第十三話 crisis?
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「ねぇハルセ、ルフィアはどうしちゃったの?」
「駄目ですクロユリ様。見てはいけません」
『んふふふふふ……』
「ホントにどうしたのルゥたん?」
心配そうな目で、皆さんが私を見る。
そんな彼等に、私は今まで眺めていた紙切れを見せて言う。
『見てくださいよ!タダ券です!コレを見せるだけで無料でケーキが食べ放題になるんですよ!!』
そう。これは先程おじいちゃんから貰った大切な大切なタダ券。
ああ……見てるだけで幸せな気分になってくる……。
「うわぁ、ホントだー。
…………あ、“ペアで二名様”って書いてあるよ!」
ヒュウガ少佐が券を見て言う。
『本当ですね』
「ルゥたんは誰と一緒に行くの?」
『え…?一人で行くつもりだったんですけど……』
私がそう言った瞬間、執務室の空気が変わったような気がした。
心なしか、皆さんの目が真剣だ。
「ルゥたん!オレと一緒に行かない?」
「ヒュウガなんかより僕の方がいいよね、ルフィア!」
「あの、ルフィアさん……。もし良ければ私と行きませんか…?」
「最近は書類が多かったですから、疲れも溜まっているでしょう?私と行きませんか?」
「ケーキですか。私もルフィアさんと食べに行きたいですね」
………………何なんだこの状況は!!!
もしかして……私って、モテモテ?
“お前みたいな貧相な奴がモテる訳無いだろ。世の中の女に謝罪しろ。
皆タダでケーキが食べたいだけだ”
――ですよね~。……って、何で私が謝らないといけないの!?
“勘違いしてすみません、思い上がってすみませんって、今すぐ謝れ”
――何でっ!?(泣)
………………とりあえず、世界中の皆さん、ごめんなさい。
「ヒュウガはいっつも甘い物食べてるんだから行かなくていいでしょ?」
「それに少佐の分の書類はまだこんなに残ってるんですからね」
「酷いよ!何で毎回毎回オレを陥れようとするの?!」
「ヒュウガ少佐、うるさいので少し黙っていてください」
「ハルセまで!?」
そうこうしているうちに、向こうで口喧嘩が始まってしまった。
皆さんに寄ってたかって虐められているのはヒュウガ少佐だ。
それでも全然哀れに見えないのは、これが日常的な光景だからだろうか。
「賑やかですねぇ」
『そうですね……(苦笑)』
喧騒の中から抜け出してきたカツラギ大佐が隣に来る。
「ルフィアさんは、誰と行きたいんですか?」
――貴方もその話題ですかっ!?
『いや、別に……誰と行きたいとかは無いですけど……』
「そうですか。
なら、私と一緒にどうですか?」
『大佐と……ですか?』
「はい。
最近は外へ出てゆっくり過ごせる時間もありませんでしたからねぇ……」
『そうなんですか……』
大佐の言葉に、ブラックホークは大変なんだな、と改めて実感する。
確かに、毎日毎日あの量の書類と格闘してたら疲れるよなぁ……。
大佐は優しそうな人だし一緒に食べに行ってもいいかなぁ、と意見がぐらつき始めた時、
「あ!ちょっとカツラギ大佐!?抜け駆けはダメだよぉ!!」
こちらの様子に気付いたヒュウガ少佐が慌てて駆け寄ってきた。
他の人達もそれに続く。
「で、ルゥたんは誰と行きたいの?」
――やっぱりそれなんですね……。
『うーん……』
どうにも、一人を選ぶのは難しい。
皆それぞれ良い所があって捨て難い。
……あ、そこのグラサンはどうでもいいかな。うるさいだけだし。
面倒だから皆で行くっていうのは駄目なのかなぁ?
“タダ券が使えるのは二人だけだからな……”
うーん…………。
「ルゥたんはオレと行くの!!」
ぼーっとしていた私に、いきなり少佐が抱き着いてきた。
『ちょ、何するんですかヒュウガ少佐!』
「違うよ!ルフィアは僕と行くんだよ!!」
反対側からはクロユリ中佐に抱き着かれる。
…………地味に苦しいぞ。二人共、力入れすぎだよ。
「ヒュウガ!!ルフィアから離れてよ!
