第三話 逃走
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「♪戻らない 緋色のカケラ 握りしめてさ迷い続けてく
君を映し出せるその瞳を探し出すまで」
卒業試験の翌日。
今日は何もやる事が無いらしく、一日自由だそうだ。
……そんなわけで、機嫌良く歌いながら、昨夜からぶっ通しでゲームをやっているルフィアです(笑)
今はちょうど昼頃。
先程昼食(菓子パン)を食べて、今からいよいよ裏ダンジョンへ向かう。
“……ルフィア、誰か来るぞ”
ルークが言った。
3秒後、部屋のドアがノックされる。
開けると、テイトとミカゲが居た。
「よぉルフィア!オレ達とトランプ一緒にでもしようぜ!」
「やる事無くて暇だからな……」
というわけで、私を誘いに来たらしい。
これから裏ダンジョンに行くつもりだったが、彼等と遊ぶのも良いだろう。
『うん、いいよ~。セーブするからちょっと待ってて』
「オッケー」
「……って、学校に何持ち込んでるんだよ!?」
『何って、ゲーム?』
「ゲームは禁止されてるはずだろ!」
え、そうだっけ?
『そんなの知らなかったよ』
「…………ハァ」
テイトはすごく残念そうにため息を吐いた。
『ちょ、そんな顔しないでよ!私が残念な子みたいじゃん!』
「実際、頭は残念だよな」
『酷っ!(泣)』
――……テイトのバカヤローッ!!
テイトの言葉に軽くショックを受けながらも、セーブポイントまで速攻で行ってセーブする。
『よし、行こうぜ二人共!!』
「……何かテンション高くないか?」
『え、そう?寝てないからかな?』
「は?寝てない?」
『うん。昨日から徹夜でゲーム☆』
「バカだろ」
テイトの、本日二度目の酷い発言。
『……テイト、それはちょっと酷くない?』
「ルフィアだってオレ達が徹夜した時に“バカだね”って言ったじゃないか」
『う……』
テイトめ……そう言われたら言い返せないじゃないか……
まあ、そんなこんなでテイト達の部屋へやって来た私は二人と共にトランプで遊んだ。
ババ抜きで負けまくるミカゲ(笑)
本当に、面白いくらい負けまくっていた。
それに対して、テイトはなんだかんだ言って強かった。
……うん、わかった。きっと二人じゃ勝負にならないから私を呼んだんだね。
*
しばらくしてからテイトが言った。
「あ、シグレ先生にレポート出すの忘れてた」
……それは大問題じゃないのか?
「やべぇじゃねーか。早く出してこいよ」
「あぁ、行ってくる」
「さっさと帰ってこいよ~」
『帰ってこなかったらテイトに変なあだ名付けてあげるよ』
「それは絶対嫌だ!」
そんな感じでテイトを送り出した私とミカゲ。
二人でババ抜きはつらいので神経衰弱を始める。
かなり時間が経ち、ミカゲが口を開いた。
「そういえば遅いな、テイト」
『そうだねー』
「あいつ何やってんだ?」
『もう5時間くらい経ってるよね~』
「いや、まだ2時間も経ってないぞ」
『まさか、シグレ先生と禁断の――』
ゴッ!!
