とある武士道女の事情 〜『幕府の猫』と呼ばれた少女の物語
万事屋を出たまりんは全速力で屯所へと向かっていた。途中で何人かとぶつかってしまっていたが、謝るほどの余裕など今のまりんにはなかった。
屯所に着くと直ぐに山崎と遭遇した
『ザキ!!!』
山崎「まりんちゃん!!って、すごい息切れだよ!?とりあえず落ち着いて」
『そんなこと、ハァハァ、言ってる、ッ、場合じゃない!!!!!"彼らは"!?!?』
山崎「今、沖田隊長と副長たちが事情聴取してるよ」
『分かったありがとう!!』
山崎「ちょ!!まりんちゃん!」
まりんは山崎を置いてある部屋へ向かう
土方「………来たか」
まりんは思いっきり扉を開く。
するとそこには沖田と土方、そして、七瀬家で仕えていた家来たちがいた。
『どう……して……』
土方「こいつらがこの間お前を襲った黒子集団の正体だ」
沖田「……………」
家来「まりん様………」
『なんで、あなた達が………』
家来「……お話しなくてはならないことがございます……こんな状況になって信じてもらえるとは思っていません……ですが、お話だけでも聞いてはくれませんでしょうか……」
彼らはずっと頭を下げて、苦しそうな表情を浮かべていた。体は震えており、何かに脅えているかのように見えた。
『とりあえず…顔を上げてちょうだい…』
まりんは彼らに近づき、優しく声をかける
彼らはゆっくりと顔を上げる。その目には涙があった。
『その話、聞かせて』
家来「ッッ……ありがとう、ございます……」
そしてまた、深々と頭を下げると彼らは一つ一つ話し始めた。
家来「まりん様がお逃げになったあと、私たちは襲撃者を捕らえようと必死になって動いておりました。しかし、そこに居たのは抑音様だったのです。動揺した私たちはその場で立ちつくしてしまい、その隙を突かれ何かを撃たれたのです……」
『撃たれた……?』
家来「銃などではなく、光線といいますか……
それを浴びたあとの記憶はありません……しかし今ははっきり覚えております…、私たちは洗脳されておりました……」
『洗……脳……』
家来「洗脳された私たちは、抑音様の命令に背くことは出来ませんでした。あの日、まりん様を捕らえてくるよう命令されたのです……」
家来たちが一通り話終えると、土方が口を開く。
土方「だとよ、んで、こいつらを知ってるまりんからしてどう思う?」
『彼らは嘘をついてないと思う。あと、ようやくあることにも確信がもてた』
沖田「どういうことでさァ?」
『この間、抑音が洗脳されてるかもって話はしたよね』
沖田、土方「「!!!!!」」
『今、彼らの話を聞いて確信がもてた。抑音は誰かに洗脳されてる。きっと命令に背けず真犯人にずっと……あの時から……』
まりんの顔がだんだん暗くなり、体も少し震え
今にも泣きそうなのは誰から見ても一目瞭然だった。
『抑音は……わ、私の兄のような存在で……わがままたくさん言ってたけど、いつも優しくしてくれてたり……迷惑ばかりかけてきたのに、助けようとずっと頑張ってきて……でも出来なくて……今も洗脳されててずっと1人で……なのに、私は……』
沖田「1人で抱え込むな、俺に頼れって言っただろィ」
そう沖田が言うと、沖田はまりんの頭に自分の手を置き、優しく撫でる。
『ッッ……助けて……』
沖田「当たり前でィ。」
家来「私たちも!!!できることがあればなんでも致します!!!今度はまりん様をお助けします!!!!」
土方「真選組のやつらも、まりんが声をかければ誰も首を横に振るやつなんかいねぇよ、俺を含めな」
『みんな……ありがとう……』
まりんは自分の目に溜まった涙を拭う
『ある作戦があるの!!!みんな協力して!!』
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土方「んで、作戦って言うのは?」
『私が家来たちを粛清したとき、私は全員気絶状態にした。そして今は洗脳が解けて七瀬家の家来だったということが判明した。つまり、洗脳は一定のダメージを食らうとそれがトリガーとなって洗脳が解けるということ。
だから、抑音も同様にダメージをくらえば洗脳が解けると思うの。』
沖田「つまり、抑音にダメージを食らわすために俺たちは援護すればいいってことかィ?」
『そういうこと!!!!
