第一話 試験前日
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「我々は、栄誉あるバルスブルグ帝国陸軍士官学校の第315期生として、ホーブルグ要塞の一員となる為に選抜されたエリートです。
帝国の名に恥じぬ立派な軍人になる為、弛まぬ努力を――…」
ここは陸軍士官学校の大講堂。
壇上に立って立派なスピーチをしているのは名門オーク一族出身の少年、シュリ=オークである。
そして、
『ふわぁ~……、ねむ……』
明らかに面倒そうな顔でそれを聞いているのが私、ルフィア。
『(まったく……さっさと終わらせてよ)』
少し周囲を見回してみると、友人のテイトとミカゲを発見した。
……ミカゲも眠たそうだ。
暇なので、ここで自己紹介をしておこう。
私の名前はルフィア。
この士官学校特殊課程唯一の女子生徒であり、成績はそこそこ優秀な美少女である。……美少女は言い過ぎか。自重自重。
容姿は、腰まで届く淡い水色の髪に青い目。
身長は……残念ながらテイトより少し低い。なので毎日牛乳を飲んでいる。
だって、テイトは身長が低い事がコンプレックスだというのに、それより低いっていうのは嫌じゃないか!!
ザイフォンは操作系を得意としている。
攻撃系と癒し系も使えるが、操作系に比べると圧倒的に弱いのだ……。
ま、“裏ワザ"があるから大丈夫だけどね♪
そして、私には他の人達とは違う点がある。
それは――
“ルフィア、あと少しみたいだから寝るな!"
コレ。
私の中に居る存在、ルーク。
物知りで、いつも私を助けてくれる頼もしい&利用価値のある存在であり、私の良き理解者だ。
皆には彼の声は聞こえないようだが、私は彼と心の中で会話する事が出来る。
ちなみに、筆記試験の成績が良いのは彼の助けがあるからである。
人はそれをカンニングと呼ぶだろうが、そんなものはバレなければ大丈夫だ!
……実は、私の中にはルークの他に更にもう一人居るのだが、それはまた別の機会に紹介しよう。
“お。ルフィア、終わったみたいだぞ"
ルークの言葉に意識を戻すと、盛大な拍手の中でシュリが壇から下りるところだった。
* * *
「皆さん、明日の卒業試験は軍の最高幹部の方々がいらっしゃいます。
今までの成果を如何なく発揮できる様心がけて下さい」
所変わって、現在教室でシグレ先生が明日に控えた卒業試験の説明をしている。
この試験は超難しい事で有名らしい。
何でも、試験に合格して幹部補佐(ベグライター)になることが出来るのは最多で20名なのだそうだ。
500名居る全生徒のうち、実に9割以上が落とされるわけである。
単純計算では生徒の4%が合格できることになるが、あくまで“最多で"ということなので実質的にはもっと少ないのだろう。
本当に狭き門なのだ。
「シュリのスカウトに来るんじゃないのか?」
「そんなことないさ。やめてくれよ」
「スゲーな、一気に将校!?」
先生の話を聞いて何故か騒ぎ始めるシュリ+α。
――安心しろ。シュリの言うとおり、そんな事はありえないよ。
“あんなのが一気に将校になるようなら、この帝国も終わるな"
「ところでテイト=クライン、君は一度も私の実技授業に出てくれなかったね。先生は淋しいよ……」
シグレ先生がテイトに話し掛けた。
……溜息混じりにそう言っているが、本当は淋しいなどとはこれっぽっちも思っていないのだろう。
「…実技一般は全て免除されているはずですが」
言い返すテイト。
その言葉を聞いて、再びヒソヒソと話し始めるシュリ+α。
……どうせまたテイトの悪口でも言っているのだろう。
と、その後ろに居たミカゲがザイフォンを発動(笑)
風にあおられて舞う数冊の本。
それは……
「センセェー、シュリ君がエロ本持って来てまーす」
「そのようですね」
ミカゲ、ナイス!!
大慌てのシュリ。ざまあみろ。
……だがミカゲ、まだ甘いぞ。
そこはBL本だろ!
