第二十五話 お見舞い
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『………………うーん……。
…………………………………私、まだ生きてるみたいだね……』
目覚めた第一声がそれだった。
視界には清潔感溢れる真っ白な天井。
……病室の天井と対面するのはこれで二度目だ。
頭が覚醒してまず考えたのは、意識を手放す前のこと。
確か……
アヤナミ様にほっぺたを引っ張られて、アヤナミ様に抱き締められて、アヤナミ様が私の探していた人で、それで……。
『…………私、あれで死んだんじゃ…?』
ぽつりと呟く。
“……ルフィア、お前何言ってんだ?ついに頭がおかしく…………いや、おかしいのは前からだったか”
――おかしくない!!……って、ルーク?!!
彼の声が聞こえて、びっくりしてガバッと飛び起きてしまった。
ちょっと傷口が痛んだけれど、そんな事を気にしている場合じゃない。
“な、何だよ、いきなり叫んだりして…。やっぱりおかしく……”
――なってないけど!!
何でまだルークが居るの?!
だって、あの時……!
“何だよその言い方は…。まるでオレがボス戦で死んだはずなのに直後のイベントでいつの間にか生き返ってたキャラみたいじゃないか”
――……うん。私には分かりやすい説明をありがとう。
………………じゃなくて!!
確かにあの時、私は声を聞いた。
――《お前の願いは叶ったか?》
そして、意識が途切れる直前、私はその問い掛けに頷いたはずだ。
なら、もうあの“約束”は終わってしまったはずなのに……。
『なんで……?』
“あー……アレね、えーっと、その、実は…………無しになった”
――無し!?どういう事!?
“だってさぁ……あいつに目茶苦茶怖い顔で睨まれたら言う事聞くしか無いだろ。仮にもフェアローレンだし…”
あいつ、というのは…………アヤナミ様のことだろう。
フェアローレンと言ったら一人しか居ないし。
確かにあの人に睨まれたら言う事聞くしか無さそうだけど…。
それで“約束”は無しにされてしまったというのだろうか。
――……そっか、ルークにも怖いものがあったんだねー。何か意外ー。
“別に、そういう訳じゃねえよ!”
珍しく思い切り否定された。
まあ、ルークがそんなふうに思う訳がないことは前から知っていたけれど。
…………でも、そんなことより。
本当に約束が無しになったのなら、彼が私と共に居る理由も無くなってしまうのではないだろうか…。
そしたらルークは、また別の人の所に行っちゃうかも知れなくて。
なら、ルークはやっぱり居なくなっちゃうはずで…。
“…………お前はバカで間抜けで方向音痴で巻き込まれ体質のトラブルメーカーだからな。心配すぎて一人になんて出来ねぇんだよ”
――ちょ、何もそこまで言わなくても……。
心当たりがありすぎて否定しきれない自分が情けないような気もする…。
けど、それはつまり、これからも私と一緒に居てくれるということだろうか。
……たとえそんな理由だとしても、ルークがこれからも一緒に居てくれるというなら、それは素直に嬉しい。
昔からずっと一緒だったし、彼が居なくなった日常なんて考えられないから。
“仕方ないからこのオレがお前と一緒に居てやるんだよ。感謝しろよな。
何なら、毎日ありがとうございますルーク様って言いながら跪いて崇めてくれてもいいからな”
――えー……それはやだなぁ…。
ルークの言葉に苦笑いする。
“ま、実行したらいよいよ変人だもんな”
そう言ってルークも笑った。
――でも、ホントにいいの?お仕事なんでしょ?
“まぁ、確かに魂集めんのは仕事みたいなもんだけど…。
でもさ、たまには仕事休んでのんびり遊んでたっていいだろ?”
――……うん、そうだね!
なんとなく、不安もある。
“約束”が無くなってしまった今、ルークはいつか居なくなってしまうかも知れないから。
でも、彼はまだ一緒に居てくれるって言ってくれてるんだから、素直に喜んでおこう。
こんな時こそポジティブシンキングだ!
ルークが居てくれることにも、私がまだ生きていられることにも感謝しないと。
――ありがとね、ルーク!
“なっ……あ、当たり前だろ!馬鹿ルフィア!”
自分で崇めろって言ってたくせに、私にありがとうと言われた事に照れている様子のルーク。
そして、
――だから、何でそういう事言うのさ!馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!
