とある武士道女の事情 〜『幕府の猫』と呼ばれた少女の物語


まりんはただひたすら走る
足を負傷しており、上手く走れない
それでもまりんは足をとめなかった

足を止めたら待ってるのは「死」ということを悟っていたからだ。
後ろからは刀を持った複数の男たちが迫ってきている。

(この刀だけは絶対守らなきゃ…!)

足の限界が来てしまったまりんはその場でつまづいてしまう。

気付けば刀を持った男たちで囲まれていた
今までに感じたことの無い「死」の恐怖がまりんを襲う

『 やめて、、』


まりんは恐怖に耐えながら必死に訴えた
しかし、そんな言葉が通じるほど世の中甘くない
まりんに向かって容赦なく振り下ろされる刀
固く目を閉じ死を覚悟する

だが、いつまで経っても思っているような痛みはない
聞こえてくるのは、男たちの騒ぎ声。

次に目を開けた時には先程までいた男たちが全員倒れていた
ただ一人立って居るのは、黒い隊服をまとった男の子だった
きっとまりんとそう大差ない

夜で暗いせいか彼の顔が見えない


??「あんた名前は」


『 七瀬、、まりんです、』


急に名前を聞かれ咄嗟に答える


??「七瀬、まりんか
あ、こいつら全員俺が斬ったんでもう大丈夫でさァ」


『 あ、あの!!!あなたの名前は、!』


??「俺は、、ただの芋侍でさァ」


『 まって!!』


𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


『 まっ!、、て、、ってまたこの夢、』


目が覚めたまりんは、あの時助けてくれた彼を止めようと伸ばしている右手に気づき、そっと下ろす。
仕事で怪我をした足を優しく撫でる


『 あの時と同じところ怪我してるんだよなぁ』

普段はしない怪我を粛清時に負ってしまったのだ


『 そういえば、あの日から今日で2年か……』



2年前 ───


𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


あの後すぐに気を失ってしまったまりんは
気付けばある部屋で寝ていた。


??「お!?やっと起きたな!!」



『 !!誰!!』


??「すまん!驚かせてしまった
俺は近藤勲だ、真選組の局長を務めている」


『 真選組……』



近藤「お嬢ちゃん名前はなんて言うんだ??歳はいくつ?」


『 七瀬まりんって言います。
歳は14』


近藤「まりんちゃんって言うのか!」


『 あの、どうして私を』




近藤「まりんちゃんが怪我をした状態で倒れている所を見つけてな!放ってはおけないだろ??」


『 ありがとうございます、助かりました』



近藤「お礼を言われることは何もしていない
警察として当たり前のことをしたまでさ
それと1つ気になってることがあるんだが
その刀は?」



『…これは、親の形見です、
ごめんなさい、今はこれ以上の話はできません、でもこの刀は私にとって命と同じくらい大切なものなんです』



近藤「そうなのか、」


『はい』


少し沈黙が続き、まりんが口を開く



『あ、あの、ひとついいですか』



近藤「ん?、なんだ?」



『 私を真選組に入れてくれませんか?
私は女だし、まだ子供で真選組さんたちの足でまといになるかもしれない、でも、私にだって生きる覚悟も死ぬ覚悟もあります!必ず役に立ってみせます!!それにやらなきゃいけないことが私にはあるんです…!お願いします!』


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





『 ってことがあったっけ、懐かしいなぁ』



あの日から2年経った今、まりんは16となり
真選組で「特殊部隊隊長」を任されている

隊長と言っても、この隊に部下はいない
まりん一人で構成されている部隊なのだ。

まりんの仕事は

誰しもが眠る夜。静かな江戸を脅かす攘夷浪士の粛清、真選組屯所・江戸城にある大切な書物を守り、それを盗もうとするものの粛清。
まりんを知るものは皆「幕府の猫」と呼ぶ。