半径100メートル以内に近寄らないで!ルフィアが汚れちゃうじゃん!!」
「クロユリ中佐、さっきから酷いよ!?いつもの2割増しくらいになってるよ!!?」
そんな事を言いながら、二人はますます腕に力を込めてくる。
戦場でも無いのに殺気が飛び交っているのは気のせいだろうか。
カツラギ大佐はそんな私達の様子を見て微笑んでるけど、コナツさんとハルセさんはオロオロしている。
…………あ、ヒュウガ少佐…私の首を絞めないで……苦しい……マジで苦しい…。
「…………何をしている」
事態を収拾させたのは、いつの間にか帰ってきていたアヤナミ様の一言だった。
* * *
『死ぬかと思った……』
「大丈夫ですか、ルフィアさん?」
『ハルセさん……。
……大丈夫そうに見えますか…?』
「…………いえ…(汗)」
ようやく解放された私。
現在は執務室のソファーに座って体力の回復を待っています。
ちなみに少佐だけはアヤナミ様の鞭の制裁を食らっていました。
ドンマイ☆
「…………一体何をしていたのだ」
ボロ雑巾のようになったヒュウガ少佐を左足で踏み付けながらアヤナミ様が問う。
コナツさんが事情を説明した。
「それで、ルフィアは誰と行くのだ?」
――この人まで同じ事言ってるじゃん!!
『いや……ですから、別に誰と行きたいとかは無いんですけど…………』
何?まさかアヤナミ様までタダのケーキ食べたいの?
身分は違っても考える事は一緒なんだなー。
「…………なら、私と行こうではないか」
やっぱり食べたいんだ……。
「あ!ズルいよアヤたん!!そうやって横取りするんd…………ウギャアッ!!?」
ヒュウガ少佐の鳩尾に、アヤナミ様のブーツの踵が食い込む。
…………痛そうだな……あれ……。
誰も助けようとしない中、何を思ったのか、アヤナミ様はヒュウガ少佐の上からどいてこちらへやって来た。
「ルフィア、お前と話したい事がある。……来い」
他の皆さんが黙って見送る中、私は腕を掴まれて、アヤナミ様に拉致られた。
* * *
『…………何処に行くんですか…?』
恐る恐る尋ねる。
「黙って付いて来い」
一蹴された。
――何だろう……私何かやったっけ……?
………………あ!昨日のドレス!!
昨日は誰も突っ込まなかったけど、高級そうな物だったのにボロボロにしちゃったからなぁ……。
弁償!?自腹買い取り!?
…………破産するっ!!
『あの…………アヤナミ様?』
「いいから黙れ(怒)」
『はいぃっ!!(汗)』
睨まれた!思いっ切り睨まれたよ!!怖かったよ!!?(泣)
そのまま連れて来られたのは、広々としたシンプルな内装の部屋。
豪華では無いけれど高級そうな家具が並んでいる。
………………もしかして、アヤナミ様の部屋ですか?
*
「さて、本題に入ろうか」
アヤナミ様が妖しい笑みを浮かべながら言う。
『な、何ですか…?(汗)』
ゆっくりと歩み寄ってくる彼に、徐々に壁際に追い詰められる。
ひたっ、と冷たい壁が背中に当たった。
………………やばい。非常にやばいぞ。
絶体絶命だ。蛇に睨まれた蛙ちゃん状態だ。
いや、忠実に表情するならアヤナミ様に睨まれた虫ケラ状態だけど!!
「…………ルフィア、お前は私に何か隠し事をしているのではないか?」
私の顔の両側の壁に手をついて、アヤナミ様が言う。
これでは逃げられない。
『かかか、隠し事ですか……?』
「そうだ」
――うぅ…………心当たりがありすぎてどれの事を言ってるのか分からない…!
考えろ……考えるんだ私……。
…………そうだ、きっとアレだ!!
『…………士官学校の理科室の人体模型を壊したのは…私です……』
「…………」
そう言うと、アヤナミ様の眉間のシワが増えてしまった。
ミスったのか?!
『え…人体模型じゃないんですか?……じゃあ窓ガラスを割った件ですか?もしかして学校にゲーム機を持ち込んだ件?それとも…………』
思い当たる事柄を羅列するが、途中で言葉が詰まる。
何故なら、アヤナミ様の不機嫌オーラが増しているから。
そんな彼に睨まれている私は冷や汗ダラダラだ。
「私の質問に答えろ」
『はいぃ!答えますぅぅ!!』
ああ……声が裏返ってるよ……。
「…………昨日、何があった?」
昨日……?パーティーで……、
『…………パーティーで…アイフィッシュを食べました……?』
「…………(怒)」
――またミスったぁぁあああ!!?