結局いつもと同じような返答をしてしまう私。
色々あったけど、もう元の日常が戻りつつあるようで…。
そのことが嬉しくて、知らないうちに笑顔になってしまう。
と、その時。
バンッ!!と大きな音を立ててドアが開いた。
突然の物音に、心臓が止まるくらいびっくりした。
音がした方を見ると…………そこに居たのはヒュウガ少佐だった。
彼は私の姿を認めると、
「ルゥたんっ!!」
駆け寄ってきて、私に抱き着いた。
『ちょ、少佐!?』
「よかったぁ……ずっと起きなかったから心配したんだよ…?」
…………いつものように殴り飛ばしてやろうかと思ったのだが、本当に泣きそうな顔でそんな事を言われてしまっては、殴る気も失せてしまった。
……きっと、本当に心配してくれていたのだろう。
『……心配を掛けてしまってすみませんでした。でも、もう大丈夫ですよ』
少しでも安心してもらおうと、微笑みながら頭を撫でてあげる。
「少佐!病院の廊下では走らないでくださいって言ったじゃないですか!!」
「ルフィアっ!」
「ルフィアさん!」
続いて、そんな声と共に入ってきたのはコナツさんとクロユリ君とハルセさん。
クロユリ君は少佐と同じように私に駆け寄ってきて、少佐を押しのけて私に抱き着いた。
「ルフィアのバカ!あんな大怪我して……死んじゃってたらどうするの?!」
ぎゅうっと私の腰周りにしがみついたままそう叫ぶ。
『うん……ごめんね、クロユリ君』
僅かに震えている小さな体を、私も抱きしめ返した。
「そうですよ、ルフィアさん。皆心配していたんですから」
クロユリ君の後ろに立ったハルセさんがたしなめるように言う。
彼にそう言われると、何だか申し訳ないような気分になる。
『すみません……』
「でもっ……ルフィアさんが生きていて、よかったです……っ」
袖口で目元の涙を拭いながらそう言ってくれたのはコナツさん。
『…………ありがとうございます、コナツさん』
――申し訳ない気持ちもあるけれど、なんだかすごく嬉しい。
皆さんが私のことを心配していたと言ってくれて。
生きていてよかったと言ってくれて。
それはまるで、私も本当に彼等の“仲間”になれたみたいで……。
こんなにも温かい場所に居ることができるなんて、今の私はなんて幸せなんだろう。
「あはは、コナツが泣いてるー」
「なっ……べ、別にいいじゃないですか!貴方は黙っててください!」
…………せっかくしんみりした雰囲気だったのに、少佐がコナツさんをからかい始めた。
コナツさんは真っ赤になりながら否定したり怒鳴ったりしているけれど、ヒュウガ少佐は笑い続けている。
何だかこういうのも久しぶりだな…なんて思ったりもして、少し笑みが零れた。
……ハルセさんは苦笑いしていたけれど。
そんな感じで、病室がにわかに騒がしくなってきた頃、
「皆さん、病院なんですからあまり騒がないでくださいね」
「…………。」
カツラギ大佐とアヤナミ様が遅れて姿を現した。
大佐の一言で、病室はまた少し静かになる。
「ルフィアさん、体の具合はどうですか?」
『まだ傷は痛みますけど、もう大丈夫ですよ』
そう言うと大佐は、そうですか、と微笑んで私の頭を撫でてくれた。
そして、片手に持っていた、お見舞いの定番とも言えるフルーツ入りの籠を近くの机に置く。
…………あのメロン美味しそう…。
「ルフィア、」
『!はいっ!』
アヤナミ様に名前を呼ばれて我に返った。
…………いけないいけない。メロンに見惚れてた。
そして、アヤナミ様は私に何かを差し出す。
見ると、それは一丁の拳銃。
『これ…!私のですよね?!』
牢に連れて行かれた時に没収されてしまっていたやつだ。
それが再び手元に戻ってきて、嬉しさのあまりほお擦りする。
ひんやりとした冷たさが気持ちいい。
「ああ。ヒュウガが言っていたが、愛用の武器は無いと落ち着かぬのだろう?それに、持っていれば護身にもなる。
……病院は持ち込み禁止のようだから、何処かにでも隠しておけ」
持ち込み禁止なのに持って来ちゃったんですか。
…………流石アヤナミ様だ。
『えっと……ちなみに短剣達は…?』
「数が多かったので置いてきた。お前が退院した時に返す」
ああ……確かに結構多めだったかも…。
『了解です』
「そうそう、何か軽く10本くらいあったんだけどさ…………何処にあんなにあるの?」
横から少佐が口を挟む。
『えーっと……左右の腕に2本ずつ、懐に2本、背中に1本、腰に1本、太股の所に左右1本ずつ、あとブーツに1本ずつっていうのが標準装備ですね。場合によってはもっと多かったり少なかったりしますけど…』
「へぇ…結構入れてるんだね」
私の言葉を聞いて、彼は感心しているのか呆れているのかよく分からない表情で呟いた。
*
「さて……仕事が待っている。帰るぞ」
「え!?」
アヤナミ様の急な言葉を聞いて、ヒュウガ少佐が驚いて声を上げる。
「何でもう帰っちゃうの?!普通もっとお話したりするでしょ?!」
……少佐の意見には私も同意だ。
もっと長く居てくれでもいいと思うのだが…。
「見舞いに来た訳でもないのに、何を話すことがある」
