会まで送り届けた。
その際、お礼という事で、今日のラッキーアイテムだと言う白いリボンをもらった。
……どうやら彼は占いが大好きらしい。
彼と別れた私は、そのまま家路についた。
『……なんか、すごく疲れた気がする……』
“……街に出た意味がなかったよな、今日”
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