『え、えと、何を話せば……?』
「…………はぁ…」
あーあ……ため息吐かれちゃったよ……。
「私達と離れていた間、何があった?」
アヤナミ様達と離れていた間……?
えーっと……ネレが庭を吹っ飛ばした事かな?
………………これは言えない!!言ってはいけない!!!
『…………特に何もなかったですよ…?』
「嘘をつくな」
うわぁ、バレてる☆
どうしよう……本当にどうしよう……。
もしかしたら、私の今までの人生で最大のピンチかも知れない……。
“逃げればいいじゃねーか”
――そんな簡単に行くと思うのか?!
相手はあのアヤナミ参謀長官。勝ち目なんて無いだろう。
…………本当にどうしよう…。
“…………そういえば、昔ネレがこんな事言ってたぞ”
――何て?
“男なんて、泣けば簡単に落とせるわ。だとさ”
――どんな助言だよ?!
そりゃあ、まあ、ネレなら出来るかもよ?あの人超絶美人だし。
それに比べて私は……。
“そうだよなぁ……”
――…………ここは、せめて否定してほしかったなぁ……。
“すまないな。オレは正直者だから”
――うわ…むかつく……。
っていうか、ルークは忘れてるかも知れないけどさ、私コンタクト入れてるんだよ?
泣いたら大変な事になるよ?
“…………すっかり忘れてた”
――…………。
さあ、本当に本当に、本当にどうしよう。
アヤナミ様って背高いなーとか、美形さんだなーとかいう無意味な現実逃避をしてみても、一向に事態は好転しない。
とりあえず目を逸らしてみると、アヤナミ様に顎を掴まれて無理矢理目線を合わせられた。
「答えろ。何があった?」
前言撤回。
今ならマジで泣けるかも知れない。
見た事も無いような冷たい視線に射抜かれて、背筋を嫌な汗が流れる。
『な…何も無かったと言ってるじゃないですか……』
震える声でそう答えるが、アヤナミ様は納得してくれそうにない。
彼がもう一度口を開こうとする。
その時、
バタン!!
突然の物音にびくりと肩が震えた。
しかしすぐに、今の音はドアが開かれた事によるものだと気付く。
私とアヤナミ様の視線の先には、
「アヤたん!!何でルゥたんを襲ってんの!?」
慌てた様子のヒュウガ少佐が居た。
「ヒュウガ……何故ここに居る」
先程にも増して機嫌の悪そうな声色でアヤナミ様が言う。
「アヤたんが何やってるのか気になったから来てみたんだよ!
抜け駆けはいけないよアヤたん!ちゃんとオレの事も誘ってくれないと……」
「…………鍵をかけておいたはずだが」
「ん?ピッキング☆」
「…………。」
平然と言い放った少佐。
その言葉を聞いたアヤナミ様は私から手を離し、懐から黒光りする鞭を取り出した。
「ま、待って!アヤたん落ち着いて!!」
そんな少佐の叫びは完全に無視されて、彼は再びボロボロになった。
…………本日二度目だが、大丈夫なのだろうか。
私にとってナイスタイミングで入って来てくれた事には感謝したいが、彼にとっては完全にタイミングを誤ったとしか言えないだろう。
「…………ルフィア、」
『は、はいっ!?』
少佐の屍の上に立ったアヤナミ様が、唐突に私の名を呼ぶ。
「……今日は見逃してやる。だが、次こそは全て吐いてもらうぞ」
そう言うとアヤナミ様は、首に鞭を巻き付けられたヒュウガ少佐を引き摺って部屋を出て行った。
『……………………怖かったぁ…』
彼等が部屋を出てしばらく経った後、私は床にへたり込んだ。
目の前が少しぼやけている。……涙目になっているのかも知れない。
“……大丈夫か?”
『どこを見たら大丈夫だと思えるんだよ……』
“言い返せる元気があれば大丈夫だな”
『…………』
まったくコイツは……。アヤナミ様が怖いのに絶対何も喋ってはいけないという板挟み状態がどんだけつらいと思ってるんだ…!
最後には死刑宣告っぽいのを言われたし!
