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いくら強制的に貸されている側とはいえ、あまりにも返却が滞納していると流石に申し訳なさが込み上げてくる。影浦くんは読める時に読めばいいと言ったけれど、そういう訳にもいかない。
今週の土曜日には、何冊か返せると思うんだ。
不確定な曖昧さゆえに窄んでしまった声を、村上くんは聞き逃さなかった。その証拠に彼は嬉々として「それは良かった」と満面の笑みを浮かべる。
「人1の方から来る時、カゲは凄く嬉しそうな顔をするんだ」
「…そうなの?」
「ああ。今度写真でも撮ってこようか?」
ニヤリと不敵な笑みを湛えた村上くんだけれど、普段の行いのせいでただの爽やかな笑顔に補正が掛かっている。これがもし影浦くんなら物凄い悪人面だったろうな、なんて想像をしながら首を横に降って断った。
いつでも欲しくなったら言うんだぞ。
何故か念押しをしてくる村上くんの顔があまりにも真面目そうに言うものだから、ふと笑いが込み上げてきた。そんなに言われるとちょっと見てみたいかも。影浦くんに知られたら頭ぐりぐりされそうだけど。
頭に浮かべたイマジナリー影浦の顔ですらどうにも面白く思えてしまって、口角が緩む。あはは、と掠れた声が漏れて、束の間のツボに酔いしれた。
「戸森は、やっぱり笑っていた方がいいな」
右斜め上から熱心な視線を感じたと思えば、村上くんはぽつりと呟いていた。目に映った村上くんが、優しく微笑んだ。
「っと、にかく村上くんは!影浦くんにちゃんと言っておいてね!」
動揺を紛らわすように大きな声をいきなり出したせいで、変に言葉がつっかえ途切れて吃ってしまった。村上くんからは思わず目を背けた。
色々な意味で、その場から離れなければならないと思った。
村上くんの微笑みも影浦くんの心配も全て、私にとって受け取ってはいけないものだ。無論、彼らだけじゃない。ただこれ以上みんなから与えられる優しさに触れてしまったら、もう戻れなくなる気がした。
そう頭では理解しているつもりでも。
名前を呼ばれて足を止めてしまう私は、きっとあの日から変わらない。
「オレたちは戸森から離れたりしないよ」
私は突き放して欲しいのに、それを真っ向から否定する村上くんの声は何処か確信めいていた。
押しつぶされた感情から溢れ出るように嬉しいと感じてしまう自分が嫌で、村上くんから逃げるようにまた一歩を踏み出す。
戸森は嫌かもしれないけど、それでも……。
さっきとは反した弱々しく引き留めるような切願に、耳を閉じたい衝動に駆られる。
頭の中で天使と悪魔がぐるぐると巡って、気休めにしかならない癖に目すら閉じたくなった。
あの子はいつもそうだ。
私に囁いてきて、そして永遠に惑わしてくる。
あの日から、ずっと。
素直に喜べばいいのに。あの言葉の続き、聞きたいんでしょ?
―――なにも聞きたくない
加賀美ちゃんが心配そうな顔でこっちを見てるのが見えないの?
―――だからなにも見えないってば
本当は、いま王子くんたちが任務で居ないことに安堵してるんだ?
―――お願いだから黙ってよ
あたしの時も、そうだった?
________________
__________
その時、無機質な着信音がポケットを揺らした。
今週の土曜日には、何冊か返せると思うんだ。
不確定な曖昧さゆえに窄んでしまった声を、村上くんは聞き逃さなかった。その証拠に彼は嬉々として「それは良かった」と満面の笑みを浮かべる。
「人1の方から来る時、カゲは凄く嬉しそうな顔をするんだ」
「…そうなの?」
「ああ。今度写真でも撮ってこようか?」
ニヤリと不敵な笑みを湛えた村上くんだけれど、普段の行いのせいでただの爽やかな笑顔に補正が掛かっている。これがもし影浦くんなら物凄い悪人面だったろうな、なんて想像をしながら首を横に降って断った。
いつでも欲しくなったら言うんだぞ。
何故か念押しをしてくる村上くんの顔があまりにも真面目そうに言うものだから、ふと笑いが込み上げてきた。そんなに言われるとちょっと見てみたいかも。影浦くんに知られたら頭ぐりぐりされそうだけど。
頭に浮かべたイマジナリー影浦の顔ですらどうにも面白く思えてしまって、口角が緩む。あはは、と掠れた声が漏れて、束の間のツボに酔いしれた。
「戸森は、やっぱり笑っていた方がいいな」
右斜め上から熱心な視線を感じたと思えば、村上くんはぽつりと呟いていた。目に映った村上くんが、優しく微笑んだ。
「っと、にかく村上くんは!影浦くんにちゃんと言っておいてね!」
動揺を紛らわすように大きな声をいきなり出したせいで、変に言葉がつっかえ途切れて吃ってしまった。村上くんからは思わず目を背けた。
色々な意味で、その場から離れなければならないと思った。
村上くんの微笑みも影浦くんの心配も全て、私にとって受け取ってはいけないものだ。無論、彼らだけじゃない。ただこれ以上みんなから与えられる優しさに触れてしまったら、もう戻れなくなる気がした。
そう頭では理解しているつもりでも。
名前を呼ばれて足を止めてしまう私は、きっとあの日から変わらない。
「オレたちは戸森から離れたりしないよ」
私は突き放して欲しいのに、それを真っ向から否定する村上くんの声は何処か確信めいていた。
押しつぶされた感情から溢れ出るように嬉しいと感じてしまう自分が嫌で、村上くんから逃げるようにまた一歩を踏み出す。
戸森は嫌かもしれないけど、それでも……。
さっきとは反した弱々しく引き留めるような切願に、耳を閉じたい衝動に駆られる。
頭の中で天使と悪魔がぐるぐると巡って、気休めにしかならない癖に目すら閉じたくなった。
あの子はいつもそうだ。
私に囁いてきて、そして永遠に惑わしてくる。
あの日から、ずっと。
素直に喜べばいいのに。あの言葉の続き、聞きたいんでしょ?
―――なにも聞きたくない
加賀美ちゃんが心配そうな顔でこっちを見てるのが見えないの?
―――だからなにも見えないってば
本当は、いま王子くんたちが任務で居ないことに安堵してるんだ?
―――お願いだから黙ってよ
あたしの時も、そうだった?
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その時、無機質な着信音がポケットを揺らした。
