第十九話 In the Jail①
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気がついたんだ。
立ち止まっていても、何も変わらないってこと。
分かったんだ。
目を逸らしていては、大切なものを見つけられないってこと。
もう迷わない。揺るがない。
――行こう。
――私の“光”を探しに。
* * *
ページを捲る音しか聞こえない、静寂に満たされた空間――。
現在、私はホーブルグ要塞内の資料室で、とある出来事についての資料を読んでいる。
前回ここを訪れた時に偶然見つけた分厚いファイル。
背表紙には“アイリス家殲滅作戦”という何とも物騒な文字が書かれていた。
そのページを何枚か捲ると、この作戦に参加した人間の名前が箇条書にされたものを見つけることが出来た。
所属部隊や簡単なプロフィール等も添えられている親切設計だ。
少人数で行われたらしく、名前は十数名分しか無い。
――よしルーク、早速だけど……これ、憶えて。
“はいはい、分かってるよ。……ったく、ホントお前って人使い荒いよな…”
一言だけ愚痴ると、ルークはまた静かになった。
私の目を通して文字の列を注視しているのだろう。
彼は、意外なことに暗記モノが得意なのだ。
更に暗算等も出来るし色々な知識を持っているから、学校の試験ではとても役に立っていた。
“…………OK、終わった”
と、早くもルークがそう言った。
――流石、仕事が早いね。
“まぁ、馬鹿なルフィアに比べればな”
――馬鹿って言うな!!
一言多いルークに反論しつつ、とりあえず自分も手元の名簿に目を通してみる。
…………すると、
――あれ…?アヤナミ様の名前がある…。
見知った名前がそこにあって、少し驚いた。
“ああ、確かにあるな。だが、もしかしたら同じ名前の別人かもよ?”
――うーん…。
有り得なくはない。でも…。
…………アヤナミ様と同名の人なんて聞いた事無いし…。
居たら、噂の一つや二つぐらいあってもいいと思う。
それに…………その人、絶対からかわれるかイジメられるだろうなぁ…。
“お前が心配するのはそこなのか”
ルークが呆れた声で言った。
それに苦笑いで返しつつ、またページをぺらぺら捲る。
…………これ以上は、有益そうな情報は無さそうだ。
それが分かると、私はパタンとファイルを閉じた。
――あまり長居すると、帰ったら問い詰められそうだからなぁ…。
今日はたまたま借りていた資料を返してくるよう言われたからここに来ている訳なのだが、すぐに終わるような事だから帰りが遅くなったら怪しまれるだろう。
そうならないためにも、私は手にしているファイルをさっさと棚に戻し、資料室を少し足早に出ていった。
* * *
「あ!ルゥたんお帰り~!オレルゥたんが居なくて寂しかったんだよ~」
執務室の扉を開けると、すぐに少佐が私を見つけて、両手を広げてこちらへ向かってきた。
多分、抱き着いてくるつもりだ。
たまには仕返しでもしてやろうか、と考えて身構える。
しかし、少佐はこちらへ到着する前にクロユリ中佐に足を引っ掛けられて…………転んだ。
「ちょ、何するの!?」
「別にぃ~?ヒュウガが勝手に転んだんじゃん」
「酷っ!!」
が、特にダメージは無かったのか、すぐに起き上がる少佐。
そして、こちらに駆け寄ってきて私の肩を掴んで揺らす。
「ねぇルゥたん!酷いと思わない?!」
『…………自業自得じゃないですか?』
「だよね!オレは悪くないよね!!」
『ちょ……私の話聞いてます?』
「ちゃんと分かってるよ!ルゥたんはオレの味方だってこと!!」
『いや、誰もそんな事言ってませんよ』
「もー、照れなくていいんだよ☆」
『照れてねーよ。…………いえ、照れてないですよ』
「あ、もしかしてルゥたんってツンデレなの?なーんだ、それならそうと早く言ってぐはっ!!?」
私の敬語が若干危うくなってきた頃、突如少佐が呻き声と共に後ろ向きに倒れた。
