第二十話 In the Jail②
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『うーん…………リクルート』
“鳥”
『…………流血』
“釣り”
『…………リストカット』
“お前、そんな物騒な単語並べんなよ”
『いいじゃん。だってまともなのもう残ってないし』
“それもそうだな…。徳利”
『っ…………リダイヤル』
“それはもう言った”
『嘘ぉ!?……じゃあ…………立体交差』
“犀利”
『………………リボルバー』
“それももう言った”
『…じゃあ陸稲』
“それも言った”
『リクライニングシート』
“言った”
『リケッチア』
“言った”
『だって!!もう無いじゃん!!』
“ならオレの勝ちだな”
『うぅ……ムカつく……“り”ばっかりでずるいじゃん!!』
“それも戦略の一つさ”
『……つか何でそんなに語尾に“り”がつく単語知ってんの?馬鹿じゃないの?』
“負け惜しみか?再戦なら受けて立つぞ?”
『…………ルークとしりとりやって勝った事無いんだけど…。
つかルークがいっつも“り”で攻めてくるから私も大分“り”で始まる単語のレパートリー増えちゃったんだよ?どうしてくれるのこの無駄知識?!』
“良かったじゃねーか。いつか役に立つ時が来るよ”
『いや来ないでしょ』
* * *
……とりあえず、私が何故こんな事をやっているのかを順を追って説明しよう。
まず、突然やって来た見ず知らずの軍人さんに何処かの部屋に押し込まれた私は、そこで何故か身体検査をされた。
セクハラとかそういうのはどうでもいい。……いや、どうでもよくないけど、もっと深刻な問題がある。
その時に、私の愛用の武器達がほぼ全部没収されてしまったのだ。
常日頃から腰に吊っている拳銃はもちろん、軍服の至る所に入れている短剣約10本等もほぼ全て取り上げられてしまった。
おかげで今はものすごく体が軽い。
そのせいで、私は無性にイライラしていた。
いつも感じている適度な重量感が無いというのは、こんなにも落ち着かないものだろうか…。
そして、身体検査が終わると何故か手枷っぽいものを嵌められた。
手枷と言っても、両手が鎖で繋がっているようなものや四角い木板に開いた穴に手首を通すような普通のものではなく、ただのブレスレットのような物体だった。
ただ、その時傍に居たおにーさんに依ると、これはザイフォンを封じるためのものらしい。
…………それは、“こんな小娘、ザイフォンさえ封じちまえば大した事無いさ☆”ということだろうか。
…………ムカつくなぁ…ナメやがって…。
そしてその後、私はここにぶち込まれた訳だ。
おそらくは留置場だと思われるこの部屋。
窓は無く、ドアが一つ。その他にはベッドや机、多少の水回り等必要最低限のものしか無い簡素……というよりは粗末な長方形の部屋だ。
ちなみに、おにーさんが“この部屋の防音設備は完璧だからお前が発狂して叫び始めても問題なしだ”と言っていた。
…………誰が発狂なんてするもんか!!
まあ、そんな感じで、おにーさんの言動のせいでストレスが溜まりまくっていたので、少し気を紛らわせるためと暇潰しのためにルークとしりとりをしていた訳だ。
あのムカつくおにーさん曰く防音設備は完璧らしいので、ルークとも普通に喋っている。
…………あいつマジでムカつくからおにーさんじゃなくておじさんって呼んでやろうか…?
うん。それがいい。そうしよう。
『それにしても……どうすんの、この状況』
不満を隠さずに呟く。
“どうするって……”
『何て言うかさ……精神的に来るんだよね。さっきのおじさんもムカつくし、この状態にも納得行かないし。
ねぇ、ゲーム機無いの?』
“…………んなもんねーよ。つか途中まで真面目な事言ってるかと思ったら結局そうなるのかよ”
いつものように、呆れた口調でルークが言う。
まあ、無いのは分かってるんだけどさ……それでも言いたくなっちゃうことってあるじゃない。
『…………はぁ……』
ため息を吐いて、今まで腰を下ろしていたベッドに身体を投げ出した。
苛立ちとか、これからどうなるんだろうという不安とか、いつも当たり前のようにあったものが無い虚無感とか、いろんな感情がぐるぐると頭の中を回っていて、どうにも平静を取り戻せない。落ち着かない。
こうして横になってみてもそれは変わらず、私は無機質な天井を眺めながらまたため息を吐いた。
* * *
時間は過ぎ、現在は夕方。
と言っても、窓は無いので空の変化は分からないから時計を見て時間を知るしかない。
そして、
『…………うぅ……あたしの、ゲームぅ……』
暇だから時間が経つのがものすごく遅く感じる。
その影響からか、私はものの見事に禁断症状発症中だった。
“おい、しっかりしろルフィア!死ぬな!”