「お見舞いじゃなかったの!?」
少佐がまたしても驚きの声を上げる。
私も若干目を丸くした。
――お見舞いじゃないんですか…。
何だか少しショックだ。
「私は物を渡しに来ただけだ。…………何の用も無い上に仕事も溜め込んでいるお前も連れてきてやったというのに、文句があるのか?」
「オレはルゥたんのお見舞いに来たの!それに、オレが仕事しないのはいつもの事じゃん!」
「開き直るな」
パシン!という乾いた音と共に、少佐が鞭で叩かれる。
…………アヤナミ様……武器は持ち込み禁止だって言ってたのに……。
なんて事はもちろん言えない。言って巻き添えを食らったら堪らないし。
「すみませんね、騒がしくて…」
アヤナミ様に打ちのめされるヒュウガ少佐をバックに、大佐が苦笑いしながら言う。
コナツさんは、またあの馬鹿少佐が…と言わんばかりの表情でこめかみを押さえている。
『まあ、いつもの事ですからね…』
「そうですね…。でも、最近はあまり見れていませんでしたから」
『え、そうなんですか?』
「はい。皆ルフィアさんが心配で、気が気ではなかったのでしょうね。執務室にも暗い雰囲気が漂っていたんですよ」
暗い雰囲気のブラックホーク…?
カツラギ大佐の言葉に首を傾げる。
どんな感じだったのだろうと頭の中で思い描いてみるが、全く想像がつかなかった。
いつも見ていたのは騒がしい様子ばかりだったし。
それが当たり前で、それ以外なんて考えられなかった。
だけど、そんなに心配を掛けてしまっていたのかと思うと、また申し訳なくなる。
「おや、もう静かになりましたね」
カツラギ大佐の言葉に顔を上げると、満足した様子で鞭を仕舞うアヤナミ様と、屍と化してしまったヒュウガ少佐が居た。
…………ご愁傷様です、少佐。
* * *
その後、アヤナミ様はすたすたと病室を出て行ってしまった。
皆さんもそれを追うように帰ってしまって。
大佐達はまた来ますと言ってくれていたのだが、こんなにあっという間に帰られてしまうと何だか寂しい。
もっと長く居てくれてもよかったのに、と少々不満に思いつつ、でも仕事があるんだから仕方ないんだと自分を言いくるめる。
…………ただ、最後に少佐を引き摺って出ていったコナツさんの姿が妙に印象的だった気がする。
少佐、痛くなかったのかな…。
そんなこんなで、また私一人になってしまった病室。
清潔感溢れる白に統一された部屋は、生活感が無さすぎて逆に何だか落ち着かない。
そして、やる事も無い。
何処かに行こうかと思っても傷が痛むし……これは正直、不便なことこの上ない。
『仕方ない…………治すか』
静かな部屋で呟いた。
“おい、やめとけよ。何かあったらどうするんだ”
いつものようにルークが異議を唱える。
――大丈夫だって。ちゃんとバレないようにするし、部屋にはどうせ誰も来ないでしょ。
体力も多少は回復しているだろうし、問題ない。
そう言ってルークを無理矢理納得させて、私は目を閉じた。
短く息を吐いて、意識を集中させる。
『…………《結界を展開――Lv.1解除します》』
その機械的な言葉と共に、部屋いっぱいの大きな立方体の形をした結界が出現した。
そして、私の背からふわりと翼が生える。
大きな漆黒の翼が、窮屈そうに結界の中で折り畳まれていた。
……いちいち結界を張らないと力を使えないというのは、結構煩わしい。
しかし、ミカエルやらラファエルやらを監視している軍のレーダーに捕捉されたり、セブンゴースト等に私の存在の感づかれては厄介だから致し方ない。
結界さえ張っておけば、外からは私の力を感知出来なくなるから。
それと、力を使おうとする度にこの翼が出てしまうのも困りものだ。
確かに天使にとって翼は力の象徴なのだが、この姿では、うっかり誰かに見られたりしたら非常にマズい。
おかげで人前では力を使おうにも使えなくて…。
宝の持ち腐れというか、ほとんど無価値な感じになっているのだ。
『《身体ダメージの治癒を開始します》』
先程と同じように、機械的な言葉を言う。
すると、私の身体が淡い光を放ち始めた。
みるみるうちに痛みが消えていくのが感じられる。
数秒経って、腕の包帯を解いてみると、そこには既に傷は無かった。
動かしても痛みは感じられない。
完全に元通りだ。
……やはり、癒し系ザイフォンなどとは比べものにならない早さだ。
『《治癒の完了を確認。Lv.1の解除を終了、結界を消去します》』
言うと、翼が光の粒となって消え、結界も跡形も無く消滅した。
『あー、やっぱり便利だねーコレ』
ぐるぐると肩を回して調子を確認しながら言う。
足も普通に動くし、身体の何処にも痛みは残っていない。むしろ絶好調だ。
“あのなぁ……見られたりしたらヤバいんだからもっと危機感というか、慎重さを持った方が…”
――大丈夫だよぉ。皆さんも帰っちゃったんだし、こんな所誰も来ないよ。
なんて思いながら呑気に笑っていたら、
コンコン、とドアがノックされた。
ビクッと肩が震える。
ブラックホークの皆さんは既に帰ったはずなのに、誰だろう…?
