第二話 卒業試験
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* * *
暗い部屋の中。
私は冷たい床に座っている。
――此処は何処?
――私は何故此処に居る?
――此処に居てはいけない。
――何故?
――早く此処を出なければ。
――…出られない。
右足に違和感。
見ると、近くの柱に鎖で繋がれている。
――嫌だ。
――嫌だ嫌だ!
怖い……怖いよ………
――……?
そこで私は、部屋の外から物音がするのに気付いた。
まるで、誰かが争っているような、そんな物音。
――何が、起きているの?
物音は徐々に大きくなってくる。
それに叫び声が混ざる。
――…何?
その音に混ざって、足音が聞こえた。
カツカツと、規則正しいブーツの音。
――嫌だ。
――来ないで。
――人間は、
嫌いだ。
怖い。
恐ろしい。
足音は、確実にこちらへ近付いてくる。
そして、
足音が止まった。
少しの間の後、部屋のドアがゆっくりと開き始めた。
滅多に使われないそれはギーギーと音を立てる。
隙間から差し込む光が、闇に慣れた目にはやたらと眩しい。
ドアが完全に開いた時、そこに立っていたのは、
――?
黒い服を着た人間だった。
逆光で、その人の顔は見えない。
それでも、
――この人は、今までの奴とは違う。
その時、何故か私は恐怖を感じなかった。
そして、その人は私の方へ歩み寄り、
私に手を差し延べた――
* * *
普段よりも大分早い時間にセットされた目覚ましの音によって目を覚ました。
乱暴に叩いてベルを止めるのは毎朝の事である。
……そして、先程まで見ていた夢を思い出す。
夢とは思えない程に鮮明で、はっきりとしていたそれ。
それは、ただの夢ではなく、
――久々に見たな、あの夢。
幼い頃の記憶。
孤独と絶望と悲しみの中に居た私。
地獄のような日々。
悪夢のような世界。
そして、そこに差し込んだ一筋の光。
私のそれまでの世界を壊して、そこから連れ出してくれたあの人。
名前も、声も、顔すらも覚えていない。
けれど、あの時の光景だけは、今もはっきりと覚えている。
あの時差し出された手。
あの人は私に、“一緒に来るか?”と言った。
それは、私の世界が終わった瞬間であり、私の世界が始まった瞬間でもあった。
――そういえば、すっかり忘れていた。
私が軍に入る理由。入ろうと思った理由。
――あの人を探すため。
あの時の騒動は、屋敷に軍が突入したために起きたものだと後になって知った。
ならば、あの人も軍人であった可能性が高い。
……屋敷の人間であるわけがないのだから。
もし軍人でなくても、軍に入ってそれなりの地位になれば人探しくらい簡単に出来るようになるだろう。
そして、今日の卒業試験に合格する事は、私の目的への良い近道となる。
合格すれば幹部補佐になることが出来る。
それは、一般兵よりも昇進に有利という点で、私には魅力的だ。
――合格してやる。
私はそう決意を新たにして、ベッドから下りた。
* * *
顔を洗い、朝食(菓子パン)を食べてから仕度を始める。
制服に身を包んだ私は、鞄を持って家を出ようとした。
“おいルフィア”
ルークが話し掛けてきた。
……何か忘れ物でもしただろうか?
“コンタクト忘れてるぞ”
――あっ!!
ルークのおかげで助かった。
昔はコレのせいで酷い目に遭ってきたのだから、忘れるわけにはいかなかった。
急いで洗面所に行き、青のカラーコンタクトを手に取る。
鏡に映った私の瞳は、右が青色、左が黄色のオッドアイだった。
普段はカラコンで隠しているのだが、実際はこのような瞳の色をしているのだ。
左目にコンタクトを入れる。
――これでやっと学校へ向かえる。
私は家の戸締まりを確認してから、近道である裏路地を歩いて学校へ向かった。
* * *
「ハーイ、今日はいよいよ卒業試験でーす!
10人グループでそれぞれの会場に入って下さーい」
試験監督らしい女性軍人がテキパキと指示を出している。
……ちなみに、かなりの美人さんだ。
そんな中で、
「バカ」
「悪ィ…」
目の下に隈を作ったテイトとミカゲを発見した。
二人は結局、徹夜していたらしい。
『バカだね。せっかく忠告しといてあげたのに……』
「ミカゲのせいだからな!」
「だから、さっきから謝ってるだろ」
テイトは、若干ご機嫌斜めのようだ。
二人の言い争いを遮って、試験官の声が響いた。
「Aチーム入場ー!!」
「あ、オレ達はAチームだから行かなきゃ!」
「ルフィアは?」
『私はDチームだよ~』
「そっか」
『頑張ってね、二人共!』
「おう!」
「あぁ。ルフィアも頑張れよ」
『うん!』
二人は、女性軍人が待っている場所に駆けていった。
そして、ドーム状の施設の中に入って行った。
どうやら、そこで試験が行われるらしい。
“試験って何をやるんだ?”