「へ、変な事言うなよ!」
ミカゲに、近くにあった本で頭を叩かれた。
……痛い(泣)
地味に痛いよ、ミカゲ君。
と、その時、ちょうど良い(?)タイミングでドアがノックされた。
テイトだったらノックせずに入ってくるはずなので、違うのだろう。
ミカゲがドアを開けると、数名の軍人が部屋に入ってきた。
びっくりして立ち尽くす私達をよそに、彼等は部屋の中を物色してはいくつかの物をダンボール箱に放り込んでいく。
私はミカゲに近寄って、小声で話し掛けた。
『ねぇ、この人達何?テイトの物ばっかり持ってってるみたいだけど……』
「オレにも分からねぇ…」
ミカゲも小声で返す。
一通り作業を終えたらしい軍人が、こちらに話し掛けてきた。
「テイト=クラインの私物はこれだけか?」
「はい……。アイツどうしたんですか?」
それに答えたミカゲが疑問を口にする。
「……あのアヤナミに刃向かうなんて、もう終わったな」
「しっ!余計なことを言うな!」
軍人の一人が漏らした言葉に私達は顔を見合わせた。
その後、彼等が去っていった後でミカゲが言った。
「……オレ、ちょっと行ってくる」
そのまま部屋を出て行こうとするミカゲ。
私は彼の腕を掴んで引き止める。
『……テイトの所に行くの?』
「当たり前だろ!親友を放っとくわけにはいかねぇんだ!」
辛そうに顔を歪めるミカゲ。
『……分かってるよ……』
――ミカゲならこう言い出すと、分かっていた。
「……なら行かせてくれよ、ルフィア」
私が掴んだままの腕を引くミカゲ。
しかし、私は離さない。
『何の考えも無しに突っ込んでいくつもり?』
「どういう意味だよ?」
『むやみに行動したって、自滅するだけだよ』
「っ、でも……!」
苛立ちの混じった声でミカゲが言う。
『冷静に考えなよ。テイトは何処に居る?行ってどうするの?』
「……それは…」
答えられずにいるミカゲ。
私はようやく彼の腕を離して言った。
『頭を冷やそう?ミカゲそんなんじゃ、テイトの事を助けられないよ』
「…………わかった」
渋々了承したミカゲを近くの椅子に座らせてから、私達は話し合いを始めた。
『まず、テイトが何処にいるか。これは地下牢で間違いないよね』
「あぁ。別の場所に連れて行かれていなければの話だけどな」
『じゃあ、そこに居たとする。それからどうするの?』
「助け出すに決まってる!!」
『うん。そうすると……
助けた後にテイトを匿うのは不可能に近いから、ここを脱出させる必要がある』
「ならホークザイルをかっぱらっとけば良いよな」
『確か、ホークザイルを隠しておくのにちょうど良い場所があったから、そこに置いておけば良いと思う』
「そうだな」
『そこまでの道は分かってるよね?』
「当たり前だ!」
『よし、じゃあ行こう!』
私は立ち上がり、ドアに向かって歩き始めた。
「おい、待て!」
ミカゲに呼び止められて、振り返る。
『何?』
「何処に行くんだよ?」
『何処って、テイトの所に決まって……――わっ!』
突然ミカゲに腕を掴まれてそのまま引きずられる。
――これではさっきと逆じゃないか。
テイトとミカゲの部屋を出て、私の部屋までやって来た。
ミカゲは部屋のドアを開けて私をその中に押し込んだ。
『ちょっと、何するの!?』
「お前はここに居ろ」
『何で!?私も一緒に――』
「こんな危険な事にルフィアを巻き込むわけにはいかねぇだろ!」
『私は大丈夫だから!』
「いいからここに居ろ!!」
そう言うとミカゲはドアを閉めてしまった。
押しても引いても、叩いても蹴っても、ドアは開かない。
どうやら、ミカゲがザイフォンか何かでロックしてしまったらしい。
「じゃあ、オレは行ってくるから。ちゃんと待ってろよ、ルフィア」
その言葉の後に、去っていく足音が聞こえた。
人の気配が無くなる。
『…………バカ』
――私は黒法術師なのだから、私がついて行けば、衛兵を倒す事もテイトをどこか遠くに転送する事も訳無かったのに。
……私が黒法術師である事は隠しているから知らないのは当然だが。
その気になれば、この部屋から出る事くらい簡単に出来る。
しかし私は部屋から出なかった。
