8.「妨害」と「終の舞」
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「水季」
普通科に戻る途中、翠に呼び止められた。
「翠」
翠は水季に駆け寄ると頬に触れた。
「顔色悪いよ。どうしたの?」
気づかなかった。
扇子を折られたのが思いのほかショックだったらしい。
あれが友人と選んだ扇子だったら・・・
「・・・・・・」
「水季?」
「大丈夫だよ、翠」
頬に触れる手に自分の手を重ねた。
「もうすぐ大事な用事がある。それで気がたっているのだ」
「大事な用事?」
「そう」
静かに言う水季に、翠は不安に思った。
何故か、水季がいなくなってしまいそうな気がした。
普通科、2年教室。
「おかえり、水季」
「ただいま」
教室に入ると友人が駆け寄ってきた。
「先生が放課後、職員室に来るようにって」
「わかった」
放課後、用事を終えた水季は職員室を出た。
その表情は少し微笑んでいた。
(また来年もアイドル科に通える)
先程まで沈んでいた気持ちが嘘のようだ。
浮足立って廊下を進む。
「水季先輩」
後ろから声がした。
振り向くとひとりの女生徒がいた。
知らない顔だった。
「なにか?」
「あの」
女生徒は怯えた表情をして、震えていた。
(ああ、この子か)
水季は気づいた。
この子が扇子を折ったのだと。
「何故あんなことを?」
水季の問いに肩をびくつかせた。
「わかりません」
女生徒の言葉に水季は眉をしかめる。
それが更に女生徒を怯えさせた。
(そうか)
「誰に指示された?」
「・・・・・・家族に」
絞り出すように言った。
水季が家に着くと履物が一足多かった。
「!」
パタパタと廊下を早歩きし、部屋に向かい襖を開けた。
「お婆ちゃん!おかえり」
「ただいま、水季」
部屋で寛いでいた祖母は水季の方へ体の向きを変えた。
「水季も、おかえり」
「ただいま」
着替えた水季は祖母の部屋にお茶を持って行った。
「私が旅行中、変わりはなかったかい?」
「特にないよ」
「そうかい。翠ちゃんは元気かい?」
祖母は翠を「翠ちゃん」と呼ぶ。
「元気だよ。あ、これ見て」
水季は友人が時間をかけて教えた動画を祖母に見せた。
祖母は動画を見て驚いた。
「おやぁ、翠ちゃん、アイドルみたいじゃない」
「ふふ、翠は今アイドルなんだよ」
水季はふと、笑顔を消した。
「ねえ、お婆ちゃん」
水季は学校であったことを話した。
「全然知らない子、覚えてない家だった」
「覚えてないんじゃない。水季は知らないのよ」
祖母の話だと、先々代の頃に縁を切ったそうだ。
「こっちはこの身分だからね、その後は知らないさね」
「そう」
水季ももう気にするのを止めた。
あの女生徒は、後悔し懺悔した。
それで充分だ。
「水季、あのお二方は変わりないかい?」
天祥院英智と円城寺れいかのことだ。
「かわりないよ。お二人とも、家の事業を任されてるみたい。英智さまは卒業と同時に家督を継ぐそう」
「早いものだねぇ。初めてお越しになったときはお二人とも小さかったのに」
「そうだね」
『終の舞』を行い、水季が御子でなくなれば2人との関係はどうなるかわからない。
離れるかもしれない。
それでも、水季には迷いはなかった。