風の声
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季節の練りきりを手土産に嵐は術師の家に行った。
あんずは喜び、両親も嵐を歓迎した。
「こっちよ、嵐ちゃん」
嵐は廊下の奥へ案内された。
「!」
「気づいた?」
「ええ、一部屋丸々と結界を張ってるのね」
見えない座敷牢。
そんな感じがした。
「スモモが自分で結界を張れるようになったら自然と消える仕掛けよ」
あんずは襖に手をかける。
「スモモ、入るよ」
開けた瞬間、鞠があんずの額に当たった。
「っわ!あんず!」
「ご、ごめんなさい」
同じ声が左右から違う言葉で聞こえた。
小さな少年2人。
同じ顔、同じ狐の耳と尻尾、色違いの髪飾りと服。
「ひなた、ゆうた」
あんずが鞠を拾う。
「だ、だって、スモモ寝ちゃったんだもん。退屈なんだもん」
青い服の少年、ひなたが言った。
白い服の少年、ゆうたも頷く。
「だからって、室内で鞠を蹴るんじゃありません!外でやりなさい!」
あんずが怒ると、2人供俯き、耳がペタンと垂れた。
反省してるらしい。
「え?出られるの?」
嵐が聞く。
「出入りは自由なの。入れないのは妖だけ」
試しに嵐は結界に触れた。
見えない壁がある感覚がした。
あんずは袖から紐を一本出した。
「これを持って入って」
紐を受け取って結界に近付くと何の抵抗もなくするりと入れた。
嵐は紐を眺める。
あんずの力を感じる、丹念に編まれた組紐。
(複雑な強い結界を、組紐1本で御するなんて…)
ひなたとゆうたがキラキラした目で嵐を見上げる。
「お客さんだ!」
「お客さんだ!」
ひなたとゆうたが嵐を見て、ぴょんぴょんと跳ねる。
そして部屋の角、本棚の前に移動する。
本棚に背中を預けて座る少女がいた。
髪に隠れて顔は見えない。
「スモモ、起きて起きて」
「お客さんだよ」
2人が少女の肩を揺らした。
(あの子がスモモちゃん)
「……ん」
肩が動いた。
顔が上がる。
「どうしたの?ひなた、ゆうた」
透き通った声。
「お客さんだよ」
「早く早く!」
「……お客さん?」
「こんにちは」
「!」
ガタッ
スモモは嵐に気づくと驚いて後ずさった。
「大丈夫だよスモモ。あんずの知り合いだもの」
「呪いもあんずのだよ」
ひなたとゆうたが交互に言う。
スモモは姉のあんずを見る。
「お姉ちゃん、どういうこと?」
あんずに似た、気の強そうな瞳。
「私が教えるには限界があるもの。だから嵐ちゃんを招待したの」
「招待?」
スモモは嵐を見る。
嵐は優しく微笑みかける。
「アタシとお話ししましょ、スモモちゃん」
嵐はスモモに話をした。
外のこと、町のこと、自分が住処にしている森のこと。
敷地の外を知らないスモモは嵐の話を真剣に、興味深く聞いた。
「外に出られるようになったら、一緒に遊びに行きましょ」
嵐がそう言うとスモモは頷いた。
あんずと嵐は森へ続く道を歩いていた。
「嵐ちゃん、今日はありがとう」
「良いのよ。興味を持つだけでも大事だもの」
「うん。あのこも大分落ち着いてた」
「あんずちゃんも、そうだっんだじゃない?」
嵐の言葉にあんずは足を止めた。
「なんで?」
驚くあんずに嵐は悪戯っ子のような笑みを見せた。
「貴女みたいな積極的な子、もっと早く声をかけてきそうだもの」
あんずは息をついた。
「まあね。私はスモモくらいの時にはもう町に遊びに行ってた」
あんずは歩く。
「そこで嵐ちゃんを見つけたの。でも小さい子どもが口説いても、相手にしてくれないでしょ?」
可愛らしく首を傾げる。
「だから頑張ったの」
一目惚れだった。
たぶん初恋。
声をかけたくても、気持ちが落ち着かなかった。
自分が子どもなのがもどかしかった。
早く一人前になりたくて、今まで以上に修行に打ち込んだ。
嵐に見合う術師になりたかった。
そしてやっと声をかけた。
「だから私のものにならない?」
「断るわ」
「残念。……スモモもきっかけがあれば力を制御できると思う」
「でも、スモモちゃんがアタシと契約したいと言ったらどうするの?」
「それは大丈夫。あのこは優しいから」
あんずはニヤリとした。
「私が嵐ちゃんと契約したがってることは既に言ってあるの」