『 怪我したこと、後で近藤さんと土方さんに報告に行かなきゃ』



夜勤から帰ってきたまりんは、疲労と怪我の痛みでそのまま倒れ込むように寝てしまったのだ。

『うーん、暇だし、屯所内うろつくか』



自室を出て歩き出す
まりんは夜に活動をするため、朝方に帰りすぐ就寝する
なので屯所内を歩くのは久しぶりでどこに何があるかが分からない状態だった。



『どこだろう、ここ』



しばらく適当に歩くまりん
そしてある部屋にたどり着く


『なんか見覚えのある部屋のような……』



その部屋の襖に手をかけようとする



??「あんた誰でさァ
そこはマヨラーの部屋ですぜぇ」


声のした方をむくと亜麻色の髪色をした
少年がだるそうな顔をして立っていた


『貴方こそ誰よ』



沖田「俺は1番隊隊長、沖田総悟でさァ
んで、あんたは?」


『私は特殊部隊隊長、七瀬まりん
貴方が1番隊の隊長さんだったんだ
初めまして』

と、まりんは微笑みながら沖田に挨拶をする

沖田「特殊部隊、存在は知ってたが
まさか、こんなガキが勤めてたんですかィ」


『ガキ!?!私と貴方そんなに見た目変わらないじゃない!歳だって16くらいでしょ!』


沖田「残念でした〜俺は18でィ」


『18!?その見た目で?この、ベビーフェイスが、私の2個上?』


沖田「ってことは、あんた16ってことか
ガキだな」


『また、ガキって!!言っとくけど、私をあまり舐めない方がいいよ』

まりんは自分の刀に手をかける


沖田「へぇ、覚悟はあるみたいだねィ
いいですぜ、手合わせ願まさァ」


まりんと沖田が刀に手をかける


土方「総悟!まりん!人の部屋の前で騒ぐんじゃねぇ!」


沖田「チッ、邪魔が入った」


『マヨ、、じゃなくて土方さん』


刀を抜こうとした瞬間に扉が開き、土方さんが出てくる


土方「おいまりん、今なんて言いかけた」


『なんでもないですよ?マヨラーなんて言ってませんから!』


土方「今言ってるじゃねぇか!」


『そんなことより!丁度いいです!報告しに来ました
近藤さんも居ますか??』


土方「近藤さんなら今ちょうどいる」


部屋を覗くと近藤がいた
まりんは部屋に入り、近藤の前に座る

それに続き、土方も近藤の隣に座る
そして、沖田もそれに続き座る


『なんで、貴方もいるの?』


沖田「居ちゃ悪いかィ?」


『悪くは無いけど、まぁいいわ』


まりんは気持ちを切り替え、近藤、土方の方を向く

『特殊部隊の活動報告をします。
1週間前から目をつけていた攘夷浪士が
動きを見せました。』


土方「遂にか、んで、今そいつらは?」


『はい、私が全て粛清したので今は大丈夫です。
将軍様も書物も無事です』


近藤「まりんちゃんは仕事が早くていつも助かるよ!!」


『ありがとうございます、!
そして例の件ですが、まだ手がかりが何一つ掴めてない状況です』

近藤「その件については、俺達も探ってみよう」

『助かります!』


土方「報告はこのくらいか?」


『あと1つ、あります……』


まりんは言いずらそうに2人の方を見る


土方「なんだ?」



『粛清時に足を負傷してしまい……
しばらくは大きな任務には出れそうにないです、、』



申し訳なさそうに、2人を見る。
まりんは自分の不注意せいで怪我をしてしまったことにとても反省をしていた


近藤「そうだったか、まぁ、まりんちゃんにはいつも頼ってばっかりだしな!たまには休暇も必要だろ、な?トシ」


土方「そうだな、怪我が治るまで休暇をやる」


『!!!それはダメです!そんなに大きな動きをしなければ1週間くらいで治るので、それまで雑用でも何でもします!』



沖田「じゃあ」



すると、先程までずっと喋らなかった
沖田が口を開く

沖田「じゃあ、怪我が治るまで一番隊に入ればいいんじゃないんですかィ??そーすれば、俺もいるし安心でさァ」

急に何を言うのかと思えば、そんな事だった
まりんは沖田を凝視する


『え、ええっと?』



近藤「なるほどな!じゃあ、まりんちゃんが怪我が治るまで、一番隊に入ればいいんじゃないか!
総悟も補佐みたいなのが欲しいって言ってたしな!どうだ??一番隊の副隊長として!」


『え?私が1番隊副隊長……?』


沖田「そうすりゃ、あんたは安全に仕事が出来る
俺はサボれまさァ」



『さぼるな!!!
私嫌です!1人でも大丈夫です!』


近藤「まぁ、話を聞け!
まりんちゃんの怪我が治るまで1番隊副隊長として1番隊にいれば、総悟もいるし安心して活動できるだろう?また、まりんちゃんが無理してしまっても困る」


土方「名案かもな、よし
まりんに1番隊副隊長の兼任を任せる」


展開が早く頭が追いつかないまりんは驚きが隠せなかった


『じゃあ、特殊部隊の仕事は……』


近藤「怪我が治るまでは禁止!1番隊として総悟といてくれ」



『近藤さんが言うなら、分かりました……』



近藤「決定だな!じゃあ今日から頼む!」


『はい…』

沖田「へい」


怪我が治るまで、一番隊副隊長として兼任を任されたまりんは戸惑いつつも受け入れるしか無かった
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