8.「妨害」と「終の舞」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
十二月初旬。
水季の家に滅多に使われない奥座敷がある。
社が見える唯一の部屋。
『継承の間』
いつからかそう呼ばれている。
言葉通り、継承の時のみ使われる。
その部屋で水季が舞を舞っている。
その姿を英智が静かに見ている。
水季の手には友人と選んだ扇子。
懐には短刀『夕立切』。
この部屋で大事な舞を行う時、必ずこの2つが必要になる。
開いていた扇子が静かに閉じていく。
パチン
舞が終わった。
水季は英智の向かいに腰をおろす、頭を下げる。
「これにて」
「お役目、ご苦労様。水姫」
水季の家では銀髪の者は皆、『水姫』と呼ばれる。
男でも『姫』と呼ばれるらしい。
『水姫』の存在を知っていても顔も名前も知らない者も多い。
特に不便はなかった。
今までも、これからも。
「これでSSに集中できるよ」
清々しい顔で英智は言った。
英智が乗った車を見送ると水季は再び『継承の間』に入った。
扇子を開き、先程と同じ舞を舞う。
扇子を閉じ、舞を終える。
「・・・・・・」
扇子を両手で持ち、力を込める。
バキッ
扇子がふたつに折れる。
『夕立切』の刀身を抜き、自身の左腕にあてた。
後見の天祥院家も知らない、既に知っているかもしれない、最後の儀式。
水姫が御子でなくなる条件。
『夕立切』で自身を傷つけること。
水季は迷うことなく、刃をすべらした。
同時刻、夢ノ咲学院。
突然の激しい雷雨に外にいた者たちはキャーキャー叫びながら建物に避難する。
「はぁ、すごい雨」
額に張り付いた前髪をはらいながあんずが言う。
ちょうど持っていた使用前のタオルで簡単に身体中の水滴を拭う。
「あんず」
「あんずも外にいたの?」
北斗とスバルがあんずに気づいて駆け寄る。
校内にいた2人はどこも濡れていない。
「すごい雨だな、予報では1日晴天だったのに」
「止むかなぁ?」
滝のような雨で視線の先が全く見えない。
だから誰も気付かなかった。
傘もささず、走って校門を出た翠の姿に。
雨がいつも憂鬱だった。
傘をさすのが億劫で。
にわか雨は特に嫌だった。
傘がない分、行動が制限されるから。
でも今は、そんな考えはなかった。
(水季!)
雨が降った時、真っ先に頭に浮かんだ。
愛しい人。