――そういえば、何をやるんだろうね?
射撃とかだったらいいな~。
得意だから♪
そんな事を考えながら、生徒であふれているホールを歩いていた。
しばらくしてから、Dチームにも召集がかけられた。
試験官に案内されて試験会場に入る。
それから、試験官が試験の説明を始めた。
「今からみなさんには、この囚人を倒してもらいます」
そう言いながら、施設の一角にある鉄柵を開く。
するとその奥から、手枷を嵌められた凶悪な顔つきの巨大な人間が出て来た。
――コイツが倒すべき囚人なのだろう。
「囚人を倒せなかったり、仲間を見捨てたりしたら失格ですからね。
今までに学んだ事を応用して協力しないと、本当に殺られてしまいますよ?」
――協力とか、めんどくさ…。
「それでは、試験開始!!」
そして、試験が始まった――
合図と共に、囚人に嵌められていた手枷が外された。
それは、ガシャンと音を立てて床に落ちる。
他の生徒達は、相手の出方を伺っているようだ。
――足がすくんでいるだけかも知れないが。
「オラオラァ、かかってこいよ!オレはお前等を倒すごとに服役期間が短くなるんだぜ!」
挑発してくる囚人。
そして、
「「……うああああっ!!」」
二人の生徒が、囚人に向かっていった。
しかし攻撃は決まらず、彼等は囚人に掴まれて軽々と持ち上げられてしまう。
「この程度か?ああ?」
囚人が握る手に力を込めたのか、二人から苦しそうな呻き声が漏れた。
他に生徒達は、その様子に怯んでいるようだ。
しかし、
――あれじゃあ、隙だらけじゃん♪
次の瞬間、囚人の左胸から大量の鮮血が舞った。
* * *
(アヤナミside)
「ようこそお越しくださいました、アヤナミ参謀長官」
士官学校の教師に案内されて、部下と共に試験会場に入る。
今はちょうど、Aチームの試験が行われている。
しかし、
「助けてくれーっ!!殺されるーっ!!」
「……見苦しい」
必死に助けを乞う姿は滑稽でもある。
他の生徒が、囚人の攻撃からその生徒を助けた。
「大抵の生徒はここで脱落致します。
どんなに訓練の成績が良くても、実戦で使えるのはごく僅かですから」
女性軍人は、笑顔でそう説明した。
戦う生徒達の方を見遣ると、二人の生徒が囚人に攻撃を仕掛けていた。
蹴りを食らい、隙を見せた囚人の首に先程の生徒がザイフォンを巻き付ける。
これで終わりか、と思ったが……
「降参しろ。動けば殺す!」
「……っ」
――何をしている?
「試験はまだ終わっていませんよ。
私は殺しなさいと言ったはずです」
教師の一人が彼に言う。
それに対する彼の返答は、
「コイツは本当の敵じゃない」
――甘いな。
その程度の心構えでは、この世界では生き残れない。
私はザイフォンを発動させ、
「殺す必要なんか……――」
ドッ!!
囚人の首を刎ねた。
「手ぬるい」
そう言えば、驚いたようにこちらを見る少年。
「し…っ、試験終了ーっ!!」
上擦った試験官の声で、Aチームの試験は終了した。
生徒達が会場を後にする。
「ダメだよアヤたん、勝手にそんな事しちゃ」
部下の一人であるヒュウガが私に話し掛けてきた。
「あれ、もしかして機嫌悪い?カルシウム足りてないんじゃないの?牛乳飲……ちょ、アヤたん、睨まないで!!」
……馬鹿な奴だ。
こうなると分かっているのなら話し掛けなければ良いものを……。
他の部下達が彼を冷めた目で見るのも無理はない。
しかし彼は、それにもめげずに、
「あ、そろそろ次のチームが来るよー」
飄々としながら試験会場に目を向けていた。
* * *
その後、Bチーム、Cチームの試験を見たが、特にこれといった事もなく終了した。
そのせいか、
「ねー、つまんないよーコナツー」
「シャキッとしてくださいよ少佐!」
「ハルセ~、僕眠い……」
「もう少し我慢して下さい、クロユリ様」
部下達は飽きてきたようだ。
まだ3チームしか終わっていないのだが……。
「アヤた~ん、次はどこ~?」
「次はDチームだ」
「ふーん……」
下らない会話をしていると、Dチームの生徒達が試験会場に入ってきた。
「あっ、あの子!」
「?」
「女の子じゃない?」
「……そのようだな」
Dチームには一人、長い水色の髪を持った少女が居た。
女子生徒とは珍しい。
ヒュウガや他の部下達は彼女に関心を持ったようだった。
「試験開始!!」
試験官の合図によってDチームの試験が始まった。
挑発する囚人に向かって二人の生徒が突っ込んでいく。
しかし、あっさりと囚人に捕まってしまった。
……不用意に敵に向かっていくなと教わらなかったのだろうか。
掴んだ生徒二人を高々と持ち上げる囚人。
その時、少女が口元を歪めた。
