海ヘ行こう!
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「アヤたん!!皆で海行こうよ海ー!!」
ブラックホークの執務室に、明らかに場違いな格好をした人間が一名。
シュノーケル付きの水中眼鏡に浮輪をかついでいるその人物は、この場の最高権力者であるアヤナミ様に直談判を試みる。
「人間、年に一度は海見ないとさ…」
そんな事を言っているが、
「黙れ」
一蹴された。
「アヤナミ様が許してくれる訳無いじゃん。ヒュウガって学習能力無さすぎだよねー」
『ホントだよねー、クロユリ君』
少し離れた所から彼等の様子を見物しているのは、私とクロユリ君だ。
それにしても、海って……少佐は何処の小学生だよ……。
「アヤたん!!オレもう海水ないと死んじゃう!!ていうかもう死にかけ!!」
到頭そんな事まで言い出した。
すると、
「少佐!!しっかりして下さい!!濃度3.4%の塩水です!!」
たぷんと波打つ液体を入れ物一杯に入れて持ってきたのはコナツさん。
今の短い間で、いつの間に準備したのだろうか。
それを床に置くと、ヒュウガ少佐の頭はその中に沈められた。
アヤナミ様が彼の頭を踏み付けている横で、生き返りますかー?とコナツさんが声を掛ける。
どうやらコナツさんは、ヒュウガ少佐の“海水ないと死んじゃう”という発言を真に受けて、彼なりに助けようとしたらしい。
……色々間違っている気がするが。
通り掛かったカツラギ大佐が漬け物と勘違いして好奇の目で見つめる中、がばっと少佐が起き上がった。
「違う!!オレはこーゆー事を言ってるんじゃないの!!」
主犯格の二人に抗議するが、やはりというか何というか、右から左へと聞き流されている。
それにもめげずに、彼は喋り続ける。
「皆は行きたくないの?!海だよ海!!」
「何故そのような所へ行かねばならぬのだ」
「だいたい、少佐は書類が溜まっているんですからそちらを先に片付けていただかないと……」
皆、彼の意見には否定的だ。
「ねぇ!クロユリ中佐とルゥたんも何か言ってよ?!」
藁にも縋り付きたそうな目でこちらを見つめる少佐。
「えー……僕は別に……」
『私も…行きたい訳では……』
二人揃ってそう言うと、少佐は物凄く悲しそうな顔をした。
孤立無援のヒュウガ少佐。
しかし、これくらいで諦めるような少佐ではなかった。
ふらふらと覚束ない足取りでアヤナミ様の所まで歩いていくと、何やら耳打ちをし始めた。
不思議そうな目で他の人達が見守っている。
話はすぐに終わったらしく、少佐はニヤニヤしながらアヤナミ様から離れた。
アヤナミ様はちらりと私の方を見て、それから言い放った。
「……行こうではないか」
「「「「『えっ!?』」」」」
……一体、どんな心境の変化なんでしょうか?
* * *
独特な香りを持った潮風が頬を撫でる。
目の前に広がるのは、青い青い海。
耳に入るのは、波が砂浜に打ち寄せる不規則な音と、
「うわーい!!海だー!!」
大人とは思えないほどはしゃぎまくるヒュウガ少佐の声だった。
あの後、我々ブラックホークはリビトザイルに乗ってこの浜辺までやって来た。
人っ子一人居ないのを不思議に思って問うと、どうやらこの辺一帯はブラックホークの貸し切りになっているらしい。
リビトザイルといい、これといい、アヤナミ様の手際の良さは流石と言うべきか、職権濫用と言うべきか。
「あ、そうだ!ルゥたんはコレに着替えてね☆」
ヒュウガ少佐が、どこからともなく紙袋を取り出して私に押し付けた。
『え…何ですかコレ……?