“…………とりあえず、早く泣き止めよ。ルフィアみたいな馬鹿が泣いてると気持ち悪いんだよ”
『気持ち悪いって何さ?!酷いよ!!』
“……………………だーかーらー、オレはお前の泣き顔なんて見たくないって言ってんだよ”
『え…………。
その言い方……もしかしてルークって、ツンデレだったの?!』
衝撃の新事実発覚!!
“違う!!絶対違う!!
お前の思考回路はどうなってんだよ?!”
『いいんだよ、そんなに照れなくて』
“照れてねぇよ”
『あはは、可愛いねー』
“可愛いとか言うなよ気持ち悪い”
『酷い!また気持ち悪いって言った!!』
“今度は正真正銘ホントにマジで気持ち悪い。そしてそのニタニタ笑いをやめろ”
『そんなに気持ち悪くないでしょ?!だいたい、ニタニタなんてしてないもん!ルークの馬鹿!!』
“お前が馬鹿なんだろ”
『馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!』
“何処の幼稚園児だお前は。つか、最初に言ったのルフィアじゃねーか”
『なっ…!嵌めやがったなルーク!!』
“ルフィアが自滅したんだろ”
『うぅ…………』
“言い返せなくなったからお前の負けだな”
『…………はぁ…』
ため息を吐いて、ゆっくり立ち上がる。
何でかは分からないけど、ルークと話してたら元気になった気がする。
『………………そういえば、ヒュウガ少佐…大丈夫かな?』
“…………さあな。無傷では居られないだろうが、もう慣れてるみたいだし大丈夫だろ”
『そっか……。でも、一応助けてもらったからなぁ……』
“あれだけ空気の読めてない発言してればキレられても仕方ないだろうな”
『少佐も大変だね…』
「………………あの……ルフィアさん?」
『はいぃぃい!!?』
誰も居ないと思っていたのに突然声を掛けられて、再び心臓が止まるような思いをした。
恐る恐る振り返ると、ドアの隙間からコナツさんが覗いていた。
『い、いつから居たんですか、コナツさん?』
「えっと……ルフィアさんが“そういえば、ヒュウガ少佐…大丈夫かな?”と呟いている辺りから……」
…………もしかして、いや、もしかしなくても、私がルークと喋ってるの聞かれた?
独り言言ってる変人だと思われた!?
『あ、あの、あれは独り言なので気にしないでください!』
「そ、そうですか…」
――何で独り言肯定しちゃってるんだ私!!
“焦ってるとおかしい事を口走るのはルフィアの欠点だよな”
――ですよねー……。
コナツさんも若干引いてるっぽいし……。
「…………あの、ルフィアさんはヒュウガ少佐を見ませんでしたか?」
気まずい雰囲気の中、コナツさんが口を開いた。
『少佐なら、さっきアヤナミ様に引き摺られて行きましたけど……』
「そうですか。なら良いです」
――良いんですか?!
「先程、ルフィアさんの事が気になると言って執務室を飛び出して行ってしまったので何処に行ったのか心配だったのですが……アヤナミ様が保護しているなら安心ですね」
保護してる訳じゃないと思いますけどね。
『そうなんですか……』
「はい。
ところでルフィアさんは、こんな所で何をしていたんですか?」
――コナツさん!?一番触れてほしくない所に触れましたね!!
『え!?……いやぁ~、アヤナミ様とちょっとお話を……』
「どんなお話ですか?」
…………聞かないでくださいよ……。
『たたた、大した話じゃないですよ!ほ、ほら、そろそろ執務室に帰りませんか?』
「………………そうですね、そうしましょう」
不審そうな視線を投げ掛けるコナツさんを無理矢理に説得して、私達は執務室へ向かった。
* * *
執務室に帰ると、待ってましたとでも言うかのようにクロユリ君が抱き着いてきた。
うん。癒しだ。
「ルフィア、どこ行ってたの?」
『まあ、色々ね……』
適当に誤魔化して、近くにあったソファーに腰を下ろした。
「ルフィアー、ババロア食べない?ハルセが作ってくれたんだよ!」
クロユリ君が言う。よく見ると、皆さんの前には美味しそうなババロアが並んでいた。
私の返答は三択だ。
1.食べます
2.もちろん食べます
3.喜んで食べさせていただきます
そして私は、
『もちろん食べます!』
2番を選んだ。
『美味しかったー♪』
「ルフィアさん、幸せそうですね」
『そりゃあもう!甘いモノ大好きですから☆
ハルセさんのババロアは最高ですね!!』
「ありがとうございます」
綺麗さっぱり平らげた私は、再びソファーにもたれてくつろいでいる。
甘い物を食べると幸せな気分になるのが人間というものだろう。
少なくとも私はそうだ。
*
少ししてギィ…とわずかに音を立てて執務室の扉が開いた。
アヤナミ様とヒュウガ少佐(の屍)が帰ってきたのだ。
一体少佐の身に何があったのだろう。
ぐったりしている少佐を投げ捨てて、こちらへやって来る。
「…………ルフィア。例のペアチケットの話だが――」
大分前の話に戻したアヤナミ様。
――何故そこまでこだわるんですか?!
