第十六話 任務その2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『うーん……何て言うか、普通の町ですね』
目の前に広がる光景を見ながら呟いた。
無数の家屋が立ち並び、その間を縫うように道路が走る。
所々には街路樹や鉢植えの緑も見える。
何の変哲も無い、どこにでもありそうな町だ。
「まあ、普通の町だからね」
隣に立ったヒュウガ少佐が、その呟きに返してきた。
『どこかに観光スポット的なモノはあるんですか?』
「特に無いみたいだよー」
『そうなんですか。つまんないなぁ…』
あからさまに落胆した調子で肩を落とす。
「…………ルフィアさん…観光に来た訳じゃないんですから……」
『…………ですよねー…』
コナツさんの正論によって更にテンションが下がった私は、恨めしげに目の前の建造物の群れを眺めた。
事の発端は、約3時間前に遡る。
「これから、とある町を占拠して立て篭もっている反乱勢力の鎮圧に行く」
どこかに呼び出されていたアヤナミ様が、帰って来てすぐにそう言った。
「随分急だね~。オレはデスクワークしないで済むから嬉しいけど☆」
「既に他の部隊が出向いているらしいのだが、予想以上に手強いのだそうだ」
やれやれ、という感じの表情でアヤナミ様が説明する。
「それで我々ブラックホークも派遣される事になったんですか」
「……そういう事だ」
それから私達はリビトザイルに乗り、ここまでやって来たのだが……。
『何でこういう面倒事を押し付けられちゃうんですか?アヤナミ様は』
「それだけ上層部に嫌われてるって事だよ」
『きっぱり断っちゃえばいいのに……』
「…………ところでルゥたん。さっきから気になってたんだけどね、その手に持っている物は何?」
ヒュウガ少佐が私の手元を見ながら問う。
このケースに何が入っているのか気になるのだろう。
『これですか?見ての通り、狙撃銃ですけど。
ちなみにボルトアクション式です』
「……そうなんだ…。でも何でそんなの持ってきたの?」
呆れた顔で尋ねてくる少佐。
『ああ、少佐の言いたい事はよく分かります。何でわざわざ手間のかかるボルトアクション式を持ってきたのかという事ですよね。
そりゃあ自動装填してくれる方が連射速度は速いですけど、やっぱり命中精度が落ちますし、構造複雑だし、壊した時に弁償する値段はこっちの方が安いし…。
特に命中精度っていうのは重要だと思うんですよ』
「……うん。オレはそういう事を聞いてる訳じゃないんだけどね」
『じゃあ何ですか?
…………あ、何で市街戦なのに狙撃銃を持ってきたのかという事ですか。
特に理由はありませんが、強いて言うなら気分です』
「…………そうなんだ……」
もうこの話はいいや、という感じの顔で相槌を打つ少佐。
空気を読んで、この話題はもう終わりにしよう。
「これより任務を開始する。
敵のリーダーの拠点は既に調べがついているので、ヒュウガとクロユリは私と共にそこを叩く。他の者は、市街地に潜伏していると思われる敵を片っ端から殺せ」
「「「「『はい!』」」」」
「敵は何処に潜んでいるか分からぬ。各自で臨機応変に対応しろ。
では、行くぞ」
アヤナミ様の言葉を聞き、皆が一斉に動き出す。
私も彼等に続いて町に足を踏み入れた。
* * *
『めんどくさいよねー…。書類も嫌だけどこういうのもあんまり好きじゃないし……』
“そういう事を言うなよ…”
その辺の道を一人で歩きながら、ぶつぶつと不平を漏らす。
一般の住民はとっくに避難しているらしく、人っ子一人見当たらなかった。