何事かと思い、見てみると、少佐の首に鞭が絡み付いている。
…………おそらく、アヤナミ様が彼の首に鞭を巻き付けてそのまま引っ張ったのだろう。
「ヒュウガ。仕事をしろ」
いつもの無表情でアヤナミ様が言う。
少佐は渋々といった様子で立ち上がり、
「えー……やだよぉ…仕事したくないよぉ…」
ぶつぶつと不平を漏らしたが、またアヤナミ様に睨みつけられて大人しく自身のデスクへ戻っていった。
「ルフィア、お前もだ」
『だ、大丈夫です!ちゃんと分かってますから!』
こっちまでとばっちりを受けたらたまらない。
私もすぐに自分のデスクへ戻って仕事を再開した。
* * *
そして、時間は過ぎ、現在はちょうどお昼時。
普段なら食堂にでも行ってパンを食べたりしているのだが、今日はカツラギ大佐がグラタンを作ってくれたらしく、皆で執務室の机を囲んでいる。
『やっぱりカツラギ大佐の手料理は美味しいですねー!』
「だねー!」
「ありがとうございます。おかわりもたくさんありますから、どんどん食べてくださいね」
ぱくぱく食べる皆さんを微笑みながら見守る大佐。
何て言うか……立派なお父さんだなぁ…。
一家に一人欲しいくらいだよ。
そんな感じで楽しい時間を過ごしていたら――
コンコン。
執務室のドアがノックされた。
他の人達がブラックホークのメンバーを怖がっているせいか、来客はとても珍しい事なので、皆で何が来たんだろうと首を傾げる。
「入れ」
アヤナミ様が声を掛けると、失礼します、と声がしてからドアが開き、一人の若い軍人さんが入ってきた。
「ねぇ、あれ誰?」
「さぁ…?見た事の無い方ですね」
「何しに来たんだろ」
「一般の方が来るなんて珍しいですね」
皆さんが口々に思った事を言っていく。
ひそひそ声ではなく思いっ切り普通の声量で話しているものだから、明らかにあの人に聞こえていると思うのだが、誰一人気にしてはいないようだ。
「何の用件だ」
椅子にゆったりと腰掛けて腕を組んだアヤナミ様が言う。
まあ、いつもあんな感じだから私達は慣れているが…………あの人にとっては相当怖いだろう。何と言っても威圧感が半端じゃない。
「あ、あの、じ、実は……」
「何だ。はっきり話せ」
「ひぃっ!は、はいっ!!」
アヤナミ様に睨みつけられてめっちゃ怯えてる軍人さん。
「ぷっ…」
そして、それを見て吹き出す少佐。
うん、確かにちょっと面白いけど……あの人可哀相…。
「え、えっと、実はですね……参謀長官付きのベグ…ベグライターのルフィアさんに、ご、御用がありまして……」
途中でつっかえたり噛んだりしながらも軍人さんが喋る。
そして、その言葉を聞いた皆さんの視線が一気に私の方に向いた。
「え、ルゥたん何かしたの?」
「何でルフィアさんが?」
『いえ…私も思い当たる事が無いんですけど…』
困惑する皆さん(私も含む)。
「どういう事だ」
「ひっ……」
アヤナミ様に訊かれて再び小さく悲鳴を上げる軍人さん。
一体どんだけ怖いんだ…?
まあ、私も最初は睨まれたりしたら怖かったけどさ…。
「えと、あの……ルフィアさんを連れて来いとの御命令でして…」
軍人さんがそう言うと、また私に視線が向く。
「え、何で?」
「やっぱりルフィア何かしたんじゃないの?」
「何なんでしょうねぇ…」
『何で私が連れてかれないといけないんですか…』
相変わらず、思った事を声に出しまくる皆さん(私も含む)。
「理由は何だ」
「は、はいぃっ!じ、実は、先程、ある事件が起こりまして……それで、ルフィアさんが、その事件の重要参考人でして…」
軍人さんがそう言った。
また私に視線が集まる。…………って、このパターン何度目だよ。
「やっぱり何かやったんじゃないの?」
『何もやってないですよ!』
「ルフィアさん、嘘は良くないですよ」
『嘘じゃないですっ!!』
何か、皆さんに疑われ始めてる…。
「あいつは何をやった」
「ひっ……じ、実は――」
アヤナミ様が軍人さんに問う。
でも、さ…………その言い方って、私が何かやった前提ですか?!
