第八話 夢の中で逢いましょう
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ふわふわとした、奇妙な空間。
妙に現実味の無いその場所に私は立っていた。
――ここには何度か来た事がある。
ここは、
『私の、夢の中……』
確かに、ここは私の夢の中だった。
でも、違うとも言える。
何故なら、ここは“あの世とこの世の境目”と言われる場所だから――…
* * *
ひた、ひた、ひた、と足音が聞こえる。
音のする方を見ると、見知った彼の姿があった。
――それは、ここには来て欲しくなかった人で。
こんな所では会いたくなかった人で。
『ミカゲ……』
「あれ?ルフィア?
なんでこんな所で…?」
…そう思うのも無理は無いだろう。
「そうだ、ここって何なんだよ?さっきからずっと何にも無い場所ばっかりだし」
『ここは――』
――あの世とこの世の境目だよ。
そう言うと、彼は驚いた顔をしてから、
「……そうだよな。俺、死んだんだもんな」
と呟いた。
それからこちらを見て…
「って、じゃあ何でお前がここに居るんだよ?!まさか、お前も死んで…」
『いや、私は死んでない』
勝手に殺すな。
「だったら何で…?」
『……それには色々と理由があるんだけど……』
本当は誰にも話したくない。
話せば、きっと“そういう目”で私を見るようになるから。
――でも、ミカゲになら話しても大丈夫だよね?
一呼吸置いてから、言葉を続ける。
『驚かないでね。……実は、私の遠い遠い前世は天使だったの。
それで、私もその能力を受け継いでて……だからこういう事も出来るの』
ちら、とミカゲを見ると、彼は目を丸くしていた。
まぁ、その反応は仕方ないだろうが…
『驚くなって言ったじゃないか!!』
「無理だ!…テイトが王子様だったっていうのも驚いたけど、こっちの方がよっぽどビックリだぜ!!」
ミカゲが口を滑らせた。
――テイトはやっぱり王子だったのか。
ミカエルの気配がしたから、可能性の一つとして予想はしていたけど…。
まさか本当にそうだったとは。
しかし、こういう時は知らないフリをするのが得策だ。
『え、テイトが王子様!?どういう事?』
「テイトは実は、ラグスの王子様だったんだよ!――って、違う違う!今はお前の話だ!」
くっ…。ミカゲめ、なかなかしぶといな。
頑張って話題を逸らそうとしたのに、また元に戻しやがって。
『……と、とにかくさ、ミカゲは早く天国逝きなよ!』
「酷っ!!
…………じゃあさ、その前に一ついいか?」
妙に目を輝かせながら言うミカゲ。
『?……いいけど』
「ルフィアって、天使なんだろ?もしかして…羽とかあったりするのか?」
『まぁ、一応あるけど。
…見たいの?』
そう問うと、彼は思いっ切り首を縦に振った。
『――仕方ないなぁ』
渋々了承してから意識を集中させる。
ふわっ……
次の瞬間、私の背から現れたのは、大きな黒い翼だった。
いままでは、一人を除いて誰にも見せなかったそれ。
――でも、ミカゲになら見せても大丈夫だと思えた。
きっと彼なら、笑って受け入れてくれると――
「す、スッゲーな!!本当にあるんだ!」
――ほら、大丈夫。
「でも、天使の羽って、白いもんだと思ってたぜ」
……ミカゲよ、何故こういう時だけ鋭いんですか。
『それは、いろいろと事情があって……』
「……そっか。ありがとな、見せてくれて」
ミカゲがそれ以上追求してこなかった事は、私にとって大きな救いだった。
*
「じゃ、オレはそろそろいくよ」
『うん。それが良いよ。
こんな所に長居は無用だもん』
「じゃあな、ルフィア」
『天国は向こうだからね!
間違えちゃ駄目だよ』
ミカゲなら間違いかねないからね…。
「分かってるよ…(汗)」
『………………さよなら、ミカゲ』
「ああ、ありがとな」
手を振りながら去っていくミカゲ。
彼の顔に浮かべられたのは、いつも見ていたものと同じ、太陽のような笑顔。
――今までありがとう、ミカゲ。
彼の後ろ姿がだんだん小さくなっていく。
やがて彼は光の中へ消えていった。
* * *
「…………よかったのか?」
隣に立った人物が問う。
黒い髪に黄金色の瞳を持った、整った顔立ちの彼。
『ルーク……居たんだ』
「当たり前だ。――で、本当によかったのか?
本来なら、天使には魂の運行に関与する権限は与えられていない。
堕天使の転生体であるお前ならなおさらだ。
にもかかわらずお前は、本当なら闇に呑まれるはずだった彼の魂に天へ還る翼を与えた。
…………それが何を意味しているのか分かってるのか?」
『……当然だよ』
私がその程度の事を理解していないわけがない。
『これは私のエゴだから。
そうしたかったからそうしただけ。罰が下るというなら喜んで受けるよ。
…………そんな事が出来るなら、だけどね』
「随分強気だな」
『彼奴等は私に手を出したりしない。
今もこうして普通に生きてるのがその証拠だよ』
「……そうだな」
自嘲気味に笑ってから、私は昔聞いた歌を口ずさみ始めた。
――星に 雪に 記憶に
――きみの あしあとさがす
――どうか とわの やすらぎ
――ここは 夢のとちゅうで
――おさない つばさで 坂道 駆けてく
――みちから はぐれて この眼を とじてく
それは、去りゆく魂へ送る唄。
――星に 雪に 記憶に
――きみの あしあとさがす
――どうか とわの やすらぎ
――ここは 夢のとちゅうで
死者の魂を慰め、鎮める歌。
――いつか すべて もどりて
――そらの 果てひとりきり
――あなたが待つ やすらぎ
――ひかりのあと のこして
残された者達の心をも安らげる詩。
――おさない つばさで 坂道 駆けてく
――みちから はぐれて この眼を とじてく
ラグスという国で歌い継がれてきた謡。
――夢に 愛に 心に
――きみの あしあとさがす
――とわの ひかりのこして
――揺るぎのない つばさで
それは、貴方へ送る鎮魂歌。
――とわの 愛を あなたに
*
「…………その歌、知ってるのか」
『アレだよ。前世の記憶ってやつ』
そう。
遥か昔の“私”が歌っていた。
「ふーん…」
『帰ろっか。ね、ルーク』
「そうだな」
私は目を閉じた。
やがて訪れるであろう彼の来世が、幸せなものであることを願いながら――…
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