Merry Christmas!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なーんでクリスマスなのに出仕しないといけないのかなー……」
「ほんとだよねー……せっかくのクリスマスなんだから休みにしてくれてもいいのに……」
「まあまあ、そんな不機嫌そうな顔は良くないですよ。クッキーを焼いてきたので皆で食べませんか?」
「「「『クッキー!!』」」」
今日は12月25日。
世間一般ではクリスマスと呼ばれている日だ。
しかし、残念ながらクリスマスだからといって私達の仕事が休みになるわけではなかった。
客人の応接用に設けられたソファーに座りあれこれ文句を言っていた私達だが、大佐が沢山のクッキーを乗せた皿を持って来たことで、一転して明るい表情になった。
皆して我先にと言うまでもなく美味しいクッキーを頬張っていると、大佐が今度は飲み物を持って来てくれた。
私とクロユリ君はココア、他の方々はコーヒーだ。
わざわざ全員に配ってくれたカツラギ大佐に礼を言い、温かいココアを一口飲むと、優しい甘さと僅かなほろ苦さが口の中に広がった。
「お待たせしました」
そうしていると、今度はハルセさんがトレーを持って現れた。
その上に乗っていたのは、
『ケーキ…っ!!』
多種多様なミニケーキの数々だった。
ショートケーキ、チョコレートケーキ、ロールケーキ、フルーツタルト、モンブラン……。
種類も様々、見た目も色とりどりで美しい。
本当に美味しそうなケーキの数々だ。
「待ってたよハルセ!」
隣に座っていたクロユリ君が歓声を上げる。
ハルセさんはまず、私達からは少し離れた場所でコーヒーを啜りつつ書類に目を通していたアヤナミ様の所へ向かい、どれが良いか聞いてケーキを一つ渡し、それから私達の方へ向かってきた。
「僕ババロアー!」
『ショートケーキは私のものです!』
「ちょ、ルゥたんずるい!!」
「調子に乗って多く作りすぎてしまったので、皆さんの分は十分ありますから……落ち着いてください…」
私達が身を乗り出しすぎたせいか、ハルセさんに困ったような表情でそう言われてしまった。
それに少し反省して、それぞれ大人しく食べたいケーキを取り、いただきますと手を合わせてから口へ運ぶ。
『美味しい…!』
ふんわりと甘いホイップクリームやスポンジ。
その中に混ざった苺の甘酸っぱさ。
それらがもう、とにかく美味しい。
ああ、とても幸せだ。
大佐のクッキーといいハルセさんのケーキといい、こんな時だけは今日も仕事があって良かったなぁ……なんて思ってしまう。
え…?こんなにのんびりしていてもいいのかって?
それが、案外大丈夫そうなのだ。
他の部署も今日がクリスマスだということに何かしら思うことがあるのか、回ってくる書類の量は普段に比べると格段に少なく、平常時に大量の書類達に忙殺されながらデスクワークのスキルを磨いてきた我々にとってはこの程度の量は敵ではなかった。
ゆえに、わりと暇なのである。
*
「にしてもさ、オレ思ったんだけど、クリスマスが休みじゃないのって上層部のおじいちゃん達にクリスマスの予定が無いからなんじゃないの?」
「あー、確かに無さそうだよね」
「寂しそうですね…。仕事だけが生き甲斐というやつですか」
「頭も寂しくなってくる頃だしね」
『…………まあ、私も仕事が休みになったところで特に予定は無いんですけどね』
「「「……………」」」
私が口を開いた瞬間、それまで和気あいあいとしていた執務室が突如沈黙に包まれた。
そして、ぽつぽつと聞こえてくる暗い溜息。
「ルフィアさん、それは言ってはいけないことでしたよ……」
『え、す、すみません』
「いっつも忙しいからねー……クリスマスを一緒に過ごす相手なんて居ないよねー」
「そうなると……結局このメンバーで集まって食事とかしてそうですよね…」
「それじゃあ今と全く同じじゃないですか」
