とある少女の奮闘記。
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『あ、あの……アヤナミ様……』
「却下だ」
『えぇっ!?』
こんにちは。
まだ何も言っていないのに、アヤナミ様にばっさり断られてしまったルフィアです。
ああ……何という理不尽…。
「その手にあるのは何だ」
『これですか…?見ての通り、最近第一区に出来たというケーキ屋さんのチラシですけど…』
「……どうせ、そこへ行くから休暇を取りたいとでも言いたいのだろう?」
『な…っ!!何で分かったんですか!?アヤナミ様はエスパーか何かなんですか!?』
「…………ハァ…」
びっくりする私を余所に、アヤナミ様は深い溜息を漏らした。
『…………アヤナミ様……溜息を吐くと幸せが逃げてしまうらしいですよ…?』
「お前が言うな」
何故か目茶苦茶睨まれてしまった。
……どうやら、今日のアヤナミ様はあまり機嫌がよろしくないらしい。
眉間のシワも増量しているような気がするし…。
これでは、休暇届が受理される可能性はゼロに等しいだろう…。
だが、それでは困る。
私はケーキを食べに行きたい……いや、行かなければならない。
つまり……
ケーキを食べるため、アヤナミ様の機嫌を良くしなければならない。
きっと機嫌が良くなればすぐにOKしてくれるはずだ。
そして、私の《アヤナミ様をご機嫌にしよう大作戦》が幕を開けた――
* * *
――でも、どうすればアヤナミ様はご機嫌になってくれるのだろうか…?
一旦自分のデスクへ戻った私は、ペンを片手に頬杖をついて考えていた。
案その1…『貢ぎ物』
…………何を送ったらアヤナミ様は喜ぶのだろう…。
少佐とかだったらお菓子か何かで簡単に釣れそうだけど。
食べ物?
貴金属類?
ゲームとかプラモ……は違うだろうな。
……賄賂?
いやいやいや。アヤナミ様はそういう人じゃない。
第一、私にはそんなに予算が無いんだから、あまりお金が掛からなそうなものにしないと。
何かアヤナミ様が好きそうな物は……。
……………………。
………………拷問道具、とか?
……………………いやいやいや!そんな物あげたらヤバいよ!!
ダメ!絶対!!
鬼に金棒状態にしてはならない!!
どうせ犠牲になるのはヒュウガ少佐とかだろうけど、私にも火の粉が降りかかってくる可能性もゼロじゃないし!
……とりあえず、貢ぎ物は却下かな…。
案その2…『褒めちぎってみる』
おだてれば大体の人は良い気分になるよね。
例えば……そうだなぁ……。
『アヤナミ様!今日もお美しいですね!』とか?
『やっぱりアヤナミ様は仕事が速いですね!流石です!』とか…『アヤナミ様格好良いー!!』とか…。
…………何か、実行するにはハードルが高そうだな…。
だって、こんな事言うの恥ずかしいし…。
何よりこういうのを実行した時って、無反応なのが一番困るんだよ。
そして、アヤナミ様が相手では反応が返って来ない確率が高そう!
そんなのは嫌だ!!
という事で、これは……却下だね。
案その3…『色仕掛け』
…………え、無理じゃね?
確かに定番といえば定番だけど、私にそんな色気無いじゃん。
胸も小さいし、ちんちくりんだし、お腹周りだってぷよぷよしててボン・キュッ・ボンなお姉さんには程遠い……。
…………あれ?何か自分で言ってて悲しくなってきた…。
やめよう。うん。これはダメだ。無理無理。不可能。論外。絶対却下。
案その4…『仕事を頑張ってみる』
完璧に仕事をこなす!
↓
「なかなかやるじゃないかルフィア」
↓
「おかげでこちらも助かる」
↓
「よし、そんなルフィアの頼みなら喜んで聞いてやろう。ケーキ屋でも何処でも、好きな所へ行ってこい」
みたいな展開?
あ、これが一番良いかも…。
よし!これにしよう!決定!!
ケーキのためなら仕事だって頑張れるもん!!
