8.「妨害」と「終の舞」
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水季の家に着いた時、翠の息はあがっていた。
思えば水季の家まで走ったことなどなかった。
インターホンを押すと水季の祖母が出た。
「おや、翠ちゃん」
昔から変わらない、優しい声に翠は少し落ち着きを取り戻した。
「おばあちゃん、水季は!?」
一瞬、祖母が目を開いたが直ぐに表情を戻した。
「お入りなさい」
薄暗い長い廊下を翠は祖母に付いて歩いていく。
最後にこの廊下を歩いたのはいつだろう。
中学の時にはもう、来ても玄関で立ち話して終わりだった。
でも覚えている。
この廊下の先が水季の部屋。
「水季はいなくなったりしないよね?」
何故その言葉が出たかわからない。
でも水季がこの世界からいなくなったら、自分は耐えられない。
そう感じた。
「それは水季次第だね」
祖母はそう言って、水季の部屋の隣の部屋に案内した。
幼かった頃、いつもこの部屋で遊んだ。
暗い部屋の真ん中、水季は布団の中で目を閉じていた。
「!!」
翠は一瞬、息ができなかった。
水季の肌は血の気を失ったよう、髪は輝きを失っていた。
暗闇でもわかる程、水季は白かった。
「水季」
ゆっくりと部屋に入る。
「なんで、どうして」
「時代が変わっても変えられない」
祖母は静かに言った。
重力を感じない空間に水季はいた。
瞼は重く、目を開けられないが意識ははっきりしていた。
(何の音?)
耳元で小さなざわついた音がする。
それはだんだん大きくなり、
(声?)
幼い声に聞こえる。
『水季ちゃんの髪コワイ』
(!)
ずっと幼い頃の記憶。
初めてはっきり言われた、鋭利な言葉。
『本当の色なの?』
『顔も変!』
『ねー』
『水季ちゃんのママとパパに全然似てない』
『貰われた』
『取り違い』
幼児にはまだ解らない言葉の意味。
おそらく、大人たちの言葉をそのまま
言っているだけ。
耳をふさぎたくても、手も腕も動かせない。
両親に似ているところがなかった。
祖母譲りの髪色と顔。
母は義母を美人だと言い、銀髪も綺麗だと言っていた。
『水季』
優しい母の声。
水季を抱きしめる時も、頭を撫でる時も、髪に触れる時も優しい手つきだった。
父も同じだった。
他人に言われて初めて知った。
言葉がどれほど人を傷付けやすいのか。
同時に家族の愛情がどれほど大きく、優しいものなのか。
家族から、家から出るのが怖くなった。
翠に逢ったのは母が仕事復帰した時期だった。
To be continued.
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