“……確かにその方が面白いが、ミカゲには無理があるだろ"
――……うん、そうだね。
その後はしばらく、必死に弁明するシュリを見物して楽しんだ。
* * *
「おーい、ルフィアー」
廊下を歩いていると、ミカゲに呼び止められた。
見ると、後ろに仏頂面のテイトを従えたミカゲがこちらを見ていた。
手招きしていたので、私もそちらへ向かった。
「なぁルフィア、聞いてくれよ~。さっきテイトがいきなり攻撃してきたんだ!こう……“うっつぁしいわ、ミカゲ!!"って」
「お前、ルフィアに何吹き込んでんだよ」
私が彼等の近くに行くと、ミカゲがテイトの行動について愚痴り始めた。
迫真の演技でテイトの真似をするミカゲを、テイトは冷めた目で見ている。
『二人共、本当に仲良いよね~』
「まぁな。オレ達親友だもんな~テイト」
そう言ってテイトの肩をたたくミカゲだが、すぐに手をはたき落とされる。
しかし、傍目には嫌がっているように見えるテイトも、案外満更でも無い様子だ。
フオオォォォ――…
不意に上から音が聞こえてきた。
見上げると、たくさんのホークザイルが空を飛び交っていた。
その向かう先には巨大なホーブルグ要塞が見える。
テイトとミカゲも、その音を聞いて上を見上げた。
「うひょーっ、かっけーな!」
ミカゲは窓ガラスに張りついて目を輝かせている。
「オレ達も卒業試験に受かればあのホーブルグ要塞に入れるんだぜ。
オレも帝国の為に戦って、家族を守るんだ!」
決意の篭った目で彼はそう言い切った。
テイトもそれを眩しそうに見ている。
……一方、私はそんな二人を少し離れた場所から見ていた。
――こういう時には、私は彼等とは違うのだという事を思い知らされる。
私には、守りたいモノも、大切なモノも無いから。
ミカゲのような、純粋な心はもう無いから……。
だから――…
「そういえば、卒業試験って毎回死人が出るって本当?」
「うむ。我々も病院送りにならぬよう心せねばな!」
近くを通りかかった生徒達の会話で、意識がこちらに戻ってきた。
……いけないいけない。またボーっとしてた。
「ううう、古傷がうずく……」
何故か片頬をおさえて痛がるミカゲ。
テイトが虫歯かと聞くが、それを否定する。
彼曰く、兄と格闘した際の傷痕が“病院"という言葉を聞くたびにうずくのだという。
……きっと嫌な思い出なのだろう。
それから彼がこう切り出してきた。
「…オレ、病院嫌いなんだ。無事故の為にもちょっと手合わせしてくんねー?」
* * *
バシッ! ザザザ フォン ガガガガ……
中庭に響く、ザイフォンのぶつかり合う音。
テイトとミカゲが手合わせしている様子を、ルフィアは近くに腰掛けて見物していた。
ここで、ザイフォンという能力について説明しておこう。
ザイフォンとは生命のエネルギーである。
我々特殊課程の生徒は、そのエネルギーを実体あるものに変換し、操る事ができる類い稀な能力を持った人間なのである。
それは主に手を媒介として変換され、文字の形で表れる。
また、ザイフォンには攻撃系・癒し系・操作系の3つの種類がある。
攻撃系は、その名の通り敵を攻撃する際に使われる、破壊力を持ったザイフォン。
癒し系は、怪我を治したり、力を分け与えたりすることができる癒しのザイフォン。
操作系は少し特殊で、他の物のザイフォンと同調させることによってその物を意のままに操ることができるというものである。
他にも、糸状にして相手を縛ったり、自身の周囲を囲んで攻撃を防御したりと、様々な使い道がある。
応用すれば空を飛んだりも出来るという、かなり便利なものなのだ。
「もっと本気出してこいよ、ミカゲ」
現在、二人はほぼ互角といったところだ。
ミカゲが仕掛けていくが、テイトに簡単に防御されてしまう。
絶え間無く聞こえてくる、ザイフォン同士がぶつかり合う衝撃音。
ミカゲが再びザイフォンを放つ。
しかしそれもテイトに受け流され、地面をえぐるだけの結果となっ――…
「そんなヘボ攻撃がオレに当たると思って……」
『ぷっ……あははははっ』
「オレの気持ちだ、受け取れ!」
「?」
親指をグッと立てているミカゲと腹をかかえて笑っているルフィア。
未だに状況が掴めていないテイトは戸惑っている。
しかし、そこはテイト。すぐに気付いて足元を見る。
彼の足元の地面は先程の攻撃によってえぐられていて、そこには明らかに“チビ"と書かれていた。
もちろんそれはテイトにとっての地雷ワードなわけで。
「オレもテメーに伝えたいことがたくさんあんだよ!!」
どこーん! どこーん! どこーん!!
「うおっ、激しいな!!」
キレたテイトはミカゲに向かって手当たり次第にザイフォンをぶっ放し始めた。
そして……
「そういえばお前もさっき笑ったよなあ?!」
『えっ、私?うわっ!!』
彼の怒りの矛先は私にも向いてしまったようで、こちらにもザイフォンが飛んできた。
あわててザイフォンを円盤状にし、シールドを作ってそれを防ぐ。
その後もしばらく暴れ続けたテイトを、私とミカゲは苦労しながらも落ち着かせることに成功した。
*
『あ、そろそろ帰らなきゃ』
気付くと、もう大分遅い時間になっていた。
「そういえばお前は寮生活じゃないんだよな」
その通り!
私は特別待遇で、この学校の近くにある自宅から通っている。
他の生徒は皆寮生活だけどね。
『ところで、二人はまだ続けるの?』
「あぁ。もう少しやっとくよ」
『徹夜はしないでね~』
「わかってるって。なーテイト」
「危ねぇのはミカゲだろ」
まったく、その通りである。
『……とにかく、明日はお互い頑張ろうね!』
「おう!」
「あぁ」
『それじゃ、バイバーイ』
私は二人に手を振って、中庭を去った。
明日はいよいよ卒業試験。
将来が決まると言っても過言では無い、重要な日である――。
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