壱
「どこだよ、ここ」
そう、エースが呟く声が聞こえる
眼下に広がるはいくつもの高層ビルと、遠くの海
今立っているのは狭い路地裏のようだった
だが自分たちは闇の鏡を使い長距離移動をしようとしていたはずだ
目的地は輝石の国にある街であり、このようなビル群のある港街では無い
この場所の雰囲気は生まれ故郷によく似ている
それはふわりと、潮の匂いを纏った風が吹いていたからかもしれない
立ち止まり、周りを見渡してみても人の気配は感じ取れない
このまま動かなければ何も状況は変わらない
情報を集める為にも、歩き、人が居れば現在地なりを聞いてみればいい
そう判断し、歩み始める
しばらく歩いていると不意に、ゴトリと何かが落ちる音が聞こえた
三人は目を合わせ、警戒しながら音のした方へと進む
路地の角から様子を伺うと、そこには一人の少年が立ち尽くし、周りには大人が何人も倒れているようだった
二人が息を呑む音が聞こえる
それは倒れた人の為だけではない
不意にこちらを向いた少年の目元を隠す仮面に、血が付いていたことも関係しているはずだ
少しの静寂
どちらが動くこともない、静止した時間
だがそれを破ったのは少年の方だった
こちらを向き直ったかと思えば、コートの中へと手を伸ばす
武器を出され、戦闘になってはまずいと思い、アヤは素早く僅かに体勢を低くして戦闘態勢を取る
わらった
そう、それを見てほんの僅かに少年はわらったのだ
仮面のせいでほとんどは読み取れなかったが、でも確かに、少年は口角を上げてわらったはず
一度、戦闘の意思はないと言いたげに、アヤに静止するように片手の掌を見せ、小さく頭を横に振る
驚きつつも、成り行きを見守ることにしたアヤ
それを感じ取ったのか、ゆっくりとした動作で再び少年はコートの中に手を入れ、そして一つの携帯を取り出した
まさか援軍を呼ぶ気では、と一瞬警戒したが、少年はカタカタと何かを打ち込み、スッと画面を見せてくる
『学生か?』
驚いて目を見開き、三人は目を見合わせた後、小さく頷く
『此処は危険だ。疾く家に帰れ』
ぶっきらぼうではあるが、こちらを心配するような文面
それを読み終えたエースは思わず、帰り方がわかれば苦労しねーつーの、と愚痴のように小さく溢した
エースの言葉はしっかりと少年にも聞こえていたらしい
小さく首を傾げながら、再び文字を打ち込むと、こちらに向ける
『迷子、と云うには些か歳が過ぎている気がするが、此処ら辺では見ない制服だ。
困っているなら力になるであろう場所を紹介してやる』
何もわからない状態でこの言葉はかなり嬉しいもので、デュースは良いんですか!?お願いします!と、元気に返事をする
その様子に大きく頷いた後、ふと何かを思い出したかのような素振りをして、少年はカタカタと打ち込む
『今居る場所が判るか?』
その言葉には首を横に振る二人
無言のまま、少年は最後の言葉を打ち込む
『第三港倉庫』
三人が画面の文字を読んだとわかる程度の時間と、様子を確認すると、少年はどこかへと電話をかけ始めた
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