お見舞いに来るような人の心当たりは無いし…。
もうちょっと早く来られてたらヤバかったかな…と安心する反面、誰が来たのか不審に思い、ようやく返ってきてくれた愛用の銃に手を伸ばしつつ、どうぞと声を掛ける。
ドアを開けて入ってきたのは、
「久しぶりだね、ルフィア。怪我の方はもう大丈夫なのかね?」
おじいちゃんだった。
私のさっきまでの緊張をぶち壊すようなニコニコ笑顔をしながらベグライターのカルと一緒に部屋に入ってきて、近くの椅子に腰掛ける。
『なんだ、おじいちゃんか…。びっくりさせないでよ…』
銃から手を離して、ベッドの縁に座り直す。
『で、何しに来たの?』
「何って、見舞いに決まっているじゃないか。娘が大怪我して病院送りになったと聞けば、心配にならない親は居ないだろう?」
『はいはい、せっかくの駒が死んじゃうんじゃないかって心配で心配で気が気じゃなかったんだよね。それくらい分かるよ』
「はは、相変わらず手厳しいね…。私は純粋に、父親として娘の身を案じているというのに」
『……分かったよ。そういう事にしとけばいいんでしょ?
あと、身を案じてもらう必要性はもう無いから安心してよ』
さっき巻き直したばかりの包帯を解いて、腕を見せる。
傷も何も無い腕が差し出されても、おじいちゃんはさほど驚いた様子は見せなかった。
「医者からは、ザイフォンを併用した最先端の治療でも最低で全治10日ほどと聞いていたのだが……流石だね」
『まあね』
何を調子に乗ったのか、胸を張って答える私。
「ところで、こんな時に聞くのも難だが、ブラックホークでの生活はどうかな?そろそろ慣れてきたかい?」
『うん。結構楽しくやってるよ。…………書類の多さは殺人的だけど』
「それは何よりだ」
書類の所はスルーかよ、と内心で文句を言うが、彼に言ってもどうにもならない事なので諦めることにした。
…………そういえば、
彼には聞いておきたい事があったのだと思い出す。
『…………ねぇ、おじいちゃん』
「何だね?」
『おじいちゃんは、私が探してた人がアヤナミ様だって知ってたの…?』
「無論、知っていたよ」
即答。
しかも相変わらずの笑顔で。
昔――数年前に訊いた時には知らないと言ったのに…。
まあ、その言葉を完全に信用していた訳ではなかったし、それが嘘なのではないかと薄々感づいてはいたから、それほどショックは無いけれど。
私は、おじいちゃんのこういう所は嫌いだ。
でも、自分だって彼に言っていない事や嘘をついた事が多少はあるわけだし、彼がそういう人間だという事も承知した上で彼の娘をやっているのだから、文句を言える立場ではないのだが。
「本当は、君を彼と会わせるつもりは無かったんだ」
ふぅ、と息を吐いておじいちゃんが喋り出す。
「あれほど嫌がっていた君が、士官学校に入ることを無理矢理であったとはいえ承諾してくれた理由は一応察しがついていたよ。
でも、それは大して問題にはならなかった。動機は何であろうとよかったのだ。
そして、士官学校で君には友人といえるものが出来た。テイト=クラインと……確か、ミカゲ君、だったかな。それはとても好都合だったよ。
前の君は、生きることや、誰かの存在等にあまり執着を持っていなかった。それは、君のような者にとっては仕方のない事なのかも知れないが……それでは駄目なのだよ。
守るものがあると人は強くなると言うだろう?それは全くその通りだと私は思う。
君は元々才能があったようで、訓練でかなりの力量を身に付けてくれた。だが、本当に大切な場面では、それだけでは勝てないのだよ。
君が次のステップへ踏み出すには、君にとって大切な“何か”を作らなければならなかった。だから、君が彼らと仲良くなったと聞いた時にはラッキーだと思ったのだ。君も、ほんの少しずつではあったが彼らに心を開き始めていたしね。あのまま行けば彼らは君の支えとなり、君にとっての“守りたいもの”となり、そして君がちゃんとした“強さ”を身に付けられるようになるだろうと…。
