第二十一話 In the Jail③
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
現在、時刻は朝の7時過ぎ。
私は例の部屋の中で運ばれてきた朝食を食べている。
これが意外と美味しかったりするのだ。
こういう所で出される食事はマズイんじゃないかって不安だったけれど、私の予想は良い意味で裏切られた。
他にも、シャワーは看守さんに申し出ればこの部屋を出て少し行った所にあるシャワールームを使わせてもらえたり、昨夜の懸念事項だった照明も看守さんがロウソクを持ってきてくれた事によって解決したので、案外快適な生活を送っている。
唯一困っているのは、コンタクトの洗浄液が無い事だ。
一応、うっかり着けたまま寝ても大丈夫なものを使っているし、2日くらいの連続使用なら問題無いとは思う。
しかし、衛生的にはちゃんと洗っておくべきなんだろうな、とも思う。
だが、いくら悩んでも肝心の洗浄液は無いのだからこの問題は解決しない。
そんな訳で、今度の差し入れは洗浄液がいいな、なんていうテレパシーをアヤナミ様かカツラギ大佐あたりに送ってみた。……受信してもらえたかは分からないが。
『ごちそうさまでしたー』
朝食が終わると、机に置かれた書類の束が私を待っていた。
まさかこんな所でも書類仕事をするはめになるとは思ってもみなかったが、やらなかったらアヤナミ様に怒られそうなので、やりたくはないが仕方なく手を付ける。
無論、切羽詰まったものは無いし、面倒なものもあまりないので比較的気楽に出来そうだ。
……ちなみに、筆記用具も看守さんから借りたものである。
右手には書類、左手にはゲーム機を開いて同時進行で作業を進めていった。
…………時間が経つにつれ、徐々に書類ではなくゲームの方に没頭し始めてしまった事には突っ込まないでいただきたい…。
* * *
『いただきまーす』
そして、昼過ぎ。
朝と同じように、運ばれてきた食事を食べる。
今回はサンドイッチやスープと軽めだが…………やっぱり美味しい。
『ごちそうさまでしたー』
食べ終わると、食器を纏めて端に置いた。
そして、ここに来てからよくするようになった格好――ベッドに横になって天井を見上げるという体勢になって、ふぅと息をついた。
これだけ静かだと、ふとした瞬間にも物思いに耽りやすいようで……。
何となくアヤナミ様の顔を思い出してみたり。
もし私が抜けた分の仕事までしていたら、ただでさえアヤナミ様は仕事が多そうだったし、本当に過労死とかしちゃうんじゃないかなぁ……と心配に思う。
ヒュウガ少佐は普段から仕事をサボっているからアテにならないし、コナツさんも今までので手一杯だろうし…。
他の人達もこれ以上仕事が増えたら可哀相だからなぁ……。
皆さんのためにも早く帰らないと。
そんな事を思ってみて、今度はこのホーブルグ要塞へ来てからの思い出を振り返ってみる。
まだ一ヶ月も経ってないけど、色々あったなぁ…なんて感慨深そうにしようとして……。
『…………あれ?何かあんまり良い思い出が無いような気が……』
衝撃的な事実に直面した。
よくよく考えてみると、初っ端から要塞で迷子になったり、会ったばかりの人と戦わされてこてんぱんにやっつけられたり。
書類だってやたら多いし、アヤナミ様は怖いし……。
パーティーでも面倒事に巻き込まれ、他の所でもちょくちょく面倒事に巻き込まれ……。
せっかくおじいちゃんに貰った食べ放題のタダ券も破られ……。
そして、現在に至る、と。
確かにブラックホークの皆さんは良い人達だが…………こんな所、来るんじゃなかった、と思ってもおかしくないような感じだ。
それに……。
『そういえば皆さん、魂が半分しか無かったりするんだよなぁ…』
余計な事まで思い出してしまった。
今まで、その事については考えないようにしてたけど、それはつまり、フェアローレンが力を取り戻してるかも知れないという事を意味する訳で。
まだ確証がある訳ではないし、ミカエルやラファエルはそう簡単に彼を許すとは思えないが…。
それに、その確証を得ようとして下手に動けば、こちらの正体がバレるという事にもなりかねない。
それだけは絶対に避けなければならなかった。
今だって――ネレの力を借りてだが――魂の色を変えてまで隠しているのだから。
無論、相手がただの人間ならそこまでする必要も無いのだが、念には念を、という事だ。
とりあえず、こちらから動くのは無理だし…………この件については様子を見るしか無いだろう。
* * *
「おい、出てこい」
突然ドアが開き、そこから顔を出した見知らぬ軍人さんに声を掛けられた。
『え、釈放ですか?』
「馬鹿かお前は」
即答された。気持ち良いくらいに。
そんな全力で否定することないと思うんだけどなぁ……。
「犯罪者が釈放される訳無いだろ。尋問だよ尋問」
『えぇー……』
「つべこべ言わずにさっさと来い!」
『……はーい』
「返事は短く!」
『はいはい』
「一回でいい!」
『……はい』
仕方がないので、私は重い腰を上げて、その軍人さんについて行った。
* * *
「やあ、君が例の子だね。写真では見てたけど、実物は写真以上に可愛いじゃないか。こういう職場だと暑苦しい男ばっかりだからなぁ。君みたいな子が居てくれると癒されてるから助かるよ。あ、そこ座って。カツ丼とか食べる?」
『…………えと、カツ丼は遠慮しておきます……』
着いた部屋は、真ん中に大きめの机と、その両側に置かれた椅子しか無い簡素な場所だった。