どうやら、私の発言のせいで皆さんのテンションは急降下してしまったらしい。
これは大変だ、何か、何か別の話題を降らなくては。
『あ、でも、聞いてくださいよ!私、今日これから任務入っちゃったんですよ!!』
「え!?何の任務?」
私の発言に、少佐が食いついた。
『なんでも、第一区の有名なショッピングモールに変なグループから爆弾を仕掛けるという脅迫状が届いたらしくて……そこに犯人が来たら捕まえてこいと』
「なーんだ、人斬れるなら代わってあげようかと思ったけど、それなら別にいいや。がんばってー」
『え!?代わってくださいよ!!』
「やだ。斬れないんじゃつまんないもん」
『少佐のばかー!』
少佐らしいといえばその通りな発言なのだが……。
任務よりはデスクワークの方が楽なので、正直に言えば本当に代わってほしかった。
とは言え、駄目なものは仕方が無いし、元々は自分の仕事なのだから投げ出さずに自らこなすべきなのだろう、とは思う。
「ルフィア、時間だ。行くぞ」
アヤナミ様がそう言って席から立ち上がった。
時間というのは、当然件の任務に出立する時間だということだ。
『はい!』
クッキーを二つ口に詰め込んで立ち上がる。
「頑張ってねー!」
『行ってきます!』
皆さんの声援も受けながら、私はアヤナミ様に続いて執務室を出た。
* * *
『おおー……!』
目の前には、綺麗に飾り付けられた巨大な円錐形のクリスマスツリーがあった。
一番上にはサンタクロースの人形があり、枝葉の部分には緑色が見えなくなるほどモールやオーナメントがびっしりあしらわれて、煌びやかに輝いている。
これほど豪華なものはなかなか見られないだろう。
『すごいですね!クリスマスツリー!』
「そうだな」
物珍しさに、ついつい気持ちが昂ぶってしまう。
『あーあ……プライベートで来たかったなぁ…』
「そういうものか?どうせ同じ物を見るなら仕事でもプライベートでも大して変わらぬと思うが」
『そんなことないですよ!大違いです!』
力説しようとしたが、彼には首を傾げられてしまった。
うーん……微妙に溝があるのを感じる…。
「参謀長官殿!」
声が聞こえて、私とアヤナミ様は後ろを振り向いた。
そこへ集まっていたのは、今回共に任務を遂行する憲兵の人達だ。
……というより、元々憲兵隊の案件だったものに、危険を伴う事案だから腕の立つ者の協力が欲しいという要請を受けて私達が派遣されてきたのだが。
「ご協力、感謝致します!」
「状況は?」
「あと一時間半ほどで爆破予告のあった時間になります。犯人グループは最近他の区でも事件を起こしている奴等で、人数は三人以上ということしか分かっていませんが、それほど規模の大きい組織ではないと思われます。先程犯人グループのうち二人が目撃され、追跡しましたがいずれも見失いました…。奴等はおそらく既にこのモール内に潜伏しているのもと思われます」
「まだ時間はあるな…。このショッピングモール内を手分けして捜索する。爆発物を発見したら速やかに処理班へ連絡、犯人を発見したら生かしたまま捕らえろ。全員一時間後にまた此処で集合だ」
「「はっ!!」」
アヤナミ様の指令にビシッと敬礼し、任務を遂行するべくそれぞれが人混みの中へと散って行った。
*
近頃人気なショッピングモールというだけあって、そこは沢山の人々で大賑わいだった。
服や靴の店、子供向けのおもちゃの店、お菓子の店など様々な店舗が並んでいる。
『あのケーキ、超美味しそう……』
そして、店頭のショーウィンドウに並べられたケーキを眺めて呟く私。
“仕事中だろ"
『うぐ……わ、分かってるよ…』
そんなやり取りをしながら歩く。
それにしても、こんなに人が多いのに、その中から犯人を見つけることができるのだろうか…。
と、そんなことを思い始めた矢先。
『…………あっ』
植え込みの横のベンチに座り、何やらやけに周囲を気にしながら紙袋をガサゴソ漁る男を見付けた。
――なんか怪しくない?