そのせいか妙に静かな町の中を、緊張感のかけらも無い様子でぶらぶらと散策する。
『…………ホント、めんどくさい』
いつでもザイフォンを出せるように指先に意識を集中させながら、前方に潜む気配を探る。
10人は居るだろうか。複数の気配と殺気が感じられる。
そして、
「女が一人かよ。随分とナメられてんだな」
「でも、これなら余裕じゃね?」
隠れている必要が無いと思ったのか、ぞろぞろと武装した人間達が出て来た。
多分……いや、間違いなく敵とは彼等のことだ。
ざっと見て12人。それほど広くない道に、私の進路を塞ぐようにして並び立つ。
「結構カワイイ顔してるのに、殺しちまうなんてもったいなくね?」
「仕方ねぇだろ。帝国軍の奴は、皆殺しだ」
その集団のリーダー格と思われる奴が武器を構え、それに続いて他の人達も各々の武器を構えた。
『このくらいなら、すぐに終わるかな』
“……そうだな”
襲い掛かってくる彼等に向けて、攻撃範囲の広いザイフォンを放つ。
半円状のそれは相手に命中して、彼等の大半が地面に倒れた。
「チッ……流石は軍人と言うべきか…!」
生き残ったらしい数名が恨めしそうに私を睨みつける。
そんな彼等に、今度は狙いを定めてザイフォンを放った。
それらは簡単に当たって、ついに全員が動かなくなる。
『武装はしてるけど素人集団だね。呆気なく終わっちゃったよ』
“そりゃあ、訓練積んだ奴がそこらじゅうに転がってる訳無いだろ。見た所戦闘用奴隷って感じでもないし。
反政府組織なんてほとんど一般人の集まりみたいなもんじゃないか”
『そうなんだ。…………そうだよね』
ルークの言葉に頷いて、再び前に向かって歩き出した。
*
その後も適当に街中をふらふらと歩いて、時々襲い掛かってくる敵を返り討ちにしていた。
『……やっぱりめんどくさい。はやく帰ってゲームの続きがやりたい…』
そんな事を愚痴りながら少し周囲を見渡す。
たまたま近くにあった背の高い建物を見て、ふと名案を思い付いた。
操作系ザイフォンを発動させて身体の周りに纏い、ふわりと宙に浮かび上がってそのまま建物の屋上へと移動する。
『よーし、高みの見物だぁ!』
“堂々とサボろうっつー魂胆か”
『いいの!どうせバレないから!』
うふふ…と笑いながら屋上の床に寝転がった。
笑い方が気持ち悪いなどと呟いている輩がいるが、スルーしてやる。
視界には、一面の綺麗な青い空。
『…………空って、やっぱり青いね…』
意味の分からない事を呟いてみた。
――どこまでも澄み渡っている綺麗な空が自分とは正反対の色に見えて、無性に恨めしい。
そう思うと空を見ているのが嫌になって、私はゆっくりと目を閉じた。
『ん…?』
爆発音のようなものが耳に入った。
起き上がってみると、少し離れた所から土埃が舞い上がっているのが見える。
何かあったのかなー、と思って見物していると、ドッカンドッカンと連続して爆発した。
『誰だよ、あんな派手に破壊活動してるのは……』
思い当たる上司が居なくはないものの、どうでもいいやの一言で片付けて他の場所にも視線を転じる。
『…………あれは……何だ?』
比較的近場に、敵っぽい人達に囲まれて戦っている軍服を着た人を発見。
ポケットから双眼鏡を取り出して覗いてみるが、その人物に見覚えはない。
『……ホントに誰?何処の人?』
“……そういえば、他の部隊の奴も来てるって言ってたから、そいつらの一人なんじゃね?”
『おお!なるほど!』
そういえばそうだった、と納得して、観察を続ける。
彼(?)はだいぶ苦戦しているようだ。
あのくらいなら大した事はないと思うのだが…。
“助けてやったらどうだ?”