『……だったら……わたしに、ゲー…ム、を……』
“ほ、ほら、じゃあもう一回しりとりでもしようぜ!な?よし、そうと決まったら早速始めようか。オレから言うぞ?しりとり”
『…………リムジン…?』
“やる気無しっ!!?”
ルークが色々と喚いているが、もうそんな事もどうでもいい。
とりあえず私にゲームをください。
そんな事ばかりを願っていると、
ガチャリ。
と音がした。
誰かがゲーム機を持ってきてくれたのかな?と、ルークが聞いたら全力で否定しそうな希望を持ってドアの方を見遣ると……。
『…………………………………………何だ。さっきのおじさんか……』
「誰がおじさんだよ!!お兄さんと呼べ!!」
がっかりして、私はそちらから視線を背ける。
すると、何が気に入らないのか、おじさんはずかずかとこの部屋に入って来てベッドに横たわる私を無理矢理引きずり下ろそうとし始めた。
『な、何するんだジジイ!』
「ジジイじゃねぇよチビ!!」
『は?誰がチビだって?そういう事言う奴にはこれからどんどん背が縮んでいく呪いが掛かるんだよ!分かりましたか?初老の軍人さん?』
「はぁ?お前こそさらに縮むんじゃねーのか?つかさっきから言わせておけばおじさんだの初老だのって……。俺はまだ20代だっつーの!!」
『私はこれから伸びるんですー。というか、せっかく心配してあげたのに…。あ、もしかして、身長の心配よりも残りの頭髪の心配をしてほしかったんですか?何と言っても初老のおじさんですからね』
「黙れ!!何でてめぇなんかに髪の毛の心配されねぇといけねーんだよ?!」
などと、比較的低レベルな言い争いを繰り広げてる私達。
このままでは決着の付かない泥沼の戦いになりそうだったが、
「おい、何やってんだよ!」
ドアからもう一人軍人が顔を出した事によっておじさんは急に大人しくなった。
どうやら、あの人はおじさんの上司らしい。
『…………で、何の用ですか』
機嫌のあまり良くない私がぶっきらぼうに訊く。
「ああ。お前に面会したいっていう五月蝿い馬鹿共…………、いや、今のは忘れてくれ…。
……とにかく、お前に面会したがってる賑やかなご一行様がいるんでな。彼等の機嫌を損ねないためにも面会してやってくれないか」
おじさんの上司らしき軍人さんはそう言った。
心なしか、思い出すのも嫌だと言わんばかりの顔をしているような気がする。何かあったのだろうか。
…………まぁ、誰が来ているのかは大体想像がつくが。
私がこんな事になって面会に来てくれるような人は両手で数えられるほどしか居ないし、その中でも賑やかなご一行様となれば……彼等しか居ないと思う。
『あー……はい、会いますけど…』
「そうか!なら行くぞ!」
私が返事するや否や、例の上司らしき人は私を半ば引きずるようにして歩き出した。
何やら焦っている様子だ…。
とりあえず抗議してみようとしたものの、あまりにも必死そうな形相だったので、仕方なく黙って着いて行くことにした。
* * *
「ルゥたん!!会いたかったよぉ!!」
「少佐!いい加減静かにしてください!」
連れられてやって来た部屋。
私の姿を見た瞬間、ガラス越しにもかかわらず抱き着こうとしてきたサングラスの人を、隣に座っている真面目そうな少年が呆れながらも注意していて――
…………言うまでもなく、そこに居たのはブラックホークの皆さんだった。
しかし、数えてみると人数は5人。どうやらアヤナミ様が居ないようだ。
でもまあ、あの人は仕事好きそうだし仕事に追われてるから、こんな所に来る暇があったら書類と向き合ってるんだろうなぁ……。
『皆さん…………暇なんですか?』
「暇だよ~♪」
「貴方は仕事しないから暇なんでしょう?!」
にこやかに返してくる少佐に、コナツさんは早くも半ギレ気味だ。
まあ、いつもの事ではあるが……。
『……で、皆さんは何の用ですか?』
わざわざ私なんかに会いに来ているのだから、きっと何かあるのだろう。
そう問うと何故か少佐はキョトンとして、