“怪しいな"
その人物は見るからに挙動不審だった。
とりあえず、人混みに紛れつつ気付かれないよう背後から近付いてみようか。
出来るだけ自然な感じを演出しつつ移動し、あと数歩の所まで近付いた、まさにその時。
「あ!」
振り向いた容疑者さんと目が合ってしまった。
そして、
『あ、逃げた!』
彼は紙袋を抱え、ダッシュで逃げ出した。
『待てー!!』
やはり軍服は目立ちすぎるのだろうか。
私服か何かの方が良かったのではないかと少しばかり反省しながらも、まずは目の前の犯人らしき男を追う。
人混みをかき分け、時には人とぶつかりながら男が逃げる。
私はそんな彼がかき分けた隙間を走って追いかける。
大勢の人が行き交うショッピングモールの中は移動もそう簡単ではなく、なかなか思うようには走れない。
しかし、必死に逃げる男に突き飛ばされて驚き立ち止まる人もいれば、軍服に身を包んだ私を見て道を譲る人もいて、どちらかといえば先を走る男よりは私の方が楽に追いかけることができていた。
だいぶ彼と私の距離が縮まってきた頃、男は角を曲がり、細い通路に逃げ込んだ。
しかしそこは、関係者以外立ち入り禁止の扉があるだけの行き止まりだ。
男は扉に手を掛けたものの、それは鍵が掛かっていて全く開く気配は無い。
そこへ私が駆け付ければ、袋の鼠の完成だ。
『手荒な真似をするつもりはありません。その紙袋の中身を見せていただけますか?』
「や、やめろ!!来るな!!軍の犬めっ!!」
……何と言うか、軍人なのは事実なのだが、まだまだ若々しい女子のはずの私に向かってそういった反応をされると微妙な気分になる。
はぁ…、と溜息を吐きつつもザイフォンを出すと、今度はヒィ!と悲鳴を上げられた。
――これ操作系だから、そんなに怖がることないと思うんだけどな…。
自らの身を守るように顔の前に手を翳している男に向けてザイフォンを飛ばし、糸状にしてぐるぐる巻きに縛る。
そうして、彼は本当に呆気なく捕まった。
彼が持っていた紙袋を取り、中を覗く。
中には、タイマーらしきものが付いていて、コードも幾つか伸びているよく分からない機器が入っていた。
“当たりだな"
私はそこまで詳しくはないのだが、見た目は何となく時限爆弾っぽいし、こいつは犯人の一人で間違いないだろう。
タイマーは動いてないようだったけれど、万が一爆発してもそれが広がらないよう念のためザイフォンの障壁でそれを包み、縛った犯人を引きずって歩き出した。
*
憲兵隊の人達が数人待機している場所へ行き、爆弾と犯人を引き渡す。
そこには、どうやら私が捕らえたのとはまた別の犯人が既に一人捕まっていたようだった。
……私が捕まえた奴といい、そんな簡単に捕まっちゃっていいのだろうか…。
まあ、こちらとしては全員さっさと捕まってくれればとても楽なので、それに越したことは無いのだが。
そして、憲兵の人曰く、捕まえた犯人に話を聞いたところ犯行グループのメンバーは全部で五人居るらしい。
ならばあと三人ですね、と話していると、アヤナミ様と彼に着いて行った二人の憲兵もこの場所へやって来た。
犯人を二人連れて。
そうなると、残す所はあと一人だ。
「犯人は残り一人と思われます。どうしますか?捜索を続行しますか?」
「そうだな…」
憲兵隊の中でもリーダー格と思われる人とアヤナミ様が話し合い、再び散らばって捜索を始めようとした時。
「動くな!黒服共!!」
そんな声が響いた。
声の主は、どうやらこちらへ向かって近付いてくる、ポンチョのようなゆったりした服を着た男のようだ。
「何だ貴様は?!」
周囲に居た憲兵が武器を構える。
「俺の仲間を返してもらおう!!」
近付いてくる男はそう言った。
彼の発言を鑑みるに、どうやら犯人グループの最後の一人のようだ。
憲兵隊の人達もそれを察したらしく、確保に向かおうとするが、
「動くな!!」
そう言って、男はバッとポンチョを脱ぎ捨てた。
それによって露わになったのは、腰回りに幾つもぶら下げられた無骨な爆弾だった。
そして、それとコードで繋がっているスイッチらしきものが、彼の右手に握られている。
それを見て憲兵隊の人達は動きを止めた。
「いいか?!今すぐ捕まえた俺の仲間達を解放しろ!!さもなくば、この辺一帯が吹っ飛ぶことになるぞ!!」
男が起爆用と思われるスイッチを振り翳しながらそう叫ぶ。
そう言われると、こちらとしても迂闊には動けなくなる。
……とでも思ったのだろうか?