『そうだねー、どうせ暇だし』
ルークの言葉に頷き、横に置いてあったケースをカパッと開いた。
銃身やら何やらを取り出して、狙撃の準備を整えていく。
転落防止用と思われる鉄柵の間から銃口を出し、スコープで狙いを定めた。
重力や風力等の関係で、頭より少し右上の辺りだ。
そのまま引き金を引く。
発砲音と共にスコープの中の敵の頭が撃ち抜かれて、パタッと倒れた。
『よっしゃ、当たった!』
すぐに空薬莢を出して次の弾を装填する。
再び照準を定め直して、別の敵の頭を撃ち抜いていく。
突然の襲撃に動揺したらしい敵は、数名が逃走したものの、私と例の軍人さんの活躍で撃退されられた。
……と言っても、軍人さんも何が起こったのかイマイチ理解出来ていないようだ。
簡単な掃除をしてから銃を元のケースに戻し、私は鉄柵を飛び越えた。…………飛び越えたぁ?!!
『何やってんの私ーーー!!!』
建物が結構高い事をすっかり忘れていた。
慌てて操作系ザイフォンを発動し、何とか着地成功。
……死ぬかと思ったよ……。
“馬鹿かお前は”
…………うん、今回は否定しない。
深呼吸して落ち着きを取り戻し、私は軍人さんが居た場所へと向かった。
『大丈夫でしたか?』
「誰だ?!……って、何だ味方か…」
私が声を掛けると、びっくりして剣を向けてきた彼。
何してくれてんだよ。こっちまでびっくりするじゃないか。
さっきのといいこれといい、私の寿命を何年縮める気だ。
「もしかして……さっき助けてくれたのはお前か?」
『まあ、そういう事になりますねー』
察しが良くて助かるよ。
「そうか。礼を言うぞ。
まだ若いのになかなかやるじゃないか」
『いやあ、それほどでも…』
「見掛けない顔だが、どこの部隊なんだ?」
『ああ、一週間ほど前に軍に入った新米ベグライターですよ』
「なるほどな。
まあ、せいぜい頑張れよ新入り!」
べしっと私の肩を叩くと、彼は行く所があると言って私の横を通り過ぎていった。
去っていく軍人さんの後ろ姿を見送って、私も再びぶらぶらと歩き出す。
『そういえば、久しぶりに普通の軍人さんと話したなー』
黒法術師部隊であるブラックホークに所属しているせいか要塞では他の人達に避けられているようで、ブラックホークの人以外とはあまり話した事がなかった。
何となく新鮮だったな、と思いつつその場を後にした。
しばらく歩くと、また何人かが戦っている所に出くわした。
『あ、コナツさんだ』
その中に見知った人物を見付けて、少し安心する。
一段落ついた頃に、声を掛けようと近付くが、
「!?誰だ!!……って、何だ。ルフィアさんだったんですか…」
――デジャヴ!!?
私に向けた剣先を下ろして、気が抜けたようにため息を吐くコナツさん。
「驚かさないでくださいよ…」
驚いたのはコナツさんだけじゃないですよ。
こっちもまた寿命が縮まりましたから。
私の寿命、あと何年残ってるんでしょうね…。
「ところで、何でルフィアさんがここに?」
『ふらふら歩いてたら辿り着きました』
不思議そうな顔をしたコナツさんに苦笑いで返答して、その辺に転がっている敵の屍に視線を移す。
『それにしても、何処からこんなに湧いてくるんでしょうか…。この様子だと、かなりの数が居るみたいですけど…』
「そうですね…。確かに数だけは多いみたいです。
あとどれだけ残っていることやら……」
はあ、と二人で肩を落とす。
このままではキリが無い。
と、その時、
ドォォオオン!!
少し離れた所で、地面が揺れるほどの爆発が起こった。
一体何事かと思い爆発があった方向を見ると、立ち込めている砂煙の中に一瞬だけ黒々とした闇徒が見えた。
「あ、多分アレはアヤナミ様ですね」
『そ、そうなんですか……』
「今日も調子が良いみたいで、よかったです!」
尊敬の眼差しを向けるコナツさん。
だからって、あんなに吹っ飛ばしたらまずいでしょ!