そして真犯人を見つけて必ず粛清する。』
山崎「既にアジトの目星はついてます!いつでも乗り込み可能です!」
『じゃあ決行は3日後、絶対抑音を取り戻す……!!』
家来「お任せ下さい!!」
土方「それまでに色々準備しとけ」
沖田「へい」
ついに決行日が決まり、七瀬家の家来と真選組総出で抑音奪還計画が始まろうとしていた。
次の日の夜
お風呂を済ませたまりんは自室に戻ろうと廊下を歩いていた。
するとまた、縁側に誰かがいるのが見えた。
『あ、やっぱり沖田さんだ。ここ好きだね』
まりんはいつものように隣に腰掛ける。
沖田「ここは誰も来ねぇからな、あとここが1番月が綺麗に見えるんでさァ」
『誰も来ないのは私の部屋があるからなんですけど、普通なら沖田さんも来ちゃダメなんですけど』
沖田「隊長の特権でィ」
『職務乱用だ……最低……』
沖田「おい、今失礼なこと考えただろィ」
『そんなことないよ??ただ、女の子の部屋がある、しかも入っちゃダメって言われてるのに来てるあたりやっぱ変態さんなのかなって』
沖田「十分失礼なこと考えてんじゃねぇか」
いつもの調子で沖田とまりんは話す。
お風呂から上がって、縁側で沖田とお喋りしてから寝る、そんなことがまりんはルーティンになっていた。
『2日後には決行なんだね』
沖田「あぁ」
月明かりに照らされたまりんを見て、沖田は口を開く。
沖田「不安かィ?」
『不安じゃないって言ったら嘘になるけど、今の私は1人じゃない。沖田さんやみんながいる。絶対抑音を助ける』
沖田「…………」
沖田が急に黙り込むのでまりんはどうしたのかと思い沖田の顔を覗く。
『???沖田さんどうしたの??黙り込んじゃって、もしかして、沖田さんの方が不安だったり??笑』
沖田「……まりんに伝えなきゃいけねぇ事がありまさァ」
そして2人は自然と向き合う。月明かりのおかげで夜でもはっきりお互いの顔が見えた。
『伝えなきゃいけないこと?なに?』
沖田「好きでさァ」
『…………!?!?!?え!?!』
沖田「だから、好きでさァ」
『2回も言わなくても分かるから!!そ、それはお友達としての好きって、こと、?』
沖田「恋愛としての好きでィ」
その言葉を聞き、まりんの顔はみるみる赤くなる。目を見開いて口をパクパクと動かしている。
『や、えっと、あの、』
沖田「んで、返事は?」
『返事……!?』
まりんは少し考えると、先程までの顔と変わり真剣でどこか悲しそうな顔へと変わった。
『わ、私に沖田さんは勿体ないというか……もっと素敵な人がいると思うの!!!あ!ほら!男所帯で女の子が私しかいないからなんか、その効果的なので好きになっちゃったんだ!ダメだよ?街にはもっと可愛い子いるんだから!!それに沖田さん、街の女の子からモテモテなんだから選択肢はいっぱいあるじゃん!!』
沖田「なんでそうなるんでィ。男所帯で女がまりんしかいないからまりんを好きになったわけじゃねぇ。俺は」
すると沖田に被せるようにまりんが話し出す
『沖田さんにはもっと素敵な人がいるから!!私のことは、あ、諦めて!!!!!』
そういうとまりんは自室へと走っていってしまった。
沖田「おい!!!!!」
1人残された沖田の声は静かに響いた。
沖田「諦めれるわけ、ねぇだろィ……」
フラれてしまった沖田はその場で立ちつくしてしまった。
沖田「俺は…まりんを1番近くで守ってやりたいんでさァ……」
一方まりんは部屋に着くと壁にもたれかかって
その場にしゃがみこむ。
『沖田さんが私のことを、好き……』
先程の告白の時の沖田の顔が離れずにいた。
『私は……』
いつか銀さんが話してたことを思い出す
『いつか本人の口から聞けるさ』と。
そして今までの事を思い出す。
困っている時は助けてくれようとしたり、優しくしてくれたり、たまに意地悪されるけど別に嫌な気持ちにはならない。むしろ、沖田といると心が落ち着いている、一緒にいて楽しい
そんな感情がふつふつと湧き上がってくる
『私は沖田さんのこと……』
しかし、まりんはこの感情がなんなのかが分からなかった。
『でも、私は……きっとこの戦いで命を落とす……それしか、抑音を救う手段がないの、だから沖田さんとは一緒には居られない、なんて言えるわけないじゃん……』
まりんは静かに泣く。
誰にも気づかれないよう、これから来てしまう自分の死の恐怖に耐えながら。
──抑音を救う手段──
そう書かれたメモにはびっしり書いてありどれも線で塗りつぶされていたが、一つだけ残っているものがあった。
真犯人を仮とAとする。Aは清祓瀬と潔祓瀬が目的。ふたつの刀が揃うことによって本来の強力な力が取り戻される。しかし、その力は決して手にしてはいけない。そんなことをすれば世界が滅びかねない。刀に飲み込まれやがて自我を失う。
潔祓瀬がAの手元にある今、私にできること
それは
清祓瀬をこの世から亡くすこと。
そうすれば、片方を失ったAは目的を達成することが出来ず、やがて抑音を解放する。
あの時から抑音はずっと耐え苦しんできた。
次は私の番だよ、抑音にだけ苦しい思いなんてさせない。
絶対、私が抑音を助けてあげるからね。
最終手段
清祓瀬をこの世から亡くす。
『沖田さんには言い忘れてたけど、清祓瀬は私の魂と実は繋がってるんだ。だから清祓瀬が亡くなる、それは私の死に繋がるんだ。
言ってなくてごめんね』
そんな言葉が沖田に届くはずもなく、部屋にはまりんの啜り声だけが響いていた。