White Day
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色々あったバレンタインデーからちょうど一ヶ月が過ぎた、ある日の朝。
出勤する準備を整えながら、ふと目に入ったカレンダーの日付を横目で眺めてみる。
予定等は特に書かれていない、新品同然のものではあるが、それでもその文字を見るだけで不思議とわくわくしてしまう自分が居た。
3月14日。ホワイトデー。
ひょっとしたら何か貰えるのではないか、なんていう想いが膨らむ。
ホワイトデーは3倍返し、なんていう言葉もあるけれど、3倍とまではいかなくても1.5倍くらいになって返ってきたら嬉しいなぁ、くらいのことは思っていたりする。
でも最近は仕事が忙しかったから、ひょっとしたら皆さんはホワイトデーなんていうイベントの事はすっかり忘れているかも知れない。
期待していたのに何も無かった、みたいなことになったらショックが大きくなってしまうだろうし、できるだけ期待はしないでおいた方が良いだろうか…。
そんな相反する思考も頭を巡る。
そうして答えの出ないまま考え込むこと数分、
“…………おい、遅刻するぞ”
『嘘っ!?』
ルークの言葉で我に返り時計を見ると、彼の言う通り集合時間までほとんど余裕が無くなっていた。
『何でもっと早く教えてくれなかったの?!』
“オレに八つ当たりすんなよ、十中八九お前のせいだ。自業自得だ”
『ルークの馬鹿っ』
そんな事を叫びつつ、私は仕事に必要な道具を掴んで慌てて部屋を出た。
* * *
『おはようございまーす……………………え?』
朝の挨拶をしながら執務室のドアを開けると、目の前に黒が飛び込んできた。
『……あの、どうかしましたか、アヤナミ様?』
一瞬遅れて、それがドアの所に立ちはだかるアヤナミ様だということには気付いたが。
一体何故アヤナミ様はこんな所に立っていたのだろう。
外へ出るつもりも無さそうだし…。
まさか、時間ギリギリになってしまったことを怒られるのか?
それは……できれば遠慮したい…。
…………というか、彼の後ろに血塗れで倒れているサングラスの人が居るように見えるのは気のせいだろうか?
「ルフィア、」
名前を呼ばれてアヤナミ様を見上げると、私の前に高級感のあるラッピングを施された小箱が差し出された。
――こ、これはもしかして…!
ホワイトデーの贈り物…!?
朝一番でこんなふうに貰えるなんて。
もしかしたら忘れ去られているのではないかと思ったりもしていたから、驚きと喜びが心の中に生まれる。
私はその小箱をそっとアヤナミ様の手から受け取った。
『あ、ありがとうございます…!』
「開けてみろ」
私がそれをずっと見つめていると、アヤナミ様はそう言った。
せっかく丁寧にラッピングされているのに開けてしまうのはもったいないかも、と思ったりもしたけれど、中身が気になってもいた私は彼の言う通りラッピングを解いた。
箱を開けると、中に入っていたのは綺麗なペンダント。
ペンダントトップには透明な輝きを放つアクアマリンが埋め込まれていて。
それはもう高級感溢れる……溢れる……。
――な……何だこの高そうなプレゼント…!?
もう1.5倍とか3倍とかいう騒ぎではない。
これ、私があげたバレンタインのチョコとは桁が3つくらい違うんじゃないか?
……い、いや、待て、落ち着くんだ私。
ひょっとしたらそんなに高くない、その辺で売ってる安価なニセモノなのかも知れないじゃないか。この宝石も実はガラス製とか。
…………いや、アヤナミ様がそんな物を買ったりするのか…?
それに、見た感じは本物にしか見えないというか…。
どうする。どうすればいいんだ。
あんなチョコのお返しがこのペンダントだなんて、申し訳無さすぎるというか、もう色々通り越して怖い。
心なしか私の手も震えているように見える気がする。
「アヤたん、ずるいよ!ジャンケンで負けたのに!!」
その時、アヤナミ様の後ろからそんな声が聞こえてきた。
視線をそちらへ移すと、血塗れで床に伏していたヒュウガ少佐が上半身を起こしてこちらを見ている。
何と言うか、ホラーだ。
肩の辺りにサーベルが突き刺さっていたりするし。
しかもアレは、明らかにアヤナミ様のサーベルではないか。
――……私が来る前に一体何があったんだ…。
そして“ジャンケン”って何…。
「それにさ、財力に物を言わせるなんて卑怯だよ!!男はハートで勝負でしょ?!」
「はっ、貴様は財力でも地位でも頭脳でも顔でも私に負けているからな。それくらいしか競えるものが無いのだろう?……まあ、それでも私には勝てないだろうがな」
「アヤたん……何気にオレの全てを全否定してない…?」
「純然たる事実だ」
「っていうか、そういう自意識過剰な事言ってたらルゥたんに嫌われ……痛い痛い痛い!!ヤメテ!!傷口抉ろうとするのやめてよアヤたん!!」
口論の末、アヤナミ様は少佐に刺さったサーベルでぐりぐりと傷口を広げ始めた。
「おはようございますルフィアさん。すみませんね、朝から騒がしくて」
そう言いながら、カツラギ大佐が私の所へやって来た。
『おはようございます、カツラギ大佐。あの、付かぬ事をお聞きしますが……少佐は何故あんなことに…』
「ふふ、今日はホワイトデーですからね。二人共はしゃいでいるのですよ」
――はしゃいでる、のか…!?
