2.「甘味」と「嫌悪」
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水季は千秋が嫌いだった。
理由は単純。
「翠をとった」
「……っぷ」
水季が小さなこどもが拗ねるように言うと、あんずは吹き出した。
「っな!笑い事ではないぞ、あんず!」
「ご、ごめん……ふふ」
翠が夢ノ咲学院に入学が決まった時、水季は嬉しかった。
しかし、翠がアイドル科に入ったのには驚いた。
それでも、学科が違えど一緒に過ごす時間はあるだろうと考えていた。
「なのに…」
そこに割って入ってきたのが千秋だった。
水季が知らないうちに翠をバスケ部に誘い、あれよあれよという間に流星隊に入れてしまった。
水季は部活までは許せた。
「翠は背も高いし、体格も良い」
「うん」
「顔だって悪くない」
「…うん」
「声だって澄んでいる」
「……」
「……あんず?」
あんずは肩を奮わせていた。
スクスク笑っている。
「何が可笑しいのだ?」
あんずは涙を拭う。
「水季ちゃんは本当に翠くんが大好きなんだね」
「当然だ!」
水季は胸をはる。
「翠は私のものだ」
「人を物扱いしないで下さい」
突然後ろから声がした。
『!』
水季とあんずが振り向くと翠と智がいた。
「み、翠!?」
(き…聞かれた?)
本人がいないのを良いことに好き勝手(べた褒め)言っていた水季は赤面した。
一方、翠はしかめっ面をしていた。
「俺は水季のものになった覚えはありません」
水季とあんずに背を向ける。
「行こう、智」
智は困った顔をしつつも2人に会釈し、翠と行こうとした。
「ま、待て!智は置いていけ」
「きゃっ」
水季は智を引き寄せ、抱き締めた。
「大事な話があるのだ。良いだろ?」
「……まあ、智が良いなら」
渋々、翠は言う。
水季と智はガーデンテラスに移動した。
あんずは他の仕事の為、途中で別れた。
「智、あれから変わりはないか?」
「はい。おかげさまで」
「そうか」
水季は紅茶を一口飲むとニッコリとする。
「創、腕を上げたな」
「ありがとうございます」
創は嬉しそうに微笑む。
「創にも聞きたいことがある」
「何ですか?」
水季はテーブルに肘をつき、手の甲に顎をのせた。
「翠は楽しく過ごしておるか?」
創と智はきょとんとする。
水季は愁いをおびた顔で話を続ける。
「翠は私には何も話してくれんのだ。あんずは楽しそうに話してくれるがな…」
創と智は戸惑った顔で目を合わせる。
戸惑う2人を見て水季はクスクス笑った。
「そんなに考えなくてよい。2人が見て感じたままの翠を教えておくれ」
優しく言うと、創が入学した頃から話し始めた。
水季は静かに聞いた。
智も水季と一緒に創の話を聞いていた。
転校して間もない智にとって、入学当初の彼等の話は貴重だった。
「ありがとう、創」
創が話し終えると水季はニッコリした。
「さて、次は智だ」
水季は智の方を向く。
「今の話を聞いて、どう思った?」
「…えっと……あまり、アイドルらしくないなぁって」
智は正直に答えた。
「で、でも水季さんの言うとおり、翠くんは顔も体も悪くないです!」
「あ、そう言えば智さん、翠君にタックルかけたんですよね?」
水季はギョッとした。
目の前にいる小柄で愛らしい少女が翠にタックル?
「…創くん、誰から聞いたの?」
「明星先輩からですよ」
「違う!タックルじゃない!」
あんずが奏汰に噴水に引きずりこまれたこと。
助けを呼ぼうとしたら、たまたま翠たちが通りかかったこと。
懸命に説明する智。
「成程……クク」
水季は笑った。
そして、ふわりと微笑んだ。
「翠は優しいのう」