男が脅し文句を叫んだ直後、パン、という音が響いた。
「…………お?」
犯人は突然の物音にぽかんとしていたが、すぐに我に返って、
「てめえ何しやがる!!」
と、私に向かって叫んだ。
どうやら私の手に握られた拳銃から白煙が上がっているのに気付いたようだ。
「だが残念なことに外しちまったようだな!約束通り全部吹っ飛ばしてやるよ!!」
そう言って、まるで勝ち誇るかのように高らかに笑うと、彼はポチッと親指でスイッチを押した。
それを見て憲兵の数人が咄嗟に身構える。
…………が、
「………………あ、あれ……?」
何も起こらない。
何度もスイッチを押すが、やはり何も起こらない。
「な、何で爆発しねえんだよ?!…………あっ!!」
そこで彼はようやく気付いたようだった。
爆弾とスイッチを繋ぐコードが途中でぷっつり切れてしまっていることに。
「なっ、馬鹿な……ま、まさか、さっきので…………………うぐっ?!」
そして、何時の間にか彼の背後に回り込んでいたアヤナミ様の一撃によって、犯人は手際良く気絶させられてしまった。
*
「あまり無茶をするな、ルフィア。失敗していたらどうするつもりだったのだ…?」
気絶した男が憲兵隊に取り押さえられ、犯人達は全員が御用となった。
これで一件落着、と肩の荷が下りたところで、アヤナミ様にそう声を掛けられた。
彼が言っているのは、先程の私の行動のことだろう。
確かに、あの時狙いを外してしまっていたらみんな仲良く木っ端微塵になっていたに違いない。
『すみません……。でも、上手くいったんですから、それで良いんじゃないですか…?』
しかし、長引かせたところで状況が良くなったわけでもないだろう。
どうにかしてあの犯人が起爆装置を操作出来ないようにしない限り、ずっと睨み合いが続くだけか、時間稼ぎにしかならないような話し合いをするか、要求を飲んで捕らえた犯人達を解放するしかなかったわけだから。
「……まあ、それもそうだな。良くやった」
彼は直前までの険しい顔から一転して穏やかな表情になり、その言葉と共に私の頭を撫で始めた。
頭上で彼の大きな手が柔らかく動かされる感覚に、思わず口元が緩んでしまいそうになる。
何だかんだでアヤナミ様に褒めてもらえたし、こうして頭まで撫でてもらえたし。
今年のクリスマスは良いことずくめだなあ、と、私は心の中に広がる温かい気持ちを噛み締めた。
* * *
『思ったより早く終わりましたね』
「そうだな」
憲兵隊の人達と別れ、私とアヤナミ様は要塞へ帰るべく並んで歩き出した。
先程まで恐ろしい危険が迫っていたことなど嘘のように、ショッピングモールはたくさんの楽しそうな人々の笑顔で溢れている。
『帰ったらまた仕事ですねー…』
そんな人々とは対照的な状況に置かれた自分達のことを思うと、やはり苦笑いか溜息しか出てこない。
「ルフィア、」
急に、アヤナミ様が立ち止まった。
それにつられるように私も少し遅れて立ち止まり、彼の方を振り向く。
「折角こういった場所へ来たのだから、何か好きなものでも買ってやろう」
『え…!?いいんですか?』
その言葉に、私はほぼ反射的に目を輝かせた。
そんな事を言われてしまったら、私としては任務中からとても気になっていたアレをねだってみるしかないではないか。
『ケーキが食べたいです!』
「…………それは今朝食べた気がするのだが」
手を挙げながら全力で主張すると、アヤナミ様には微妙な顔をされてしまった。
確かに、今朝ハルセさんのケーキを食べたのも事実ではあるけれど。
『だ、ダメですか…?』
「他に欲しい物は無いのか」
『他……ですか…』
他に、此処で売っているようなもので良さそうなものはあっただろうか。
正直、仕事に追われる生活の中ではそれ以外のことに関心を向けられる機会は少なく、此処のこともほとんど知らなかったものだから、他と言われてもすぐには思い浮かばない。
うーん…と唸りながら頭を捻っていると、
「決まらぬなら仕方がない、」
なかなか次の言葉が出てこない私に痺れを切らしたのか、呆れ気味の声が降ってきた。
もしかして、何か買うという話はご破算になってしまったのだろうか。
期待してしまっていたから少し残念な気持ちもあるが、アヤナミ様に何か買っていただくなど恐れ多く、申し訳無くもあるから白紙撤回ならばそれでも構わないだろう。
そう考えていると、
「ひとまず色々と見て回りながら考えろ」
ぐいと手を引かれ、驚く間も無いままに、彼に続くようにして歩き出すこととなった。
当然というように繋がれた手と手。
『ま、待ってください…っ』
幸せなクリスマスは、まだまだ終わらない。
.