「――本日未明から正午にかけての時間に、資料室に収容されていた資料の一つが行方不明となりまして……。
その時間帯に資料室に出入りした人間は係の者を除くとルフィアさんだけなのです…」
軍人さんが答える。
そしてまた私に視線が――…ってもういいよ。流石に飽きてくる…。
「何やってんのルフィア」
「盗んだんですか」
「何でそんな事を……」
『……って、私は何もやってないです!!』
もう完全に私がやったみたいな感じで話している皆さん。
『盗んだりなんてしてません!』
確かに資料室には行ったし、ちょーっと私用で資料を見たりしたけど。
でも、それはちゃんと元の位置に戻しておいた。
勝手に持ち出したりなんてしていない。
「とっ、とにかくですね、ルフィアさんには同行をお願いしたいと思いましてですね……」
「…………そうか、なら勝手に連れていけ」
『えぇぇっ!?』
アヤナミ様、そんなあっさり言わないでくださいよ。
私これでも一応貴方のベグライターなんだからさ、ちょっとくらい庇ってくれたっていいんじゃないの?!
焦る私とは反対に、目茶苦茶安心した様子の軍人さん。
きっと無事に任務が終わりそうだから嬉しいんだろうけど……でも、私の事も考えてよ。
「ルフィア、来い」
『…………はーい…』
アヤナミ様に呼ばれて、彼と軍人さんが居る方へ行く。
――ああ……まだグラタン半分くらい残ってるのに……。
そんな事を思っていると、突然アヤナミ様にぐいっと引き寄せられた。
「お前は何もしていないのだろう?」
小声で問われる。
『え?……あ、はい』
「ならばいずれ釈放される。今は大人しくこいつについて行け」
そう言うと、彼は傍らの軍人さんを一瞥して、自分の席に戻っていってしまった。
…………これは、私の事を信頼してくださっていると受け取っても良いのでしょうか…?
そう思うと、ちょっとだけ心が温かくなって…。
『りょ、了解です!』
アヤナミ様の後ろ姿に、珍しく真面目に敬礼した。
『じゃあ……行ってきます』
「いってらっしゃーい」
「ルゥたん、早く帰ってきてね!!」
「頑張ってくださいね」
とりあえず、皆さんの声援(?)には手を振り返しておく。
「で、では行きましょうか…」
『……はい』
未だに緊張気味な軍人さんに連れられて、私はブラックホークの執務室を出た。
『……あの、一つ聞いてもいいですか?』
「な、何でしょうか?」
『その無くなった資料って、何て言うやつですか?』
「えっと…………確か、オレンジ強奪事件に関するものだったかと…」
『……。(何それ!?)』
* * *
そして、軍人さんに連れていかれた私は、あれよあれよという間に身体検査をされ、手枷(っぽいもの)を嵌められ、監房に入れられ、最後にその扉が閉められて鍵を掛けられた。
…………って、何で!!?
何?何!?何なんですか!!?
どうしてこんな事に!?
“…………ドンマイ、ルフィア”
『いやいやいや、ドンマイってDon't mindっていう意味でしょ?!この状況で気にするなって言われても無理だろバカヤロー!!』
…………現在の私は、ルークへの返答を口に出してしまうくらいにテンパっているようです。
“とりあえず落ち着けよ”
『だーかーらー!この状況でそれは無理だって言ってんの!!』
“………………少なくともその独り言は止めた方がいいと思うが?明らかに変人だぞ”
『う……』
ルークの言葉に、ようやく口を閉じる。
しかし……。
――何でこんな事に…?
驚きやら戸惑いやら、色々な感情がごちゃまぜになっていて、どうも頭が混乱状態なようだ。
…………一体これからどうなるんだろう…。
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