もしかしてアヤナミ様ってネレと同じタイプ?
『あの……あんなに派手にやってて大丈夫なんですか?住民が黙ってないと思うんですけど…』
「ルフィアさんは分かっていないんですね」
意味深な台詞に、私は首を傾げる。
「アヤナミ様の手にかかれば事件の一つや二つ、闇に葬り去るなんて造作も無い……」
『揉み消すんですか?!』
確かに、あの人ならやりかねないけど…。
「あ、安心してくださいルフィアさん。いつもの事ですから」
『そうなんですか……』
そんな事言われても安心できませんけどね。
「あの調子ならすぐに片が付きますね。
私達ももう一頑張りしますか」
『私はもう部屋に帰って寝たいですよ…』
コナツさんが剣を抜きながら言う。
私も、うんざりしながらまたもや姿を現した敵に目を向けた。
本当に、何人倒せばいいのだろうか。
コナツさんはちゃんと戦っているが、私は面倒になってきたので、操作系ザイフォンで作った糸を使って相手の動きを封じ、それから攻撃系ザイフォンでトドメを刺すという形で戦っていく。
コナツさんは手際がいいですね、と言ってくれたが、正直にいえば手抜きだ。
また一人を糸に搦めて、ザイフォンを投げつける。
それを何度も繰り返していった。
*
「終わりましたね」
『みたいですね』
「そろそろ帰りますか?」
『帰りましょう!!』
敵を倒し終わって、コナツさんの言葉に大きく頷く。
やっと帰れる。
確かに書類仕事ばかりだとだんだん飽きてくるけれど、戦闘というのもあまり好きではない。
人を殺すのが怖い、なんて事は思わないけど。
単純に、体を動かすのがあまり好きではないだけだ。疲れる事は嫌いだし。
『ところで、どっちに向かうんですか?』
自分達が立っている道を見ながら問う。
「…………。ルフィアさんは分かりますか?」
『いえ。……コナツさんは?』
「…………すみません…」
嘘っ?!
迷子か?私達二人で迷子なのか!?
いや、私は何も考えずに歩いてたからさっぱり分からないんだけどさ。
コナツさんならしっかり把握してるんじゃないかと思っていたのに……。
「戦いながら移動していたものですから、何処をどうやって来たのかさっぱり……」
『……そうですよね…』
コナツさんの言う事はもっともだ。
「地図、持ってくればよかったです……」
『さすがにそこまでは頭が回りませんよね……』
ここに来て迷子になるとは思ってもいなかったもん。
私はどちらかと言うと迷子には慣れているのでそこまで心配していないのだが、彼は深刻そうな顔付きをしている。
「せめてどちらの方角に行けばいいのか分かれば……」
『?どうしてですか?』
「ほら、時刻と太陽の位置から大体の方角が割り出せるじゃないですか。そうすれば目的地に辿り着けるはずなんです。
士官学校で習いましたよね?」
『なるほど…』
習っただろうか。全く頭に無いのだが。
「それにしても、困りましたね……」
『誰か道知ってる人とかいないんですか?』
「住民はとっくに避難していますし、敵に教えてくれるような奴もいないと思いますけど…」
『ですよね……』
どうしようか。
これではいつまで経っても帰れない。
――あ!こんな時にこそルークに頼ればいいんだよね!
という訳で、どっちに行けばいいんだい、ルーク君?
“……すまん。途中寝てたから分からない”
――使えねぇじゃん!!
“仕方ないだろ。オレだってたまには寝るんだよ。
大体、オレはお前にこき使われるために生まれてきたんじゃねーよ”
――そうだったの?!