そんなこんなで、ようやく考えがまとまった。
そうと決まれば善は急げ、だ。
頑張るぞ!と気合いを入れてから、私は早速目の前の書類達を攻略しに掛かった。
* * *
『アヤナミ様、こちらの書類のチェックをお願いします。それから、この議案には少々不備が見受けられます。他のものは問題ありませんでした』
「…………今日はやけに仕事が速いな、ルフィア」
書類の束を持っていくと、アヤナミ様は少し驚いたように言った。
実際、いつもよりだいぶ速い速度で仕事をこなしたわけだから驚くのも無理はないだろう。
普段手を抜いているというわけではないけれど、今日はケーキのために120%くらいの力を振り絞っているから。
調子に乗って、そんな事ないですよーあははー、なんて言っていたら、
「なら、この書類も追加で頼む」
ドサッと書類の束が積まれた。
『…………りょ、了解です…!』
…………うん。そう簡単には行かない事くらい分かっていたさ…!
若干表情が引き攣っているかも知れないが、こんな事で挫折するわけにはいかない。
全てはケーキのため。
追加された書類を受け取り、自分の席へ戻った。
「ルゥたーん、どうしたの?今日は何だかいつもと違うんだけど…」
いつものように棒付きキャンディを片手に持ちながら、ヒュウガ少佐が私の顔を覗き込んできた。
『あの……邪魔なんですけど』
「えぇー、ルゥたんってば、つれないなぁ。
で、どうしたの?何かあったの?」
コテンと首を傾げながら訊いてくる少佐。
これがクロユリ君ならば破壊力は抜群なのだろうが、大の大人にそんな事されても可愛くも何ともない。
迷惑だから関わらないでほしいのだが、少佐のことだから大人しく引き下がってはくれないだろう…。
『……ケーキが、食べたいんです』
「ケーキ?……ああ、そういえばさっきアヤたんと話してたよね」
『はい。ケーキを食べに行くことをアヤナミ様に認めさせるべく、作戦行動中なのです!』
「へぇ~!……じゃあさ!オレも手伝う!!」
『……は?』
…………え、何これ?妨害工作?
私の計画を阻止しようとする陰謀か何かがあるんですか?
少佐が関わったら、ろくなことにならなそうだもん。
「よーし、そうと決まったら早速アヤたんを説得してくるから!」
『あ、ちょっ……!』
待って、と言う間もなく、ヒュウガ少佐はアヤナミ様の方へ行ってしまった。
――お…終わった……。
はっきり言って、嫌な予感しかしない。
去っていく少佐の背中を見ながら、私は軽い虚脱感に見舞われた。
*
「ねぇねぇアヤたぐはぁっ!!」
「五月蝿い。黙れ。さっさと仕事をしろ」
案の定、ヒュウガ少佐は玉砕なさいました。
……というか、瞬殺だった…。
本題にすら入れてなかった…。
これが日頃の行いの報いというやつなのかな…?
まあ、私の計画をバラされるような事がなかっただけ良かったと思うべきか。
――やっぱり、地道に頑張ろう…。
無惨に散ったヒュウガ少佐に心の中で合掌しつつ、私はそう誓ったのだった。
* * *
「ルフィア!!ハルセがクッキー作ってくれたんだって!ルフィアも一緒に食べようよ!」
数時間が過ぎ、そろそろおやつの時間という頃。
くいくいっと服の裾を引っ張って、クロユリ君が話し掛けてきた。
ああ……可愛い笑顔に癒される…っ!
……でも、今は駄目だ。
今は作戦行動中なのだから我慢しなくては…!
誘惑に負けていてはケーキにありつけないのだ…っ!
『……ごめんなさい、クロユリ君。今日は遠慮しておきます…』
惜しいと思いつつもそう言うと、
「「「「「!!?」」」」」
皆さんが、物凄く驚いたような顔をして私を見た。
…………あれ?そんなにおかしい事言ったかな…?