「いや、別に無いけど」
と言った。
『無いんですか』
「用が無いと会いに来ちゃいけないの?」
『…………そんな気軽に来れるんですか…』
こういうのは、色々と面倒な手続きとかが必要なイメージがあったのだが……。
「…………って、用事ありますよ少佐!!勝手に無いとか言わないでください!!」
「え、そうなの?」
またもコナツさんが半分叫びながら少佐に言い返す。
しかし本人は相変わらずの、そんなの記憶に無いよ的な顔をした。
「忘れたんですか?!我々にはアヤナミ様に託された重要な使命があるんですよ!!」
「そうですよ、ヒュウガ少佐」
とうとうカツラギ大佐がコナツさんのフォローに入る。
「ルフィアさんの生存確認とこちらの状況の説明、それから差し入れを……」
『差し入れですかっ!?』
その言葉を聞いて急に身を乗り出す私。
「え、そこに食いつくの?」
無論、そこに食いつきますよ。
『何の差し入れですか?美味しいプリンとかですか?』
きっと今の私は、先程までとは打って変わって輝いた目をしているのだろう。
しかし、
「いえ、残念ながら違うんです……」
苦笑いする大佐を見て、私も若干肩を落とす。
「――アヤナミ様の命令とはいえ、女性の部屋に無断で入るのは如何なものかと思ったのですが…」
そう言いながら、大佐が取り出したものは……。
『!?私のゲーム!!』
見覚えのあるゲーム機。そしてソフトも数個。
「アヤナミ様が、今頃ルフィアさんは退屈で死にそうになっているだろうからと仰っていましたよ」
――ア、アヤナミ様…!!
貴方は神ですか?神ですよね?!!
これはもしや以心伝心というやつですか?!
それにしても流石ですよアヤナミ様!!いつもは怖いけど、めっちゃ良い人なんですね!!
「ああ、あと、退屈で死にそうなルフィアさんにこれも渡せと」
そう言って、次にカツラギ大佐が取り出した物。
それは、またしても見覚えのある――
大量の書類。
『…………。』
無論、テンションが急降下した私。
――……アヤナミ様……これはもしや、飴とムチというやつでしょうか…?
ゲーム機やるから書類もしろと、そういう事なんでしょうか…?
「ルフィア、そんなにがっかりしないで!」
落ち込む私を励ましてくれるのは、可愛い可愛いクロユリ君。
あぁ……君が天使のように見えるよ……。
「僕、ルフィアのために美味しい物作ってきたから!」
そう言って取り出したのは、怪しげな物体が入ったタッパー。
多分……いや、間違いなく今、私の顔は引き攣っている。
「マグロの苺ジャム和えだよ!ルフィアのために愛情込めて作ったんだから!」
………………ごめんね。私は、その愛に応えられそうにないよ…。
というか、前にも似たような物体を食べさせられそうになったけど……。
これは私を困らせようとわざとやってるんですか?それとも素でやってるんですか?
後者だとしたら、私はどうすればいいんだ……。
そんな感じで、さらにテンションが下がる私。
でも、とりあえずクロユリ君には営業スマイルでお礼を言っておく。
その際、横に居たハルセさんとたまたま目が合って――
「…………」
『…………』
…………何かが伝わってきた。
何も言わなくても分かる。
彼は絶対に「ご愁傷様です、ルフィアさん」と言おうとしているっ!!
ええ。同情してくださるのは有り難いのですが、助けてくださる方がもっと有り難いです、ハルセさん。
「ところで、そろそろ本題に入ってもいいですか?」
皆さんの様子を見ながらカツラギ大佐が言う。
『本題があったんですか』
「ええ、一応」
私が漏らした言葉に、大佐は苦笑いしながらも頷く。
そして、続きを話し始めた。
「先程も言ったように、我々は差し入れだけではなく、ルフィアさんの生存確認及び状況の説明もしなければいけませんので…。
とりあえずこうして生存は確認出来たので、本題というのは状況説明になりますね」
『あの、一つ質問が……』
おずおずと手を挙げる。
「何でしょう?」
『生存確認って、どういう事ですか?