“お前はオレを何だと思ってるんだ……”
ため息をつくルーク。
ルークも使えないとなると、どうすればいいのだろう…。
隣ではコナツさんが考え込んでいるが、なかなか良い案は浮かばないようだ。
私も考えを巡らせてみる。
いざという時には最終手段で、とりあえず町の端まで行って、それから町の周囲を巡って元来た場所を探すという方法もあるが、それでは場合によっては時間が掛かり過ぎる。
どうにかして、帰り道を見付けなければ。
どうにかして……。
『…………おぉ!』
「どうかしたんですか、ルフィアさん?」
『ちょっと待っててください!』
コナツさんにそう言って、私はすぐ近くの日陰に向かった。
そこに積まれている木箱を開けて、中に居た奴を引っ張り出す。
「《な、何しやがるんだよ?!》」
『ちょうどいい所に居たじゃないか!協力しろ!私達をリビトザイルの所まで案内しろ!』
「《は?突然何だよ?俺はお前のパシリじゃねぇんだぞ》」
私は中から出て来た物体――骨の翼を持ったソイツをガクガクと揺さぶりながら話す。
『この辺に居着いてるんでしょ?だったら案内出来るっしょ』
「《んな事言われたって……ただ働きは趣味じゃねぇし》」
『そこは心配しないで!そのうち何かおごってあげるから☆』
「《…………馬鹿かお前は》」
なかなか了承してくれないのだが、こいつが協力してくれれば私は無事に帰宅できるのだ。
そう簡単に諦める訳にはいかない。
『いいから協力しろ~~~!』
「《や、やめろ!!やめてくれ!!骨折するから!!
わかったから……協力するからやめてくれ!!》」
『言ったね?絶対だよ!』
強行手段に訴えれば、意外とすんなり承諾してくれた。案外良い奴だね。
“そういう訳じゃないだろ……”
「ルフィアさん?さっきから何を話して……」
いつの間にか近くに来ていたコナツさんが私の手元を覗き込んだ。
そんな彼の顔からサァッと血の気が引いていくのがよく分かる。
「な、なな、何やってるんですかルフィアさん!!危ないです!!離れてください!!」
慌てた様子で私の腕を引っ張るコナツさん。
『何でそんなに慌ててるんですか?』
「何言ってるんですかルフィアさん!!それは使い魔ですよ?!」
彼が声を張り上げて言う。
確かに使い魔だが……。
『大丈夫ですよ。この子は悪い子じゃありませんから』
「《子供扱いするなよ》」
「とにかく駄目です!魂を取られてしまうんですよ?!」
コナツさんはかなり必死な様子だ。これでは何を言っても聞いてもらえそうにない。
仕方ないので、コナツさんの説得は後回しだ。
『道案内よろしく!』
「《ちぇっ……分かったよ……》」
渋々というような口調だが、その使い魔はふわりと飛び始めた。
『行きますよコナツさん!』
「え、ちょ、待ってください!!」
コナツさんも引きずって、私は使い魔の後を追った。
*
『コナツさん。確かに使い魔の中には悪いのもいますよ?
でも、ちゃんと私の言う事を聞いてくれる良い子もいるんです。そういう子だったら、ちょっとパシリ代わりに使ったって平気なんですよ』
コナツさんに理解してもらうべく、丁寧に解説する。
「《こっちは全然平気じゃねーよ》」
「そ、そうなんですか?そんな事、初めて聞きましたけど……」
あれ。意外と知られてない新事実なのかな?
私は昔からよくパシってたけど……。
“そんな事するのはルフィアだけだろ。あと、新事実の使い方が間違ってる”
「ルフィアさん、それって私にも出来るんですか?」
『多分出来ると思いますよ~。闇徒になっちゃうと厳しいですけど、使い魔なら。
いざとなったら、骨折させるぞと脅すか、私の名前でも出せばなんとかなると思います』
「《脅すなよ》」
「本当ですか?黒法術師じゃない私でも?」
『……え?コナツさん、黒法術師じゃなかったんですか?!』
新事実発覚じゃん!!