……いや、出たく無かったのだろう。
ここに居ればこれから起こるであろう“何か”を見ないで済むと、心のどこかで思っていた。
目前に迫っているであろう“別れ”から目を逸らしたかった。
だからこうして一人で部屋に閉じこもっている。
――こうやって、いつも前に踏み出せないのだ。
でも、それでもいいと私は考えていた。
悲しい未来が待っているのなら、私は空っぽの過去に浸っているほうがずっとよかった。
……もう、傷付くのは嫌だった。
明かりの点いていない部屋には青白い月の光が差し込んでいた。
瞼がやけに重く感じる。
こんな心情で眠くなるというのもおかしな話だが、きっと昨日徹夜したせいだろう。
ずっとこのまま居るのも嫌だったので、正直、有り難かった。
私はそのままベッドに倒れ込み、眠気に逆らう事無く目を閉じた。
――まるでこの現実から逃れるかのように。
今起こっている出来事がすべて幻だったらいいのにと、あるはずのない事をぼんやりと考えながら、私は眠りに落ちていった。
* * *
(ミカゲside)
――この作戦がバレたら、オレ、死ぬかもしんねーな…。
衛兵がこちらを向いていないのを確認してからテイトが囚われているであろう場所に向かって走る。
少し進んだ所で、入口が見えてきた。しかし、
「!?」
そこから覗いていた衛兵の手に驚きを隠せない。
中を覗き込むと、床に横たわる数名の軍人が視界に入った。
その中心に立っていたのは、オレが探していた人物で――…
「テイト!お前…!」
彼の名を呼ぶと、テイトは驚いたように目を見開いてこちらを向いてから、悲しそうに微笑んだ。
「ごめん……オレ、もうここにはいられない。今までありが…――」
テイトが最後まで言い終わる前に、オレはテイトの手を握って走り出していた。
「よせっ、お前を巻き添えにしたくない!!」
「殺されてーのかバカ野郎!!あのアヤナミに楯突いて生きてる奴はいねーんだ!!」
テイトの手を強く握りしめたまま、月明かりが照らす廊下を走る。
「今は逃げて生き延びろ!!他には何も考えるな!!」
――オレの親友を殺させたりはしない!!
その一心で、ひたすら走った。
「この先にかっぱらったホークザイルがある!!急げ!!」
なんとか誰にも見つからずに目的の場所まで辿り着けそうだった。
しかし、
「そこの二人!!何者だ!!止まれ!!」
あと少しの所で二人の衛兵に出会ってしまった。
だが、ここで止まる訳にはいかない。
走っていたスピードを利用して、衛兵の頭上を飛び越える。
着地して衛兵に向き直る――…
……首筋に違和感。
「!?」
「動くな!!」
「テイト……」
「動けばこの人質を殺す!!」
テイトが、オレの首筋に突き付けたナイフを握る力を強めた。
「下がれ!!」
テイトが威嚇すると、衛兵達はたじろいで距離を取ろうとする。
「お前まで罪人にする訳にはいかない、ミカゲ。ここから先はオレ一人で行かなきゃ……」
テイトは、衛兵達には聞こえないような小さな声でそう言った。
彼はオレが罪人にならないように人質として利用しているのだ。
――彼の脱走を手伝ったオレを守るために…。
「オレ達は――」
不意に、テイトが切り出した。
「――ずっと最高の親友だよな」
そう言ったテイトは、笑っていて、泣いていた。
オレの答えは決まっている。
「当たり前だ」
――行け!テイト!!
次の瞬間、テイトはオレの背中を強く突き飛ばした。
彼はその反動で、後ろの茂みに隠してあったホークザイルに飛び乗る。
オレはそのまま衛兵二人を巻き込んで倒れ込む。
「追えーっ!!」
「テイト=クラインが逃げたぞーっ!!」
そんな声が飛び交う中、テイトを乗せたホークザイルは空高く舞い上がり、遠くへと飛び去っていった。
途中、誰かがザイフォンで攻撃を仕掛けたようだったが、防御壁を張っていたからきっと大丈夫だろう。
――絶対に生き延びてくれよ、テイト。
オレは、テイトの姿が完全に見えなくなった後も、青白い月が浮かぶ空を見上げていた。
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