さっきから、まるで私の安否が不明だったと言わんばかりじゃないですか』
「それは、まあ…………実際そうでしたし」
『そうなんですかっ!?』
思わず声を上げてしまった。
まあ落ち着いて聞いてください、と大佐がなだめてくれるが、ここで落ち着いていられる方がおかしいと思う。
普通の人なら当然聞き返すはずだ。
100歩譲っても、乗り突っ込みはするだろう。
「実はですね、私達もルフィアさんはすぐに帰ってくるだろうと思っていたのですが、色々と不都合な事態になってしまいまして…。
貴女はただ巻き込まれただけなのですが、場合によっては秘密裏に抹殺されているのではないかと皆さん心配していたんですよ」
などと、物騒な言葉を織り交ぜつつ簡単に説明してくれる。
『いやいやいや、勝手に殺さないでくださいよ』
「そうですね、すみません…」
『あ……いえ、別に大佐が謝らなくても……!
それより、何があったんですか?』
そんなに申し訳無さそうに頭を下げられると、逆にこっちが罪悪感みたいなものを感じてしまう。
それを消すため、私はすぐに違う話題を振った。
「その事なのですが…。
資料室から資料が消えたというのは事実でした。そして今日資料室を訪れたのがルフィアさんだけだった事も。
しかし、資料がいつ紛失したのかは分かっていないようです。最後に確認されたのが数日前だということなので…………他に犯人が居る可能性は十分に考えられます」
大佐が言う。
やはり犯人は別の人なんだ。私はやっていない。
…………しかし…。
『……じゃあ、ここ数日間に資料室に出入りした人は皆私みたいに牢屋に投げ込まれてるんですか…?そんな気配はありませんでしたけど…』
他の人も監房に入れられているなら、私も気付いていただろう。
でも私がぐたぐたとあの部屋で過ごしていた間、誰かが新しく連れて来られたような物音も気配もしなかったし、元から誰か居たような感じもしなかった。
……まあ、物音に関しては部屋が防音されているらしいから聞こえなくても不思議は無いし、もしかしたら他の場所にも監房があって、他の犯人候補の人はそちらに連れて行かれたのかも知れないが。
「…………そこが、問題なんです」
カツラギ大佐が少し顔を歪めて言った。
他の皆さんも何だか嫌そうな表情をしている。
……何かあったのだろうか。
「上層部はルフィアさんを犯人と決め付けたがっているようで、他の容疑者を捜す事にはかなり消極的なんです。
おそらく……というより間違いなく、これを理由に色々と文句を付けてアヤナミ様を――」
『…………ああ……そういう事ですか』
私もようやく状況を理解した。
皆さんがあんな顔をしたのもよく分かる。
それにしても……アヤナミ様って、随分いろんな人から嫌われてるんだなぁ…。前にも何度かゴタゴタがあったし、いつも書類押し付けられてるし。
「まったく、嫌になっちゃうよね」
ヒュウガ少佐が呟く。
「もう良い歳したじーさんなんだからさ、そろそろ軍からもこの世からも引退すればいいのに…」
「少佐!いくら本当の事だからって人前でそういう事言っちゃ駄目ですよ!!」
コナツさんが慌てて諌めているが、フォローになっているのかいないのか微妙な所だ……。
「すみませんね、ルフィアさん。貴女はまだここに来て長くないのに、こんな事に巻き込んでしまって……」
大佐が、また申し訳無さそうに頭を下げる。
『いえ、私は大丈夫ですから!それに大佐のせいじゃないんですから、そんな風に謝らないでください…』
「そうですか?……ありがとうございます。
我々も出来る限りの事はしていますので、もう少し我慢していてくださいね。早めにそこから出してあげますから」
『はい!期待して待ってますよ!』
大佐は優しいなぁ…なんて思いながら、私は笑顔で頷いた。
「では、そろそろ時間ですから、我々は帰りましょうか」
カツラギ大佐は、そう言って席を立つ。
そして、行きますよ、と皆さんに声を掛けてから歩き出した。
「えー、もっとルゥたんと話したいよー!っていうかずっと大佐ばっかり喋ってたじゃん!ずるいよ!」
「ヒュウガ少佐!大人なんですからそうやって駄々こねないでください!ほら、時間が押してるんですからさっさと出て行きますよ!
