薔薇の香りの中で
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夜中。
スモモはピアノの音で目を覚ました。
「こんな夜中に?」
屋敷にピアノはある。
あんずも、あんずの弟も弾くことはできる。
昼間は2人の演奏を聴きながら作業をすることもある。
(お二人とは全然違う)
いつも聴く旋律と違っていた。
(でも、なんだろう。……知ってる)
惹き付けられるように、ピアノのある部屋に向かった。
扉の前についても、ピアノの演奏は続いていた。
トクン、トクン
胸が騒いだ。
取っ手に触れる手が震えた。
呼吸が荒くなる。
確かめたい。
でも、知るのが怖い。
いろんな感情が渦巻いた。
スモモは目を瞑る。
暗い。
何も無い、幼い頃の記憶。
目を開ける。
(もう、何も知らないのは嫌だ)
扉を開けた。
「スモモ?」
「!凛月様」
部屋にいたのは、驚いた顔をした凛月だった。
「どうしたの?こんな時間に」
「ピアノの音が…」
「そう」
凛月は嬉しそうに微笑む。
トクン
また胸が鳴った。
その笑顔をスモモは知っていた。
顔が熱くなるのを感じた。
「此方においで」
凛月は言う。
スモモはそろそろと近づく。
「ピアノは弾ける?」
「少しなら」
「弾いてよ」
「凛月様の演奏が聴きたいです」
凛月は一瞬キョトンとした顔をした。
それからまた微笑む。
「良いよ。そこに座って」
スモモが近くのソファに座ると凛月は演奏を始めた。
優しい音色。
初めて聴く曲だった。
だが何故だろう。
とても落ち着く。
安心してしまう。
スモモは目を閉じると、そのまま寝てしまった。
「スモモ?」
呼び掛けても起きないスモモに凛月は苦笑した。
「変わってないなぁ」
昔からだった。
どんなにはしゃいでいても、凛月がピアノを弾くと大人しくなり、最後には眠ってしまう。
スモモの隣に座り、そっと抱きしめる。
「早く思い出して」
(……ん)
温かいものに包まれている感覚がして、スモモは目を開ける。
うまく身動きがとれない。
頬にサラサラとした何かが当たっていた。
「?」
横を向くと凛月の寝顔。
(っ!………な、何?何で!?)
スモモは慌てた。
状況が全くわからない。
(こんなところ、誰かに見られたら…)
慌てながらも、凛月を起こさぬように、その腕から抜ける。
冷たい空気が肌を撫でた。
スモモは迷った末、自分のショールを凛月にかけ、部屋を出た。
スモモの身体は冷えていたが、胸の奥は熱かった。