薔薇の香りの中で
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「ん?」
夜、スモモが部屋で本を読んでいたら、庭に人影が見えた。
「誰だろう?」
確認をしに行こうと扉に手をかける。
『危ないから出ちゃダメ』
小さい頃、あんずに言われた言葉が頭をよぎる。
あの頃は祖父が確認に行っていた。
だけど、その祖父はもういない。
(私だってもう15歳だもの。大丈夫!)
スモモは扉を開けて、庭に出た。
サクッ、サクッ。
庭を見渡したが、誰もいなかった。
「気のせいか」
部屋に戻ろうとした時、後ろから肩を捕まれた。
首筋に痛みが走った。
「っ!?」
考える間もなく、スモモはうつ伏せに倒れる。
フワリと鼻についた薔薇の香り。
薄れゆく意識の中で見えたのは、スモモを見おろす、赤い眼。
「……スモモちゃん」
誰かかスモモを呼ぶ。
幼さが残る、けれど、しっかりした女性の声。
(誰?)
スモモは目をあける。
あんずが心配そうにスモモを見る。
「………あんず様?」
スモモの声を確認するとあんずはホッとした顔をした。
スモモは自分のベッドに横になっていた。
「庭で倒れてたのよ」
あんずの説明にスモモはハッとした。
同時に首がズキリと痛んだ。
「何か見た?」
あんずは問う。
真剣な瞳で。
「いいえ」
スモモは首を横に振った。
翌日。
スモモは鏡の前で身だしなみを整える。
首に貼られたガーゼが目に入った。
(夢じゃなかったんだ)
不可思議がことがあった庭に行く。
そこがスモモの仕事場。
植物たちの世話をする。異常がないか確認する。
それがスモモの仕事。
「朝から精がでますね」
「あんず様、おはようございます」
スモモが言うとあんずは笑みをかえす。
「スモモちゃん、今日、午後のお茶を一緒にしませんか?」
「はい、喜んで!」
その返事にあんずはニッコリする。
午後、スモモはその日咲いた花を数本、花瓶にさした。
「よし!」
あんずとお茶をするテラスに持っていく。
するとそこに、既に人がいた。
あんずでも、あんずの弟でもなかった。
「お客様?」
スモモの声に客人らしき人物が振り向いた。
艶やかな黒髪。
透けるような白い肌。
凛々しい、ルビーをはめたのような瞳。
(なんて美しい方)
それがスモモの率直な感想だった。
客人はフワリと微笑んだ。
「やあ、スモモ」
スモモは驚いた。
「何故、私の名前を…?」
客人の服装は品があり、スモモの目から見ても高価なものだと解る。
おそらく、何処かの貴族。
その子息が他の屋敷の庭師の名前等、いちいち覚えることはほぼない。
庭師は庭師だから。
「覚えてないの?」
客人は眉をひそめた。
「凛月様」
スモモの後ろからあんずの声がした。
そっとスモモの肩に手をおく。
「スモモちゃん、恐がらなくて良いのよ」
あんずはフワリと微笑む。
それを見た時、スモモは自分の肩に力が入っていることに気づいた。
「こちらの方は朔間凛月様」
(朔間………公爵家の)
「暫く我が家に滞在されるから」
「よろしくね」
凛月はひらひらと手を振りながら、にこやかに言う。
「よ、よろしくお願いします」
スモモは少し緊張しながら言った。
おずおずとテーブルに花瓶を置く。
「では、私は失礼します」
小走りでその場を去った。
「………逃げられた」
凛月は拗ねたように言った。
椅子に座る。
「本当に俺のことも覚えてないんだ」
「小さい頃に会ったきりですから」
「……あの事も?」
「はい」
凛月もあんずも何処か悲しげだった。
「ああ~、どうしよ~~」
スモモは部屋の中をグルグルと歩き回っていた。
先程の自身の行動を思いかえしていた。
(失礼な態度をとってしまった。………あれ?)
『覚えてないの?』
凛月の言葉を思い出す。
「……私、あの方に会ったことあるの?」