笑ったのだ。
そして、彼女はザイフォンを発動させた。
それは、完全に油断していた囚人の左胸――ちょうど心臓の辺り――を貫いた。
辺りに血が飛ぶ。
その場に居た全員が息を飲む中、息絶えた囚人が床に崩れ落ちる音だけが響いた。
誰も一言も喋らない中、
「これで、終わりじゃないんですか?」
少女が試験官に口を開いた。
「え…?あっ…………し、試験終了ーっ!!」
呆然としていた試験官が我に返り、ようやく試験の終了を告げた。
生徒達が試験官に促されながら退場していく中、教師達はざわめいていた。
「何と言う事だ。最短記録を17秒にまで縮めてしまった」
「しかも一発で仕留めてしまったぞ」
「しかし、彼女はそれほど目立った存在ではなかったはず……」
「流石私の教え子です……!」
どうやら教師達は彼女に驚いているらしかった。
一人だけ反応が違う者も居るが……。
そして私の部下達は、
「あの子すごかったね~」
「そうですね」
「全然躊躇いも無かったし」
彼等は彼女に興味を持ったようだ。
そしてそれは私も例外では無く、
「面白そうな少女ではないか」
誰にも聞こえないような小さな声で私は呟いた。
* * *
(ルフィアside)
――人を殺しても何とも思わなくなったのは、いつだっただろうか。
私は廊下を歩きながらルークと議論していた。
“本当に良かったのか?あんな風に殺しちまって”
――大丈夫だよー。
“協力しろって言われてたじゃねーか。それなのに一人で勝手に……。他の奴らはどうなるんだよ”
――迅速に始末せよって教えたのは先生だもん。
“でも、あの試験の目的はいかにチームプレイが出来るかを見るためだろ”
――皆もちゃんと協力してくれたもん。大丈夫だよ。
“いつ協力したんだよ”
――囮になってくれたもん。おかげで一発KO出来たし。
“……それは協力なのか?”
――協力だよ。
“……。”
よし、ルークが黙ったから私の勝ち!!
“意味分かんねぇ”
いいんだよ、そんな事は。
“……。それより、本来の目的を忘れてないか?”
――本来の目的?
“何で廊下を歩いているのかだよ”
――何でって、ミロク理事長に呼び出しを食らって……。
……そうだった。
ミロク理事長に呼び出し食らったんだった。
……そういえば、何で呼び出されたんだろう?私悪い事でもした?あ、もしかして一昨日学校のガラス割った事?それとも一週間前に理科室の人体模型壊しちゃった事?それとも最近理事長の髪の毛薄くなってきたなーって心の中で思ってた事?うわー前科ありすぎてどれだか分かんないよー。やっぱり髪の毛かな?髪の毛だよね?きっと……。
“いい加減にしろ。うるさい”
――いいよね、ルークは気楽で。私にはこれから地獄が待ち受けているというのに……。
“ほら、そんな事言ってるうちに着いてるぞ”
――嘘っ!!?
目の前を見ると、そこにあったのは理事長室の扉。
どうやら本当に着いてしまったらしい。
……ここは素直に謝っておくべきか。
いや、でも……嫌だなぁ……。
“……うじうじ考えてないでさっさと入れよ”
――むー……分かったよ…。
私は意を決して扉を開いた。
*
『髪の毛が薄くなったなんて思ってすいませんでした!!』
「……まだ何も言っていないのだが……」
扉を開けてすぐに、私はそう謝った。
お辞儀の角度は120°、完璧だ。
「……とりあえず、そこに座りなさい」
『はい』
私は理事長が示したソファーに腰を下ろした。
……ふかふかしている。いかにも高級品といった感じだ。
こういうのって、飛び跳ねたくなるよね。
「ところで、本題に入ってもいいかね?」
『あ、はい』
「今日や明日は色々と大変だろうから、学校に泊まってはどうかね?」
『………………はぁ』
なんだ。こんな内容だったのか。
あんなに心配する必要なんか無かったじゃないか。
「既に寮の部屋を一つ取ってあるから、そこに泊まればいい」
『はい、わかりました』
準備が早いな、理事長。
それから、寮の部屋番号の書かれた紙を受け取って、理事長室を出ようとした。
「あぁ、ところで、最初に言っていた髪の毛というのは――」
『それは記憶から抹消しておいてください!!失礼しましたっ!!』
ミロク理事長の言葉を遮って言ってから、私はダッシュで理事長室を後にした。
――危ない危ない…。墓穴を掘るところだった。
……さて、寮の部屋に向かいますか。
私は初めての寮生活(?)に心を躍らせながら廊下を歩いた。
*
しばらく歩いていると、目的の部屋を発見した。
ドアを開けると……
「「お?」」
『…………え?』
包帯を巻かれているミカゲと、それを巻いているテイトが居た。
……何で?
