薔薇の香りの中で
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
応接室。
あんずはスモモの前に紙を数枚出した。
「……これは」
「##NAME1##ちゃんの家と、土地の権利書よ」
あんずはスモモが相続すべき物は、あんずの父が後見人として管理していること。
スモモが成人したらすぐ手続きができるようにしてあることを説明した。
「あとはスモモちゃんのサインだけ」
ペンを書類の横に置く。
スモモは慌ててあんずを見る。
「で、ですがあんず様、おじ様がいないのに…」
あんずはニッコリする。
「私は代理を承ってるの」
「代理?」
「父様が不在の時、スモモちゃんの記憶が戻って、尚且つ成人していたら直ぐにこれ等の書類にサインしてもらうこと」
スモモは目をパチパチさせた。
「あんず様」
「なに?」
「私はまだ未成年です」
「……あ」
あんずは顔を赤くして、書類を片す。
「ま、先ずは父様に報告ね」
「はい」
2人は応接室を出た。
「さあ、やることはまだまだあるわよ!」
次の部屋に向かう。
「スモモ様のドレスを仕立てられる日がくるなんて」
「さあ、スモモ様!どのようなデザインが良いですか?」
「色はどうなさいます?布は?」
「レースは?装飾は?」
「え~……と~」
使用人たちの質問攻めにスモモは戸惑う。
数週間後。
凛月は訪問するなり顔をしかめた。
「スモモ、なんでまだその格好なの?」
スモモは庭仕事用の作業着を着ていた。
「何故と言われましても、まだ後任の方がいませんし」
凛月はあんずの方を向く。
「募集はしてるんでしょ?」
「したわよ。だけど待っても来ないから、連れてきちゃった」
あんずの言葉にスモモと凛月は驚いた。
「その子、何日も広告を見てたのよ。だから声をかけたの」
あんずはニッコリする。
暫くして、新しい庭師が来た。
引き継ぎを終えたスモモは住み慣れた小屋を出、屋敷の部屋に移った。
広くて少し落ち着かないが、あの庭園がよく見えた。
コンコン
「どうぞ」
スモモが返事をすると、あんずが入ってきた。
「スモモちゃん、そろそろ行きましょう」
「はい」
「やっとこの日が来たわねぇ」
今夜はスモモの16歳の誕生日パーティー。
ずっと消息不明だった侯爵令嬢。
招待状を受け取った人たちは驚いた。
何人かはパーティー前に屋敷に訪問し、スモモと面会したがった。
だが、誰も叶わなかった。
「スモモ」
広間の扉前に凛月がいた。
スモモは自然と笑顔になった。
「凛月様」
スモモは凛月に近付く。
「誕生日おめでとう」
凛月は言う。
「ありがとうございます」
フワリと香る、薔薇の香り。
スモモは愛しさで胸がいっぱいになる。
「……コホン」
「………」
あんずが咳払いをすると凛月が睨む。
「?……!」
凛月に抱きしめられていると気づいたスモモは慌てて離れる。
凛月はクスクス笑いながらスモモの手をとった。
「行こうか」
「はい」
この瞬間、スモモは『庭師』から『令嬢』に戻る。
庭師だったことは隠さないとスモモは決めた。
この先、表でも裏でもいろんなことを言われるだろう。
それらから守りきると凛月は誓った。
もう二度と、この手を離さない。
END