しかし、色々あって彼らは君の前から姿を消してしまった。それはテイトには好都合だったが……無論、君の場合は違った。
せっかく心を開き始めていたのに、君はまた心を閉ざしてしまいそうだった。完全に心を閉ざされてしまってからでは、またやり直すのは難しい。だから、彼らの“代わり”を早いうちに用意しなければならなかったのだ。
…………ブラックホークの面々は個性的な者が多いから、正直、君がうまく馴染めるか不安な部分もあったのだが、打ち解けているみたいでよかったよ。
実際、君は順調に成長してくれている。聞いた話だと、昔はいくら訓練しても上手く出せなかった攻撃系のザイフォンを出せるようになったそうじゃないか」
そんな事を言って、彼は笑った。
何処からそんな情報を掴んできたんだ、と疑問に思う部分もあったが…。
私はやっぱり彼の手の平の上で、彼の作ったレールの上を歩かされてるだけなんだな、と感じた。
全て彼の計画通り。
でも、そのレールに乗っかってやろうと思ったのは私。だから文句は言わない。
だけど、やっぱり複雑な気分だ……。
そんな私の心中を見透かしたのか、おじいちゃんが言う。
「やはり、こういう事を言われるのは不愉快だったかい?……まあ、普通は嫌がるだろうね。大概、人間というものは他人に束縛され支配されるのを快くは思わない」
『……そうだね…。そんなに嬉しくはないかな。……でも、承諾したのは私だし、おじいちゃんのおかげで出会えた人だって居るわけだからなぁ…。何とも言えない気分だよ』
「そうかい。まあ、嫌われたわけではないようだから良しとしようか」
苦笑しながら彼は言う。
そして時計に目を遣って、そろそろ帰るとしようか、と呟いておじいちゃんは椅子から立った。
色々と仕事があるのだという。
やはり元元帥というのは大変なのだろうか…。
「…………ああ、念のために言っておくが、」
何か思い出したのか、ドアの方へ向かおうとしていたおじいちゃんがこちらに向き直る。
「例え君が彼らに心を許しているのだとしても、例え彼らが君にとって信用に足る存在だとしても…………“アレ”の事は絶対に言ってはいけないよ…?」
急に彼の口調が真剣になった。
先程までは比較的穏和そうなだった眼差しも、今はひどく冷たい。
射竦められそうな双眸に見つめられる。
『…………分かってる。
私は、ブラックホークが好きだよ。だからこそ、言わない。言ったりなんかしない。…………言う事なんて、出来ない』
「……それなら構わんよ」
私の答えに満足したのか、また笑顔に戻って頷く。
「これからも頑張ってくれると嬉しいよ。期待しているからね、ルフィア」
そんな言葉を残して、ヒラヒラと手を振りながらおじいちゃんはカルと共に部屋を出て行った。
その姿を見送って、彼等の足音が聞こえなくなった頃、
『…………あぁー、何か嫌だったー!』
叫びながらぼふんと後ろのベッドに倒れ込んだ。
『ああいうおじいちゃんは何か嫌なんだよー!しかもお菓子も何も持って来てくれなかったし!!っていうかカルは何しに来てたの?!結局何も喋んなかったじゃん!』
“はいはい、大変だったなー。お疲れー”
『むぅ…』
明らかに適当な返事を返してくるルークに多少の不満を感じて頬を膨らませる。
そして、
『…………………………………メロン、食べよっか』
“ってメロンかよ!”
ルークが何か叫んだけど、それは華麗にスルー。
よいしょ、という掛け声で起き上がり、大佐が持って来てくれたフルーツたっぷりの籠に手を伸ばす。
“……なんだかんだ言って、結局いつも通りだな”
『そうだねー』
さっきまでの出来事もあっという間に忘れて食べ物の誘惑に負ける相変わらずな自分に二人して苦笑いした。
そして数秒後、
『………ナイフとか、無い?』
“ねぇよ”
私はまた新たな問題に突き当たることとなる。
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