「私と行くだろう?」
『…………さあ…どうでしょうか…?』
正直、アヤナミ様と一緒に行ったら落ち着いて食べる事が出来なそうだからあまり気が進まないのだが。
「行かぬと言うのなら、先程の話の続きをしようか」
『行きます!!行かせてくださいアヤナミ様!!』
「ふっ……そうでなければな」
…………あれ?もしかして私、アヤナミ様に弱みを握られてる?
“完璧に握られてるな”
うわぁ、これからどうしよう。
「アヤたん!やっぱり横取りするんだね?!酷いよ!!」
いつの間に復活したのか、ヒュウガ少佐が叫ぶ。
ゴキブリ並かそれ以上の生命力ですね、少佐。
「何度も言ってるけど、ルゥたんはオレと行くの!!」
そんな事を言い、何処の駄々っ子だよ…と呆れている私の軍服のポケットからタダ券を奪っていった。
『あっ!?ヒュウガ少佐!!何するんですか!!』
すぐさま取り返そうとするが、彼が高く掲げてしまったので、私がいくら背伸びして手を伸ばしても届かない。
そんな私の様子を見ながらあははと笑うヒュウガ少佐に、殺意が芽生えた。
悔しいので、自分よりも何十センチも上にある彼の顔を思い切り睨みつけながら叫ぶ。
『返して~~~!!』
「っ!?///
…………ルゥたんが一緒に行ってくれるって言うなら返してあげる☆」
「ふざけるな」
そんな声と共に、少佐の顔に鞭がクリーンヒットした。
“うわ……痛そう……”
少佐が一瞬よろける。
それによって、彼の手が私に届きそうな所まで下がった。
これはチャンスだ!と思い、手を伸ばす。
そのまま抜き取れると思ったのだが、少佐の方も取られまいと力を込めたらしい。
ビリッ。
「『あ……』」
嫌な音がした。
執務室の中に、気まずい空気が充満する。
タダ券は…………真っ二つ。
自分の手の中にある切れ端を見た瞬間、頭が真っ白になった。
『………………』
「…………ルゥたん…?大丈夫…?」
思考停止した私に、元凶であるヒュウガ少佐が恐る恐る尋ねる。
しかし、そんな言葉は今の私の耳には入っていなかった。
『…………て…………すか……』
「え…?」
『どうしてくれるんですか!!!!』
そう叫んだ私を見て慌てる少佐。
「ご、ごめんねルゥたん!」
『あれは大切な……大切なタダ券だったんだぞ?!私がどれだけ楽しみにしていたか分かってんの?!』
「本当にごめんねルゥたん!まさか破れるとは思わなくて……」
『黙れグラサン!!』
「ルゥたんキャラ変わってる!!?」
『…………そう、死にたいの?じゃあ殺してやるよ』
「おおお落ち着いてよルゥたん!!言いながら銃を取り出さないで!!(汗)」
『ケーキの恨みを思い知れグラサン野郎!!』
「うわーーーっ!!?」
少佐に向かって発砲する私と必死に避ける少佐。
「ルフィアさん!流れ弾がこちらに来てます!!」
時々そんな声が聞こえる。
そして、銃声が止んだ。
引き金を引くが、何も起こらない。
――弾切れか……。
私は銃を捨てて…………ザイフォンを発動した。
「わーーーっ!!ルゥたんストップ!!」
そんな事を言われても止まるつもりなんてさらさら無い。
『ふふふふふ………』
「ルゥたん怖いよ!!目が笑ってないし!!」
『死にさらせ!!』
「ぎゃぁぁああああっ!!!!」
この日、ブラックホークの執務室は半壊した。
そして、ブラックホークの皆さんは……
「ルフィアさんは怒らせない方がいいですね……」
「そうだね……」
そう思ったとか思わなかったとか……。
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