爆弾とか入ってたりしませんよね?』
「それは無いよ!!全力で否定する!!」
とりあえず爆弾ではないようだが、気になるので少し開いて中を覗いてみる。
『…………な、なな、何ですかコレは?!///』
中に入っていたのは水着。
いわゆるビキニという奴だ。
当然、露出はかなり多い。
これを着ろと?何の罰ゲームだ。
『私はこんなの着ませんから!!///』
「いいから着替えて!」
強引に、近くの建物――海の家?――の更衣室に押し込まれた。
『むぅ……誰がこんなモノ着るっていうんだよ……』
小声で呟く。
『このまま着替えずに立て篭もろうかなー』
そんな事を考えていると……。
「ルゥたーん、着替えないんだったらオレが着替えさせてあげるよー☆」
『全力で拒否します!!』
外から問題発言が聞こえてきた。
そんな事を言われたら着替えるしか無いではないか。
私は渋々軍服を脱ぎ始めた。
* * *
『あのー……着替えましたけど……』
恐る恐る更衣室の扉を開いて、顔だけを出して外の様子をうかがう。
…………どうやら誰も居ないらしい。
一安心して更衣室を出た。
そのまま外へ行くと、
「あ!着替えたんだねルゥたん!」
ヒュウガ少佐を始めとしたブラックホークの皆さんが居た。
アヤナミ様以外の方々は既に水着に着替えている。
クロユリ君は可愛らしいワンピース型の水着を着ているが、他の人達は普通の半ズボンのような水着のため、引き締まった上半身が嫌でも目に入る。
…………今更だが、このブラックホークは美形揃いだ。
そんな彼等の中に、一人だけ私のような貧相な小娘が居て……。
どうにも、私だけが場違いな気がしてならない。
「うわぁ~、ルゥたん可愛い~!!」
笑顔のヒュウガ少佐が、いつものように抱き着いてきた。
しかし、いつもとは違う服装のせいで肌と肌が直に触れる。
その感覚に、わずかに頬が熱を帯びるのを感じた。
『は…離してください少佐!!///』
「えぇー、やだよー。
だってルゥたん柔らかくてちっちゃくて可愛いんだもん☆」
『ちっちゃいとか言うな!!』
「…………ヒュウガ……」
パシッ!!
アヤナミ様の怒りの篭った声と共に、彼の鞭が空を切る音がした。
見事に命中したらしく、少佐はすぐそこで悶絶している。
背中の赤いミミズ腫れが痛々しい。
……自業自得と言えばそれまでだが。
「ルフィア!一緒に遊ぼうよ!!」
少佐を軽く無視して、クロユリ君が私の手を握ってニコリと笑う。
……これを断る手はないだろう。
『はい!行きましょう!』
私はクロユリ君の手を握り返して、一緒に波打際へ向かった。
* * *
『ひゃあっ!?』
「あははっ!!」
『やったねクロユリ君!仕返しだっ!!』
「うわっ!?ルフィアさん!こっちにまで掛けないでください!!」
『いいじゃないですか、コナツさん!』
「皆さん楽しそうですねぇ」
海といえば……定番のコレ。
ただ単純に水を掛けて遊ぶだけだが、これが案外楽しい。
クロユリ君とコナツさんに、水を掛けたり掛けられたり。
近くで潮干狩りっぽい事をしているカツラギ大佐が、一家の父親のような笑顔でそれを見守る。
ちなみに、ハルセさんは超ハイレベルな砂のお城を作っていて、アヤナミ様は浜辺のパラソルの下の日陰でくつろいでいる。
「オレも混ぜてー!!」
ヒュウガ少佐がこちらへやって来た。
私とクロユリ君は即座にアイコンタクトを取って、
「『かかって来い!』」
「え!?何でバケツ装備!?」
コナツさんとカツラギ大佐が笑顔で見つめる中、海水をバケツで少佐に掛けまくった。
* * *
その後も、海で泳いだり(私は泳げないから浮輪でぷかぷかと漂っていただけだが)、ボールで遊んだりして楽しんだ。
現在は……
「もっと右!!」
『ふぇ?右?』
「行き過ぎですルフィアさん!」
『ええぇ、どっちに行けば良いんですか?!』