『……でも、コナツさんからは黒法術師っぽい気配がするんですけど…』
「確かに黒法術師の家系に生まれたのですが、私には才能が無かったみたいで……」
『そうだったんですか……』
気まずそうに苦笑いするコナツさん。
もしかして、触れちゃいけない事に触れちゃったのだろうか。
オロオロと挙動不審になっている私を見て、コナツさんが言う。
「…………やっぱり変でしょうか?黒法術も使えない人間がブラックホークに居るなんて…」
『そんな事ないですよ!!むしろすごいじゃないですか!実力を認められてるっていう事ですよ!!
それに比べて私なんか、何でブラックホークに来れたんだろうって感じですよね…』
「ルフィアさんも実力はあるじゃないですか」
『皆さんに比べたら雑魚みたいなものですよ』
そんな会話を繰り広げていると、先頭を飛んでいた使い魔が止まった。
「《おい二人共。そろそろ着くぞ》」
その言葉に周囲を見渡すと、確かに見覚えのある場所だった。
「《このまままっすぐ行けばそのリビトなんとかがある所に出るはずだ》」
『分かった。わざわざありがとねー』
早々に去っていく使い魔を見送ってから、私達二人はリビトザイルが鎮座する場所へ向かった。
* * *
「あ、コナツとルフィアだー!」
着いてすぐに駆け寄ってきたのはクロユリ君だ。
「待ちくたびれたんだよー?」
不満げな表情を浮かべる中佐を見ているとだんだん申し訳ないような気持ちになってきて、コナツさんと共にすみませんと謝った。
どうやら私達以外の皆さんはとっくに帰ってきていたらしい。
「あれー?二人共一緒だったのー?」
続いてやって来たのはヒュウガ少佐。
こちらは何故かニヤニヤしている。
「コナツぅ、ルゥたんと二人で何やってたのぉ~?」
「…………少佐、喋り方が非常に不愉快です」
「コナツ酷いっ!!」
見事なまでに当たって砕けたヒュウガ少佐なのであった。
しかし、そこは流石と言うべきか、すぐに立ち直って再び喋りだす。
「で、二人で何やってたの?まさかコナツ、ルゥたんの事襲っちゃったり……」
「そそそ、そんな事する訳無いじゃないですか!!///」
コナツさんをからかって逃げるヒュウガ少佐と、それを追いかけるコナツさん。
ある意味微笑ましい光景だね……。
リビトザイルの乗降口に視線を移すと、そこに居たのは不機嫌そうに眉間にシワを寄せているアヤナミ様。
……やはり、遅くなってしまった事に怒っているのだろうか。
障らぬ神に祟りなし、と言いたい所だが、早めに謝っておいた方がいい事もある。
とりあえず、アヤナミ様の元へ向かった。
『あの、アヤナミ様、』
「…………何だ」
……今の間は何ですか?
『遅くなってしまってすみません…。
もしかして、怒ってますか?』
「怒ってなどいない。だが……何をしていた」
『えっと……いつものごとく迷子になってました』
「…………やはりお前は馬鹿なのだな」
はあ、とため息をつきながら私の頭に手を乗せるアヤナミ様。
馬鹿にされている。これは完全に馬鹿にされている。
「そろそろ帰るぞ」
そう言うと、彼はリビトザイルに向かって歩きだした。
私や他の人達もその後を追う。
「帰ったらまたデスクワークかぁ……ヤだなぁ~……」
「そんな事言わずにしっかりやってくださいよ少佐!」
ヒュウガ少佐の相変わらずな物言いとコナツさんの苦労人っぷりに思わず笑みがこぼれた。
……さっきまでは殺し合いをしていたのに、もういつも通りの日常に戻っている。
確かにいちいち気にしていたらやっていけないだろうけど。
――帰ったら寝ようかな。
動き出したリビトザイルの振動を感じながら、私はそんな事を考えていた。
.