「ねぇ!ルゥたんがクッキー食べないって…!!」
「いつもは少佐やクロユリ様の次くらいに喜んで食べに来るのに…!」
「ルフィアさん、どうかしたんでしょうか…」
「体調が悪いとか…?」
「ひょっとして今日は槍が降るんじゃ…」
「いやいや、もっと怖いものが降ってくるかも!」
「もっと怖いものとは…?」
「うーん…隕石とか?」
「…………アヤたん、とか?」
「ちょ、変な事を言い出すのはやめてください少佐!!」
「……それは…色々な意味で怖いですよ…」
何やら向こうの方でヒソヒソと話し始めた皆さん。
たまにちらちらとこちらに視線を向けてきたりするが、声量が小さいので何を話しているのか聞き取れない。
……何だろう……すっごい気になる…!!
――いやいや、駄目だぞ私!!
書類に専念しなくては!
頭を横に振って雑念を追い出し、再び書類に向き合う。
すると……。
「ルゥたんがおやつよりも仕事を優先してる…っ!?」
「もしかして、ルフィアさんはアヤナミ様のベグライターだから……アヤナミ様の仕事中毒が移ってしまったとか…!」
「ペットは飼い主に似るってやつ?」
「クロユリ様、ルフィアさんはペットではないかと…」
「ほら、ヒュウガ少佐もルフィアさんを見習ってはどうですか?!」
「そ、それは無理だよぉ…」
またヒソヒソ話が始まった。
――やっぱり気になる…。
――だけど気にしてはいけない…。
――でもやっぱりクッキー食べたい…。
そんな葛藤を心の中で繰り広げつつ、無心になれ!と自分に言い聞かせながら私は書類を片付けていった。
* * *
『終わったぁ…!』
ようやく未処理の書類の山が消滅したのを確認して、私は机の上に突っ伏した。
今日は自分でもびっくりするくらい頑張ったと思う。
疲れも結構あるが、ケーキに一歩近付いたと思うと達成感もいつも以上に大きかった。
ちなみに近くの席では、今日はかなり早く上がれるとコナツさんが泣いて喜んでいる。
窓の外は既に真っ暗だけど。
『アヤナミ様!本日分の書類はこれで全部です!』
「……ああ」
終わらせた書類をアヤナミ様に渡す。
「ルフィア」
『はい?』
「今日は随分頑張ったな」
ぱらぱらと書類の束をめくって確認しながら、アヤナミ様が言った。
――おお…!褒めてもらえた…!!
これは脈ありか!?作戦成功か!?と心を躍らせたのも束の間、
「明日もこの調子で頼む」
『Σ!!』
…………わ、分かってたよ……分かってましたよ…!!
でも…さすがにこのペースを維持するのはつらいかも…。
作戦は失敗か…と落胆する私。
すると、
「…………というのは冗談だ」
『……ふぇ?』
……冗談、だったんですか…?
アヤナミ様は冗談とか言わなそうだから、びっくりして思わず変な声出ちゃったじゃないですか……恥ずかしい……。
「お前のことだ。どうせ、ケーキ屋に行くのを許してもらおうとでも考えていたのだろう?」
『なっ!?……バレてたんですか…』
「当然だ。私を誰だと思っている」
流石は泣く子も黙る我等がアヤナミ参謀長官様…。私のようなちっぽけな一般庶民の単純思考なんか全てお見通しということですか…。
何だか更に落ち込む…。
「……まあ、そこまでして行きたいというなら、連れて行ってやらないこともない」
『!!』
アヤナミ様の言葉に、バッと勢いよく顔を上げる。
今のは、聞き間違いじゃない…よね?
『ほ…本当ですかっ!!?』
「ああ」
『やったー!!やっぱり神様仏様アヤナミ様ですね!!ありがとうございます!!アヤナミ様大好きっ!!』
「…!?」
どうやら作戦は成功だったようだ。
目茶苦茶嬉しくて舞い上がってしまった私は、ケーキ!ケーキ!と連呼しながらしばらくぴょんぴょん飛び跳ねていた。
ブラックホークの皆さんが奇妙な物を見るような目で私を見ていたのも気にせずに。
当然、その時アヤナミ様がどんな事を思っていたかなんて、ケーキで頭がいっぱいだった私には知る由もなかった…。
おまけ。
「あははっ、複雑だねーアヤたん」
「……。」
「……痛い痛い痛い!!やめて!!無言でオレの足踏むのやめて!!踵でぐりぐりするのやめて!!」
ブラックホークは、今日も平和でした。
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