これまた定番の、スイカ割りをやっている。
カツラギ大佐が持っていたクーラーボックスから出て来たスイカと、ヒュウガ少佐が貸してくれた刀を使って。
何故スイカを持っていたのか、とか、刀を使ったらスイカ割りじゃなくてスイカ切りじゃないか、とかいう突っ込みはしないでいただきたい。
「そこだよルゥたん!!」
『ココですね!……えいっ!!』
何も見えない中で刀を振るう。
…………わずかに手応えがあった。
「やった!!真っ二つだよルフィア!!」
皆さんの歓声に、目隠しを外してみる。
眩しい日光に目が慣れると、少し中心を外しているものの綺麗に真っ二つになったスイカが見えた。
『おお!やったぞ私!!』
「早速食べようよ!!」
『…………結局食べたいだけなんですね…』
皆さんはスイカへ向かって一直線。私が褒められたのは一瞬だけだった…。
少し落ち込んでいる私を全く気にかけず、スイカを人数分に切り分けていく。
七等分は出来無いので八等分だ。
いつの間にか準備されていた皿に乗せて、それぞれに手渡していく。
「ルフィアさん。これをアヤナミ様の所に持って行っていただけませんか?」
カツラギ大佐がそう言って、私にもう一つ皿を渡す。
『了解でーす♪』
それを受け取り、アヤナミ様がくつろいでいる日陰へ足を向けた。
『アヤナミ様ー、スイカ食べますかー?
いらないなら私が食べちゃいますよー』
「…………貰おうか」
こちらへ視線を向けたアヤナミ様にスイカの乗った皿を手渡す。
私も彼の横に腰を下ろしてスイカにかじりついた。
『んー!冷えてるし甘くて美味しい!』
「…………そうだな」
嬉々としてスイカを頬張る私の横で、彼ももくもくとスイカを食べる。
しばらくして、スイカは皮と種を残して跡形も無く消え去った。
『美味しかったですね、アヤナミ様!』
「そうだな」
心なしか機嫌が良さそうなアヤナミ様。
意外にスイカが好きなのだろうか。
とりあえず、彼に今日一番の疑問をぶつけてみる。
『ところでアヤナミ様?』
「何だ」
『どうして海に来たんですか?最初はあんなに嫌そうだったのに……。
少佐に何を言われたんですか?』
「フッ……大した事ではない」
いやいや、アヤナミ様の態度の急変ぶりは大した事でしたよ!
「そんな事よりも、もっとこちらへ来い」
彼のすぐ横を指しながら言う。
『え?』
「いいから来い」
ぐいと腕を引かれて強引に(何故か)彼の膝上に座らされた。
『ななななな何ですか?!』
「どもりすぎだ。落ち着け」
『わ、私はいいい至って冷静でございますよ?!』
「何処が冷静なのだ」
呆れた口調のアヤナミ様。
一応、自分が冷静でない自覚はある。
というか、こんな状況で冷静で居られる訳がない。
「…………まあ、たまにはこうしてゆっくり過ごすのも悪くはないな」
後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれる。
視線の先には、先程見た時よりもさらにバージョンアップした砂のお城とその周りで騒いでいる皆さん。
一応、微笑ましい光景ではあるが。
この状態をどうにかできないかと必死に頭を回転させていると、アヤナミ様はおもむろに軍服の上着を脱ぎ始めた。
今度は何だ!?と身を固くしている私に、彼は脱いだ上着を肩から被せた。
『え…?』
「確かにその格好も悪くはないが、他の奴にも見られていると考えると少々癪に障るな」
そう呟いて、再び私を抱きしめる。
……恥ずかしい。
でも、ほんの少しだけ嬉しいような気もする。
――ちょっとくらいなら、このままでも良いだろうか。
そんな事を思って、私はこの穏やかな時間に身を委ねることにした。
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