7.「幻想」と「忘却」
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『雨の一族』に伝わる数々の舞。
いつの間にか水季の家に伝わった。
水季もそれを受け継いだ。
ずっと待っていた、この時を。
「本当は英智さんが卒業する頃にと考えていました」
水季は紅茶を口にする。
「だけど、最近忙しそうですし」
カップをソーサーに戻す。
「早い方が良いかと」
「それで、いつにするの?」
「12月の頭に予定しています」
「そう」
校舎を出て、水季は空を見た。
今日は快晴。
『終の舞』を行えば、水季はもう、自由に雨を降らせることはできなくなる。
次の『銀髪の女』が生まれるまで。
「水季?」
声の方を向くと翠がいた。
「翠」
「どうしたの?」
翠は水季の歩み寄る。
「何かあった?」
「え?」
「なんとなく」
いつもと違って見えた。
だけど、それがなんなのか翠にはわからなかった。
「翠はどこまで知っている?」
今度は水季が聞いた。
「何を?」
「私の家のこと」
翠が知っている、水季の家のこと。
昔、温泉宿だったこと。
今でも効能を頼りに訪れる人がいること。
両親や周りの大人たちに聞いたばかりのことだった。
「家のことは知らないけど、水季があの家から離れたいのはわかる」
周りに知られてはいけないことを、翠は気づいていた。
「水季の家の裏庭に祠があるよね。水季はずっと祠を避けてた」
まるで、逃げるように。
翠に知られないように。
「だけど、今は水季が管理をしている」
いつも眠そうにしていながらも、
やる気のない表情をしていても、
その目は水季の全てを見ていた。
やがて気づいた。
「水季が当主なんだよね」
「!!」
水季の祖母が隠居して、表向き、水季の父が跡を継いだ。
だけど役目は水季が継いだ。
歴史ある家の、古いしきたり。
翠にはわからないことが多い。
だけど水季が背負っているものはなんとなくわかる。
『傍にいて』
昔、水季は翠にそう言った。
その時、翠は頷くことしかできなかった。
今なら言える。
「傍にいるよ」
そっと、呟くように言った。
水季はそれだけで充分だった。
昔、一緒に遊んだ友達だった子も、他愛もない会話をしたクラスメートだった人も、水季の家のことを知ると距離をとり始めた。
家に来る令息、令嬢を覗けば、変わらずに接してくれるのは高校からの友人と翠だけだった。
「ありがとう、翠」
幸せな時間。
大好きな人たち。
ずっと一緒にいたい。
だから私は『普通の人』になりたい。
To be continued.
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