『え、何でここに居るの?』
「いや、それはオレの台詞だ。ここオレ達の部屋だぞ」
テイト曰く、ここは彼等の部屋だそうだ。
念のため、自分が目指していた番号の部屋がどこにあるのか尋ねると、
「それ、一つ上の階だ」
…………わお☆
どこで間違えたんだろう、私。
「そういえば、ルフィア――」
ミカゲに話し掛けられる。
「――お前も試験受かったんだろ?」
『あぁ、うん』
「しかも瞬殺だったんだろ?試験の最短記録を更新したって先生達が騒いでたぞ!」
『え、そうなの?』
私記録更新してたんだ~へぇ~知らなかった~
「お前、シグレ先生から何も聞いてないのか?」
『シグレ先生?……あぁ、いきなり“さすがは私の教え子です!”って言って抱き着いてきたから思い切り蹴り飛ばしたんだった』
「「……(汗)」」
あれ?どうしたの二人共。
まるで変な物を見ているかのような目で私を見ないで!!(泣)
「お前、とうとう先生を……」
「いや、ミカゲ、コイツは前にも先生に危害を加えた事があるぞ」
「……あぁ、あれか」
「そうそう」
彼等が言っているのはおそらく、射撃訓練の時の暴発事件の事だろう。
要約すると、私がシグレ先生に向かって発砲したのですよ。
暴発っていう事で片付けたけれど、あれ、実はわざとなんだよね(笑)
…………あれ?
『なんで私が危険人物みたいな話になってるの?』
「あれ?なんでだ?」
「シグレ先生を蹴った話からだろ」
『あ、そうだった』
「さすがテイト!」
そう言ってミカゲがテイトの頭をガシガシと撫でる。
テイトは嫌そうにしているが……。
『本当に仲良いよねー二人共。さすが親友だね!』
「親友じゃない、大親友だ!」
訂正された。
「………………なぁミカゲ」
テイトがいきなり話し始めた。
「オレが奴隷だったの……知ってるよな。
奴隷っていっても……戦闘用奴隷でさ……物心ついた頃には軍に買われてて……
オレは……『家族の愛情』なんて知らない……
でもお前を『親友』だって思えることって、なんか……そういうのに似てんのかな……」
少し悲しそうにそう言って、顔を上げたテイト。
――そんな過去があったんだ……。
知らなかった。
テイトが奴隷だったという事は、皆が話しているのを聞いて知っていたが、そんな思いをしていたなんて……。
……でも、私にはその質問に答える事は出来そうにないよ…。
そして、ミカゲの方を向いたテイトは…………ギョッとしていた。
私もミカゲの方を向く。
彼は――大粒の涙をぽろぽろと零していた。
「バカヤローッ!泣かすんじゃねーよ!」
「な……なんでお前が泣くんだよ!!」
「急にすげぇこと言われたらリアクションに困るだろーっ!!」
……そっか、ミカゲは良いボケが思い付かなくて困ってるんだね。
“いや、それは違うだろ”
おっと、ルークに突っ込まれてしまった。
「でも、お前からそんなこと話してくれたの初めてだから、すっげえ嬉しい」
笑顔になったミカゲは、それから、
「よし!親友の誓いを立てよう!」
と言い出した。
――ここから先は二人だけの話だろう。
私はここに居ても邪魔になるだけだろうから、気配を消してそっとその場を後にした。
後ろから“神に誓って死ぬ時は一緒だ!!”という言葉が聞こえた。
* * *
自分の部屋に着いた私は、夕食(菓子パン)を食べ、シャワーを浴びてからベッドに…………入らなかった。
『よーし、ゲームするぞー!おー!!』
鞄からゲーム機を出しながらそう言う。
“おい、疲れてるんだろうから早く寝ろよ”
『嫌だ。せっかく卒業試験も終わったんだし、たっぷり遊ばないと!』
“…………ハァ……”
ルークにため息を吐かれたが、私はそれを気にする事無くゲームを開始した。
…………結局、このまま徹夜してしまった事には突っ込まないでいただきたい。
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