内開きのドアが一つで、私がさっきまで居た部屋と同様窓は無く、息が詰まりそうな感じだ。
というか、こうゆう時って本当にカツ丼出るのか……。
そんな事を思いつつ、いつまでも立っているのはアレなので勧められた椅子に腰を下ろす。
机を挟んだ向こう側でニコニコしているのは、今回尋問を取り仕切るヤナギ大佐という人だそうだ。
さっきから出入り口のドアの横に立ってこちらを見ているのは、彼のベグライターらしい。
「さて、面倒な事はさっさと済ませたいのでね。早速本題に入ろうか」
ヤナギのその言葉で、私の人生初の尋問体験が始まった。
「えーっと……君は昨日の午前9時頃、このホーブルグ要塞内にある資料室に入り、そこにあった資料ファイル一点を無断で持ち出した。という事でいいんだよね?」
『…………私はやっていませんが』
多少は予想していたが、まさかここまで断定口調でくるとは思わなかった。
だが、こちらとしては罪を認める訳にはいかないので、当然否定する。
するとヤナギは、先程までのニコニコした相好を無くして、少し不快そうな顔をした。
「うーん、困るんだよなぁ……。ほら、君がやったんでしょ?さっさと自供してくれればそれだけ早く終わるんだからさ」
『そう言われましても、やってないものはやってません』
私がそう言うと、彼はますます不快そうな顔をする。
「だからさぁ……僕としてはこんな事に時間は掛けたくないし、手荒な事とかもしたくはないんだよ。分かってくれるでしょ?君が一言“やりました”って言ってくれれば全部丸く収まるの」
『しかし、やっていないのにやったとは言えません』
「何でよ?」
『私、正直者ですから』
挑発するように笑うと、相手は更に顔を歪めた。
ああ……眉間にシワが……。
「じ、じゃあ、正直者の君は、何が何でも無実を言い張ると…?」
キレる一歩手前といった感じで、ヤナギが言う。
『もちろんです。やってもいない罪を着せられてこんな所に入れられてるっていうだけでも嫌なのに、その上冤罪で処刑でもされたらたまりませんから』
「ふん…………君がそういう態度なら、こちらも自白を取るのは諦めるしかなさそうだね……」
まだ多少引き攣ってはいるが、表情を最初のような笑顔に戻して、彼は呟いた。
『ええ、さっさと諦めてください。その方が助かりますし。……私はもう帰ってもいいですよね?』
私はそう言って、椅子から立ち上がる。
「ふふふ……。別に君の自白なんて取れなくたって良いんだ。調書に適当に書いておけば、たとえそれが事実ではなかったとしても、君は自白した事になる。正直、面倒臭いけど…………仕事だし、命令だから仕方ないね」
色々と盛大にカミングアウトしつつ、ヤナギも席を立つ。
そして、私の方に歩み寄ってきて――
「でも、そうなると、君が生きている事がだんだん不都合になってくる可能性がある」
今までの笑顔とは異質な――下品な笑顔を浮かべるヤナギ。
そんな彼を睨みつけながら、私は訊く。
『私を、消すんですか』
「最終的には、ね」
言いながら、ゆっくりだった歩みを急に早くして私に接近してきた。
――仕掛けてくる…!
そう思って身構える。
しかし。
いきなり、ドンッ、と突き飛ばされた。
武器を使った攻撃が来ると思っていた私は予想外の事に対処出来ず、後ろの床に倒れ込む。
すると、ヤナギはすぐに私の上に覆い被さってきて……。
油断している隙に両手首を拘束され、組み伏せられてしまった。
「確かに、最終的には君を処分しなくてはならないだろうね。余計な事をされると困るし。
でも……」
――その前にちょっとだけ君と遊んでも、構わないだろ?
耳元で言われて、思わず身体が強張る。
何とかして抜け出そうとしてみるものの、武器も無くザイフォンも封じられた状態では大の男に敵うはずもなく……。
「ああ、ちなみにこの部屋の防音性はバッチリだからね。助けを呼ぼうなんて思わない方がいいよ」
何故ここも防音っ!!?
果てしなく迷惑だよ!!と思ったのは言うまでもない。
しかし、心の中でそんな事を叫んでも状況が好転するはずもなく。
ヤナギは相変わらずの下品な笑顔のままで私の軍服のベルトを外し、上着をはだけさせていく。
『や、やめっ…!』
抵抗を試みるが、しっかりと押さえ付けられていて、結局何も出来無い。
「良いね、その顔。すごく可愛いよ……」
そんな事を言って、ワイシャツのボタンに手を掛けようとした所で……。
ぬぅっと、彼の背後――ちょうど首の両脇から手が伸びてきた。
いつの間にか彼の後ろに来ていたその手の主は、さっきまで入口の横に立っていたはずの彼のベグライターだった。
「ん?」
ヤナギもそれに気付いたようで、そちらに少しだけ視線を向ける。
「ああ、君も一緒に――」
……しかし、彼の言葉はそこで途切れた。
その台詞を遮るように、メキャッという気味の悪い音がして…………次の瞬間には、彼の首はあらぬ方向に曲がってていた。
その首を両手で握り締めて――というより握り潰していたのは、やはり例のベグライターの人で。
「…………薄汚い手で姫様に触らないでよ、糞豚が」
侮蔑した表情で動かなくなったヤナギを睨みつけると、口汚く罵ってから横に投げ捨ててしまった。
『…………あ、貴方は…?』
何だかよく分からないが、とりあえずは助けられたようである。
少しびっくりしつつも、その人に尋ねた。
「御無事で何よりです、姫様!お忘れですか?私です。アリアですよ」
彼はそう答えると、打って変わって恭しい動作で、未だ床に座り込んでいる私に手を差し出した。
.