ルフィアさん、お元気で!」
続いて、かなり嫌がっているヒュウガ少佐を引きずりながらコナツさんが部屋を出ていく。
「ルフィア、早く帰ってきてね!」
ハルセさんと一緒に歩き出そうとしていたクロユリ君が、こちらを振り返って手を振りながら言った。
『分かってますよ!』
あぁ……中佐の笑顔は癒しだなぁ…。
そんな事を思いつつ、ニヤけそうになる顔を引き締めながら手を振り返す。
そのまま二人も出て行って、賑やかだった部屋は急に静かになった。
* * *
監房に戻ると、既に日は沈んでいるらしく辺りは薄暗かった。
とりあえずベッドに腰掛け、看守さんと思われる人を経由して受け取った差し入れを机に並べる。
愛するゲーム機とそのソフト、書類の束、嫌な予感しかしないタッパー、そして中佐に内緒でハルセさんが預けてくれたのだという胃腸薬。
…………差し入れって、こんなに嫌なものだっけ…?
ゲーム以外からは是非とも目を背けたいのだが…。
“ルフィア、好き嫌いはいけないぞ”
『……これはそういうレベルじゃない気が…』
ルークの言葉に、ますます顔が引き攣る。
書類は毎日向かい合っているからまだマシだが、その隣のタッパーは……。
“ほら、プリンに醤油を掛けたらウニの味がするとか言うじゃないか。そんな感じになるんじゃねぇの?”
『…………ならないでしょ…』
ルークは他人事だからそんな楽観的な事を言えるんだ、と心の内で愚痴る。
『これ、どうしても食べないといけないのかなぁ…』
“捨てるわけにもいかないだろ”
『だよね…』
はぁ、と本日何度目か分からないため息を吐いて、しかし食べる決心も付かず、一旦少し離れた所へと追いやっておいた。
『……あ、明かり点けなきゃ』
未だに薄暗い室内を見て今更ながら思い出す。
そして、明かりを点けようとして、
『…………無い…』
壁を探してみても、照明のスイッチらしきものは見当たらない。
室内にも発光しそうな物は無く……。
『あのー、明かりって無いんですかー?』
部屋の外に問い掛けてみる。
ドアを叩いてみたりもして呼び掛けたが…………一向に返事は来ない。
そして、この部屋は防音されてるという話を思い出して…。
『何なの、この待遇。つか防音設備要らなくね?すごい迷惑なんですけど!』
ムカつく!という思いを込めてドアを思いっ切り蹴ってみたが、それでも何も変わらなかった。
…………ただ、爪先がじんじんと痛む…。
“馬鹿だな”
『……うるさい…』
ルーク……は無理なので仕方なくドアを睨みつけるが、数秒経つとさすがに無意味な事に気付いて諦める。
そしてベッドに逆戻りして、
『はぁ…………何なんだよまったく…』
またため息を吐く。
せっかく人探しの手掛かりを見つけられたと思ったのに、変な事に巻き込まれて……。
こんな所に閉じ込められて……。
なんて運が悪いんだろう。
明かりの乏しい室内を見回して、そんな事を思った。
*
『でも…………こうしてみると、昔を思い出すよねー』
“………………そう、だな…”
両足を抱き寄せて、ベッドの上で体育座りをしてみる。
薄暗い部屋に閉じ込められて不自由な思いをしているだなんて、まるで“あの屋敷”で幽閉されていた頃のようだ。
……はっきり言って、良い思い出ではない。
左右で色の違う瞳のせいで悪魔だの何だのと言われ、黒法術師であることが分かってからは化物と言われて、忌み嫌われて、結局屋敷の奥の部屋に隔離されたのだ。良い思い出なはずがない。
だけど、あの頃の事が無かったら今の私は居ないかも知れないと思うと、それほど過去を憎む必要は無いんじゃないかとも思うようになった。
ミカゲやテイト、ブラックホークの皆さん、そして“あの人”に出会うことができたのだから。
ルークだって例外ではないし。
過ぎた事なんだから、気にする必要なんて無い。昔の事なんてさっさと忘れて、今を生きればいいんだ。
『……そうだよ。そんな事で悩んでたって仕方ないし…』
――それに、
いくら昔を思い出すような光景だからと言って、まるっきり同じという訳じゃない。
ブラックホークの皆さんが、私をここから出してくれると言っていた。そのために頑張ってくれると言っていた。
私は、皆さんを信じて待つことができる。
昔とは違う。
何も無かったあの頃とは、違うんだから…。
『大丈夫。きっと…』
きっと、何とかなる。何とかしてくれる。だから大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
心の中で何度も繰り返す。
そうすれば、その言葉が本当になるような気がして……。
少しだけ残っている不安も全部消えるような気がして……。
またいつもの日常に戻れるはずだと思いながら、両足を抱く腕に少し力を込めた。
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