大佐は微笑んでそう答えたけれど、あれはどう見てもはしゃいでるというレベルではない気が…。
もう一度彼等を見遣るが、ますます血みどろになってきたヒュウガ少佐と、何処となく楽しそうなアヤナミ様の様子は何とも形容し難い。
少なくとも、大佐のように微笑みながら見守れる光景ではなかった。
「おはようございますルフィアさん」
「おはようルフィアー」
『あ、おはようございます。クロユリ君、ハルセさん』
そんな地獄絵図になりかけた一角を余所に、部屋の奥に居たクロユリ君とハルセさんがにこやかにやって来た。
どうやらあの二人のことはスルーする方針らしい。
「ヒュウガは死んでるから僕が先に渡しちゃうね。ルフィア!はい、どーぞ!」
そう言って、クロユリ君は背後に隠していたものを出した。
その手には、皿に乗ったフルーツたっぷりの可愛らしいタルト。
「ハルセと一緒に作ったんだ!ねーハルセ♪」
「はい」
見た目はすごく美味しそうだ。
だが……クロユリ君が作ったとなると、言い知れぬ不安が付き纏ってくる。
すると、私の憂いを見抜いたのか、
「私がちゃんと見守っていましたし、味は保証します」
ハルセさんがこっそりそう耳打ちしてきた。
彼がそう言うなら、きっと食べても安全だろう。
『お二人とも、ありがとうございます!』
私は笑顔でタルトを受け取った。
間近で見ても、食べるのが勿体なくなるくらい美味しそうだ。
後でゆっくり味わいながら食べることにしよう。
「次は僕の番ですね。おはようございますルフィアさん!」
『コナツさん、おはようございます』
「これ、どうぞ!」
二人の後ろに待機していたらしく、何やら浮足立った様子で出て来たコナツさん。
そう言って差し出されたのは、色とりどりの、これまた可愛らしいマカロン。
「僕は手作りとかは出来なくて、買ったものなのですが……その、お口に合うかどうか…」
『大丈夫ですよ。ありがとうございます!』
いつの間にやら私の手にはプレゼントがたくさん。
と言ってもまだ3つだが、こんなに貰ったのは人生初だ。
嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。
「ちょっと、皆ずるいよ!ジャンケンで勝ったのオレなのに何でオレより先に渡しちゃってんの?!」
と、ようやくアヤナミ様に解放されたらしいヒュウガ少佐がフラフラしながら立ち上がった。
なんかもう、本当にホラーだ。
『……そういえば、ジャンケンというのは…?』
さっきからその単語が出て来ていたが、何なのだろうか。
「ああ、実はルフィアさんが来る前、誰が最初にホワイトデーのプレゼントを渡すかで揉めていて…。それでジャンケンで決め、勝った順にヒュウガ少佐、アヤナミ様、クロユリ様と私、コナツさん、カツラギ大佐となったのです」
しかしアヤナミ様はヒュウガ少佐が一番というのが気に入らなかったご様子で……とハルセさんが苦笑しながら話してくれた。
まさか、それでこんな刃傷沙汰になっていたというのか。
……意味が分からない…。
子供のケンカじゃないんだから……ジャンケンで負けたとかいうくだらない理由でこんな事しなくても…。
「ルゥたんルゥたん、」
私が半ば呆れていると、ヒュウガ少佐に名前を呼ばれた。
はい、と彼から手渡されたのはチョコの詰まった小箱。
箱には有名なチョコレート専門店の名が書かれている。
「ちなみにコレ、本命だからね♪」
そう言ってヒュウガ少佐はウインクを飛ばしてきた。
すると、
「冗談は顔だけにしろ、ヒュウガ」
「アヤたんそれどういう意味!?」
……何故か今日はアヤナミ様がやたら少佐に絡んでいる気がする。
またしても険悪なムードに(主にアヤナミ様が)なりかけてきた時、
「クッキーが焼き上がりましたので、食べませんか?」
いつの間に移動していたのか、カツラギ大佐が美味しそうなクッキーの乗った皿を持って給湯室から姿を現した。
その声で、執務室の雰囲気が幾らか和らぐ。
流石カツラギ大佐だ。
「どうぞ、ルフィアさん」
『あ、はい。いただきますっ』
私はこんがりとキツネ色に焼かれたクッキーを一つ手に取り、口に運ぶ。
焼きたてのクッキーは甘くて、温かくて、すごく美味しかった。
「皆さんもどうぞ」
大佐のその言葉で、他の皆さんもクッキーに集まる。
こうして皆でわいわいとお菓子を囲んでいると、日頃の疲れも忘れられそうだ。
こうして私は、いくつものプレゼントに囲まれたホワイトデーを迎えることができたのだった。
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